2 高校生編
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インターハイ予選を控えた5月下旬。
仕事帰りの夜、ふいに鳴った携帯をとると、耳に飛び込んできたのは天童くんの明るい声だった。
「ねぇねぇ、○○さん〜。インハイの予選、一日目は来られそう〜?」
名前を呼ぶ響きに、思わず苦笑いがこぼれる。何度も繰り返し呼ぶものだから、すっかり彼の口癖みたいになっていた。
「……一日目なら、晴斗と休みが合ったから行けそう。二日目以降は無理だけど」
「やった〜! しかも○○さんと晴斗くん一緒なんだ〜。俺、ちょっと出られるかもって監督の鍛治くんに言われたんだよ。レギュラーじゃないけど、ベンチ入りして、途中で少し使ってもらえるかも〜」
自分のことなのに、まるで他人事みたいな軽さで言う声。けれど、その裏でどれだけ必死に練習してきたかはわかっていた。
「すごいじゃない。白鳥沢で2年で試合に出られるなんて、本当に大変なことだと思うよ」
「若利くんは1年でスタメン入りだったけどね〜」
「でも、まだ上に三年生がたくさんいるのに。その中でチャンスをもらえるってすごいよ」
電話越しの沈黙。ほんの数秒。
「……○○さんにそう言われると、なんかほんとにすごい気がしてきた〜」
いつもと同じ調子なのに、どこか息が弾んでいるように聞こえた。
その話を晴斗に伝えると、「あいつ、生意気で上下関係とか気にしないから三年に嫌われてんだよな。でもよく頑張ってる」と肩をすくめて笑った。
「なんかお兄ちゃんみたいなこと言うようになったね」と揶揄うと、晴斗はむっとした顔で「でも、あいつ俺のこと名前で呼ぶしたまに呼び捨てにするんだぞ。二個も上なのにムカつく」とぼやいた。口では文句を言っても、どこか誇らしげに見えるのが可笑しい。
──予選一日目。
会場に着き、応援席に座ると、久しぶりに顔を合わせた同級生たちと晴斗は話を弾ませている。私は少し気まずさを抱えつつも、試合前のアップを眺めていた。
ふと、赤い髪が目に飛び込んできた。
コート下からこちらを見つけ、大きく手を振る天童くん。
視線を上げたまま、2階席のこちらに駆け寄ってきて、真下まで来ると──。
「○○さ〜ん!」
響き渡る大声に、周囲がざわめき、隣の晴斗が「お前!」と声を荒げる。
けれど天童くんは気にする素振りもなく、にこにこと笑って言った。
「今日ね、俺、試合でちょっと使ってもらえるみたいだから! 応援してね〜!」
言いたいことだけ言って、ひらひらと手を振りながら去っていく。
呆気に取られたまま、笑うしかなかった。
試合は勝ち、彼も途中から出場して、得点に絡む場面を見せた。
「もしかしたらスタメンになれるかもしれないな」と晴斗がぽつりとつぶやく。どこか嬉しそうで、悔しそうでもあった。
試合後、卒業生たちが後輩をねぎらう中、ひときわ目立つ赤髪がこちらに向かって歩いてきた。
「ねぇねぇ、○○さん。俺のこと、褒めて〜」
「まだまだだろ」と晴斗が言い返す。
「なんで姉ちゃんがお前なんかを褒めなきゃなんねぇんだ」
言いながらも、私の背を軽く押すものだから、彼の隣まで歩いて行ってしまう。
間近に立つと、もう晴斗と同じくらいの背丈を越していた。
「また伸びたの?」と尋ねると、天童くんはにやりと笑う。
「うん、伸びたよ〜。でも晴斗くんが縮んだのかもね」
「まだ伸びるんだよ」と晴斗は悔しそうに唇をかむ。
そんな二人のやり取りに小さく笑いながら、帰る準備をする。
「また連絡するから〜」と軽く言う天童くんに、晴斗がすかさず声をあげた。
「もうするな!」
けれど、天童くんはまるで聞こえなかったみたいに、赤い髪を揺らして笑っていた。
仕事帰りの夜、ふいに鳴った携帯をとると、耳に飛び込んできたのは天童くんの明るい声だった。
「ねぇねぇ、○○さん〜。インハイの予選、一日目は来られそう〜?」
名前を呼ぶ響きに、思わず苦笑いがこぼれる。何度も繰り返し呼ぶものだから、すっかり彼の口癖みたいになっていた。
「……一日目なら、晴斗と休みが合ったから行けそう。二日目以降は無理だけど」
「やった〜! しかも○○さんと晴斗くん一緒なんだ〜。俺、ちょっと出られるかもって監督の鍛治くんに言われたんだよ。レギュラーじゃないけど、ベンチ入りして、途中で少し使ってもらえるかも〜」
自分のことなのに、まるで他人事みたいな軽さで言う声。けれど、その裏でどれだけ必死に練習してきたかはわかっていた。
「すごいじゃない。白鳥沢で2年で試合に出られるなんて、本当に大変なことだと思うよ」
「若利くんは1年でスタメン入りだったけどね〜」
「でも、まだ上に三年生がたくさんいるのに。その中でチャンスをもらえるってすごいよ」
電話越しの沈黙。ほんの数秒。
「……○○さんにそう言われると、なんかほんとにすごい気がしてきた〜」
いつもと同じ調子なのに、どこか息が弾んでいるように聞こえた。
その話を晴斗に伝えると、「あいつ、生意気で上下関係とか気にしないから三年に嫌われてんだよな。でもよく頑張ってる」と肩をすくめて笑った。
「なんかお兄ちゃんみたいなこと言うようになったね」と揶揄うと、晴斗はむっとした顔で「でも、あいつ俺のこと名前で呼ぶしたまに呼び捨てにするんだぞ。二個も上なのにムカつく」とぼやいた。口では文句を言っても、どこか誇らしげに見えるのが可笑しい。
──予選一日目。
会場に着き、応援席に座ると、久しぶりに顔を合わせた同級生たちと晴斗は話を弾ませている。私は少し気まずさを抱えつつも、試合前のアップを眺めていた。
ふと、赤い髪が目に飛び込んできた。
コート下からこちらを見つけ、大きく手を振る天童くん。
視線を上げたまま、2階席のこちらに駆け寄ってきて、真下まで来ると──。
「○○さ〜ん!」
響き渡る大声に、周囲がざわめき、隣の晴斗が「お前!」と声を荒げる。
けれど天童くんは気にする素振りもなく、にこにこと笑って言った。
「今日ね、俺、試合でちょっと使ってもらえるみたいだから! 応援してね〜!」
言いたいことだけ言って、ひらひらと手を振りながら去っていく。
呆気に取られたまま、笑うしかなかった。
試合は勝ち、彼も途中から出場して、得点に絡む場面を見せた。
「もしかしたらスタメンになれるかもしれないな」と晴斗がぽつりとつぶやく。どこか嬉しそうで、悔しそうでもあった。
試合後、卒業生たちが後輩をねぎらう中、ひときわ目立つ赤髪がこちらに向かって歩いてきた。
「ねぇねぇ、○○さん。俺のこと、褒めて〜」
「まだまだだろ」と晴斗が言い返す。
「なんで姉ちゃんがお前なんかを褒めなきゃなんねぇんだ」
言いながらも、私の背を軽く押すものだから、彼の隣まで歩いて行ってしまう。
間近に立つと、もう晴斗と同じくらいの背丈を越していた。
「また伸びたの?」と尋ねると、天童くんはにやりと笑う。
「うん、伸びたよ〜。でも晴斗くんが縮んだのかもね」
「まだ伸びるんだよ」と晴斗は悔しそうに唇をかむ。
そんな二人のやり取りに小さく笑いながら、帰る準備をする。
「また連絡するから〜」と軽く言う天童くんに、晴斗がすかさず声をあげた。
「もうするな!」
けれど、天童くんはまるで聞こえなかったみたいに、赤い髪を揺らして笑っていた。
