6 変わる気持ち
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数日後。
天童くんと「また会う」と約束してから、正直少し後悔していた。夜のバーでの空気を思い出すたびに、胸がざわつく。年齢差や立場、未来の可能性──考えれば考えるほど、自分が「引くべきだ」と思ってしまう。
それでも当日、待ち合わせ場所に向かう足は止まらなかった。昼間なら大丈夫。明るい場所なら、きっと。
待ち合わせのカフェに着くと、すでに窓際に座っていた天童くんが、すぐ気づいて手を振った。
ラフなシャツ姿。フォーマルだった披露宴の日よりもずっと柔らかい雰囲気で、でも隠せない存在感がある。
「来てくれてありがと〜。なんだか新鮮だね」
「うん……」
気恥ずかしくて、まともに目を合わせられない。
軽く食事をとりながら、彼はヨーロッパでの仕事の話や、最近のチョコレートの流行について穏やかに語った。
私は相槌を打ちながら、少しずつ肩の力が抜けていくのを感じる。
──こうしていると、本当にただの友人みたいに自然で。
けれど、不意に。
「ねぇ、俺のこと、もう"子ども"には見えないでしょ?」
カップを置いた天童くんが、目を細めて問いかけてきた。
一瞬、呼吸が止まった。
図星を突かれたように、何も言えなくなる。
「……だって、私……」
ようやく絞り出した声は、震えていた。
「天童くんはこれから先だって色んな人と出会えるし、もっと素敵な人がいるでしょ。わざわざ私なんか……」
必死に言い訳を並べているのが自分でも分かった。
そうしなければ、この胸のざわめきを抑えきれないから。
けれど彼は首を横に振り、笑った。
「ん〜、それがね〜。……俺にとって"素敵な人"って、もうとっくに決まってるんだよ」
軽い調子の言葉なのに、目だけは冗談を許してくれない。
熱を帯びた視線が、逃げ場を塞いでいく。
「……でも」
「でも、じゃなくて。俺はね、○○さんが自分で思ってるほど"年齢差"なんて気にしてないんだ。むしろ、○○さんだからいいんだよ」
静かに、けれど確かに距離を詰めてくる。
テーブルの上に置かれた私の手に、彼の指先が触れる。ほんの一瞬、それだけで胸の奥が大きく揺れた。
慌てて引こうとした手を、強くは掴まない。
ただ、「逃げてもいいよ〜」とでも言うように、柔らかな圧だけを残して。
──その優しさが、余計に苦しかった。
気付いてしまう。
私がもう、彼を"弟の後輩"、"年の離れた友達"としては見られなくなっていることを。
大人になった彼に触れられて、心が揺れないわけがない。
けれど、言葉にはできなかった。
口にしたら、もう戻れなくなる気がしたから。
彼はそれ以上は追わず、いつものように軽く話題を変えてくれた。
けれどテーブルの下でまだ残っている指先の熱が、ずっと心臓を掴んで離さなかった。
天童くんと「また会う」と約束してから、正直少し後悔していた。夜のバーでの空気を思い出すたびに、胸がざわつく。年齢差や立場、未来の可能性──考えれば考えるほど、自分が「引くべきだ」と思ってしまう。
それでも当日、待ち合わせ場所に向かう足は止まらなかった。昼間なら大丈夫。明るい場所なら、きっと。
待ち合わせのカフェに着くと、すでに窓際に座っていた天童くんが、すぐ気づいて手を振った。
ラフなシャツ姿。フォーマルだった披露宴の日よりもずっと柔らかい雰囲気で、でも隠せない存在感がある。
「来てくれてありがと〜。なんだか新鮮だね」
「うん……」
気恥ずかしくて、まともに目を合わせられない。
軽く食事をとりながら、彼はヨーロッパでの仕事の話や、最近のチョコレートの流行について穏やかに語った。
私は相槌を打ちながら、少しずつ肩の力が抜けていくのを感じる。
──こうしていると、本当にただの友人みたいに自然で。
けれど、不意に。
「ねぇ、俺のこと、もう"子ども"には見えないでしょ?」
カップを置いた天童くんが、目を細めて問いかけてきた。
一瞬、呼吸が止まった。
図星を突かれたように、何も言えなくなる。
「……だって、私……」
ようやく絞り出した声は、震えていた。
「天童くんはこれから先だって色んな人と出会えるし、もっと素敵な人がいるでしょ。わざわざ私なんか……」
必死に言い訳を並べているのが自分でも分かった。
そうしなければ、この胸のざわめきを抑えきれないから。
けれど彼は首を横に振り、笑った。
「ん〜、それがね〜。……俺にとって"素敵な人"って、もうとっくに決まってるんだよ」
軽い調子の言葉なのに、目だけは冗談を許してくれない。
熱を帯びた視線が、逃げ場を塞いでいく。
「……でも」
「でも、じゃなくて。俺はね、○○さんが自分で思ってるほど"年齢差"なんて気にしてないんだ。むしろ、○○さんだからいいんだよ」
静かに、けれど確かに距離を詰めてくる。
テーブルの上に置かれた私の手に、彼の指先が触れる。ほんの一瞬、それだけで胸の奥が大きく揺れた。
慌てて引こうとした手を、強くは掴まない。
ただ、「逃げてもいいよ〜」とでも言うように、柔らかな圧だけを残して。
──その優しさが、余計に苦しかった。
気付いてしまう。
私がもう、彼を"弟の後輩"、"年の離れた友達"としては見られなくなっていることを。
大人になった彼に触れられて、心が揺れないわけがない。
けれど、言葉にはできなかった。
口にしたら、もう戻れなくなる気がしたから。
彼はそれ以上は追わず、いつものように軽く話題を変えてくれた。
けれどテーブルの下でまだ残っている指先の熱が、ずっと心臓を掴んで離さなかった。
