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「……いいんですか? こんなことして」
その一言で、心の奥にかすかな熱が灯った。
"こんなこと"。
その曖昧さが、実に都合が良かった。
彼女の中で"線引き"が曖昧になりつつあることの証だから。
(いいよ、○○ちゃん。こんなことは、もっとしていくからね)
笑顔のまま、「うん、もちろんだよ」と頷いて、カメラレンズを下ろす。
モデルとして手を借りただけ──それだけに見せかけて、
俺は、ひとつ"距離"を越えた。
カメラ越しに見る君の指先は、確かに美しくはなかったかもしれない。
爪は短く整えられ、色もなく、飾りもない。
でも、その"飾っていない素のまま"が、よかった。
着飾った他人じゃなくて、生活をそのまま背負ってる手。
(俺だけが気づいた、その良さ)
それが、彼女を"俺のものにしたい"と思った最初のきっかけだった。
撮影が終わって、チョコを渡す。
それも、選ばせるのではなく、"これが君の味"と定めて。
選ばせる自由を与えるふりをして、
選ばせないことで"意味"を植え付ける。
「……また感想、聞かせてね?」
渡した言葉はお礼なんかじゃない。
『次に会う理由』だ。
あのチョコは、まだ完成していない。
でももう、"完成させる気"はない。
彼女に会うたび、彼女の中にある新しい味を探して、
それを理由にまた会う。
それを繰り返して、何が"完成"なのかを曖昧にしていく。
終わりのない関係性のほうが、逃げられないから。
数日後、厨房で彼女の写真を確認しながら、
ふとスマホを手に取る。
(そろそろ……かな)
LINEではない。
電話番号でもない。
「DMでいいから、感想またくれると助かるんだけどな〜」
そう言って、あらかじめ彼女のスマホにSNSを開かせたのは撮影の翌日だった。
「アカウントないんだ〜? じゃあ、作るのちょっと手伝うよ」
作らせたのではない。
"誘導した"だけ。
そして数日後、通知に気づく。
"@siratorizawa__819"というアカウントからの、シンプルなメッセージ。
「例のチョコレート、食べました」
その一文だけで、じゅうぶんだった。
(うん、ちゃんと"連絡先"が手に入ったね)
彼女はそれを、"ただの報告"だと思っている。
でも俺にとっては、"連絡先を共有した"という事実が大きかった。
SNSでつながった以上、
俺はいつでも彼女に話しかけることができるし、
彼女も、俺を意識せざるを得ない。
返信はゆっくりにした。
既読をつけたまま、数時間は放置してから、こう返す。
「嬉しいな〜! でも、気になることあるんだよね。どんな気持ちのときに食べた?」
彼女の生活に、"感情"という切り口で入り込む。
"何をしたか"じゃなくて、"どう感じたか"を問う。
そこには、彼女の私生活や心理が滲む。
「ちょっと仕事で疲れてて……正直、味わえるような心の余裕はなかったかもです」
返ってきたその言葉に、唇の端がゆっくりと上がる。
(うんうん、そういうの、大事〜)
「そっか〜。でも、それも含めて大事だよ。どんなときに、どんな味が残るかってさ」
「ちなみに今週、また試作品出すんだけど……良かったら、お仕事帰りに寄ってく?」
さらっと、"生活に時間軸を被せていく"。
会う理由を"チョコ"にしながら、
彼女の"勤務時間帯"を把握しようとする。
何曜日に余裕があって、何時に通勤して、
どのくらい疲れていて、どの時間帯に空いているのか。
それを少しずつ拾って、形にしていく。
彼女の世界が、俺の中に地図として出来上がっていく感覚。
点と点が線になり、やがて囲いになっていく。
夜。
スマホの通知を切り、照明を落とした厨房で、手紙の文字をもう一度読み返す。
彼女が書いた言葉。
「味がわからないのに、心に残るなんて変ですよね」と書かれていた一節。
変じゃないよ。
"残る"ように作ったから。
俺のチョコは、そういう味。
俺という存在も、そういう人間でありたいと思ってる。
ふと、つぶやく。
「○○ちゃん……俺さ、思ったより君のこと、好きかもしれないな〜」
その"好き"は、恋愛じゃない。
所有でもない。
もっと曖昧で、もっと深くて、
もっと──逃げられない何か。
その一言で、心の奥にかすかな熱が灯った。
"こんなこと"。
その曖昧さが、実に都合が良かった。
彼女の中で"線引き"が曖昧になりつつあることの証だから。
(いいよ、○○ちゃん。こんなことは、もっとしていくからね)
笑顔のまま、「うん、もちろんだよ」と頷いて、カメラレンズを下ろす。
モデルとして手を借りただけ──それだけに見せかけて、
俺は、ひとつ"距離"を越えた。
カメラ越しに見る君の指先は、確かに美しくはなかったかもしれない。
爪は短く整えられ、色もなく、飾りもない。
でも、その"飾っていない素のまま"が、よかった。
着飾った他人じゃなくて、生活をそのまま背負ってる手。
(俺だけが気づいた、その良さ)
それが、彼女を"俺のものにしたい"と思った最初のきっかけだった。
撮影が終わって、チョコを渡す。
それも、選ばせるのではなく、"これが君の味"と定めて。
選ばせる自由を与えるふりをして、
選ばせないことで"意味"を植え付ける。
「……また感想、聞かせてね?」
渡した言葉はお礼なんかじゃない。
『次に会う理由』だ。
あのチョコは、まだ完成していない。
でももう、"完成させる気"はない。
彼女に会うたび、彼女の中にある新しい味を探して、
それを理由にまた会う。
それを繰り返して、何が"完成"なのかを曖昧にしていく。
終わりのない関係性のほうが、逃げられないから。
数日後、厨房で彼女の写真を確認しながら、
ふとスマホを手に取る。
(そろそろ……かな)
LINEではない。
電話番号でもない。
「DMでいいから、感想またくれると助かるんだけどな〜」
そう言って、あらかじめ彼女のスマホにSNSを開かせたのは撮影の翌日だった。
「アカウントないんだ〜? じゃあ、作るのちょっと手伝うよ」
作らせたのではない。
"誘導した"だけ。
そして数日後、通知に気づく。
"@siratorizawa__819"というアカウントからの、シンプルなメッセージ。
「例のチョコレート、食べました」
その一文だけで、じゅうぶんだった。
(うん、ちゃんと"連絡先"が手に入ったね)
彼女はそれを、"ただの報告"だと思っている。
でも俺にとっては、"連絡先を共有した"という事実が大きかった。
SNSでつながった以上、
俺はいつでも彼女に話しかけることができるし、
彼女も、俺を意識せざるを得ない。
返信はゆっくりにした。
既読をつけたまま、数時間は放置してから、こう返す。
「嬉しいな〜! でも、気になることあるんだよね。どんな気持ちのときに食べた?」
彼女の生活に、"感情"という切り口で入り込む。
"何をしたか"じゃなくて、"どう感じたか"を問う。
そこには、彼女の私生活や心理が滲む。
「ちょっと仕事で疲れてて……正直、味わえるような心の余裕はなかったかもです」
返ってきたその言葉に、唇の端がゆっくりと上がる。
(うんうん、そういうの、大事〜)
「そっか〜。でも、それも含めて大事だよ。どんなときに、どんな味が残るかってさ」
「ちなみに今週、また試作品出すんだけど……良かったら、お仕事帰りに寄ってく?」
さらっと、"生活に時間軸を被せていく"。
会う理由を"チョコ"にしながら、
彼女の"勤務時間帯"を把握しようとする。
何曜日に余裕があって、何時に通勤して、
どのくらい疲れていて、どの時間帯に空いているのか。
それを少しずつ拾って、形にしていく。
彼女の世界が、俺の中に地図として出来上がっていく感覚。
点と点が線になり、やがて囲いになっていく。
夜。
スマホの通知を切り、照明を落とした厨房で、手紙の文字をもう一度読み返す。
彼女が書いた言葉。
「味がわからないのに、心に残るなんて変ですよね」と書かれていた一節。
変じゃないよ。
"残る"ように作ったから。
俺のチョコは、そういう味。
俺という存在も、そういう人間でありたいと思ってる。
ふと、つぶやく。
「○○ちゃん……俺さ、思ったより君のこと、好きかもしれないな〜」
その"好き"は、恋愛じゃない。
所有でもない。
もっと曖昧で、もっと深くて、
もっと──逃げられない何か。
