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(──ああ、名前、聞けばよかったなぁ)
厨房で仕込みをしながら、気がつけば何度もそればかり考えていた。
手はカカオを混ぜながら動いているのに、意識はすっかり"さっきの彼女"に奪われていた。
白鳥沢の同級生。
確かにそう言ってた。
けど、それだけだ。
クラスが違えば、棟も違う。
顔をなんとなく見た記憶はある。でも、名前は出てこない。
──というか、そもそも知らないままだったんだと思う。
(でも、なんか……もったいないなぁ)
チョコを渡した時の、あの戸惑い。
会話中にときおり見せた警戒心。
たぶん、俺のこと"軽そう"とか思ってるんだろうな〜。
……うん、正解。
だって、それでいいんだもん。
どうせ、本当のことなんて今さら知ってほしいわけじゃない。
俺がどんなふうに彼女を見ていたかとか、どんなに動揺したかなんて、知られなくていい。
でも、名前は、知りたかった。
SNSを開く。
たまに接客中に撮られた写真がタグ付けされてるし、「#ショコラトリーリヨンソー」でエゴサするのは日課みたいなものだった。
(……もしかして、誰かが彼女のことも載せてるかも)
期待と共に遡る。
でも、案の定──見つからなかった。
(写真もなし、リポストもなし。タグづけもされてない)
その時点で少し察した。
(……SNS、やってないタイプか〜)
最近は珍しい。
チョコレートの写真をあげないどころか、自分自身も発信していない。
まるで、画面越しには存在しない人みたい。
(DMも送れないじゃん)
苦笑いしながら、携帯をテーブルに置いた。
そのまま肘をついて、ぼんやりと記憶を辿る。
白鳥沢、同じ学年。
でも当時の名簿なんて残ってない。
部活以外のクラスの人間なんて、ほぼ記憶にない。
(ほんっと、知らないんだな〜俺。あの頃、まじでバレーしかしてなかったもんな)
それでも、あの人のことは知りたかった。
顔はもう、ちゃんと焼き付いてる。
声も、言葉の選び方も、笑い方も、歩き方も。
きっと、何を着ても、何を食べても、何を考えていても──“彼女らしい”んだと思う。
(名前がわかれば、そこから辿れるのに)
InstagramもXもFacebookもダメ。
検索してもノーヒット。
──でも、"同じ高校"っていう共通項が、ひとつだけ残っている。
(名簿、ないかな……アルバム……いや、手元にない)
あとは、あの人がまた店に来るかどうか。
そう思った瞬間、急に不安が胸を刺した。
(……もしかして、もう来ないかも)
もらったチョコが面倒な荷物に思われてないだろうか。
味見なんて頼んで、変な距離感に感じられなかっただろうか。
(あ〜〜〜失敗した?)
いや、でも、あれで良かった。
「また来る理由」を作れた。
もし、あれがなかったら、名前も何もわからないままだった。
(また来るかなぁ……)
答えのない問いを、ぐるぐると脳内で繰り返す。
でも、次に来たときは。
今度は名前、ちゃんと聞こう。
さりげなく、自然に、逃げられないように。
(それにしても、今まで……)
思い返す。
俺は、今まで"知られたい側"だった。
味を褒められたい。記憶に残ってほしい。
評価されたいとは違う。
ただ、俺が創ったものが、誰かの中に残ればそれで良かった。
でも、あの人には。
(……俺のこと、ちゃんと見てほしい)
もっと深く、もっと近くで。
ほかの誰よりも、特別に。
まだ名前も知らない人に、どうしてこんな気持ちになるんだろう。
わからない。でも、もう戻れない。
カカオの香りの中、テーブルの上のスマホを見つめながら、
俺は彼女の名前を静かに、でも必死に探し続けていた。
厨房で仕込みをしながら、気がつけば何度もそればかり考えていた。
手はカカオを混ぜながら動いているのに、意識はすっかり"さっきの彼女"に奪われていた。
白鳥沢の同級生。
確かにそう言ってた。
けど、それだけだ。
クラスが違えば、棟も違う。
顔をなんとなく見た記憶はある。でも、名前は出てこない。
──というか、そもそも知らないままだったんだと思う。
(でも、なんか……もったいないなぁ)
チョコを渡した時の、あの戸惑い。
会話中にときおり見せた警戒心。
たぶん、俺のこと"軽そう"とか思ってるんだろうな〜。
……うん、正解。
だって、それでいいんだもん。
どうせ、本当のことなんて今さら知ってほしいわけじゃない。
俺がどんなふうに彼女を見ていたかとか、どんなに動揺したかなんて、知られなくていい。
でも、名前は、知りたかった。
SNSを開く。
たまに接客中に撮られた写真がタグ付けされてるし、「#ショコラトリーリヨンソー」でエゴサするのは日課みたいなものだった。
(……もしかして、誰かが彼女のことも載せてるかも)
期待と共に遡る。
でも、案の定──見つからなかった。
(写真もなし、リポストもなし。タグづけもされてない)
その時点で少し察した。
(……SNS、やってないタイプか〜)
最近は珍しい。
チョコレートの写真をあげないどころか、自分自身も発信していない。
まるで、画面越しには存在しない人みたい。
(DMも送れないじゃん)
苦笑いしながら、携帯をテーブルに置いた。
そのまま肘をついて、ぼんやりと記憶を辿る。
白鳥沢、同じ学年。
でも当時の名簿なんて残ってない。
部活以外のクラスの人間なんて、ほぼ記憶にない。
(ほんっと、知らないんだな〜俺。あの頃、まじでバレーしかしてなかったもんな)
それでも、あの人のことは知りたかった。
顔はもう、ちゃんと焼き付いてる。
声も、言葉の選び方も、笑い方も、歩き方も。
きっと、何を着ても、何を食べても、何を考えていても──“彼女らしい”んだと思う。
(名前がわかれば、そこから辿れるのに)
InstagramもXもFacebookもダメ。
検索してもノーヒット。
──でも、"同じ高校"っていう共通項が、ひとつだけ残っている。
(名簿、ないかな……アルバム……いや、手元にない)
あとは、あの人がまた店に来るかどうか。
そう思った瞬間、急に不安が胸を刺した。
(……もしかして、もう来ないかも)
もらったチョコが面倒な荷物に思われてないだろうか。
味見なんて頼んで、変な距離感に感じられなかっただろうか。
(あ〜〜〜失敗した?)
いや、でも、あれで良かった。
「また来る理由」を作れた。
もし、あれがなかったら、名前も何もわからないままだった。
(また来るかなぁ……)
答えのない問いを、ぐるぐると脳内で繰り返す。
でも、次に来たときは。
今度は名前、ちゃんと聞こう。
さりげなく、自然に、逃げられないように。
(それにしても、今まで……)
思い返す。
俺は、今まで"知られたい側"だった。
味を褒められたい。記憶に残ってほしい。
評価されたいとは違う。
ただ、俺が創ったものが、誰かの中に残ればそれで良かった。
でも、あの人には。
(……俺のこと、ちゃんと見てほしい)
もっと深く、もっと近くで。
ほかの誰よりも、特別に。
まだ名前も知らない人に、どうしてこんな気持ちになるんだろう。
わからない。でも、もう戻れない。
カカオの香りの中、テーブルの上のスマホを見つめながら、
俺は彼女の名前を静かに、でも必死に探し続けていた。
