7 その後
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日向くんからの告白。
「好きです」って真っ直ぐに言われて、頭の中で今までのことが一気に浮かぶ。
文化祭で一緒に回ったこと。
春高の話をしてる時のキラキラした顔。
一緒に帰った帰り道。
自転車の後ろに乗った時の速さと、掴んだ背中の熱。
楽しかった。
ずっと。
友達だと思ってた。
でも、バレーをしてる日向くんは格好良くて。試合を見てる時、胸が苦しくなるくらい応援したくて。
春高で負けた時。
クラスのみんなが「凄かった!」って盛り上がってる中、一人だけ悔しくて泣いてた私に友達が言った。
「それだけちゃんと見てるって恋じゃない?」
その時は「まさか」って笑ったけど。
今ならわかる。
──あぁ。
私、好きだったんだ。
黙ったままの私に不安になったのか、日向くんが慌てたように口を開く。
「ご、ごめん!急にこんな──」
「私も……好きかも。」
言った瞬間、自分で顔が熱くなる。
好きって言うのが恥ずかしくて。
つい『かも』って濁してしまった。
なのに。
「ほんとに!?」
日向くんの顔が一気に明るくなる。
眩しいくらい嬉しそうで、こっちまで恥ずかしくなる。
「……そんな喜ぶ?」
「だって!!」
声が裏返ってる。
なんか、むず痒い。
でも嬉しい。
二年になったらクラス替えで離れるかもしれない。
それでも、こうやって繋がっていられるのが嬉しかった。
一緒に帰るとか。
話すとか。
そういうのが特別になるんだって思うと、変に緊張する。
少しだけ視線を逸らしながら、小さく聞く。
「ねぇ、日向くん。」
「ん?」
「これから……名前で呼んでもいい?」
一瞬ぽかんとして。
それから、ふわっと笑った。
「うん!俺も苗字さんのこと名前で呼ぶ!」
お互い照れながら名前を呼び合う。
たったそれだけなのに、なんか全然違う。
くすぐったくて。
恥ずかしくて。
でも嬉しい。
「これから恋人は恋人同士だね。」
そう言うと、翔陽くんが固まった。
「……へ?」
「え?違うの?」
私の方がびっくりする。
「好き同士でも恋人にはなれないんだ……」
「ち、違くて!!」
慌てた声。
「好きって伝えようと思ってただけで!苗字さんも好きって言ってくれると思ってなかったから、なんか、その……!」
耳まで真っ赤。
「そ、そうだよね。恋人同士……。」
呟くみたいに言ってから、急に顔を覆う。
「……すっげぇ嬉しい。」
その反応が可愛くて、笑ってしまう。
「どうも。翔陽くんの彼女です。」
「うひっ!?」
変な声を上げて固まる翔陽くん。
その顔が面白くて、耐えきれず吹き出した。
すると翔陽くんもつられたみたいに笑い出す。
体育館裏。
まだ少し冷たい風。
でも胸の中だけ、変なくらいあったかかった。
付き合ってから、色んなことがあった。
高校二年でクラスが離れた時は、すごく寂しかった。
休み時間に会いに行ったり、一緒に帰る約束をしたり。少しの時間でも顔を見たいって思ってた。
でも。
そんな距離なんて比べ物にならないくらい、本当に寂しかったのは高校卒業後だった。
ブラジル。
日本の反対側。
簡単には会えない場所。
「頑張ってくる!」
そう笑って旅立った翔陽くんを応援したかった。
夢を追いかける姿が好きだったから。
だから「寂しい」より「応援してる」をちゃんと伝えたかった。
……でも感情って、そんな綺麗に割り切れない。
時差もある。
電話もタイミングが合わない。
やり取りはほとんどメールだった。
それでも少しでも近くにいたくて、私は何度も手紙を書いた。
メールじゃなく、手書きで。
ちゃんと応援してるって伝えたくて。
写真を入れたり。
日本の景色を送ったり。
バレー雑誌の切り抜きを入れたり。
ホームシックになるかなって少し心配したけど、翔陽くんはやっぱり翔陽くんだった。
「ブラジルすげぇ!」
「もっと強くなれる!」
そんな言葉ばっかり返ってくる。
でも、その文の最後には絶対。
『手紙ありがとう』
『○○ちゃんの応援、元気出る』
って書いてあった。
ブラジルから帰ってきた日。
空港の到着口で翔陽くんを見つけた瞬間、思わず息が止まった。
背が高くなってるし高校の頃よりずっと身体が大きくなっていた。
体格も、雰囲気も違う。
ちゃんとプロになる人の身体だった。
なのに。
「○○ちゃ───ん!!」
次の瞬間、勢いよく抱きつかれた。
「えっ!?!?」
人前。
空港。
超至近距離。
高校の時、人前でこんなことするタイプじゃなかったのに。
しかも距離感が近い。
近すぎる。
「……ブラジルで何があったの?」
「え?」
「浮気?」
真顔で聞いたら、本気でショックを受けた顔をされた。
後から聞いたら、ブラジルでは恋人同士のスキンシップが多くて。
ずっと羨ましかったらしい。
「日本帰ったら絶対やるって決めてた!」
って、キラキラした顔で言われた。
……浮気疑ってごめん。
その後、日本でプロの入団試験を受けた翔陽くん。
偶然、私の大学から近い場所で。
今まで離れていた時間を埋めるみたいに一緒に過ごした。
気づけば半同棲みたいになっていて。
ちゃんと私の親に挨拶してくれて。
それから翔陽くんが借りたマンションで同棲を始めた。
ずっと一緒にいたかった。
離れてた時間が長かったから、これからは毎日一緒にいられるんだって思ってた。
でも。
実際の生活は、思ったより簡単じゃなかった。
学生と社会人。
生活リズムの違い。
家事の分担。
疲れてる時の空気。
高校から付き合ってきたけど、初めて本気で喧嘩もした。
くだらない理由だったり。
お互い余裕がなかったり。
でも。
喧嘩しても、一緒にいるから。
ちゃんと話せた。
ちゃんと仲直りできた。
「ごめん。」
「俺もごめん。」
その一言を言える距離に、ちゃんとお互いがいた。
学生の頃から付き合った恋人は長続きしない。
そんな話、何回も聞いた。
でも別れないまま、今も隣にいる。
変わったことは沢山ある。
高校生だった私たちは大人になって。
夢だったプロ選手に翔陽くんがなって。
生活も環境もどんどん変わっていった。
それでも
隣にいてほしいって思うのは、今も翔陽くんだけだった。
今は、試合会場で応援している。
コートの上の翔陽くんは、昔よりずっと遠い存在みたいに見える時がある。
沢山の歓声。
沢山の期待。
世界に向かって飛んでいく人。
でも試合に勝ったあと……。
翔陽くんは、胸元のネックレスをぎゅっと握る。
そこに通してあるのは、ペアリング。
それを見るたび、私も自分のリングを握る。
観客席からでも、目が合う気がする。
そして試合後、翔陽くんは昔と変わらない顔で笑う。
「○○ちゃんの応援、やっぱ一番嬉しい!」
──だから。
世界に飛び出していく彼を。
これからもずっと応援していたい。
一番近くで。
一番大きな声で。
私はきっと、これから先も。
翔陽くんの一番のファンで、一番の応援者なんだと思う。
〈終〉
「好きです」って真っ直ぐに言われて、頭の中で今までのことが一気に浮かぶ。
文化祭で一緒に回ったこと。
春高の話をしてる時のキラキラした顔。
一緒に帰った帰り道。
自転車の後ろに乗った時の速さと、掴んだ背中の熱。
楽しかった。
ずっと。
友達だと思ってた。
でも、バレーをしてる日向くんは格好良くて。試合を見てる時、胸が苦しくなるくらい応援したくて。
春高で負けた時。
クラスのみんなが「凄かった!」って盛り上がってる中、一人だけ悔しくて泣いてた私に友達が言った。
「それだけちゃんと見てるって恋じゃない?」
その時は「まさか」って笑ったけど。
今ならわかる。
──あぁ。
私、好きだったんだ。
黙ったままの私に不安になったのか、日向くんが慌てたように口を開く。
「ご、ごめん!急にこんな──」
「私も……好きかも。」
言った瞬間、自分で顔が熱くなる。
好きって言うのが恥ずかしくて。
つい『かも』って濁してしまった。
なのに。
「ほんとに!?」
日向くんの顔が一気に明るくなる。
眩しいくらい嬉しそうで、こっちまで恥ずかしくなる。
「……そんな喜ぶ?」
「だって!!」
声が裏返ってる。
なんか、むず痒い。
でも嬉しい。
二年になったらクラス替えで離れるかもしれない。
それでも、こうやって繋がっていられるのが嬉しかった。
一緒に帰るとか。
話すとか。
そういうのが特別になるんだって思うと、変に緊張する。
少しだけ視線を逸らしながら、小さく聞く。
「ねぇ、日向くん。」
「ん?」
「これから……名前で呼んでもいい?」
一瞬ぽかんとして。
それから、ふわっと笑った。
「うん!俺も苗字さんのこと名前で呼ぶ!」
お互い照れながら名前を呼び合う。
たったそれだけなのに、なんか全然違う。
くすぐったくて。
恥ずかしくて。
でも嬉しい。
「これから恋人は恋人同士だね。」
そう言うと、翔陽くんが固まった。
「……へ?」
「え?違うの?」
私の方がびっくりする。
「好き同士でも恋人にはなれないんだ……」
「ち、違くて!!」
慌てた声。
「好きって伝えようと思ってただけで!苗字さんも好きって言ってくれると思ってなかったから、なんか、その……!」
耳まで真っ赤。
「そ、そうだよね。恋人同士……。」
呟くみたいに言ってから、急に顔を覆う。
「……すっげぇ嬉しい。」
その反応が可愛くて、笑ってしまう。
「どうも。翔陽くんの彼女です。」
「うひっ!?」
変な声を上げて固まる翔陽くん。
その顔が面白くて、耐えきれず吹き出した。
すると翔陽くんもつられたみたいに笑い出す。
体育館裏。
まだ少し冷たい風。
でも胸の中だけ、変なくらいあったかかった。
付き合ってから、色んなことがあった。
高校二年でクラスが離れた時は、すごく寂しかった。
休み時間に会いに行ったり、一緒に帰る約束をしたり。少しの時間でも顔を見たいって思ってた。
でも。
そんな距離なんて比べ物にならないくらい、本当に寂しかったのは高校卒業後だった。
ブラジル。
日本の反対側。
簡単には会えない場所。
「頑張ってくる!」
そう笑って旅立った翔陽くんを応援したかった。
夢を追いかける姿が好きだったから。
だから「寂しい」より「応援してる」をちゃんと伝えたかった。
……でも感情って、そんな綺麗に割り切れない。
時差もある。
電話もタイミングが合わない。
やり取りはほとんどメールだった。
それでも少しでも近くにいたくて、私は何度も手紙を書いた。
メールじゃなく、手書きで。
ちゃんと応援してるって伝えたくて。
写真を入れたり。
日本の景色を送ったり。
バレー雑誌の切り抜きを入れたり。
ホームシックになるかなって少し心配したけど、翔陽くんはやっぱり翔陽くんだった。
「ブラジルすげぇ!」
「もっと強くなれる!」
そんな言葉ばっかり返ってくる。
でも、その文の最後には絶対。
『手紙ありがとう』
『○○ちゃんの応援、元気出る』
って書いてあった。
ブラジルから帰ってきた日。
空港の到着口で翔陽くんを見つけた瞬間、思わず息が止まった。
背が高くなってるし高校の頃よりずっと身体が大きくなっていた。
体格も、雰囲気も違う。
ちゃんとプロになる人の身体だった。
なのに。
「○○ちゃ───ん!!」
次の瞬間、勢いよく抱きつかれた。
「えっ!?!?」
人前。
空港。
超至近距離。
高校の時、人前でこんなことするタイプじゃなかったのに。
しかも距離感が近い。
近すぎる。
「……ブラジルで何があったの?」
「え?」
「浮気?」
真顔で聞いたら、本気でショックを受けた顔をされた。
後から聞いたら、ブラジルでは恋人同士のスキンシップが多くて。
ずっと羨ましかったらしい。
「日本帰ったら絶対やるって決めてた!」
って、キラキラした顔で言われた。
……浮気疑ってごめん。
その後、日本でプロの入団試験を受けた翔陽くん。
偶然、私の大学から近い場所で。
今まで離れていた時間を埋めるみたいに一緒に過ごした。
気づけば半同棲みたいになっていて。
ちゃんと私の親に挨拶してくれて。
それから翔陽くんが借りたマンションで同棲を始めた。
ずっと一緒にいたかった。
離れてた時間が長かったから、これからは毎日一緒にいられるんだって思ってた。
でも。
実際の生活は、思ったより簡単じゃなかった。
学生と社会人。
生活リズムの違い。
家事の分担。
疲れてる時の空気。
高校から付き合ってきたけど、初めて本気で喧嘩もした。
くだらない理由だったり。
お互い余裕がなかったり。
でも。
喧嘩しても、一緒にいるから。
ちゃんと話せた。
ちゃんと仲直りできた。
「ごめん。」
「俺もごめん。」
その一言を言える距離に、ちゃんとお互いがいた。
学生の頃から付き合った恋人は長続きしない。
そんな話、何回も聞いた。
でも別れないまま、今も隣にいる。
変わったことは沢山ある。
高校生だった私たちは大人になって。
夢だったプロ選手に翔陽くんがなって。
生活も環境もどんどん変わっていった。
それでも
隣にいてほしいって思うのは、今も翔陽くんだけだった。
今は、試合会場で応援している。
コートの上の翔陽くんは、昔よりずっと遠い存在みたいに見える時がある。
沢山の歓声。
沢山の期待。
世界に向かって飛んでいく人。
でも試合に勝ったあと……。
翔陽くんは、胸元のネックレスをぎゅっと握る。
そこに通してあるのは、ペアリング。
それを見るたび、私も自分のリングを握る。
観客席からでも、目が合う気がする。
そして試合後、翔陽くんは昔と変わらない顔で笑う。
「○○ちゃんの応援、やっぱ一番嬉しい!」
──だから。
世界に飛び出していく彼を。
これからもずっと応援していたい。
一番近くで。
一番大きな声で。
私はきっと、これから先も。
翔陽くんの一番のファンで、一番の応援者なんだと思う。
〈終〉
