7 その後
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
付き合ってほしいという告白に、なんて答えればいいのかわからなかった。
さとりんと一緒にいる時間は楽しい。
でもそれが恋愛なのかと聞かれたらわからない。
「一緒にいるのは楽しいけど……付き合うのはわからなくて。ごめんなさい」
言葉を選びながら伝える。
うまく言えた自信はなかったけれど、彼は黙って話を聞き、ゆっくり頷いた。
「うん。わかった」
「ごめんなさい」
「謝らないでよ!」
ぱっと明るい声を出した彼に思わず顔を上げる。
「俺、今日すっごく楽しかったんだョ! ○○ちゃんは楽しくなかった?」
「楽しかった」
即答すると、彼は目を丸くしてから嬉しそうに笑った。
「即答!嬉しい〜。なら良かった。うん、良かった!」
ベンチから立ち上がると、私と目線が合うように少しかがむ。
そして、いつも通りの笑顔を向けてくれた。
気まずくならないようにしてくれているのが伝わってきて、少しだけほっとする。
そのまま駅へ向かい、私が乗る電車が来るまで一緒に待ってくれた。
「駅から家近い?」
「近いですよ」
「じゃあ送ろうか?」
「大丈夫です」
そう答えると、彼はわざとらしく頬を膨らませた。
「送らせてくれないの〜」
その表情がおかしくて思わず笑う。
電車が来て乗り込むと、ホームから手を振りながら言った。
「またメールするネ〜」
私も小さく頷く。
告白を断ったのに、今までと変わらない。
それが少し不思議だった。
家に着いてしばらくすると携帯が鳴る。
『着いた?無事?』
画面を見て思わず笑ってしまった。
告白の返事をした後とは思えないくらい、いつも通りだったから。
それからも私たちのやり取りは変わらなかった。
メールが来れば返すし、他愛のない話もする。
距離を置いた方がいいのかと思ったこともある。
でも、突き放すのも違う気がした。
何より、やり取りをするのが楽しかった。
だからそのまま続いていった。
少しだけ罪悪感を抱えながら。
三月になった頃、彼から連絡が来た。
『海外に行くけどメールするからネ〜』
その内容にも驚いたけれど、それ以上に驚いたのは添付されていた写真だった。
坊主頭。
思わず吹き出してしまう。
『似合う?』
『似合ってますよw』
『wつけられた!頭の形はいいのになぁ〜』
そんなやり取りをしているうちに、本当に彼はフランスへ行ってしまった。
海外へ行ってからは、メールよりもパソコンでの連絡が増えた。前ほど頻繁ではないけれど、一週間に二、三回くらい。
そして住所を教えてほしいと言われてからは、手紙のやり取りも始まった。
海外から手紙が届くなんて初めてだった。
封筒を見るだけで少し嬉しくなる。
手紙にはフランスの街並みや近況が書かれていて、読んでいるだけで楽しかった。
私が書いた内容について質問が書かれていることもあって、その返事を書くのも楽しい。
忙しいはずなのに、意外と筆まめなのかもしれない。
気付けば、家に帰るたびに玄関のポストを確認するのが習慣になっていた。
まだ将来の夢は見つかっていない。
高校を卒業する頃、どうしようか悩んでいた私に、さとりんは言った。
『選択肢を増やすためにも進学して、それから考えればいいんじゃない?』
その言葉に背中を押されて勉強を頑張り、大学へ進学した。
サークルはスポーツ系にするか迷ったけれど、最終的に演劇を選んだ。高校一年の文化祭で演劇をやったのが楽しかったから。
それに、いろんな人を演じるということが、まだ自分の将来を探している今の私に少し似ている気がした。
大学生活は思っていたより楽しかった。
新しい友達もできたし、演劇サークルも充実している。
それでも将来について考えるたびに不安になることはあった。
そんな時は、昔と変わらずさとりんに相談していた。
フランスへ行った彼は、その後ショコラティエとしてどんどん有名になっていった。
テレビや雑誌で見かけることも増えた。
画面の向こうの彼は高校生の頃と変わらないようにも見える。でもやっぱり違う世界の人になってしまったような気もした。
それなのに、今でも連絡は続いている。
手紙もメールも変わらない。
考えてみれば不思議な関係だった。
最後に会ったのは高校生の頃。
それから四年以上、一度も顔を合わせていない。
それなのに手紙やメールで近況を報告し合い、悩みを相談やくだらない話で笑う。
気付けば一緒に過ごしている大学の友達よりも私のことを知っている人になっていた。
だからこそ時々考えてしまう。
このままでいいのだろうかと。
テレビに出るほど有名なショコラティエになった彼にこんな風に時間を使わせていていいのだろうか。
そんなことを考えていたある日、携帯が鳴った。
画面に表示された名前を見て通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『急だけど明日か明後日時間ある?』
聞こえてきた声に思わず目を瞬く。
『日本に来たんだけど、話したいなって〜』
「日本に来るなんてメールで言ってませんでしたよね?」
『時間作れるか微妙だったから〜』
相変わらずの調子で笑う声が聞こえる。
『んで、どう?』
そのまま予定を合わせ、会う日を決めた。
電話を切ったあとも少し落ち着かなかった。
ずっと連絡は取っていた。
声だって聞いていた。
それなのに実際に会うとなると話は別だ。
当日、落ち着かなくて待ち合わせ時間よりも少し早く着いてしまった。
待ち合わせ場所にはすでに彼の姿があった。
ベンチに腰掛けている彼は静かだった。
普段は表情もよく変わるし、身振り手振りも大きいのに。ただ座っているだけなのに、どこか近寄りがたい。
その姿を見て、高校生の頃に初めて二人で出かけた日のことを思い出した。
あの時もなぜだか少し声を掛けづらかった。
懐かしくなって思わず小さく笑ってしまう。
なんて声を掛けようか考えながら近付く。
せっかくだし驚かせてみようかな。
そう思って足音を殺して近付いたのに、あと少しというところで彼が顔を上げた。
「あっ」
目が合う。驚かせる前に気付かれてしまった。
「久しぶり〜」
先に笑ったのは彼だった。
「驚かせようとしたのに気付かれちゃった。」
「えっ? ○○ちゃん!? びっくりした!」
「棒読み!!」
思わずツッコむと彼は楽しそうに笑い出した。
「ウヒャヒャヒャ!ナイスツッコミ!」
ひとしきり笑ったあと不意に視線が真っ直ぐ向けられる。
「……綺麗になったね。前よりもっともっと可愛い」
「返事に困るんですけど」
笑って誤魔化す。
でも彼は視線を逸らさない。
昔より大人っぽくなった雰囲気に、なんだか落ち着かなくなる。
誤魔化すように口を開いた。
「坊主頭、似合ってますよね」
「おっ」
「触りたい」
「どうぞ〜」
そう言って素直に頭を差し出してくる。
遠慮なく撫でると、シャリシャリとした感触が面白い。
つい夢中になっていると、「もうおしまい!」
ひょいと立ち上がられてしまった。
もう少し触りたかった。
その後は彼の行きたかった店を見て回ったり買い物をしたりして過ごした。
夕飯に連れて行かれた店はどう見ても高そうな場所だった。
思わず気後れしていると
「俺、有名なショコラティエだよ?」
彼が得意げに言う。
「そんな人が割り勘とか言うと思う?」
「言わないかも」
「でしょでしょ〜。奢らせてよ。支払いはチョコだけど」
「ゴチでーす」
冗談を返すと彼は満足そうに笑った。
久しぶりに会ったはずなのに不思議と気楽だった。
会っていなかった時間を感じない。
ずっとメールや手紙で繋がっていたからだろうか。
気付けば私はずっと笑っていた。
帰り際には新作のチョコレートまで渡された。
「家でゆっくり食べて」
そう言われて、素直に嬉しくなる。
店を出た後も話は尽きなかった。
家まで送ってもらいながら他愛のない話を続ける。
もうすぐ家に着く。
そう思ったら少しだけ名残惜しくなった。
「良かったら、家でお茶でも飲みます?」
言ってから気付く。
あれ。
これって。
彼が足を止めた。
「……ねぇ」
いつもより低い声。
「俺が男ってわかってる?」
「女ではないですよね」
「そういうのいいから」
笑っているのに少しだけ真剣だった。
やってしまった。
今までみたいな気軽な誘いじゃない。
高校生の頃とは違う。
私たちはもう大人だった。
「○○ちゃん、俺が告白したの覚えてる?」
「……覚えてます」
「じゃあ話早いか。」
困ったように笑いながら続ける。
「俺、まだ諦めてないんだよね〜」
ずっと連絡を取っていた。
手紙もメールも電話も。
でも私はそれを恋愛とは別のものだと思っていた。
だから言葉が出てこない。
「返事に困ってるでしょ?」
「……うん」
「俺といて楽しい?」
その質問にはすぐ頷けた。
彼といる時間は好きだ。
昔からずっと。
それだけは迷わない。
すると彼は安心したように笑った。
「良かった」
小さな声だった。
「俺としては、このまま諦めるつもりないんだよね〜」
一歩近付いてくる。
「だから少しだけ進展してもいい?」
返事を待つように見つめられる。
嫌じゃない。
むしろ近付かれると嬉しい。
それが答えなのかもしれなかった。
次の瞬間、ふわりと抱き締められる。
心臓がバクバクと鳴ってる。
恥ずかしい。
でも離れたいとは思わない。
「俺、めちゃくちゃ緊張してるんだけど」
そう言われて耳を胸に押し当てられる。
本当だ。
私よりずっと鼓動が速い。
「○○ちゃんは?」
「……ドキドキする」
「そっか〜」
嬉しそうな声だった。
しばらくして彼は身体を離す。
「じゃあ確認。」
「何をですか?」
「恋人になってくれる?」
その言葉に少し考える。
好きという気持ちはまだ彼ほどはっきりしていないかもしれない。
でも。
これからも一緒にいたいと思う。
もっと知りたいとも思う。
「……お願いします」
答えると彼が目を丸くした。
そしてものすごく嬉しそうに笑う。
「やった〜」
子供みたいな顔だった。
その姿がおかしくて私も笑ってしまう。
帰り道は手を繋いだ。
フランスに帰った後も彼は相変わらずだった。
『愛してるよ〜』そんなメールが送られてくる。
どう返せばいいのかわからなくて、結局いつも通りの返事をする。
テレビに出演していた彼が「長い片想いが実りました」と話しているのを見て、お茶を吹き出したこともあった。
すぐ連絡をする。
『観てくれた?』
『観ました』
『○○ちゃん好きだよ〜』
相変わらずである。
高校生の頃、一度は断った告白。
それなのに結局付き合うことになった。
人生ってわからない。
遠距離恋愛は大変だと言う。
それでも好きになるまで時間がかかる私には、この距離がちょうどいいのかもしれない。
会えば距離を縮めてくる。
でも無理に急がせたりはしない。
そんな彼に少し甘えながら。
これから先もゆっくり二人で歩いていけたらいいと思った。
〈終〉
さとりんと一緒にいる時間は楽しい。
でもそれが恋愛なのかと聞かれたらわからない。
「一緒にいるのは楽しいけど……付き合うのはわからなくて。ごめんなさい」
言葉を選びながら伝える。
うまく言えた自信はなかったけれど、彼は黙って話を聞き、ゆっくり頷いた。
「うん。わかった」
「ごめんなさい」
「謝らないでよ!」
ぱっと明るい声を出した彼に思わず顔を上げる。
「俺、今日すっごく楽しかったんだョ! ○○ちゃんは楽しくなかった?」
「楽しかった」
即答すると、彼は目を丸くしてから嬉しそうに笑った。
「即答!嬉しい〜。なら良かった。うん、良かった!」
ベンチから立ち上がると、私と目線が合うように少しかがむ。
そして、いつも通りの笑顔を向けてくれた。
気まずくならないようにしてくれているのが伝わってきて、少しだけほっとする。
そのまま駅へ向かい、私が乗る電車が来るまで一緒に待ってくれた。
「駅から家近い?」
「近いですよ」
「じゃあ送ろうか?」
「大丈夫です」
そう答えると、彼はわざとらしく頬を膨らませた。
「送らせてくれないの〜」
その表情がおかしくて思わず笑う。
電車が来て乗り込むと、ホームから手を振りながら言った。
「またメールするネ〜」
私も小さく頷く。
告白を断ったのに、今までと変わらない。
それが少し不思議だった。
家に着いてしばらくすると携帯が鳴る。
『着いた?無事?』
画面を見て思わず笑ってしまった。
告白の返事をした後とは思えないくらい、いつも通りだったから。
それからも私たちのやり取りは変わらなかった。
メールが来れば返すし、他愛のない話もする。
距離を置いた方がいいのかと思ったこともある。
でも、突き放すのも違う気がした。
何より、やり取りをするのが楽しかった。
だからそのまま続いていった。
少しだけ罪悪感を抱えながら。
三月になった頃、彼から連絡が来た。
『海外に行くけどメールするからネ〜』
その内容にも驚いたけれど、それ以上に驚いたのは添付されていた写真だった。
坊主頭。
思わず吹き出してしまう。
『似合う?』
『似合ってますよw』
『wつけられた!頭の形はいいのになぁ〜』
そんなやり取りをしているうちに、本当に彼はフランスへ行ってしまった。
海外へ行ってからは、メールよりもパソコンでの連絡が増えた。前ほど頻繁ではないけれど、一週間に二、三回くらい。
そして住所を教えてほしいと言われてからは、手紙のやり取りも始まった。
海外から手紙が届くなんて初めてだった。
封筒を見るだけで少し嬉しくなる。
手紙にはフランスの街並みや近況が書かれていて、読んでいるだけで楽しかった。
私が書いた内容について質問が書かれていることもあって、その返事を書くのも楽しい。
忙しいはずなのに、意外と筆まめなのかもしれない。
気付けば、家に帰るたびに玄関のポストを確認するのが習慣になっていた。
まだ将来の夢は見つかっていない。
高校を卒業する頃、どうしようか悩んでいた私に、さとりんは言った。
『選択肢を増やすためにも進学して、それから考えればいいんじゃない?』
その言葉に背中を押されて勉強を頑張り、大学へ進学した。
サークルはスポーツ系にするか迷ったけれど、最終的に演劇を選んだ。高校一年の文化祭で演劇をやったのが楽しかったから。
それに、いろんな人を演じるということが、まだ自分の将来を探している今の私に少し似ている気がした。
大学生活は思っていたより楽しかった。
新しい友達もできたし、演劇サークルも充実している。
それでも将来について考えるたびに不安になることはあった。
そんな時は、昔と変わらずさとりんに相談していた。
フランスへ行った彼は、その後ショコラティエとしてどんどん有名になっていった。
テレビや雑誌で見かけることも増えた。
画面の向こうの彼は高校生の頃と変わらないようにも見える。でもやっぱり違う世界の人になってしまったような気もした。
それなのに、今でも連絡は続いている。
手紙もメールも変わらない。
考えてみれば不思議な関係だった。
最後に会ったのは高校生の頃。
それから四年以上、一度も顔を合わせていない。
それなのに手紙やメールで近況を報告し合い、悩みを相談やくだらない話で笑う。
気付けば一緒に過ごしている大学の友達よりも私のことを知っている人になっていた。
だからこそ時々考えてしまう。
このままでいいのだろうかと。
テレビに出るほど有名なショコラティエになった彼にこんな風に時間を使わせていていいのだろうか。
そんなことを考えていたある日、携帯が鳴った。
画面に表示された名前を見て通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『急だけど明日か明後日時間ある?』
聞こえてきた声に思わず目を瞬く。
『日本に来たんだけど、話したいなって〜』
「日本に来るなんてメールで言ってませんでしたよね?」
『時間作れるか微妙だったから〜』
相変わらずの調子で笑う声が聞こえる。
『んで、どう?』
そのまま予定を合わせ、会う日を決めた。
電話を切ったあとも少し落ち着かなかった。
ずっと連絡は取っていた。
声だって聞いていた。
それなのに実際に会うとなると話は別だ。
当日、落ち着かなくて待ち合わせ時間よりも少し早く着いてしまった。
待ち合わせ場所にはすでに彼の姿があった。
ベンチに腰掛けている彼は静かだった。
普段は表情もよく変わるし、身振り手振りも大きいのに。ただ座っているだけなのに、どこか近寄りがたい。
その姿を見て、高校生の頃に初めて二人で出かけた日のことを思い出した。
あの時もなぜだか少し声を掛けづらかった。
懐かしくなって思わず小さく笑ってしまう。
なんて声を掛けようか考えながら近付く。
せっかくだし驚かせてみようかな。
そう思って足音を殺して近付いたのに、あと少しというところで彼が顔を上げた。
「あっ」
目が合う。驚かせる前に気付かれてしまった。
「久しぶり〜」
先に笑ったのは彼だった。
「驚かせようとしたのに気付かれちゃった。」
「えっ? ○○ちゃん!? びっくりした!」
「棒読み!!」
思わずツッコむと彼は楽しそうに笑い出した。
「ウヒャヒャヒャ!ナイスツッコミ!」
ひとしきり笑ったあと不意に視線が真っ直ぐ向けられる。
「……綺麗になったね。前よりもっともっと可愛い」
「返事に困るんですけど」
笑って誤魔化す。
でも彼は視線を逸らさない。
昔より大人っぽくなった雰囲気に、なんだか落ち着かなくなる。
誤魔化すように口を開いた。
「坊主頭、似合ってますよね」
「おっ」
「触りたい」
「どうぞ〜」
そう言って素直に頭を差し出してくる。
遠慮なく撫でると、シャリシャリとした感触が面白い。
つい夢中になっていると、「もうおしまい!」
ひょいと立ち上がられてしまった。
もう少し触りたかった。
その後は彼の行きたかった店を見て回ったり買い物をしたりして過ごした。
夕飯に連れて行かれた店はどう見ても高そうな場所だった。
思わず気後れしていると
「俺、有名なショコラティエだよ?」
彼が得意げに言う。
「そんな人が割り勘とか言うと思う?」
「言わないかも」
「でしょでしょ〜。奢らせてよ。支払いはチョコだけど」
「ゴチでーす」
冗談を返すと彼は満足そうに笑った。
久しぶりに会ったはずなのに不思議と気楽だった。
会っていなかった時間を感じない。
ずっとメールや手紙で繋がっていたからだろうか。
気付けば私はずっと笑っていた。
帰り際には新作のチョコレートまで渡された。
「家でゆっくり食べて」
そう言われて、素直に嬉しくなる。
店を出た後も話は尽きなかった。
家まで送ってもらいながら他愛のない話を続ける。
もうすぐ家に着く。
そう思ったら少しだけ名残惜しくなった。
「良かったら、家でお茶でも飲みます?」
言ってから気付く。
あれ。
これって。
彼が足を止めた。
「……ねぇ」
いつもより低い声。
「俺が男ってわかってる?」
「女ではないですよね」
「そういうのいいから」
笑っているのに少しだけ真剣だった。
やってしまった。
今までみたいな気軽な誘いじゃない。
高校生の頃とは違う。
私たちはもう大人だった。
「○○ちゃん、俺が告白したの覚えてる?」
「……覚えてます」
「じゃあ話早いか。」
困ったように笑いながら続ける。
「俺、まだ諦めてないんだよね〜」
ずっと連絡を取っていた。
手紙もメールも電話も。
でも私はそれを恋愛とは別のものだと思っていた。
だから言葉が出てこない。
「返事に困ってるでしょ?」
「……うん」
「俺といて楽しい?」
その質問にはすぐ頷けた。
彼といる時間は好きだ。
昔からずっと。
それだけは迷わない。
すると彼は安心したように笑った。
「良かった」
小さな声だった。
「俺としては、このまま諦めるつもりないんだよね〜」
一歩近付いてくる。
「だから少しだけ進展してもいい?」
返事を待つように見つめられる。
嫌じゃない。
むしろ近付かれると嬉しい。
それが答えなのかもしれなかった。
次の瞬間、ふわりと抱き締められる。
心臓がバクバクと鳴ってる。
恥ずかしい。
でも離れたいとは思わない。
「俺、めちゃくちゃ緊張してるんだけど」
そう言われて耳を胸に押し当てられる。
本当だ。
私よりずっと鼓動が速い。
「○○ちゃんは?」
「……ドキドキする」
「そっか〜」
嬉しそうな声だった。
しばらくして彼は身体を離す。
「じゃあ確認。」
「何をですか?」
「恋人になってくれる?」
その言葉に少し考える。
好きという気持ちはまだ彼ほどはっきりしていないかもしれない。
でも。
これからも一緒にいたいと思う。
もっと知りたいとも思う。
「……お願いします」
答えると彼が目を丸くした。
そしてものすごく嬉しそうに笑う。
「やった〜」
子供みたいな顔だった。
その姿がおかしくて私も笑ってしまう。
帰り道は手を繋いだ。
フランスに帰った後も彼は相変わらずだった。
『愛してるよ〜』そんなメールが送られてくる。
どう返せばいいのかわからなくて、結局いつも通りの返事をする。
テレビに出演していた彼が「長い片想いが実りました」と話しているのを見て、お茶を吹き出したこともあった。
すぐ連絡をする。
『観てくれた?』
『観ました』
『○○ちゃん好きだよ〜』
相変わらずである。
高校生の頃、一度は断った告白。
それなのに結局付き合うことになった。
人生ってわからない。
遠距離恋愛は大変だと言う。
それでも好きになるまで時間がかかる私には、この距離がちょうどいいのかもしれない。
会えば距離を縮めてくる。
でも無理に急がせたりはしない。
そんな彼に少し甘えながら。
これから先もゆっくり二人で歩いていけたらいいと思った。
〈終〉
