やがて、窓の外が淡く白みはじめた頃。
私は彼の胸に顔を埋め、夢と現の狭間に漂っていた。
「……○○さん」
耳元で柔らかく呼ばれて、ゆっくりと目を開ける。
「ん……なに……」
「起きなきゃ。朝だよ。もっと一緒にいたいけど……○○さん、仕事でしょ？」
「……えっ……！」
慌てて身を起こすと、薄明の光に照らされて散らかったシーツと、自分の乱れた姿に気づく。
「やだ、ほんとに朝……どうしよう……！」
動揺して慌てる私を見て、彼はベッドの端に腰かけ、にこにこと笑っていた。
「ほらね〜。言った通り。俺が起こさなかったら、仕事行けなかったでしょ？」
「……覚のせいで寝不足なんだから……！」
「ふふ、怒ってる？　でも、それくらい俺のこと考えてくれたってことでしょ」
小さな不満も、彼の笑みに溶かされていく。

その瞳に絡め取られたまま、私は時計の針に追われるようにベッドを飛び出した。

慌ただしく身支度を整える私の背中に、覚の視線がじっと絡みついているのを感じる。
シャツのボタンを留める手元まで見られている気がして、振り返れば、ベッドに腰かけたまま頬杖をつき、昨夜と同じ熱を宿した目でこちらを見ていた。
「……そんなに見ないで」
「だって、さっきまで俺の腕の中にいたんだよ？　今さら恥ずかしがっても遅いよね〜」
わざとらしく囁き、唇に笑みを浮かべる。
靴を履こうとした瞬間、その手首を捕まれ、ぐっと引き寄せられた。
「覚、もう時間ないの」
「わかってるよ〜。でも……最後にひと口、俺の甘さ補給していきなよ」
抗う間もなく、深い口づけが落とされる。

唇を離すと、彼は満足げに笑いながら耳元で囁いた。
「……フランス、待ってるから。○○さんが言った"わかった"……絶対忘れないよ」
狡猾に言質を繰り返し、名残惜しそうに手を放す。


熱を残したまま部屋を飛び出した私は、心臓の高鳴りを抱えたまま、朝の街へと駆け出していった。