4 文化祭
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結構悩んだ末に、私は喫茶店に手を挙げた。
でも文化祭の喫茶店なんて、きっと他のクラスもやるし、そこからさらにテーマ決めが始まった。
メイドカフェや純喫茶風なんて案も出たけれど、「他のクラスと被りそう」という理由でなかなか決まらない。
そのうち話はどんどん脱線していき、
「宇宙人カフェとか?」
「犬カフェは?」
なんて案まで飛び出した。
流石に全身タイツに触覚は嫌だし、犬を学校に連れてくるのも無理だと思う。
おそるおそる手を挙げた。
「ゲームに出てくる冒険者が集まる喫茶店とかどう?」
みんなの視線が集まって少し緊張する。
「冒険者ギルドみたいな雰囲気で、メロンソーダならHPポーション、紅茶ならMPポーションみたいな感じ。衣装も初心者冒険者っぽい服から、頑張れば鎧風とかもできそうだし。手を抜こうと思えば抜けるし、凝ろうと思えば凝れるかなって」
言い終わるまで少し不安だった。
普段、自分から意見を言う方ではない。
だから余計に。
でも次の瞬間、
「いいね!」
「それ面白そう!」
そんな声が次々に上がった。
ほっと胸を撫で下ろす。
結局、内装をギルド風にして衣装の自由度も高いということで、私の案が採用された。
私、やるじゃん。
それからは文化祭準備で大忙しだった。
部活で忙しい人は当日の接客担当。
それ以外の人たちは衣装や装飾、小物作り、メニュー表の作成、お菓子やドリンクの内容決めなどに分かれて作業を進めていく。
本当は衣装作りを手伝うつもりだった。
けれど裁縫スキルが壊滅的だったため、早々に戦力外通告を受けた。
「女子力なくても体力はあるのに……」
少しだけ拗ねながら、メニュー表作りや荷物運びを担当する。
その日も、内装用のオブジェを運んでいる子を見つけて慌てて駆け寄った。
「持つよ!」
両手で抱え上げる。
思ったより重い。力を込めて持ち上げた瞬間、横から支えが入った。
「大丈夫?」
顔を上げると日向くんだった。
私が両手で抱えていたものを、片手で軽々と支えている。
「ありがとう。重いのによく持てたね」
「鍛えてるから!」
日向くんは当然のように言った。
「それより重たいなら呼んでよ。部活ばっかりでそんなに準備手伝えてないし、これくらいはやるって」
言葉も態度も柔らかい。
体格なんて私とそこまで変わらないのに。
やっぱり男の子なんだな、と思う。
少しだけ悔しくなって、誤魔化すように言った。
「日向くんは文化祭当日、犬耳カチューシャにフリフリエプロンだからね」
「えぇ!?」
予想通りの反応。
「俺、かっこいい冒険者が良かったのに!」
「もう衣装作ってるから無理でーす。私が作ったわけじゃないけど」
そう言うと日向くんはさらに不満そうな顔をした。
「苗字さんの衣装は冒険者なんでしょ?同じが良かったのに」
「……え?」
思わず固まる。
「私、接客するの?」
「するでしょ?」
日向くんが不思議そうな顔をする。
「衣装係の人、苗字さんの衣装めちゃくちゃ気合い入れて作ってたよ?」
知らない。
そんな話、聞いてない。
私は当日、裏方をやるつもりだったんだけど!?
慌てて立ち上がり、そのまま衣装係のところへ文句を言いに向かった。
文化祭当日。
私は少し不貞腐れていた。
接客なんて可愛い子がやればいいと思っていたのに、「発案者だから」という理由で当日も前線に立たされることになったからだ。
しかも渡された衣装がこれ。
フリルたっぷりのメイドエプロン。
猫耳カチューシャ。
そして猫尻尾付きのベルト。
「いやいやいや……」
鏡の前で思わず呟く。
日焼けした肌に、ソフトボールで鍛えた腕。
どう考えても似合わない。
お笑い担当じゃん。
そう思いながら引きつった笑みを浮かべると、衣装係が満足そうに頷いた。
「それそれ!なんか企んでそうな猫獣人メイドって感じ!」
「褒めてる?」
「めちゃくちゃ褒めてる!」
よく分からないけれど、とにかく売上に貢献すればいいらしい。
だったらやってやろうじゃないか。
予想以上に客足は多かった。
冒険者ギルドというテーマが珍しかったのか、教室の前には列までできている。
忙しい。
でも楽しい。
接客をしているうちに、いつの間にか役になりきっていた。
「回復したなら、さっさと冒険してきな!」
長居している客を追い出すような台詞まで飛び出す。怒られるかと思ったけれど、意外とみんな笑ってくれた。
むしろノリノリで返してくる。
ありがたい。
「並んでる次のギルドメンバーどうぞー!」
声を張り上げながら案内しようとして、思わず目を瞬いた。
見覚えのある顔が三人。
男子バレー部の先輩たちだった。
「日向!マジで似合ってるべ!」
「笑っちゃダメだって」
「お前らも笑ってないで座れよ」
仲の良いやり取りに思わず笑いそうになる。
ちょうどドリンクを運んでいた日向くんも気まずそうに近付いてきた。
「来てくれたんすね……」
「当たり前だべ」
そんな会話を聞きながら、私は接客モードを崩さない。
「ここは荒くれ者も歓迎するギルド兼喫茶店だよ!」
胸を張る。
「でも暴れたらギルド長が飛んでくるからね!さぁ、席について注文しな!」
ぶっきらぼうな口調でメニューを差し出す。
すると菅原先輩が吹き出した。
「いいねぇ。大地の奢りだから一番高いのにしようかな〜」
「奢らないからな」
すかさず隣の先輩がツッコむ。
「俺は毒消し(珈琲)で」
「えぇ〜」
そして菅原先輩はメニューを閉じた。
「じゃあ俺は猫耳さんのおすすめで」
そう言って笑う。
その笑顔の破壊力がすごい。
なんというか。
ギルドに現れた冒険者というより、お忍びで遊びに来た貴族様みたいだった。
「定番ポーションでいいですか?」
「お願いします」
素直に頷かれる。
隣の大柄な先輩は真剣な顔でメニューとにらめっこしていた。
「迷う……」
その顔があまりにも深刻で少し笑いそうになる。
戦いに行く前なのかな。
しばらく悩んだ末、
「このお菓子と紅茶……あ、MPポーションと甘い携帯食をお願いします」
と正式名称で注文してくれた。
意外と律儀な人だ。
注文されたものを運ぶと、皆きちんとお礼を言ってくれる。
なんだか部活の空気に似ている。
しばらくして三人は席を立った。
「ありがとうございましたー!冒険頑張ってくださーい!」
クラス共通の台詞で見送る。
そのまま帰ると思ったのに、菅原先輩だけが戻ってきた。
忘れ物かな?
けれど先輩は私の前で立ち止まり、少しだけ迷うような顔をした。
「ん?」
「あのさ」
言いにくそうに視線を彷徨わせる。
「気になってたんだけど……触ってもいい?」
「何をですか?」
思わず聞き返した。
すると先輩は吹き出す。
「その反応まで猫っぽい」
笑いながら手を伸ばしてくる。
腰に触れられて思わず肩が跳ねた。
けれど先輩が掴んだのは私ではなく、ベルトについていた猫尻尾だった。
ふわふわと揺らしながら感心したように言う。
「これ気になってたんだよね」
「尻尾ですか?」
「うん。衣装すごいなーって」
「セクハラですよ」
「モールで作った尻尾なのに?」
「付け爪してたら引っ掻いてました」
そう言うと先輩は楽しそうに笑った。
「ごめんごめん。つい気になっちゃって」
本当に悪気はなさそうだった。
二つ上の先輩なのに、どこか人懐っこい。
その不思議な距離感に、少しだけ調子を狂わされてしまった。
地元の人や他校の生徒もたくさん来ていて、喫茶店は相変わらず大盛況だった。
接客をしていると、見慣れない制服の二人組が入ってくる。
白鳥沢高校の制服だ。
可愛い制服だなとは思っていたけれど、まさか烏野の文化祭に遊びに来るとは思わなかった。
席へ案内すると、二人は座るなり話し始める。
「太一が輪投げなんか気にするから牛島さんとはぐれたじゃん。奢れよ」
「白布が怖い〜」
じゃれ合うようなやり取りに思わず笑いそうになる。
注文を取った後、日向くんが席へやって来て話し始めた。
どうやら知り合いらしい。
でも仲良しというより、ライバル校の知り合いという感じだろうか。
不思議な距離感だった。
午後になる頃には喫茶店も落ち着いてきた。
私は他のクラスメイトと交代し、ようやく文化祭を回ることになった。
部活の先輩たちのクラスを見に行ったり、展示を見たり。久しぶりにソフトボール部の先輩たちとも話せて楽しい。
三年生は受験も近いからか、展示系の出し物が多かった。
そんな中、喫茶店をやっているクラスもあったので少し偵察気分で入ってみる。
「いらっしゃいませ〜」
聞こえてきた声に顔を上げる。
そして固まった。
目の前にいたのは──女装した菅原先輩だった。
菅原先輩も私に気付き、一瞬動きを止める。
その反応がおかしくて思わずにやりと笑った。
「可愛いですね」
さっき猫尻尾を触られた仕返しのつもりで言う。
すると先輩は顔をしかめた。
「恥ずかしい……」
小さく呟く姿に思わず笑う。
でもその後も普通に接客を続けているところを見ると、本当に恥ずかしいのか少し怪しい。
むしろ結構ノリノリな気がする。
部活の先輩たちと話していると、いつの間にか菅原先輩も近くへ来ていた。
女装していることをいいことに妙に女の子っぽい話し方をしてくる。
その度に周りが笑う。
やっぱり楽しんでるじゃん。
そう思うとなんだか面白かった。
気付けば飲み物を二杯も飲んでいて、お腹はちゃぽちゃぽだった。
でも文化祭といえば食べ歩きだ。
友達と一緒に食べ物を探そうとしていると、後ろから声がかかった。
「これから食べ物系回るの?」
振り返ると菅原先輩だった。
「はい。何か食べようかなって」
「俺、もう店終わったからさ。これから大地のクラス行こうと思ってるんだけど」
そう言いかけてから、
「あ、バレー部のメンバーのところね」と慌てて言い直す。
友達の方を見ると、なぜか全員が笑顔で頷いた。
「私たちもそこ行く予定だったんです!」
いや、そんな話してない。
でも誰も訂正しない。
爽やかスマイルってすごい。
結局そのまま一緒に行くことになった。
バレー部の先輩がやっている焼きそば屋は大盛況だった。
注文すると菅原先輩が横から色々口を出し始める。
「大地〜。俺がせっかく来たんだからサービスしろって〜」
「しない」
「ケチ〜」
そんなやり取りをしながらも、少しだけ量を増やしてくれた気がする。
出来上がった焼きそばは思った以上に美味しかった。
食べ終わる頃には、文化祭も終わりが近づいていた。
「じゃあねー」
「はい!」
そんな言葉を交わして、自然と別れる流れになる。
それなのに……
なんだか少しだけ寂しかった。
友達は次にクレープやケーキを探しに行こうと盛り上がっている。
その後ろを歩きながらも、さっき別れたばかりの菅原先輩のことを考えてしまう。
一緒にいて楽しかった。
もっと話したかった。
でも三年生だから受験もある。
これから先、こんな風に話せる機会はほとんどないかもしれない。
だからといって……
友達と別行動してまで?
何か予定があるかもしれない先輩を追いかけてまで?
そこまでして話しかけていいのだろうか。
気付けば足が少しだけ遅くなってる。
考えれば考えるほど分からなくなる。
【選択してください】
・菅原に声をかける →冬③へ
・そのまま友達と回る →冬④へ
でも文化祭の喫茶店なんて、きっと他のクラスもやるし、そこからさらにテーマ決めが始まった。
メイドカフェや純喫茶風なんて案も出たけれど、「他のクラスと被りそう」という理由でなかなか決まらない。
そのうち話はどんどん脱線していき、
「宇宙人カフェとか?」
「犬カフェは?」
なんて案まで飛び出した。
流石に全身タイツに触覚は嫌だし、犬を学校に連れてくるのも無理だと思う。
おそるおそる手を挙げた。
「ゲームに出てくる冒険者が集まる喫茶店とかどう?」
みんなの視線が集まって少し緊張する。
「冒険者ギルドみたいな雰囲気で、メロンソーダならHPポーション、紅茶ならMPポーションみたいな感じ。衣装も初心者冒険者っぽい服から、頑張れば鎧風とかもできそうだし。手を抜こうと思えば抜けるし、凝ろうと思えば凝れるかなって」
言い終わるまで少し不安だった。
普段、自分から意見を言う方ではない。
だから余計に。
でも次の瞬間、
「いいね!」
「それ面白そう!」
そんな声が次々に上がった。
ほっと胸を撫で下ろす。
結局、内装をギルド風にして衣装の自由度も高いということで、私の案が採用された。
私、やるじゃん。
それからは文化祭準備で大忙しだった。
部活で忙しい人は当日の接客担当。
それ以外の人たちは衣装や装飾、小物作り、メニュー表の作成、お菓子やドリンクの内容決めなどに分かれて作業を進めていく。
本当は衣装作りを手伝うつもりだった。
けれど裁縫スキルが壊滅的だったため、早々に戦力外通告を受けた。
「女子力なくても体力はあるのに……」
少しだけ拗ねながら、メニュー表作りや荷物運びを担当する。
その日も、内装用のオブジェを運んでいる子を見つけて慌てて駆け寄った。
「持つよ!」
両手で抱え上げる。
思ったより重い。力を込めて持ち上げた瞬間、横から支えが入った。
「大丈夫?」
顔を上げると日向くんだった。
私が両手で抱えていたものを、片手で軽々と支えている。
「ありがとう。重いのによく持てたね」
「鍛えてるから!」
日向くんは当然のように言った。
「それより重たいなら呼んでよ。部活ばっかりでそんなに準備手伝えてないし、これくらいはやるって」
言葉も態度も柔らかい。
体格なんて私とそこまで変わらないのに。
やっぱり男の子なんだな、と思う。
少しだけ悔しくなって、誤魔化すように言った。
「日向くんは文化祭当日、犬耳カチューシャにフリフリエプロンだからね」
「えぇ!?」
予想通りの反応。
「俺、かっこいい冒険者が良かったのに!」
「もう衣装作ってるから無理でーす。私が作ったわけじゃないけど」
そう言うと日向くんはさらに不満そうな顔をした。
「苗字さんの衣装は冒険者なんでしょ?同じが良かったのに」
「……え?」
思わず固まる。
「私、接客するの?」
「するでしょ?」
日向くんが不思議そうな顔をする。
「衣装係の人、苗字さんの衣装めちゃくちゃ気合い入れて作ってたよ?」
知らない。
そんな話、聞いてない。
私は当日、裏方をやるつもりだったんだけど!?
慌てて立ち上がり、そのまま衣装係のところへ文句を言いに向かった。
文化祭当日。
私は少し不貞腐れていた。
接客なんて可愛い子がやればいいと思っていたのに、「発案者だから」という理由で当日も前線に立たされることになったからだ。
しかも渡された衣装がこれ。
フリルたっぷりのメイドエプロン。
猫耳カチューシャ。
そして猫尻尾付きのベルト。
「いやいやいや……」
鏡の前で思わず呟く。
日焼けした肌に、ソフトボールで鍛えた腕。
どう考えても似合わない。
お笑い担当じゃん。
そう思いながら引きつった笑みを浮かべると、衣装係が満足そうに頷いた。
「それそれ!なんか企んでそうな猫獣人メイドって感じ!」
「褒めてる?」
「めちゃくちゃ褒めてる!」
よく分からないけれど、とにかく売上に貢献すればいいらしい。
だったらやってやろうじゃないか。
予想以上に客足は多かった。
冒険者ギルドというテーマが珍しかったのか、教室の前には列までできている。
忙しい。
でも楽しい。
接客をしているうちに、いつの間にか役になりきっていた。
「回復したなら、さっさと冒険してきな!」
長居している客を追い出すような台詞まで飛び出す。怒られるかと思ったけれど、意外とみんな笑ってくれた。
むしろノリノリで返してくる。
ありがたい。
「並んでる次のギルドメンバーどうぞー!」
声を張り上げながら案内しようとして、思わず目を瞬いた。
見覚えのある顔が三人。
男子バレー部の先輩たちだった。
「日向!マジで似合ってるべ!」
「笑っちゃダメだって」
「お前らも笑ってないで座れよ」
仲の良いやり取りに思わず笑いそうになる。
ちょうどドリンクを運んでいた日向くんも気まずそうに近付いてきた。
「来てくれたんすね……」
「当たり前だべ」
そんな会話を聞きながら、私は接客モードを崩さない。
「ここは荒くれ者も歓迎するギルド兼喫茶店だよ!」
胸を張る。
「でも暴れたらギルド長が飛んでくるからね!さぁ、席について注文しな!」
ぶっきらぼうな口調でメニューを差し出す。
すると菅原先輩が吹き出した。
「いいねぇ。大地の奢りだから一番高いのにしようかな〜」
「奢らないからな」
すかさず隣の先輩がツッコむ。
「俺は毒消し(珈琲)で」
「えぇ〜」
そして菅原先輩はメニューを閉じた。
「じゃあ俺は猫耳さんのおすすめで」
そう言って笑う。
その笑顔の破壊力がすごい。
なんというか。
ギルドに現れた冒険者というより、お忍びで遊びに来た貴族様みたいだった。
「定番ポーションでいいですか?」
「お願いします」
素直に頷かれる。
隣の大柄な先輩は真剣な顔でメニューとにらめっこしていた。
「迷う……」
その顔があまりにも深刻で少し笑いそうになる。
戦いに行く前なのかな。
しばらく悩んだ末、
「このお菓子と紅茶……あ、MPポーションと甘い携帯食をお願いします」
と正式名称で注文してくれた。
意外と律儀な人だ。
注文されたものを運ぶと、皆きちんとお礼を言ってくれる。
なんだか部活の空気に似ている。
しばらくして三人は席を立った。
「ありがとうございましたー!冒険頑張ってくださーい!」
クラス共通の台詞で見送る。
そのまま帰ると思ったのに、菅原先輩だけが戻ってきた。
忘れ物かな?
けれど先輩は私の前で立ち止まり、少しだけ迷うような顔をした。
「ん?」
「あのさ」
言いにくそうに視線を彷徨わせる。
「気になってたんだけど……触ってもいい?」
「何をですか?」
思わず聞き返した。
すると先輩は吹き出す。
「その反応まで猫っぽい」
笑いながら手を伸ばしてくる。
腰に触れられて思わず肩が跳ねた。
けれど先輩が掴んだのは私ではなく、ベルトについていた猫尻尾だった。
ふわふわと揺らしながら感心したように言う。
「これ気になってたんだよね」
「尻尾ですか?」
「うん。衣装すごいなーって」
「セクハラですよ」
「モールで作った尻尾なのに?」
「付け爪してたら引っ掻いてました」
そう言うと先輩は楽しそうに笑った。
「ごめんごめん。つい気になっちゃって」
本当に悪気はなさそうだった。
二つ上の先輩なのに、どこか人懐っこい。
その不思議な距離感に、少しだけ調子を狂わされてしまった。
地元の人や他校の生徒もたくさん来ていて、喫茶店は相変わらず大盛況だった。
接客をしていると、見慣れない制服の二人組が入ってくる。
白鳥沢高校の制服だ。
可愛い制服だなとは思っていたけれど、まさか烏野の文化祭に遊びに来るとは思わなかった。
席へ案内すると、二人は座るなり話し始める。
「太一が輪投げなんか気にするから牛島さんとはぐれたじゃん。奢れよ」
「白布が怖い〜」
じゃれ合うようなやり取りに思わず笑いそうになる。
注文を取った後、日向くんが席へやって来て話し始めた。
どうやら知り合いらしい。
でも仲良しというより、ライバル校の知り合いという感じだろうか。
不思議な距離感だった。
午後になる頃には喫茶店も落ち着いてきた。
私は他のクラスメイトと交代し、ようやく文化祭を回ることになった。
部活の先輩たちのクラスを見に行ったり、展示を見たり。久しぶりにソフトボール部の先輩たちとも話せて楽しい。
三年生は受験も近いからか、展示系の出し物が多かった。
そんな中、喫茶店をやっているクラスもあったので少し偵察気分で入ってみる。
「いらっしゃいませ〜」
聞こえてきた声に顔を上げる。
そして固まった。
目の前にいたのは──女装した菅原先輩だった。
菅原先輩も私に気付き、一瞬動きを止める。
その反応がおかしくて思わずにやりと笑った。
「可愛いですね」
さっき猫尻尾を触られた仕返しのつもりで言う。
すると先輩は顔をしかめた。
「恥ずかしい……」
小さく呟く姿に思わず笑う。
でもその後も普通に接客を続けているところを見ると、本当に恥ずかしいのか少し怪しい。
むしろ結構ノリノリな気がする。
部活の先輩たちと話していると、いつの間にか菅原先輩も近くへ来ていた。
女装していることをいいことに妙に女の子っぽい話し方をしてくる。
その度に周りが笑う。
やっぱり楽しんでるじゃん。
そう思うとなんだか面白かった。
気付けば飲み物を二杯も飲んでいて、お腹はちゃぽちゃぽだった。
でも文化祭といえば食べ歩きだ。
友達と一緒に食べ物を探そうとしていると、後ろから声がかかった。
「これから食べ物系回るの?」
振り返ると菅原先輩だった。
「はい。何か食べようかなって」
「俺、もう店終わったからさ。これから大地のクラス行こうと思ってるんだけど」
そう言いかけてから、
「あ、バレー部のメンバーのところね」と慌てて言い直す。
友達の方を見ると、なぜか全員が笑顔で頷いた。
「私たちもそこ行く予定だったんです!」
いや、そんな話してない。
でも誰も訂正しない。
爽やかスマイルってすごい。
結局そのまま一緒に行くことになった。
バレー部の先輩がやっている焼きそば屋は大盛況だった。
注文すると菅原先輩が横から色々口を出し始める。
「大地〜。俺がせっかく来たんだからサービスしろって〜」
「しない」
「ケチ〜」
そんなやり取りをしながらも、少しだけ量を増やしてくれた気がする。
出来上がった焼きそばは思った以上に美味しかった。
食べ終わる頃には、文化祭も終わりが近づいていた。
「じゃあねー」
「はい!」
そんな言葉を交わして、自然と別れる流れになる。
それなのに……
なんだか少しだけ寂しかった。
友達は次にクレープやケーキを探しに行こうと盛り上がっている。
その後ろを歩きながらも、さっき別れたばかりの菅原先輩のことを考えてしまう。
一緒にいて楽しかった。
もっと話したかった。
でも三年生だから受験もある。
これから先、こんな風に話せる機会はほとんどないかもしれない。
だからといって……
友達と別行動してまで?
何か予定があるかもしれない先輩を追いかけてまで?
そこまでして話しかけていいのだろうか。
気付けば足が少しだけ遅くなってる。
考えれば考えるほど分からなくなる。
【選択してください】
・菅原に声をかける →冬③へ
・そのまま友達と回る →冬④へ
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