8
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
──彼女が、俺の部屋に来る。
鍵を開けて中に招き入れると、
彼女は小さく「おじゃまします」と言ってスニーカーを脱いだ。
その声が少しだけ上擦っていて、耳の奥で引っかかる。
緊張してるのが、わかる。
でも、そんなの当然だよね。
部屋に入るってことは、
日常の境界線を一つ越えるってことだから。
「そんなに散らかってないよ、多分。
ねっ、○○ちゃんは座ってて〜」
冗談交じりの口調でそう言って、キッチンの奥へ向かう。
「すぐ作るからさ。カレーとかパスタとかじゃなくて、ちょっとだけショコラティエっぽいご飯、用意するね〜」
そのまま、ゆっくり食材を仕上げていく。
今日は焼き加減とソースに少しだけこだわった。
ワインも、彼女が飲みやすそうな軽めのものを用意してある。
チラッと視線を上げて、カウンターの向こうに目をやる。
やっぱり、まだ少し緊張が抜けない顔。
でも、帰る素振りはない。
この部屋で俺と2人きりになることを、
"受け入れている"ってことだ。
しばらくして料理をテーブルへ運ぶと、彼女はテーブルコーディネートされた皿やカトラリーに少し目を見張るような顔をして、
それから笑った。
「……ほんとに、こういうの慣れてるんだね」
「慣れてるっていうか、まぁ。
おもてなしのプロだからね〜。ほら、召し上がれ?」
「うん……ありがとう」
そのやり取りだけで、彼女の頬にほんの少しだけ色が差した。
俺が彼女を"気遣っている"っていう構図に安心してくれてるの、伝わってくる。
ワインをひと口、
彼女がグラスに口をつけたタイミングを見計らって、
俺は何気ない顔で手を伸ばした。
「……ソース、ちょっとここ」
彼女の手元、ナイフを持った指の付け根に、
ほんの少しだけソースが跳ねていた。
俺はさっと自分のナプキンを取って、
彼女の手を包むようにして拭う。
「わ、ちょ、いいよ自分で……!」
驚いたように引きかけた手を、俺は軽く押さえて微笑む。
「気になっちゃったから。……ごめんね、びっくりさせた?」
「う、うん、ちょっとだけ……」
そう答えながら、彼女の指先がわずかに震えるのが見える。ほんの数秒の触れ合い。
でも、
それだけで呼吸のリズムが変わったのが、はっきり分かった。
本当に些細なこと。
でも、こういう一瞬のやりとりが──
ほんの一瞬の接触が、"偶然"じゃなくて、
ずっと計算していた一手。
食事が進んで、ナイフとフォークを置く音が重なる頃。
彼女はふうっと小さく息を吐いて、背もたれに体を預けた。
「……ごちそうさまでした。美味しかった」
「よかった〜。緊張、ちょっとはほぐれた?」
「うん、たぶん……いや、たぶんじゃなくて……うん。
うん、ほぐれた」
言葉を繰り返すその様子に、まだどこか自分を落ち着けようとしているのが見える。
それでも。
ゆっくり、ちゃんと自分の足で境界線をまたいできた。
それが今日の彼女で。
だから俺は──次の一手も、ちゃんと用意しておく。
鍵を開けて中に招き入れると、
彼女は小さく「おじゃまします」と言ってスニーカーを脱いだ。
その声が少しだけ上擦っていて、耳の奥で引っかかる。
緊張してるのが、わかる。
でも、そんなの当然だよね。
部屋に入るってことは、
日常の境界線を一つ越えるってことだから。
「そんなに散らかってないよ、多分。
ねっ、○○ちゃんは座ってて〜」
冗談交じりの口調でそう言って、キッチンの奥へ向かう。
「すぐ作るからさ。カレーとかパスタとかじゃなくて、ちょっとだけショコラティエっぽいご飯、用意するね〜」
そのまま、ゆっくり食材を仕上げていく。
今日は焼き加減とソースに少しだけこだわった。
ワインも、彼女が飲みやすそうな軽めのものを用意してある。
チラッと視線を上げて、カウンターの向こうに目をやる。
やっぱり、まだ少し緊張が抜けない顔。
でも、帰る素振りはない。
この部屋で俺と2人きりになることを、
"受け入れている"ってことだ。
しばらくして料理をテーブルへ運ぶと、彼女はテーブルコーディネートされた皿やカトラリーに少し目を見張るような顔をして、
それから笑った。
「……ほんとに、こういうの慣れてるんだね」
「慣れてるっていうか、まぁ。
おもてなしのプロだからね〜。ほら、召し上がれ?」
「うん……ありがとう」
そのやり取りだけで、彼女の頬にほんの少しだけ色が差した。
俺が彼女を"気遣っている"っていう構図に安心してくれてるの、伝わってくる。
ワインをひと口、
彼女がグラスに口をつけたタイミングを見計らって、
俺は何気ない顔で手を伸ばした。
「……ソース、ちょっとここ」
彼女の手元、ナイフを持った指の付け根に、
ほんの少しだけソースが跳ねていた。
俺はさっと自分のナプキンを取って、
彼女の手を包むようにして拭う。
「わ、ちょ、いいよ自分で……!」
驚いたように引きかけた手を、俺は軽く押さえて微笑む。
「気になっちゃったから。……ごめんね、びっくりさせた?」
「う、うん、ちょっとだけ……」
そう答えながら、彼女の指先がわずかに震えるのが見える。ほんの数秒の触れ合い。
でも、
それだけで呼吸のリズムが変わったのが、はっきり分かった。
本当に些細なこと。
でも、こういう一瞬のやりとりが──
ほんの一瞬の接触が、"偶然"じゃなくて、
ずっと計算していた一手。
食事が進んで、ナイフとフォークを置く音が重なる頃。
彼女はふうっと小さく息を吐いて、背もたれに体を預けた。
「……ごちそうさまでした。美味しかった」
「よかった〜。緊張、ちょっとはほぐれた?」
「うん、たぶん……いや、たぶんじゃなくて……うん。
うん、ほぐれた」
言葉を繰り返すその様子に、まだどこか自分を落ち着けようとしているのが見える。
それでも。
ゆっくり、ちゃんと自分の足で境界線をまたいできた。
それが今日の彼女で。
だから俺は──次の一手も、ちゃんと用意しておく。
