5 結婚式後
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グラスの氷が小さく音を立てる。
私はどうにか冷静を装おうと、指先でカウンターをなぞりながら笑った。
「……やめようよ。天童くんにはもっといい人いるでしょ。 私なんてもうアラフォーだし……」
無理に軽い調子を繕っても、自分の声が少し震えているのは分かった。
「それに、君ならモテるでしょ? 世界で有名なショコラティエなんて肩書き、いくらでも人が寄ってくるじゃない」
視線を逸らし、必死に「私じゃない理由」を並べ立てる。
すると隣の彼が、ゆるやかに笑った。
「……へぇ〜。それで俺が"○○さん以外にしときます"って言ったら、納得するの?」
「……っ」
思わず顔を向けると、柔らかく目を細めた彼がこちらを見ていた。
その声音には、冗談めいた軽さの裏にどうしようもない熱が潜んでいる。
「俺さ、他の誰かと一緒に笑ってても何も思わないのに……○○さんに一緒にいて話すとだけでも、ずっと心に残るんだよ。 モテるとか年齢とか、そういうの、俺にはどうでもよくて」
静かに、けれど逃げ場を塞ぐように言葉が重なる。
「高校の時から決めてるんだよ。俺が好きなのは"○○さん"だけ。 会えなかった時間があっても、気持ちは変わらない」
彼は少しだけ身を屈め、私の目線を正面から絡め取る。
「だから……冗談だなんて、二度と言わないでほしいな」
心臓が痛いくらいに跳ねる。
返事をしようと口を開いたけれど、言葉が出てこない。
代わりに、彼はふっと笑みを緩めてグラスを傾けた。
「ま、今すぐ答えなんていらないけどね〜。
でも、俺は逃げないから。覚えててほしいな」
軽く流すようでいて、一切引かない。
その柔らかさの中に潜む決意が、胸の奥にじんわりと広がっていった。
グラスに残った琥珀色の液体を見つめながら、私は何度も言葉を探しては、喉の奥で飲み込んでしまった。
「……っ、でも……」
それでも口をついて出た声は頼りなくて、自分でも情けなく思う。
「私なんかじゃ……きっと、すぐに後悔するよ」
そう呟いた瞬間、横から軽い笑い声が落ちた。
「ふ〜ん、○○さんってさ、自分のこと低く見すぎなんだよね」
目を上げると、彼は相変わらずにこやかで。
けれど、その瞳だけは冗談を許さない色をしていた。
「俺が"後悔しない"って分かってるから言ってるんだよ。
会えなかった時間の中でも、ずっと変わらなかったんだから」
「……」
また心臓が跳ねる。
なにか返さなくちゃいけないのに、言葉が見つからない。
そんな私を見て、彼はゆっくりグラスを置いた。
「ねぇ……逃げなくていいよ」
その声は、驚くほど静かで優しい。
でも逃げ場を塞ぐように、しっかりと私の耳に残った。
沈黙が流れる。
カウンターに置かれた照明の明かりが、グラス越しに揺れているのをぼんやりと眺めてしまう。
──どうして、こんなに彼は大人になってしまったんだろう。高校生だった天童くんのあの軽さに守られていた頃が懐かしい。今の彼は、あの頃の軽やかさを残しながら、それ以上に強くなっている。
「……」
気づけば、指先が震えていた。
するとすぐ隣から、そっとナプキンが差し出される。
「ほら、落ち着いて。……俺は、急かさないから」
──急かさない。
でも、決して引かない。
その矛盾めいた優しさが胸を締めつけて、言葉にできない熱が喉にせり上がってきた。
「……でもね」
不意に、低く柔らかい声が落ちる。
「引く気もないんだよ。ずっと大事にしたいって思ってるから」
にこやかな笑顔のまま、さらりと告げられる。
その調子があまりに自然で、かえって逃げ場を失った気がした。
必死に何か言おうとするけれど、言葉がまとまらない。
「俺にとっては、○○さん以外にいないよ。モテるとか、有名とか……そういうのは全部、関係ないんだ」
言葉の端に冗談めかした調子を残しながらも、視線だけは逸らさない。
柔らかさの中に、確かな熱が滲んでいた。
「……」
胸が詰まる。
否定しなきゃ、と思うのに。
今までのように「冗談でしょ」と笑い飛ばせばいいのに。
なのに、声が出なかった。
代わりに、指先がグラスを強く握りしめる。
氷がかすかに揺れた。
「……ずるい」
やっと出たのは、そんな小さな言葉だけ。
すると、彼は小さく目を細めた。
「ずるいのは、○○さんの方だよ」
ふっと笑って、けれど視線は真剣なまま。
「こんなに揺れてるの、俺には分かっちゃうんだから」
その一言で、心臓が跳ねた。
誤魔化そうとした心の揺れを、まるで見透かされたみたいに。
──逃げなきゃ。
そう思うのに、なぜか席を立つことはできなかった。
「……今日は、ここまでにしよっか」
グラスを置きながら、天童くんはふっと肩の力を抜いたように笑った。
「え?」と戸惑う私を横目に、彼は続ける。
「これ以上はね〜、ゴネてるガキみたいになっちゃうからさ。俺、そういうのは嫌なんだ」
そう言ってすっと立ち上がる姿は、軽い冗談の調子に見せながらも、しっかりと一線を引いているようで。
それがかえって、大人びて見えた。
私はどうにか冷静を装おうと、指先でカウンターをなぞりながら笑った。
「……やめようよ。天童くんにはもっといい人いるでしょ。 私なんてもうアラフォーだし……」
無理に軽い調子を繕っても、自分の声が少し震えているのは分かった。
「それに、君ならモテるでしょ? 世界で有名なショコラティエなんて肩書き、いくらでも人が寄ってくるじゃない」
視線を逸らし、必死に「私じゃない理由」を並べ立てる。
すると隣の彼が、ゆるやかに笑った。
「……へぇ〜。それで俺が"○○さん以外にしときます"って言ったら、納得するの?」
「……っ」
思わず顔を向けると、柔らかく目を細めた彼がこちらを見ていた。
その声音には、冗談めいた軽さの裏にどうしようもない熱が潜んでいる。
「俺さ、他の誰かと一緒に笑ってても何も思わないのに……○○さんに一緒にいて話すとだけでも、ずっと心に残るんだよ。 モテるとか年齢とか、そういうの、俺にはどうでもよくて」
静かに、けれど逃げ場を塞ぐように言葉が重なる。
「高校の時から決めてるんだよ。俺が好きなのは"○○さん"だけ。 会えなかった時間があっても、気持ちは変わらない」
彼は少しだけ身を屈め、私の目線を正面から絡め取る。
「だから……冗談だなんて、二度と言わないでほしいな」
心臓が痛いくらいに跳ねる。
返事をしようと口を開いたけれど、言葉が出てこない。
代わりに、彼はふっと笑みを緩めてグラスを傾けた。
「ま、今すぐ答えなんていらないけどね〜。
でも、俺は逃げないから。覚えててほしいな」
軽く流すようでいて、一切引かない。
その柔らかさの中に潜む決意が、胸の奥にじんわりと広がっていった。
グラスに残った琥珀色の液体を見つめながら、私は何度も言葉を探しては、喉の奥で飲み込んでしまった。
「……っ、でも……」
それでも口をついて出た声は頼りなくて、自分でも情けなく思う。
「私なんかじゃ……きっと、すぐに後悔するよ」
そう呟いた瞬間、横から軽い笑い声が落ちた。
「ふ〜ん、○○さんってさ、自分のこと低く見すぎなんだよね」
目を上げると、彼は相変わらずにこやかで。
けれど、その瞳だけは冗談を許さない色をしていた。
「俺が"後悔しない"って分かってるから言ってるんだよ。
会えなかった時間の中でも、ずっと変わらなかったんだから」
「……」
また心臓が跳ねる。
なにか返さなくちゃいけないのに、言葉が見つからない。
そんな私を見て、彼はゆっくりグラスを置いた。
「ねぇ……逃げなくていいよ」
その声は、驚くほど静かで優しい。
でも逃げ場を塞ぐように、しっかりと私の耳に残った。
沈黙が流れる。
カウンターに置かれた照明の明かりが、グラス越しに揺れているのをぼんやりと眺めてしまう。
──どうして、こんなに彼は大人になってしまったんだろう。高校生だった天童くんのあの軽さに守られていた頃が懐かしい。今の彼は、あの頃の軽やかさを残しながら、それ以上に強くなっている。
「……」
気づけば、指先が震えていた。
するとすぐ隣から、そっとナプキンが差し出される。
「ほら、落ち着いて。……俺は、急かさないから」
──急かさない。
でも、決して引かない。
その矛盾めいた優しさが胸を締めつけて、言葉にできない熱が喉にせり上がってきた。
「……でもね」
不意に、低く柔らかい声が落ちる。
「引く気もないんだよ。ずっと大事にしたいって思ってるから」
にこやかな笑顔のまま、さらりと告げられる。
その調子があまりに自然で、かえって逃げ場を失った気がした。
必死に何か言おうとするけれど、言葉がまとまらない。
「俺にとっては、○○さん以外にいないよ。モテるとか、有名とか……そういうのは全部、関係ないんだ」
言葉の端に冗談めかした調子を残しながらも、視線だけは逸らさない。
柔らかさの中に、確かな熱が滲んでいた。
「……」
胸が詰まる。
否定しなきゃ、と思うのに。
今までのように「冗談でしょ」と笑い飛ばせばいいのに。
なのに、声が出なかった。
代わりに、指先がグラスを強く握りしめる。
氷がかすかに揺れた。
「……ずるい」
やっと出たのは、そんな小さな言葉だけ。
すると、彼は小さく目を細めた。
「ずるいのは、○○さんの方だよ」
ふっと笑って、けれど視線は真剣なまま。
「こんなに揺れてるの、俺には分かっちゃうんだから」
その一言で、心臓が跳ねた。
誤魔化そうとした心の揺れを、まるで見透かされたみたいに。
──逃げなきゃ。
そう思うのに、なぜか席を立つことはできなかった。
「……今日は、ここまでにしよっか」
グラスを置きながら、天童くんはふっと肩の力を抜いたように笑った。
「え?」と戸惑う私を横目に、彼は続ける。
「これ以上はね〜、ゴネてるガキみたいになっちゃうからさ。俺、そういうのは嫌なんだ」
そう言ってすっと立ち上がる姿は、軽い冗談の調子に見せながらも、しっかりと一線を引いているようで。
それがかえって、大人びて見えた。
