2 高校生編
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天童くんが3年生になっても、奇妙な関係はまだ続いていた。
十歳下の弟・晴斗は、大学に進んでから部活や勉強に追われ、月に一度ほどしか連絡をくれなくなった。
けれどそのさらに二つ下の天童くんは、今も変わらず電話やメールを欠かさない。
気づけば── 十歳下の弟よりも、そのさらに二つ下である天童くんの方が、ずっと近くに感じられるようになっていた。
電話ではやっぱり天童くんの独壇場。
軽い口調で学校や部活の話をしては笑わせてくれるのに、画面越しに滲むのは確かに本気で努力を続けている姿だった。その一方で、寮生活に甘えられない寂しさが、不意に言葉の端々からこぼれることもあった。
9月に入る頃からは、また春高の応援に来てほしいと天童くんが言い出した。いつも以上にしつこく「今度は絶対応援してね」と繰り返すその様子に、三年生として迎える最後の大会への覚悟がにじんでいる気がして、私は曖昧に笑って答えた。
けれど、11月の終わり。いつものような軽口交じりのメールではなく、「電話、いい?」という短いメッセージが届いた。
自由に使える時間があったが、あえてすぐには折り返さなかった。なんとなく、その内容が予感できたからだ。
耳に届いた天童くんの声は、少し掠れていた。
「……会いたかったのになぁ」
それだけで、春高には進めなかったのだと悟る。試合に出る以上、誰も「負けるかもしれない」なんて思わない。それでも結果は残酷に訪れる。
かける言葉を探して、「お疲れさま」ではなく「よく頑張ったね」と伝えると、間を置いて「ありがとう」と返ってきた。
「これからはさ、別の楽園を作るんだ〜」
不意に告げられたその言葉の意味がわからず問い返すと、天童くんはいつもの調子で笑う。
「もう、これ以上楽しいバレーはないと思うんだ。だから次は、自分で作るんだよ。俺が一番楽しいって思える場所を」
若さゆえの無謀さか、それとも確かな信念か。
真剣な熱を孕んだその言葉は、社会人として日々に慣れ、惰性で仕事をしていた私の胸にまっすぐ刺さった。恥ずかしさを覚えながらも、「大学は行かないの?」と尋ねると、天童くんは迷いなく「行かない」と答える。もう進む先は決めているのだという。
「行く前に、一日だけ時間がほしいな」
子供のように甘えるでもなく、静かに願うような声音だった。少しでもかっこよく応えたくて、軽く笑って言う。
「欲しい物があるなら言ってみなさい。少しくらいなら、大人の余裕で買ってあげられるんだから」
けれどその時──心の奥に生まれていたのは、彼に与えたいと思う気持ち以上に、「最後の一日」を共にする覚悟だった。
十歳下の弟・晴斗は、大学に進んでから部活や勉強に追われ、月に一度ほどしか連絡をくれなくなった。
けれどそのさらに二つ下の天童くんは、今も変わらず電話やメールを欠かさない。
気づけば── 十歳下の弟よりも、そのさらに二つ下である天童くんの方が、ずっと近くに感じられるようになっていた。
電話ではやっぱり天童くんの独壇場。
軽い口調で学校や部活の話をしては笑わせてくれるのに、画面越しに滲むのは確かに本気で努力を続けている姿だった。その一方で、寮生活に甘えられない寂しさが、不意に言葉の端々からこぼれることもあった。
9月に入る頃からは、また春高の応援に来てほしいと天童くんが言い出した。いつも以上にしつこく「今度は絶対応援してね」と繰り返すその様子に、三年生として迎える最後の大会への覚悟がにじんでいる気がして、私は曖昧に笑って答えた。
けれど、11月の終わり。いつものような軽口交じりのメールではなく、「電話、いい?」という短いメッセージが届いた。
自由に使える時間があったが、あえてすぐには折り返さなかった。なんとなく、その内容が予感できたからだ。
耳に届いた天童くんの声は、少し掠れていた。
「……会いたかったのになぁ」
それだけで、春高には進めなかったのだと悟る。試合に出る以上、誰も「負けるかもしれない」なんて思わない。それでも結果は残酷に訪れる。
かける言葉を探して、「お疲れさま」ではなく「よく頑張ったね」と伝えると、間を置いて「ありがとう」と返ってきた。
「これからはさ、別の楽園を作るんだ〜」
不意に告げられたその言葉の意味がわからず問い返すと、天童くんはいつもの調子で笑う。
「もう、これ以上楽しいバレーはないと思うんだ。だから次は、自分で作るんだよ。俺が一番楽しいって思える場所を」
若さゆえの無謀さか、それとも確かな信念か。
真剣な熱を孕んだその言葉は、社会人として日々に慣れ、惰性で仕事をしていた私の胸にまっすぐ刺さった。恥ずかしさを覚えながらも、「大学は行かないの?」と尋ねると、天童くんは迷いなく「行かない」と答える。もう進む先は決めているのだという。
「行く前に、一日だけ時間がほしいな」
子供のように甘えるでもなく、静かに願うような声音だった。少しでもかっこよく応えたくて、軽く笑って言う。
「欲しい物があるなら言ってみなさい。少しくらいなら、大人の余裕で買ってあげられるんだから」
けれどその時──心の奥に生まれていたのは、彼に与えたいと思う気持ち以上に、「最後の一日」を共にする覚悟だった。
