8 フランスに戻る彼
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フランスに戻った彼とのやり取りは、毎日のようなメッセージと、不定期の長い電話。
時差もあるのに、彼からの連絡は欠かさず届く。
受話器の向こうで、彼の声は軽やかに弾む。
「今日ね、試作用のガナッシュ作っててさ〜。思ったより甘めにしたら、『お前は恋人に食べさせるつもりで作ったのか』って笑われちゃった」
「新しいカカオ豆、店に入ったんだよ。香りがすごくフルーティでね、今度帰ったら絶対食べさせたいな〜」
「店の常連さんにね、日本人のご夫婦がいるんだ。日本語ちょっと話せるから、なんか不思議な気分になるんだよ〜」
一方的に話すのは昔と同じ。
だけど彼の言葉の端々から、慣れない土地で頑張っている姿が伝わってきた。
こちらが「うん」「へえ」と相槌を打つだけでも、彼は楽しそうに話し続ける。
──それでも、ふと私が黙り込んだ瞬間には必ず声色が変わる。
「……今、考えごとした?」
「え?」
「声がちょっと違った。話したいことあるんじゃないかな〜って思った」
──見透かされている。
「……うん、ちょっと疲れたの」
「そっか。聞けてよかった。言わなかったら、俺きっと気づかないフリしちゃうとこだったな〜」
軽く笑うけど、声音には優しさが滲む。
独壇場のように話していたのに、必要な時はきちんと聞き役になる。
ずるいくらいに、安心させてくれる。
ただ、ときおり彼の声に熱が混じる。
「……誰と一緒に食事してたの?」
何気ない会話の中で、不意に低くなるその響き。
「え? ただの同僚と」
「ふ〜ん……」
軽い調子を装いながら、ほんの少し沈黙が落ちる。
独占欲を隠しきれずに顔を出した瞬間。
でも、それを子供っぽいと思われたくなくて、わざと明るい声で塗り直す。
「俺さ、会えないと余計に考えちゃうんだよね。○○さん、俺のこと忘れたりしないかな〜って」
──余裕のなさが透ける本音。
それを子供っぽく聞かせまいとする必死さが、胸に痛いほど響いた。
一方で、日本に残る家族の空気は妙に現実的だった。
母はあっけらかんと電話口で言う。
「姉さん女房なんて今どき普通よ? 天童くん、いい人そうだし。早く落ち着けばいいじゃない」
父も珍しく真面目に頷く。
「海外にいるならなおさら、しっかり形にしておいた方が安心だ」
そして晴斗は……会うたびに顔をしかめる。
「姉ちゃんさ、天童とまだ続いてんの?」
茶化すように言いながらも、目は拗ねた子供のようだった。
「……別にいいけどさ。」
──そう言って少し口を尖らせる姿は、まるで取り合いをしているようで、可笑しくて切なくなる。
天童くんにそれを伝えると、電話越しに柔らかく笑う声が返ってきた。
「晴斗、ほんとシスコンだね〜。でも俺、そういうの嫌いじゃないな。大事にされてる証拠だもん」
そして、少し真剣な声音で続ける。
「でもね、俺だって負けないくらい大事にしてるから」
その言葉に胸が熱くなる。
独占欲と優しさ、どちらも彼らしく混ざり合って、距離を越えて私を縛っていた。
時差もあるのに、彼からの連絡は欠かさず届く。
受話器の向こうで、彼の声は軽やかに弾む。
「今日ね、試作用のガナッシュ作っててさ〜。思ったより甘めにしたら、『お前は恋人に食べさせるつもりで作ったのか』って笑われちゃった」
「新しいカカオ豆、店に入ったんだよ。香りがすごくフルーティでね、今度帰ったら絶対食べさせたいな〜」
「店の常連さんにね、日本人のご夫婦がいるんだ。日本語ちょっと話せるから、なんか不思議な気分になるんだよ〜」
一方的に話すのは昔と同じ。
だけど彼の言葉の端々から、慣れない土地で頑張っている姿が伝わってきた。
こちらが「うん」「へえ」と相槌を打つだけでも、彼は楽しそうに話し続ける。
──それでも、ふと私が黙り込んだ瞬間には必ず声色が変わる。
「……今、考えごとした?」
「え?」
「声がちょっと違った。話したいことあるんじゃないかな〜って思った」
──見透かされている。
「……うん、ちょっと疲れたの」
「そっか。聞けてよかった。言わなかったら、俺きっと気づかないフリしちゃうとこだったな〜」
軽く笑うけど、声音には優しさが滲む。
独壇場のように話していたのに、必要な時はきちんと聞き役になる。
ずるいくらいに、安心させてくれる。
ただ、ときおり彼の声に熱が混じる。
「……誰と一緒に食事してたの?」
何気ない会話の中で、不意に低くなるその響き。
「え? ただの同僚と」
「ふ〜ん……」
軽い調子を装いながら、ほんの少し沈黙が落ちる。
独占欲を隠しきれずに顔を出した瞬間。
でも、それを子供っぽいと思われたくなくて、わざと明るい声で塗り直す。
「俺さ、会えないと余計に考えちゃうんだよね。○○さん、俺のこと忘れたりしないかな〜って」
──余裕のなさが透ける本音。
それを子供っぽく聞かせまいとする必死さが、胸に痛いほど響いた。
一方で、日本に残る家族の空気は妙に現実的だった。
母はあっけらかんと電話口で言う。
「姉さん女房なんて今どき普通よ? 天童くん、いい人そうだし。早く落ち着けばいいじゃない」
父も珍しく真面目に頷く。
「海外にいるならなおさら、しっかり形にしておいた方が安心だ」
そして晴斗は……会うたびに顔をしかめる。
「姉ちゃんさ、天童とまだ続いてんの?」
茶化すように言いながらも、目は拗ねた子供のようだった。
「……別にいいけどさ。」
──そう言って少し口を尖らせる姿は、まるで取り合いをしているようで、可笑しくて切なくなる。
天童くんにそれを伝えると、電話越しに柔らかく笑う声が返ってきた。
「晴斗、ほんとシスコンだね〜。でも俺、そういうの嫌いじゃないな。大事にされてる証拠だもん」
そして、少し真剣な声音で続ける。
「でもね、俺だって負けないくらい大事にしてるから」
その言葉に胸が熱くなる。
独占欲と優しさ、どちらも彼らしく混ざり合って、距離を越えて私を縛っていた。
