8 フランスに戻る彼
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こないだの再開から数カ月ぶり。
時間をつくった彼に誘われてランチに来た。
「東京の仕事、どう? 慣れてきた〜?」
再会したカフェで、天童くんはメニューも開かずに、まるで日常の挨拶のように尋ねてくる。
「……なんで知ってるの」
「この前、電話で言ってたじゃん。栄転で東京勤務になったって。大事なことだから、忘れないよ」
あっけらかんと笑う彼の横顔を見ていると、胸の奥がくすぐったくなる。
彼が今もフランスで働いていて、ほんの短い時間を縫って日本での仕事をしつつも帰ってきているのを知っているから、なおさら。
自分のために時間を割いてくれている、その事実が嬉しいのと同時に、少し苦しい。
料理が運ばれてきても、彼の指はずっと私の指を絡めたままだった。
「……食べてるんだから、手、離して」
「やだ〜。せっかく会えたんだから、離したくない」
軽く抜こうとした指先に、彼の力はほんの少しだけ強まる。十二歳も年下の彼に、こんなふうに振り回されるなんて。周りの視線が気になって、つい俯いてしまう。
「ねえ、○○さん〜」
「なに?」
「安定と挑戦だったら、どっち選ぶ?」
突然の問いかけにフォークが止まる。彼のことだから、何気ない顔をして、心の奥を探っているに違いない。
「挑戦も……素敵だと思うよ」
そう答えると、彼は食事の手を止めて真っ直ぐに見つめてきた。
「俺といるのは……挑戦なのかな」
柔らかな口調なのに、瞳の奥は鋭くて。
言葉を失ってしまう。
「一緒にフランスに来てほしい」
その一言に胸が大きく波打った。彼自身の将来の話かと思っていたのに、向けられたのは私への願いだった。
「え……そんなの、無理だよ。仕事だってあるし、言葉だって分からない」
「じゃあ俺が戻る」
あまりにも即答で、思わず声が裏返る。
「そんなに簡単に言わないでよ。日本でだって有名になるの大変なのに……本場フランスでショコラティエとして認められたんでしょ?」
「俺にとっては簡単に言えることなんだよ」
彼は穏やかに笑って、私の手をさらに強く握る。
「チョコでたくさんの人を幸せにしたい。でも、一番好きな人がそばにいないのは嫌なんだ」
真剣な瞳がまっすぐに突き刺さって、胸の奥が熱くなる。返事が出せない。熱がこみ上げすぎて、言葉にできない。
「……困らせちゃったね」
彼はそう言って、指の力を少しだけ緩めた。その優しさが、かえって胸を締めつける。
「今、周りの目……気になってる?」
食後のコーヒーを口にしながら、彼がさらりと尋ねてくる。
「……そりゃ、気になるよ。だって一回りも年が離れてるんだもの」
「ふうん。姉としては離れすぎる年の差?」
からかうような笑みを浮かべる彼に、少しむっとしながらも頷く。
「母親には見られないけどね」
冗談めかして返すと、天童くんの目がほんの少しだけ細くなった。
「恋人同士にみえてるよ」
囁くように言いながら、繋いだ手に力を込める。
「一応日本だから抑えめにしてるけど……俺、結構甘い雰囲気出してるつもりなんだけどな〜」
ぶつぶつと言う様子に、思わず笑ってしまう。
「フランスならね、日本人なんて年齢わかんないし。もっと当たり前に、こうやって触れられるんだよ」
そう言って、彼は私の指先を口元へと持ち上げ、そっとキスを落とした。
「……っ」
熱が一気に顔に広がる。電話越しではこんなに甘い仕草をされたことがないから、余計に心臓が跳ねた。
「電話口じゃ、ここまでできないからね」
彼は唇を離すと、耳元に顔を寄せて囁く。
「いつも想ってるし、触れていたい。でも……言葉だけだと、抱きしめられない距離を感じちゃうんだよね。寂しいんだ」
声が低く落ちて、胸の奥に深く届く。
返事が詰まってしまった私の沈黙を埋めるように、彼は言葉を重ねてくる。
「一緒にフランスに来たらさ〜……色々考えちゃうよね」
軽やかに笑って、次々と想像を膨らませるように話す。
「まずは日本語禁止ね。俺がフランス語教えるから、すぐ慣れるよ。で、ランチは外で。市場とかカフェとか、そういうの楽しそうでしょ?」
「……」
思わず目を逸らす私を見て、彼はさらに畳みかける。
「日本にいる時は、○○さんが断わるから遠慮してたけど。海外なら普通だよ? 人前で手を繋いだり、抱きしめたり、キスしたり……むしろ足りないくらい甘々にしちゃうと思う」
囁く声に、熱と独占欲が滲んでいる。
「……夜はもっと、甘やかしてみたいな」
視線が絡んだ瞬間、その瞳に未来と熱と欲が混じっているのが伝わって、胸の奥が大きく波打った。
「……そろそろ、店を出よっか」
彼が立ち上がり、椅子を引いて自然にエスコートする。
「恥ずかしがるのも可愛いね、俺のショコラ」
小さな声でそう囁かれて、思わず吹き出す。
「まだそのノリ、続けるの?」
「もちろん〜。だって俺、本気だもん」
彼の笑顔に、言葉がまた詰まってしまう。だけど心の奥では、もう抗えない温度が確かに広がっていた。
時間をつくった彼に誘われてランチに来た。
「東京の仕事、どう? 慣れてきた〜?」
再会したカフェで、天童くんはメニューも開かずに、まるで日常の挨拶のように尋ねてくる。
「……なんで知ってるの」
「この前、電話で言ってたじゃん。栄転で東京勤務になったって。大事なことだから、忘れないよ」
あっけらかんと笑う彼の横顔を見ていると、胸の奥がくすぐったくなる。
彼が今もフランスで働いていて、ほんの短い時間を縫って日本での仕事をしつつも帰ってきているのを知っているから、なおさら。
自分のために時間を割いてくれている、その事実が嬉しいのと同時に、少し苦しい。
料理が運ばれてきても、彼の指はずっと私の指を絡めたままだった。
「……食べてるんだから、手、離して」
「やだ〜。せっかく会えたんだから、離したくない」
軽く抜こうとした指先に、彼の力はほんの少しだけ強まる。十二歳も年下の彼に、こんなふうに振り回されるなんて。周りの視線が気になって、つい俯いてしまう。
「ねえ、○○さん〜」
「なに?」
「安定と挑戦だったら、どっち選ぶ?」
突然の問いかけにフォークが止まる。彼のことだから、何気ない顔をして、心の奥を探っているに違いない。
「挑戦も……素敵だと思うよ」
そう答えると、彼は食事の手を止めて真っ直ぐに見つめてきた。
「俺といるのは……挑戦なのかな」
柔らかな口調なのに、瞳の奥は鋭くて。
言葉を失ってしまう。
「一緒にフランスに来てほしい」
その一言に胸が大きく波打った。彼自身の将来の話かと思っていたのに、向けられたのは私への願いだった。
「え……そんなの、無理だよ。仕事だってあるし、言葉だって分からない」
「じゃあ俺が戻る」
あまりにも即答で、思わず声が裏返る。
「そんなに簡単に言わないでよ。日本でだって有名になるの大変なのに……本場フランスでショコラティエとして認められたんでしょ?」
「俺にとっては簡単に言えることなんだよ」
彼は穏やかに笑って、私の手をさらに強く握る。
「チョコでたくさんの人を幸せにしたい。でも、一番好きな人がそばにいないのは嫌なんだ」
真剣な瞳がまっすぐに突き刺さって、胸の奥が熱くなる。返事が出せない。熱がこみ上げすぎて、言葉にできない。
「……困らせちゃったね」
彼はそう言って、指の力を少しだけ緩めた。その優しさが、かえって胸を締めつける。
「今、周りの目……気になってる?」
食後のコーヒーを口にしながら、彼がさらりと尋ねてくる。
「……そりゃ、気になるよ。だって一回りも年が離れてるんだもの」
「ふうん。姉としては離れすぎる年の差?」
からかうような笑みを浮かべる彼に、少しむっとしながらも頷く。
「母親には見られないけどね」
冗談めかして返すと、天童くんの目がほんの少しだけ細くなった。
「恋人同士にみえてるよ」
囁くように言いながら、繋いだ手に力を込める。
「一応日本だから抑えめにしてるけど……俺、結構甘い雰囲気出してるつもりなんだけどな〜」
ぶつぶつと言う様子に、思わず笑ってしまう。
「フランスならね、日本人なんて年齢わかんないし。もっと当たり前に、こうやって触れられるんだよ」
そう言って、彼は私の指先を口元へと持ち上げ、そっとキスを落とした。
「……っ」
熱が一気に顔に広がる。電話越しではこんなに甘い仕草をされたことがないから、余計に心臓が跳ねた。
「電話口じゃ、ここまでできないからね」
彼は唇を離すと、耳元に顔を寄せて囁く。
「いつも想ってるし、触れていたい。でも……言葉だけだと、抱きしめられない距離を感じちゃうんだよね。寂しいんだ」
声が低く落ちて、胸の奥に深く届く。
返事が詰まってしまった私の沈黙を埋めるように、彼は言葉を重ねてくる。
「一緒にフランスに来たらさ〜……色々考えちゃうよね」
軽やかに笑って、次々と想像を膨らませるように話す。
「まずは日本語禁止ね。俺がフランス語教えるから、すぐ慣れるよ。で、ランチは外で。市場とかカフェとか、そういうの楽しそうでしょ?」
「……」
思わず目を逸らす私を見て、彼はさらに畳みかける。
「日本にいる時は、○○さんが断わるから遠慮してたけど。海外なら普通だよ? 人前で手を繋いだり、抱きしめたり、キスしたり……むしろ足りないくらい甘々にしちゃうと思う」
囁く声に、熱と独占欲が滲んでいる。
「……夜はもっと、甘やかしてみたいな」
視線が絡んだ瞬間、その瞳に未来と熱と欲が混じっているのが伝わって、胸の奥が大きく波打った。
「……そろそろ、店を出よっか」
彼が立ち上がり、椅子を引いて自然にエスコートする。
「恥ずかしがるのも可愛いね、俺のショコラ」
小さな声でそう囁かれて、思わず吹き出す。
「まだそのノリ、続けるの?」
「もちろん〜。だって俺、本気だもん」
彼の笑顔に、言葉がまた詰まってしまう。だけど心の奥では、もう抗えない温度が確かに広がっていた。
