4 弟の結婚式
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大人の月日は経つのが早い。
気づけば、十歳下の弟・晴斗は大学を卒業して、社会人のバレーボールプレーヤーとなった。彼が新人選手と呼ばれなる頃、晴斗が婚約した。
「お姉ちゃん先ごめんねー」
にやけながらそう言う弟に、思わずため息が出る。
婚約に至るまで、夜中の電話や愚痴、未来の不安まで、ずいぶん相談に付き合わされてきたのに──そのことは彼の中ではもう"なかったこと"になっているらしい。
さらに追い打ちをかけるように、彼は引き出物の相談をしながらこう言った。
「チョコにしようと思うんだ。……天童の」
「……天童くん? でも、彼は日本にいないでしょ」
思わず聞き返すと曖昧な返事が返ってきた。
そんな折、テレビの画面に映し出された人物に目を奪われた。
──『情熱大陸』の特集だった。
赤髪の、背の高い彼。
少し落ち着いた表情で異国の自分のお店をもち、チョコレートについて語って、あの柔らかな笑みを浮かべていた。
「……本当に、フランス行っちゃったんだ」
思わず吹き出す。
言葉だけだと思っていた夢を、もう現実にしてしまっている。あっけなく日本を飛び出し、そしてもう世界で活躍しているなんて。
羨ましさよりも、誇らしい気持ちが胸に広がった。
私にはもう接点なんてないけれど──それでも、彼が笑っている姿を見られるのは嬉しかった。
思わず弟に電話をかける。
「ねえ、天童くん見た? テレビに出てたよ」
「……ああ」
それだけの返事に、苦笑が漏れる。
「すごいね、あんな風に活躍してて」
「……ああ」
素っ気なさすぎて、逆に気になった。
「……天童くんと、今でも連絡取ってるの?」
問いかけた瞬間、受話器越しに沈黙が落ちた。
「……」
「引き出物にするのは、さすがに無理なんじゃない?」
軽く笑ってごまかすと、弟は途端に声を荒げた。
「あいつ、本当にしつこいんだよ!」
「え?」
どういう意味か聞くと、彼は不機嫌そうに吐き捨てる。
「フランスに行く前に、姉ちゃんと二人きりで会ったろ。それ、俺はずっと許してないんだよ」
思わず目を瞬かせる。
「……そんなことで?」
「そんなこと、じゃない! 俺が卒業してからも連絡取ってただろ! 二人きりで出かけてたの知ってんだからな! だから天童に言ったんだよ、"五年は連絡すんな"って!」
電話口での勢いに、つい笑い声がこぼれてしまった。
「なにそれ……やっぱりシスコンじゃん」
「うっせ!」
子どもの頃から、周りにそうからかわれていた弟。
でも本人はずっと否定してきた。
けれどこうして怒鳴り散らす姿は、どう見てもシスコン以外の何物でもない。
「……どうせ、まだ連絡取ってるんだろ?」
疑いの声に、首を横に振る。
「取ってないよ。テレビで彼の活躍を知ったくらい」
それなのに、受話器越しの弟はなぜか口ごもった。
「……引き出物、天童くんに頼むんじゃないの?」
探りを入れると、さらに沈黙が長引いた。
「……どうせ近いうち日本に来るだろ。会えばいいじゃん」
そう一方的に言い残して、弟は電話を切った。
受話器を置いたあと、胸の奥にざわりと波が立つ。
会えばいい、なんて──そんな簡単に言わないでよ。
気づけば、十歳下の弟・晴斗は大学を卒業して、社会人のバレーボールプレーヤーとなった。彼が新人選手と呼ばれなる頃、晴斗が婚約した。
「お姉ちゃん先ごめんねー」
にやけながらそう言う弟に、思わずため息が出る。
婚約に至るまで、夜中の電話や愚痴、未来の不安まで、ずいぶん相談に付き合わされてきたのに──そのことは彼の中ではもう"なかったこと"になっているらしい。
さらに追い打ちをかけるように、彼は引き出物の相談をしながらこう言った。
「チョコにしようと思うんだ。……天童の」
「……天童くん? でも、彼は日本にいないでしょ」
思わず聞き返すと曖昧な返事が返ってきた。
そんな折、テレビの画面に映し出された人物に目を奪われた。
──『情熱大陸』の特集だった。
赤髪の、背の高い彼。
少し落ち着いた表情で異国の自分のお店をもち、チョコレートについて語って、あの柔らかな笑みを浮かべていた。
「……本当に、フランス行っちゃったんだ」
思わず吹き出す。
言葉だけだと思っていた夢を、もう現実にしてしまっている。あっけなく日本を飛び出し、そしてもう世界で活躍しているなんて。
羨ましさよりも、誇らしい気持ちが胸に広がった。
私にはもう接点なんてないけれど──それでも、彼が笑っている姿を見られるのは嬉しかった。
思わず弟に電話をかける。
「ねえ、天童くん見た? テレビに出てたよ」
「……ああ」
それだけの返事に、苦笑が漏れる。
「すごいね、あんな風に活躍してて」
「……ああ」
素っ気なさすぎて、逆に気になった。
「……天童くんと、今でも連絡取ってるの?」
問いかけた瞬間、受話器越しに沈黙が落ちた。
「……」
「引き出物にするのは、さすがに無理なんじゃない?」
軽く笑ってごまかすと、弟は途端に声を荒げた。
「あいつ、本当にしつこいんだよ!」
「え?」
どういう意味か聞くと、彼は不機嫌そうに吐き捨てる。
「フランスに行く前に、姉ちゃんと二人きりで会ったろ。それ、俺はずっと許してないんだよ」
思わず目を瞬かせる。
「……そんなことで?」
「そんなこと、じゃない! 俺が卒業してからも連絡取ってただろ! 二人きりで出かけてたの知ってんだからな! だから天童に言ったんだよ、"五年は連絡すんな"って!」
電話口での勢いに、つい笑い声がこぼれてしまった。
「なにそれ……やっぱりシスコンじゃん」
「うっせ!」
子どもの頃から、周りにそうからかわれていた弟。
でも本人はずっと否定してきた。
けれどこうして怒鳴り散らす姿は、どう見てもシスコン以外の何物でもない。
「……どうせ、まだ連絡取ってるんだろ?」
疑いの声に、首を横に振る。
「取ってないよ。テレビで彼の活躍を知ったくらい」
それなのに、受話器越しの弟はなぜか口ごもった。
「……引き出物、天童くんに頼むんじゃないの?」
探りを入れると、さらに沈黙が長引いた。
「……どうせ近いうち日本に来るだろ。会えばいいじゃん」
そう一方的に言い残して、弟は電話を切った。
受話器を置いたあと、胸の奥にざわりと波が立つ。
会えばいい、なんて──そんな簡単に言わないでよ。
