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あの日から、何度か彼のことを思い出していた。
あのショコラティエの彼──天童覚。
有名人に会った、というだけなら、ここまで心に残らなかったと思う。
名前も知らなかった相手に試作品を渡され、手紙を書いてしまった自分もおかしかった。
でも、確かに何か引っかかるものがあった。
次に店に行くとき、彼がまたいるとは限らない。
そもそも手紙なんて渡すつもりじゃなかったし、
もしあのとき渡していなかったら、たぶんもう行かなかったと思う。
だけど──
「また来てくれたんだ〜、嬉しいなぁ。ちゃんと食べてくれた?」
あっさりと、いつもの調子で声をかけられたとき、思わず笑ってしまった。
この人、こういう感じなんだな、と。
「……食べました。あの……よくわからなかったですけど、美味しかったです」
「うんうん、"わからなさ"を味わってくれるのって、俺にとって最高の褒め言葉〜」
ひとつひとつの言葉は軽いのに、ちゃんと拾ってくれる。
まっすぐな視線に、悪意も下心も感じない。
なのに──
ほんの少しだけ、胸の奥がざわついた。
(……なんだろう、この感じ)
言葉や態度に違和感があるわけじゃない。
でも、どこか"見透かされている"ような妙な緊張感があった。
彼はふとショーケースの端を指さして、言った。
「そうそう、今日ね〜、ちょっと試してるチョコがあるんだけど……見てみる?」
見れば、小さなチョコが3種類だけ並んでいた。
他のチョコと違って、ポップも控えめ。
値段も書かれていない。
「試してるってことは、まだ売り物じゃないんですか?」
「まぁね〜、でも、売ってるよ。"知ってる人限定"ってことで」
何が"知ってる人"なのか、笑ってごまかされてよくわからなかったけど、
気づけば視線は、その3つのチョコに引き寄せられていた。
「真ん中のがね、ちょっと君っぽい味になった気がするんだ〜」
「……?」
「いや、前に言ってたじゃん。『甘いけど優しくない』とか、『苦いけど怖くない』とか。あれ聞いて、すっごく面白かったから、イメージで組んでみたの」
(……君っぽい?)
言われてみれば、前に手紙に書いた言葉の断片がチラつく。
選んだら、負けな気がする。
でも、ほんの少しだけ、心が動いた。
それを見逃さなかったのか、彼はさりげなく微笑んだ。
「もし気になるなら、今度また感想聞かせてね」
まるで、お礼のつもりの"仕掛け"みたいだった。
店を出てからも、どこか落ち着かなかった。
彼の笑顔は変わらず柔らかかったけれど、何かが違う気がしていた。
優しすぎる?
話しやすすぎる?
いや、それだけじゃない。
"私が何をどう思ってるか"を、予測されてるような感じ。
「……ちょっと変だな」
思わず声に出して、歩きながら顔をしかめた。
明確な不快感はない。むしろ、安心感すらあった。
でも、どこか"予定調和すぎる"ような。
こちらの出方を読まれて、うまく誘導されているような。
知らないうちに、相手の世界に踏み込んでしまっているような。
──そんな気がした。
あのショコラティエの彼──天童覚。
有名人に会った、というだけなら、ここまで心に残らなかったと思う。
名前も知らなかった相手に試作品を渡され、手紙を書いてしまった自分もおかしかった。
でも、確かに何か引っかかるものがあった。
次に店に行くとき、彼がまたいるとは限らない。
そもそも手紙なんて渡すつもりじゃなかったし、
もしあのとき渡していなかったら、たぶんもう行かなかったと思う。
だけど──
「また来てくれたんだ〜、嬉しいなぁ。ちゃんと食べてくれた?」
あっさりと、いつもの調子で声をかけられたとき、思わず笑ってしまった。
この人、こういう感じなんだな、と。
「……食べました。あの……よくわからなかったですけど、美味しかったです」
「うんうん、"わからなさ"を味わってくれるのって、俺にとって最高の褒め言葉〜」
ひとつひとつの言葉は軽いのに、ちゃんと拾ってくれる。
まっすぐな視線に、悪意も下心も感じない。
なのに──
ほんの少しだけ、胸の奥がざわついた。
(……なんだろう、この感じ)
言葉や態度に違和感があるわけじゃない。
でも、どこか"見透かされている"ような妙な緊張感があった。
彼はふとショーケースの端を指さして、言った。
「そうそう、今日ね〜、ちょっと試してるチョコがあるんだけど……見てみる?」
見れば、小さなチョコが3種類だけ並んでいた。
他のチョコと違って、ポップも控えめ。
値段も書かれていない。
「試してるってことは、まだ売り物じゃないんですか?」
「まぁね〜、でも、売ってるよ。"知ってる人限定"ってことで」
何が"知ってる人"なのか、笑ってごまかされてよくわからなかったけど、
気づけば視線は、その3つのチョコに引き寄せられていた。
「真ん中のがね、ちょっと君っぽい味になった気がするんだ〜」
「……?」
「いや、前に言ってたじゃん。『甘いけど優しくない』とか、『苦いけど怖くない』とか。あれ聞いて、すっごく面白かったから、イメージで組んでみたの」
(……君っぽい?)
言われてみれば、前に手紙に書いた言葉の断片がチラつく。
選んだら、負けな気がする。
でも、ほんの少しだけ、心が動いた。
それを見逃さなかったのか、彼はさりげなく微笑んだ。
「もし気になるなら、今度また感想聞かせてね」
まるで、お礼のつもりの"仕掛け"みたいだった。
店を出てからも、どこか落ち着かなかった。
彼の笑顔は変わらず柔らかかったけれど、何かが違う気がしていた。
優しすぎる?
話しやすすぎる?
いや、それだけじゃない。
"私が何をどう思ってるか"を、予測されてるような感じ。
「……ちょっと変だな」
思わず声に出して、歩きながら顔をしかめた。
明確な不快感はない。むしろ、安心感すらあった。
でも、どこか"予定調和すぎる"ような。
こちらの出方を読まれて、うまく誘導されているような。
知らないうちに、相手の世界に踏み込んでしまっているような。
──そんな気がした。
