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夢小説設定
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彼女と過ごす夜のあと。
ベッドの隣で寝息を立てる○○ちゃんの髪を、そっと指ですくう。
ぬくもりが、まだ肌に残っていて。
この部屋の空気さえ、もう彼女の匂いに染まってるみたいで。
静かな寝顔。丸くなった背中。
それを見ているだけで──なんだか、満たされる。
……でも、足りない。
彼女が"俺の知らない時間"を持っていること。
見えない場所で、誰かと話しているかもしれないこと。
それを考えるたび、胸の奥がきゅうっと締めつけられる。
俺はきっと、普通じゃないんだと思う。
だから。
だから、あのとき──
※※※※※
(……仕掛けたのは、最初に彼女の家へ送りに行ったことだった)
彼女はまだ、俺を完全には信用してなかった。
笑っていたけど、帰り際はいつも鍵を握りしめて、
マンションの入り口でぎこちないお辞儀をしてた。
……でも、俺は、
彼女が"家でどんな生活をしているのか"を、
ずっと見てみたかった。
最初は、ただの興味だった。
どんな部屋に住んでて、どんな時間にシャワーを浴びて、
どんな音楽を流してるのか。
それだけでよかったはずなのに──
「じゃあ、またね」って言って鍵を閉めたそのドアの先に、
"俺のいない世界"があるって思ったら、止まらなかった。
彼女がカバンを置いて席を立った時──
キーケースを手に取る時間なんて、ほんの十数秒あれば十分だった。
どこでコピーを作ったかなんて、彼女は想像もしないだろう。
自分が"渡してない鍵"で、俺が部屋に入れるなんて、夢にも思わないはずだ。
今日も、彼女は何も知らずにスーパーへ向かっている。
エレベーターを降りた音も、玄関が閉まる気配も、全部、アプリ越しに聞いてた。
俺は何も言わずにその合鍵を取り出し、当たり前のように鍵を差し込む。
カチリと鳴った瞬間──
彼女だけのはずの空間が、静かに"俺の世界"に変わった。
カメラと、マイクと、バッテリーと、Wi-Fi接続のルータ。
全部、カバンに詰めて持っていった。
玄関の電灯に化けたピンホールカメラ。
寝室のコンセントタップに仕込んだマイク。
本棚に並べた飾りの中に埋め込んだバッテリーカメラ。
彼女が気づくはずなんて、ない。
掃除は丁寧でも、物の位置にはそれほど神経質じゃない。
セッティングを終えたあとは何食わぬ顔でLINEを送る。
『無事帰れた? 雨降ってない?』
そして、夜中──
カメラ越しに見る彼女の部屋は、
どこか現実じゃない別の世界みたいに思えた。
───
シャワーの音。
濡れた髪をタオルで拭きながら、小さなあくびを漏らす姿。
部屋着に着替えてソファに座り、
冷蔵庫の野菜室からチョコを取り出して、
ひとかけら、口に入れる。
……チョコ、ちゃんと冷やしてるんだ。
ふふっと笑いながら、
その映像を、何度も巻き戻して見返す。
もっと、もっと深くまで見たかった。
どんな顔で、どんなふうに、チョコを食べてるのか。
俺が作ったものを──どんな気持ちで舌にのせてるのか。
ある晩、彼女はベッドに入ったあと、
薄暗い室内で、ふと天井を見つめたまま手を伸ばした。
その指が、ゆっくりとシーツの中へと滑っていく。
……画面越しの彼女が、
俺のことを考えてたかどうかなんて、確認しようもない。
でも、
あの夜の電話は、いつもよりほんの少し甘かった。
『なんか、眠れない……覚くんの声、ちょっとだけ聞きたいな』
そう言われて、笑いながら通話をつなぐ。
まるで、なにも知らないふりをして。
俺は、あの時の映像をリピートしながら、
電話口で優しい声を出し続けた。
※※※※※
今、隣で眠る○○ちゃんは、
"俺がそこまで知ってる"ことを、なにひとつ疑っていない。
それが──たまらなく、愛しい。
触れているのに、まだ欲しい。
繋がっているのに、もっと繋がりたい。
「……○○ちゃん」
ベッドの中で、そっと名前を呼ぶ。
彼女は寝返りを打って、俺の胸元に顔を寄せた。
静かに笑って、
俺はその髪を撫でる。
「……ほんとは全部知ってるよ。君のこと」
だけど、その声は、寝息に溶けていった。
彼女には言わない。
一生、気づかれなくてもいい。
でも、もし万が一、
──気づいたとしても。
その時は、ちゃんと教えてあげる。
「逃げても無駄なんだよって」
それでも俺は、いつだって"優しく"言うから。
ベッドの隣で寝息を立てる○○ちゃんの髪を、そっと指ですくう。
ぬくもりが、まだ肌に残っていて。
この部屋の空気さえ、もう彼女の匂いに染まってるみたいで。
静かな寝顔。丸くなった背中。
それを見ているだけで──なんだか、満たされる。
……でも、足りない。
彼女が"俺の知らない時間"を持っていること。
見えない場所で、誰かと話しているかもしれないこと。
それを考えるたび、胸の奥がきゅうっと締めつけられる。
俺はきっと、普通じゃないんだと思う。
だから。
だから、あのとき──
※※※※※
(……仕掛けたのは、最初に彼女の家へ送りに行ったことだった)
彼女はまだ、俺を完全には信用してなかった。
笑っていたけど、帰り際はいつも鍵を握りしめて、
マンションの入り口でぎこちないお辞儀をしてた。
……でも、俺は、
彼女が"家でどんな生活をしているのか"を、
ずっと見てみたかった。
最初は、ただの興味だった。
どんな部屋に住んでて、どんな時間にシャワーを浴びて、
どんな音楽を流してるのか。
それだけでよかったはずなのに──
「じゃあ、またね」って言って鍵を閉めたそのドアの先に、
"俺のいない世界"があるって思ったら、止まらなかった。
彼女がカバンを置いて席を立った時──
キーケースを手に取る時間なんて、ほんの十数秒あれば十分だった。
どこでコピーを作ったかなんて、彼女は想像もしないだろう。
自分が"渡してない鍵"で、俺が部屋に入れるなんて、夢にも思わないはずだ。
今日も、彼女は何も知らずにスーパーへ向かっている。
エレベーターを降りた音も、玄関が閉まる気配も、全部、アプリ越しに聞いてた。
俺は何も言わずにその合鍵を取り出し、当たり前のように鍵を差し込む。
カチリと鳴った瞬間──
彼女だけのはずの空間が、静かに"俺の世界"に変わった。
カメラと、マイクと、バッテリーと、Wi-Fi接続のルータ。
全部、カバンに詰めて持っていった。
玄関の電灯に化けたピンホールカメラ。
寝室のコンセントタップに仕込んだマイク。
本棚に並べた飾りの中に埋め込んだバッテリーカメラ。
彼女が気づくはずなんて、ない。
掃除は丁寧でも、物の位置にはそれほど神経質じゃない。
セッティングを終えたあとは何食わぬ顔でLINEを送る。
『無事帰れた? 雨降ってない?』
そして、夜中──
カメラ越しに見る彼女の部屋は、
どこか現実じゃない別の世界みたいに思えた。
───
シャワーの音。
濡れた髪をタオルで拭きながら、小さなあくびを漏らす姿。
部屋着に着替えてソファに座り、
冷蔵庫の野菜室からチョコを取り出して、
ひとかけら、口に入れる。
……チョコ、ちゃんと冷やしてるんだ。
ふふっと笑いながら、
その映像を、何度も巻き戻して見返す。
もっと、もっと深くまで見たかった。
どんな顔で、どんなふうに、チョコを食べてるのか。
俺が作ったものを──どんな気持ちで舌にのせてるのか。
ある晩、彼女はベッドに入ったあと、
薄暗い室内で、ふと天井を見つめたまま手を伸ばした。
その指が、ゆっくりとシーツの中へと滑っていく。
……画面越しの彼女が、
俺のことを考えてたかどうかなんて、確認しようもない。
でも、
あの夜の電話は、いつもよりほんの少し甘かった。
『なんか、眠れない……覚くんの声、ちょっとだけ聞きたいな』
そう言われて、笑いながら通話をつなぐ。
まるで、なにも知らないふりをして。
俺は、あの時の映像をリピートしながら、
電話口で優しい声を出し続けた。
※※※※※
今、隣で眠る○○ちゃんは、
"俺がそこまで知ってる"ことを、なにひとつ疑っていない。
それが──たまらなく、愛しい。
触れているのに、まだ欲しい。
繋がっているのに、もっと繋がりたい。
「……○○ちゃん」
ベッドの中で、そっと名前を呼ぶ。
彼女は寝返りを打って、俺の胸元に顔を寄せた。
静かに笑って、
俺はその髪を撫でる。
「……ほんとは全部知ってるよ。君のこと」
だけど、その声は、寝息に溶けていった。
彼女には言わない。
一生、気づかれなくてもいい。
でも、もし万が一、
──気づいたとしても。
その時は、ちゃんと教えてあげる。
「逃げても無駄なんだよって」
それでも俺は、いつだって"優しく"言うから。
