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夢小説設定
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「えっ、モデル……ですか?」
耳を疑った。
最初は聞き間違いかと思った。
「うんうん、撮影っていっても、そんな大げさなもんじゃなくてね〜」
彼は笑いながらそう言ったけれど、意味がわからなかった。
だって私は──ただの、客だ。
何の取り柄もない、ただの派遣社員で、甘いものもそんなに得意じゃなくて。
「……あの、私、そういうのはちょっと……」
「顔出しとかはしないよ? 手元だけ。ほら、試作品のチョコと一緒に撮りたいんだ〜。きっかけになったの、君の感想だからさ」
(……"君の感想だから")
わたしの言葉が、きっかけ。
それは……確かに、悪い気はしなかった。
でも、でも……
(手、って……)
思わず自分の手を見る。
小さくもないし、きれいな形もしてない。
女の子らしいって言われたこともない。
仕事中に邪魔にならないよう、爪も短く切っていて、ネイルもしてない。
手荒れを気にしてハンドクリームを塗るけど、それも夜だけで、日中は乾いたままだ。
そんな手が、チョコの背景に映えるだなんて、思えなかった。
「私の手なんて、全然撮影向きじゃ……」
「そうかな〜? 俺、君の手、すごく好きだけど」
何気ない声だった。
柔らかくて、笑っていて、ただの思いつきみたいに聞こえた。
でも。
(……"好き"って、今……?)
ぐらっと視界が揺れたような気がした。
言葉の意味を問い返す勇気もなくて、ただ目を逸らす。
彼は気にした様子もなく、厨房の奥からカメラを取り出しながら続けた。
「ほんのちょっとだけでいいんだよ〜。試作品のイメージ用に撮るだけだから。ほら、ここにチョコ置いて、これを持つ感じで……」
自然な流れで、撮影スペースに案内された。
店の一角にある、白いテーブル。
少し柔らかな光が差し込む位置に、小さな皿とチョコレート。
まるで、何もかもが"もう決まってた"みたいだった。
「……ごめんなさい、やっぱり、私……」
断ろうとしたときだった。
彼は、ふと真顔になって、首を傾げた。
「そっか〜。……でも、俺、本当に嬉しかったんだよ? あんな丁寧な手紙。味だけじゃなくて、気持ちまで伝わってくる文章で……」
「"俺の世界を見てくれた人だ"って、思ったの。たぶん、あれから何人に感想聞かれても、あのチョコには手をつけなかったと思う」
静かな声だった。
今までの軽さと違って、ほんの少しだけ、熱があった。
「……そんなふうに言われたら、断りにくいじゃないですか」
やっと絞り出した声は、冗談にもなりきれなかった。
でも彼は、まるでそれを待っていたみたいに、笑った。
「じゃあ、お願いしちゃおうかな〜。ほら、これ持って、もう少し指先を柔らかくしてもらえると……」
言われるままに、チョコを持つ。
指先を揃えて、少し傾けて、光が当たる位置に合わせて。
不思議なことに、緊張はしているのに、どこか"無防備"になっていた。
レンズの奥から彼がこちらを覗いているのに、言葉は穏やかで、静かで。
だけど、その視線だけが、まるで手元じゃなく──
もっと奥の、何かを見ているような気がした。
数枚の撮影が終わって、ありがとうと告げられ、
紙袋に包まれたチョコを手渡された。
「今日はこのお礼〜。これ、ほんの少しだけど、また感想聞かせて?」
「……こんなことして、いいんですか?」
「いいに決まってるでしょ? だって俺、"君の味"を作ってるんだよ?」
また、そう言った。
笑顔のまま、自然なトーンで。
でも、どうしても、心の奥にひっかかった。
(……私の味?)
そんなもの、わたしは知らない。
でも彼は、それを作っているという。
"君の味を作る"
"君の手がいい"
"感想がきっかけ"
全部、優しい言葉。
でもそれがまるで、逃げられないように張り巡らされた蜘蛛の糸みたいに感じた。
でも私は笑ってしまった。
「じゃあ、また考えてみます」と。
その瞬間──彼の目が、一瞬だけ鋭く光った気がした。
耳を疑った。
最初は聞き間違いかと思った。
「うんうん、撮影っていっても、そんな大げさなもんじゃなくてね〜」
彼は笑いながらそう言ったけれど、意味がわからなかった。
だって私は──ただの、客だ。
何の取り柄もない、ただの派遣社員で、甘いものもそんなに得意じゃなくて。
「……あの、私、そういうのはちょっと……」
「顔出しとかはしないよ? 手元だけ。ほら、試作品のチョコと一緒に撮りたいんだ〜。きっかけになったの、君の感想だからさ」
(……"君の感想だから")
わたしの言葉が、きっかけ。
それは……確かに、悪い気はしなかった。
でも、でも……
(手、って……)
思わず自分の手を見る。
小さくもないし、きれいな形もしてない。
女の子らしいって言われたこともない。
仕事中に邪魔にならないよう、爪も短く切っていて、ネイルもしてない。
手荒れを気にしてハンドクリームを塗るけど、それも夜だけで、日中は乾いたままだ。
そんな手が、チョコの背景に映えるだなんて、思えなかった。
「私の手なんて、全然撮影向きじゃ……」
「そうかな〜? 俺、君の手、すごく好きだけど」
何気ない声だった。
柔らかくて、笑っていて、ただの思いつきみたいに聞こえた。
でも。
(……"好き"って、今……?)
ぐらっと視界が揺れたような気がした。
言葉の意味を問い返す勇気もなくて、ただ目を逸らす。
彼は気にした様子もなく、厨房の奥からカメラを取り出しながら続けた。
「ほんのちょっとだけでいいんだよ〜。試作品のイメージ用に撮るだけだから。ほら、ここにチョコ置いて、これを持つ感じで……」
自然な流れで、撮影スペースに案内された。
店の一角にある、白いテーブル。
少し柔らかな光が差し込む位置に、小さな皿とチョコレート。
まるで、何もかもが"もう決まってた"みたいだった。
「……ごめんなさい、やっぱり、私……」
断ろうとしたときだった。
彼は、ふと真顔になって、首を傾げた。
「そっか〜。……でも、俺、本当に嬉しかったんだよ? あんな丁寧な手紙。味だけじゃなくて、気持ちまで伝わってくる文章で……」
「"俺の世界を見てくれた人だ"って、思ったの。たぶん、あれから何人に感想聞かれても、あのチョコには手をつけなかったと思う」
静かな声だった。
今までの軽さと違って、ほんの少しだけ、熱があった。
「……そんなふうに言われたら、断りにくいじゃないですか」
やっと絞り出した声は、冗談にもなりきれなかった。
でも彼は、まるでそれを待っていたみたいに、笑った。
「じゃあ、お願いしちゃおうかな〜。ほら、これ持って、もう少し指先を柔らかくしてもらえると……」
言われるままに、チョコを持つ。
指先を揃えて、少し傾けて、光が当たる位置に合わせて。
不思議なことに、緊張はしているのに、どこか"無防備"になっていた。
レンズの奥から彼がこちらを覗いているのに、言葉は穏やかで、静かで。
だけど、その視線だけが、まるで手元じゃなく──
もっと奥の、何かを見ているような気がした。
数枚の撮影が終わって、ありがとうと告げられ、
紙袋に包まれたチョコを手渡された。
「今日はこのお礼〜。これ、ほんの少しだけど、また感想聞かせて?」
「……こんなことして、いいんですか?」
「いいに決まってるでしょ? だって俺、"君の味"を作ってるんだよ?」
また、そう言った。
笑顔のまま、自然なトーンで。
でも、どうしても、心の奥にひっかかった。
(……私の味?)
そんなもの、わたしは知らない。
でも彼は、それを作っているという。
"君の味を作る"
"君の手がいい"
"感想がきっかけ"
全部、優しい言葉。
でもそれがまるで、逃げられないように張り巡らされた蜘蛛の糸みたいに感じた。
でも私は笑ってしまった。
「じゃあ、また考えてみます」と。
その瞬間──彼の目が、一瞬だけ鋭く光った気がした。
