（選んだね）

彼女がショーケースの真ん中のチョコに視線を落とした瞬間、
内心でふっと笑みを浮かべた。

ちゃんと、届いてた。

言葉も、味も、紙に書かれた手紙の温度も。
ぜんぶ計算して、ぜんぶ投げた。

そして、今──
その反応が、返ってきた。

「"ちょっと君っぽい"って言ってよかったな〜」

そんなふうに思いながら、奥の厨房に戻る。

冷静に見えて、実は心はかなり揺れていた。

手紙を読んだときの感動は、本物だった。
でも、その"嬉しさ"は同時に、"彼女を逃したくない"という強烈な欲にも変わった。

これから、彼女が何を選び、何を言い、何を感じていくのか。
そのすべてを俺の中で組み立て直して、
"俺のチョコレート"として完成させていきたい。

そのためには、もっと彼女を知る必要がある。

でも、焦らない。

逃げられないように、
疑われないように、
でも確実に"好きなチョコ"のように馴染ませていく。

次の仕掛けは──
「お礼」に託けた、ある"お誘い"。

食事でも、お茶でも、そういうのじゃない。
もっと自然で、断りづらい形で。

たとえば、
「試作品の撮影のモデル、してみない？」
「チョコの背景に使う手元のカットが欲しくて〜」
「もちろん顔出しなしでいいよ〜」
「ほら、君の感想がヒントになったチョコだから、"その手"で持ってもらうのが一番しっくりくるんだよね〜」

そのくらいなら、罪悪感も警戒心も生まれない。
むしろ"役に立てる"という優しさが、彼女を繋ぎ止める鍵になる。

（ねぇ、○○ちゃん。俺、君に感謝してるんだよ？）

本気で、そう思っている。
でもそれは、"感謝"という名のリード。

甘さの中に苦味を、
苦味の奥に、とろけるような支配を。

チョコと同じ。
彼女がそれに気づく頃には、もうきっと──戻れない。