1 出会い
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携帯を返してもらえたのか、その後はまた音沙汰なし。
けれど、後輩に振り回されながらも楽しそうにしている弟の姿が目に浮かんで、私はなぜだか安心してしまった。
インターハイは、結局応援には行けなかった。
仕事も立て込み、気づけば大会が始まっていた。連絡ひとつ入れていないのは、気分が高まっている弟に余計なことをしたくなかったから。
開催地は沖縄。現地に足を運んでいる母から「雰囲気すごいわよ」と電話がかかってきて、試合結果を聞かされた。
優勝までは届かなかったけれど、堂々とした戦いぶりで、春高に向けてさらに期待できそうだという。
十も年の離れた弟なんて、普通は気にも留めないのかもしれない。
けれど私はどうしても構いたくなってしまう。
友人に話せば「それ、ブラコンだよね」と笑われるし、逆に弟の友達からは「晴斗はシスコンだな」なんて認定を受けているらしい。
どちらにしても、そう言われると笑ってしまう。
***
大会が終わってしばらく。
弟とは相変わらず、たまにメールを交わしていた。
けれど、もっと頻繁に連絡を寄越すのは──なぜか弟の携帯からの天童くんの方だった。
『ねえねえ、今日の練習で俺、また勝っちゃったんだよ!』
『褒めて〜!』
明るい声が受話器越しに弾む。
私は決まって「すごいね」と答える。試合でのことなのか、練習でのことなのか、細かい内容までは分からないけれど、勝負に勝ったことを楽しそうに話す彼の調子に、自然と笑みがこぼれる。
一方的に話し続ける天童くん。
時間が区切られているのか、しばらくすると必ず弟の声が割って入る。
『もう時間だろ、返せ!』
『え〜、あとちょっと〜!』
そんなやり取りの末に、プツンと切れるのがいつもの流れになっていた。
電話の内容はほとんど天童くんの独壇場。けれど、不思議と楽しくて、通話のあとには胸の奥が軽くなるような気がする。
春高予選まであと三ヶ月。
晴斗も天童くんも、きっともっと強くなっていくのだろう。
私はその背中を、遠くからでも応援したいと思った。
10月。
空気が少しずつ冷たくなってきた頃、春高予選が始まった。体育館に入ると、張り詰めた緊張感と汗の匂いに包まれる。
応援席には父兄や在校生が集まり、白鳥沢の名を背負った選手たちが入場してくる姿に、胸の奥が熱くなる。
コートに立つ弟──晴斗は、インターハイを経てさらに逞しく見えた。
堂々とした立ち姿は、中学時代に反抗ばかりしていた頃からは想像できない。ほんの何年かで、こんなにも成長するものなのかと感慨深くなる。
「……相変わらず真剣な顔してるなあ」
思わず小さく呟き、応援席からその姿を追う。
試合が終わり、選手たちが整列して体育館を後にする頃。
私は少し離れた場所で弟を探し、他の選手や父兄の邪魔にならないように待っていた。
「──あれ、また来てたんだ?」
不意にかけられた声に振り向くと、そこに立っていたのは天童くんだった。
練習着姿のまま、にこにこと笑っている。
「ああ、天童くん。……弟に会いにね」
「やっぱり〜。なんか、晴斗のことめっちゃ見てるな〜って思ったら」
彼はからかうように首を傾ける。
弟の後輩として見慣れた顔。けれど、相変わらずどういうつもりなのか掴めない笑みを浮かべていた。
「そりゃそうよ。お姉ちゃんだもの」
軽く肩を竦めると、天童くんはふふっと笑った。
「……やっぱり仲いいんだね。晴斗くん、普段はあんまり口にしないけど。」
「まあね。十も離れてるから、つい世話焼きたくなっちゃうんだよね」
そう答えると、天童くんは「へえ〜」と妙に興味深そうな顔をした。
揶揄っているのか、それとも本当に感心しているのか分からない。
やがて晴斗が友人たちと談笑しながらやってきた。
私に気づくと、少し驚いたように目を見開き、そしてどこか照れくさそうに視線を逸らす。
「晴斗、頑張ってたね」
「……別に」
「はいはい。寮に入ってから、ちょっとは丸くなったんじゃない?」
軽く揶揄うと、周囲の部員がクスクスと笑った。
天童くんも隣で「確かに〜、前よりツンツンしてないかもね」なんて調子を合わせる。
「うるさい、黙れ」
弟の短い返しに、思わず笑ってしまった。
帰り支度に向かう選手たちを見送りながら、私は胸の奥で「まだまだこの子たちは強くなるんだろうな」と思った。
春高本戦は年が明けてから。
きっと、その舞台でまた新しい顔を見せてくれるに違いない。
その予感に、自然と頬が緩んだ。
けれど、後輩に振り回されながらも楽しそうにしている弟の姿が目に浮かんで、私はなぜだか安心してしまった。
インターハイは、結局応援には行けなかった。
仕事も立て込み、気づけば大会が始まっていた。連絡ひとつ入れていないのは、気分が高まっている弟に余計なことをしたくなかったから。
開催地は沖縄。現地に足を運んでいる母から「雰囲気すごいわよ」と電話がかかってきて、試合結果を聞かされた。
優勝までは届かなかったけれど、堂々とした戦いぶりで、春高に向けてさらに期待できそうだという。
十も年の離れた弟なんて、普通は気にも留めないのかもしれない。
けれど私はどうしても構いたくなってしまう。
友人に話せば「それ、ブラコンだよね」と笑われるし、逆に弟の友達からは「晴斗はシスコンだな」なんて認定を受けているらしい。
どちらにしても、そう言われると笑ってしまう。
***
大会が終わってしばらく。
弟とは相変わらず、たまにメールを交わしていた。
けれど、もっと頻繁に連絡を寄越すのは──なぜか弟の携帯からの天童くんの方だった。
『ねえねえ、今日の練習で俺、また勝っちゃったんだよ!』
『褒めて〜!』
明るい声が受話器越しに弾む。
私は決まって「すごいね」と答える。試合でのことなのか、練習でのことなのか、細かい内容までは分からないけれど、勝負に勝ったことを楽しそうに話す彼の調子に、自然と笑みがこぼれる。
一方的に話し続ける天童くん。
時間が区切られているのか、しばらくすると必ず弟の声が割って入る。
『もう時間だろ、返せ!』
『え〜、あとちょっと〜!』
そんなやり取りの末に、プツンと切れるのがいつもの流れになっていた。
電話の内容はほとんど天童くんの独壇場。けれど、不思議と楽しくて、通話のあとには胸の奥が軽くなるような気がする。
春高予選まであと三ヶ月。
晴斗も天童くんも、きっともっと強くなっていくのだろう。
私はその背中を、遠くからでも応援したいと思った。
10月。
空気が少しずつ冷たくなってきた頃、春高予選が始まった。体育館に入ると、張り詰めた緊張感と汗の匂いに包まれる。
応援席には父兄や在校生が集まり、白鳥沢の名を背負った選手たちが入場してくる姿に、胸の奥が熱くなる。
コートに立つ弟──晴斗は、インターハイを経てさらに逞しく見えた。
堂々とした立ち姿は、中学時代に反抗ばかりしていた頃からは想像できない。ほんの何年かで、こんなにも成長するものなのかと感慨深くなる。
「……相変わらず真剣な顔してるなあ」
思わず小さく呟き、応援席からその姿を追う。
試合が終わり、選手たちが整列して体育館を後にする頃。
私は少し離れた場所で弟を探し、他の選手や父兄の邪魔にならないように待っていた。
「──あれ、また来てたんだ?」
不意にかけられた声に振り向くと、そこに立っていたのは天童くんだった。
練習着姿のまま、にこにこと笑っている。
「ああ、天童くん。……弟に会いにね」
「やっぱり〜。なんか、晴斗のことめっちゃ見てるな〜って思ったら」
彼はからかうように首を傾ける。
弟の後輩として見慣れた顔。けれど、相変わらずどういうつもりなのか掴めない笑みを浮かべていた。
「そりゃそうよ。お姉ちゃんだもの」
軽く肩を竦めると、天童くんはふふっと笑った。
「……やっぱり仲いいんだね。晴斗くん、普段はあんまり口にしないけど。」
「まあね。十も離れてるから、つい世話焼きたくなっちゃうんだよね」
そう答えると、天童くんは「へえ〜」と妙に興味深そうな顔をした。
揶揄っているのか、それとも本当に感心しているのか分からない。
やがて晴斗が友人たちと談笑しながらやってきた。
私に気づくと、少し驚いたように目を見開き、そしてどこか照れくさそうに視線を逸らす。
「晴斗、頑張ってたね」
「……別に」
「はいはい。寮に入ってから、ちょっとは丸くなったんじゃない?」
軽く揶揄うと、周囲の部員がクスクスと笑った。
天童くんも隣で「確かに〜、前よりツンツンしてないかもね」なんて調子を合わせる。
「うるさい、黙れ」
弟の短い返しに、思わず笑ってしまった。
帰り支度に向かう選手たちを見送りながら、私は胸の奥で「まだまだこの子たちは強くなるんだろうな」と思った。
春高本戦は年が明けてから。
きっと、その舞台でまた新しい顔を見せてくれるに違いない。
その予感に、自然と頬が緩んだ。
