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夢小説設定
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夕方の店内は、今日も静かに忙しい。
リピーターの女性客、ちょっとした手土産に買いに来る会社員たち、
「SNSで見たんです」とカメラを構える学生。
平等に接する。
誰にでも笑顔を向ける。
気の利いた冗談で場を和ませる。
全部、いつもの"ショコラティエ・天童覚"としての顔。
でも今日は違う。
今日は、"一人の客"だけを優先する準備をしていた。
閉店30分前。
厨房に入りかけたとき、
店の扉のベルが鳴った。
(……来た)
思わず足を止めて振り返る。
○○ちゃんだった。
少し迷ったような足取り。
何か理由をつけて自分に納得させたような顔。
手には、あのくたびれたメモ帳。
(やっぱり、君は来る)
君が自分の中で理由を探してるうちは、
俺が"それ以外の理由"を埋めてあげればいい。
「……おかえり」
レジ前に出た瞬間、そう呟いてしまった。
声に出したあと、自分でも笑った。
でも、彼女は気づいてないフリをした。
俺は厨房に戻らず、
スタッフに任せて、彼女の前に立ち続ける。
それを見て、カウンターに並んでいた別の女性客がふとこちらを見る。
「オーナーさんって、ずっといらっしゃるんですね〜」なんて軽く話しかけられて。
「運がいいだけですよ」と、柔らかく返す。
それもまた、彼女に聞こえるように。
"他の人に言い寄られる"のは、慣れてる。
でも、それを嫉妬に変えるようなことはしない。
俺が欲しいのは、彼女の中の小さな"焦り"や"優越感"。
「あの、もしオーナーさん空いてたら…写真、いいですか?」
そんな風に尋ねられることも、もう珍しくない。
「いいですよ〜、どこで撮りましょっか?」
俺はすぐに笑顔で対応する。
でもその合間、視線は彼女から外さない。
レンズを向けられても、
俺が視線を向けるのは、彼女の方だけ。
"君以外なんて、どうでもいい"という表現は、
言葉じゃなくて視線で伝えたほうが刺さる。
そして、撮影を終えたあと。
俺は厨房へ行くフリをして、また戻ってくる。
小さなトリュフをひとつ、箱に入れて。
「ねえ、これ……意見ほしくて。今のうちに渡しとくね」
言い訳は、いつも"試作の相談'。
でも、俺が彼女にだけ渡すチョコは、
いつも"その日一番うまくいったやつ"しか使わない。
「最近、スタッフにしか感想もらえてないから、
味に関して本気で話せるの、君くらいしかいないんだ〜」
軽く言う。
でも、そう言われた彼女の瞳の奥に、
ちゃんと誇らしさが浮かぶのを見てる。
彼女の中にある、ほんの小さな虚栄心。
それを責める気なんてまったくない。
むしろ、それを可愛らしいと思うことが"惚れる"って感覚なんだろうなって、最近やっと分かってきた。
自分を過小評価して、
でも少しは誰かに認められたいって思ってる君が、
俺にはちゃんと見えてる。
だから、俺は"見えすぎてる"ことは言わない。
ただ、ごく自然に、"特別"な扱いを積み重ねるだけ。
「俺、恋人とか……いないよ?」
何気ない口調で、でもしっかり目を見て言ったとき、
彼女は思わず一瞬だけ目を泳がせた。
「えっ? ……あ、そう、なんですか」
返事が、妙に整ってた。
少し遅れて、余計な敬語が混ざるところがかわいい。
俺は少しだけ肩をすくめて言う。
「そんな時間あったら、試作してたいからね〜。
……でも、最近ちょっと変わってきたかも」
「変わってきた……?」
「"何か"を渡したくなる人がいるって、なんか、いいなって」
それ以上は言わない。
言い切らないことで、彼女の中に余韻を残す。
その余韻が、夜の帰り道に彼女を支配する。
次は、彼女の方から何か聞き返すはず。
今、俺に向いているのは、
"試作品"じゃなくて、"俺自身"だから。
名前を呼ばれなくてもいい。
まだ抱きしめなくていい。
でも、もう──
彼女の視線は、俺の周囲の誰でもなく、俺だけに向いてる。
その確信だけで、今はじゅうぶん。
リピーターの女性客、ちょっとした手土産に買いに来る会社員たち、
「SNSで見たんです」とカメラを構える学生。
平等に接する。
誰にでも笑顔を向ける。
気の利いた冗談で場を和ませる。
全部、いつもの"ショコラティエ・天童覚"としての顔。
でも今日は違う。
今日は、"一人の客"だけを優先する準備をしていた。
閉店30分前。
厨房に入りかけたとき、
店の扉のベルが鳴った。
(……来た)
思わず足を止めて振り返る。
○○ちゃんだった。
少し迷ったような足取り。
何か理由をつけて自分に納得させたような顔。
手には、あのくたびれたメモ帳。
(やっぱり、君は来る)
君が自分の中で理由を探してるうちは、
俺が"それ以外の理由"を埋めてあげればいい。
「……おかえり」
レジ前に出た瞬間、そう呟いてしまった。
声に出したあと、自分でも笑った。
でも、彼女は気づいてないフリをした。
俺は厨房に戻らず、
スタッフに任せて、彼女の前に立ち続ける。
それを見て、カウンターに並んでいた別の女性客がふとこちらを見る。
「オーナーさんって、ずっといらっしゃるんですね〜」なんて軽く話しかけられて。
「運がいいだけですよ」と、柔らかく返す。
それもまた、彼女に聞こえるように。
"他の人に言い寄られる"のは、慣れてる。
でも、それを嫉妬に変えるようなことはしない。
俺が欲しいのは、彼女の中の小さな"焦り"や"優越感"。
「あの、もしオーナーさん空いてたら…写真、いいですか?」
そんな風に尋ねられることも、もう珍しくない。
「いいですよ〜、どこで撮りましょっか?」
俺はすぐに笑顔で対応する。
でもその合間、視線は彼女から外さない。
レンズを向けられても、
俺が視線を向けるのは、彼女の方だけ。
"君以外なんて、どうでもいい"という表現は、
言葉じゃなくて視線で伝えたほうが刺さる。
そして、撮影を終えたあと。
俺は厨房へ行くフリをして、また戻ってくる。
小さなトリュフをひとつ、箱に入れて。
「ねえ、これ……意見ほしくて。今のうちに渡しとくね」
言い訳は、いつも"試作の相談'。
でも、俺が彼女にだけ渡すチョコは、
いつも"その日一番うまくいったやつ"しか使わない。
「最近、スタッフにしか感想もらえてないから、
味に関して本気で話せるの、君くらいしかいないんだ〜」
軽く言う。
でも、そう言われた彼女の瞳の奥に、
ちゃんと誇らしさが浮かぶのを見てる。
彼女の中にある、ほんの小さな虚栄心。
それを責める気なんてまったくない。
むしろ、それを可愛らしいと思うことが"惚れる"って感覚なんだろうなって、最近やっと分かってきた。
自分を過小評価して、
でも少しは誰かに認められたいって思ってる君が、
俺にはちゃんと見えてる。
だから、俺は"見えすぎてる"ことは言わない。
ただ、ごく自然に、"特別"な扱いを積み重ねるだけ。
「俺、恋人とか……いないよ?」
何気ない口調で、でもしっかり目を見て言ったとき、
彼女は思わず一瞬だけ目を泳がせた。
「えっ? ……あ、そう、なんですか」
返事が、妙に整ってた。
少し遅れて、余計な敬語が混ざるところがかわいい。
俺は少しだけ肩をすくめて言う。
「そんな時間あったら、試作してたいからね〜。
……でも、最近ちょっと変わってきたかも」
「変わってきた……?」
「"何か"を渡したくなる人がいるって、なんか、いいなって」
それ以上は言わない。
言い切らないことで、彼女の中に余韻を残す。
その余韻が、夜の帰り道に彼女を支配する。
次は、彼女の方から何か聞き返すはず。
今、俺に向いているのは、
"試作品"じゃなくて、"俺自身"だから。
名前を呼ばれなくてもいい。
まだ抱きしめなくていい。
でも、もう──
彼女の視線は、俺の周囲の誰でもなく、俺だけに向いてる。
その確信だけで、今はじゅうぶん。
