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夢小説設定
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休みの日の朝は、早い。
目覚ましに叩き起こされる平日とは違って、
体内時計が自然と目を覚ます時間。
お気に入りのスニーカーを履いて、スマホもイヤホンも持たず、ただ家を出て、どこへともなく歩く。
"何も考えない時間"じゃない。
"ちゃんと考えるための時間"。
そんな散歩が、自分にとっては"整理"であり"解毒"だった。
けれど、今日は違う。
頭のどこかで──
(感想、伝えてないな……)
そう、思ってしまっている。
天童さんに渡された新しい試作品は、
口に含んだ瞬間、意外なほど軽かった。
いつものような"複雑な余韻"じゃなくて、
拍子抜けするくらい、さらっと消えていく甘さ。
でも後味には、微かにスパイスが残っていて、
それが気になって、結局もう一粒食べてしまった。
(……どういう意味だったんだろう、この味)
そう思った時点で、たぶんもう、
私は"感想を送る側"に立ってしまっている。
言いたい。
けど、スマホの文字じゃうまく言えない。
どう表現すればいいかわからないし、
あの人、ちゃんと聞いてくれるから──
(……行ったほうが、楽か)
自分でそう思って、ため息が出た。
本来なら、こんな日は誰にも会いたくない。
誰の話も聞きたくないし、会話なんて面倒。
でも天童さんは、そういう面倒さを感じさせない。
心に入り込んでくるような接触もしてこないし、
決して"近すぎる距離"には踏み込んでこない。
それが、ちょうどよかった。
誰にも会いたくない日にも、"例外"として残っていた。
(それだけだったはずなんだけどな)
だけど、最近になって、
時々"わかっているはずのこと"に不安を感じる。
どうして私の通勤時間を知ってるんだろう。
言ってないはずなのに、住んでいる沿線に触れられたり、
少し体調が悪かったときに、何も言ってないのに気遣われたり──
"偶然"で済ませられる範囲ではある。
けど、何度も続けば、それはもう偶然ではなくなる。
(……別に、断とうと思えば断てる)
ふと思った。
たとえば、
「仕事が忙しくて行けません」って言えば済むこと。
返信をしなければ、やがて連絡は途絶えるだろう。
実際、彼は押し付けてくるような人じゃない。
でも──
(……じゃあ、どうしてまだ、返してるんだろう)
問いに答えが出せなかった。
そもそも、
人気のあるお店のオーナーが、
こんなふうに個別に感想を求めてくること自体が、
冷静に考えれば、あり得ない。
新作の試食をただの一人に頼むって、
効率も悪いし、リスクも高い。
私はチョコを買うけど、別に大量購入するわけじゃない。
同級生だったとはいえ、関わりもなかった相手。
なのに、なぜ?
(……私だから、なの?)
そう思ったとき──
不思議な"優越感"と"不安"が、同時に胸をかすめた。
もし、彼が私の生活をコントロールしようとしてるなら、
もうとっくに連絡先を聞いてるはずだし、
もっと会いたがったりしてくると思う。
でも、そういうことはない。
むしろ、彼はいつも一歩引いている。
ちゃんと、私の気持ちを優先してくれてるように見える。
だからこそ、ずっと「大丈夫」だと思っていた。
でも今──
ふと、連絡を絶ってみようかと思った。
このまま続けば、
私は"好きでもない人"の存在に、
"生活"を預けてしまう気がしたから。
(……何かが、違う)
何がとは、うまく言えない。
でも、たぶん私は、もう"元の自分"じゃない。
知らない間に、
"私の時間"に、"私の気分"に、
"あの人の存在"が入り込んできてる。
それが心地よいと感じていた時期もあった。
でも、今は──
少し、怖い。
アプリを閉じて、通知を切った。
体調が悪いわけじゃない。
ただ、連絡を絶ちたくなっただけ。
(これで終わるなら、それでいい)
そう思った。
でも、心のどこかで──
(それで本当に終わるのかな)
そう問いかける自分がいるのが、
一番、こわかった。
目覚ましに叩き起こされる平日とは違って、
体内時計が自然と目を覚ます時間。
お気に入りのスニーカーを履いて、スマホもイヤホンも持たず、ただ家を出て、どこへともなく歩く。
"何も考えない時間"じゃない。
"ちゃんと考えるための時間"。
そんな散歩が、自分にとっては"整理"であり"解毒"だった。
けれど、今日は違う。
頭のどこかで──
(感想、伝えてないな……)
そう、思ってしまっている。
天童さんに渡された新しい試作品は、
口に含んだ瞬間、意外なほど軽かった。
いつものような"複雑な余韻"じゃなくて、
拍子抜けするくらい、さらっと消えていく甘さ。
でも後味には、微かにスパイスが残っていて、
それが気になって、結局もう一粒食べてしまった。
(……どういう意味だったんだろう、この味)
そう思った時点で、たぶんもう、
私は"感想を送る側"に立ってしまっている。
言いたい。
けど、スマホの文字じゃうまく言えない。
どう表現すればいいかわからないし、
あの人、ちゃんと聞いてくれるから──
(……行ったほうが、楽か)
自分でそう思って、ため息が出た。
本来なら、こんな日は誰にも会いたくない。
誰の話も聞きたくないし、会話なんて面倒。
でも天童さんは、そういう面倒さを感じさせない。
心に入り込んでくるような接触もしてこないし、
決して"近すぎる距離"には踏み込んでこない。
それが、ちょうどよかった。
誰にも会いたくない日にも、"例外"として残っていた。
(それだけだったはずなんだけどな)
だけど、最近になって、
時々"わかっているはずのこと"に不安を感じる。
どうして私の通勤時間を知ってるんだろう。
言ってないはずなのに、住んでいる沿線に触れられたり、
少し体調が悪かったときに、何も言ってないのに気遣われたり──
"偶然"で済ませられる範囲ではある。
けど、何度も続けば、それはもう偶然ではなくなる。
(……別に、断とうと思えば断てる)
ふと思った。
たとえば、
「仕事が忙しくて行けません」って言えば済むこと。
返信をしなければ、やがて連絡は途絶えるだろう。
実際、彼は押し付けてくるような人じゃない。
でも──
(……じゃあ、どうしてまだ、返してるんだろう)
問いに答えが出せなかった。
そもそも、
人気のあるお店のオーナーが、
こんなふうに個別に感想を求めてくること自体が、
冷静に考えれば、あり得ない。
新作の試食をただの一人に頼むって、
効率も悪いし、リスクも高い。
私はチョコを買うけど、別に大量購入するわけじゃない。
同級生だったとはいえ、関わりもなかった相手。
なのに、なぜ?
(……私だから、なの?)
そう思ったとき──
不思議な"優越感"と"不安"が、同時に胸をかすめた。
もし、彼が私の生活をコントロールしようとしてるなら、
もうとっくに連絡先を聞いてるはずだし、
もっと会いたがったりしてくると思う。
でも、そういうことはない。
むしろ、彼はいつも一歩引いている。
ちゃんと、私の気持ちを優先してくれてるように見える。
だからこそ、ずっと「大丈夫」だと思っていた。
でも今──
ふと、連絡を絶ってみようかと思った。
このまま続けば、
私は"好きでもない人"の存在に、
"生活"を預けてしまう気がしたから。
(……何かが、違う)
何がとは、うまく言えない。
でも、たぶん私は、もう"元の自分"じゃない。
知らない間に、
"私の時間"に、"私の気分"に、
"あの人の存在"が入り込んできてる。
それが心地よいと感じていた時期もあった。
でも、今は──
少し、怖い。
アプリを閉じて、通知を切った。
体調が悪いわけじゃない。
ただ、連絡を絶ちたくなっただけ。
(これで終わるなら、それでいい)
そう思った。
でも、心のどこかで──
(それで本当に終わるのかな)
そう問いかける自分がいるのが、
一番、こわかった。
