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街を焼かれたあの日から、
涙はとうに干からびた。
婚約者を殺したのは、旗印も鮮やかな海賊。
その日から、風の音さえ憎しみのざわめきに聞こえる。
この街は見捨てられた。
政府も、正義も、遠く海の向こう。 ただ毎月、奴らに差し出す金と物資と、時々の命だけが秩序だった。
そんな風に諦めた世界を――壊したのも、また海賊だった。
剣で前線を割り、斬撃一閃、すべてをなぎ払った男。 その背に掲げた海賊旗を見たとき、体の奥が冷たくなった。 違う。あのときの連中とは違う。
けれど、海賊であることには変わりない。
「……飲み物、頼めるか」
その声に振り返ると、あの男―― 緑の髪をした剣士が、壊れた長椅子にもたれ、空の酒瓶を手にしていた。
「……はい」
差し出した杯を手にしながら、男はほんの一瞬、目を細めた。
その視線は痛いほどまっすぐで、底知れなかった。 礼を言われ慣れていないような、そんな目をしていた。
それでも、彼に笑いかける気にはなれなかった。 この人たちが救ってくれたのは事実。
けれどその「事実」と、「感情」は、まるで別の場所にある。
宴は夜通し続いた。
陽が昇る頃には、酔いつぶれた人々が広場に転がりはじめる。
誰かの吐瀉物を洗い流し、空の皿を重ねていくと、 背後から――低く落ち着いた声がした。
「……憎いか?」
振り返ると、彼がいた。
さっきまで杯を手にしていた剣士。
「……ええ」
吐き出すように言って、それでもすぐにかぶりを振った。
「違う、すみません。こんなことを言っていい相手じゃないのに。……街を、救ってくれてありがとう」
「礼なんていらねェよ」
ぽつりと、彼は言った。
「……言いたいことがあるなら、無理に飲み込むな。ああいう顔で生きてると、どっかで壊れんぞ」
言葉を返す前に、手首をつかまれた。
一瞬、過去の記憶がよぎる。体が強張る。
だが、引きずり込まれた先――広場の裏手、石畳の裏路地には、人気がなかった。
「……慰め者にでもする気ですか?」
皮肉混じりに言った声が、自分でも驚くほど震えていた。
だが、彼は眉一つ動かさなかった。
「しねェよ。……ここなら、泣けるだろ。殴ってもいい。喚いてもいい。吐き出せ」
「………なんでもっと早く来てくれなかったのよ……!」
手が、勝手に動いた。拳が彼の胸を叩く。
それでも彼は動じず、ただその腕を受け止める。
まるで岩のように、硬く、温かい胸。
「……今さら誰を責めたって、戻らねェのはわかってる。でも、それでも、お前は……」
彼の声はそこで止まった。
何かを呑み込んだように、静かに、私を抱きしめるだけだった。
その温度が、あまりに人間らしくて――声をあげて泣いた。
朝、目を覚ました時には、彼はいなかった。
路地裏の石に、微かに残る体温。
駆け出して、港へ向かった。
「もう、出航の時間だ……!」
岸壁には、見慣れぬ海賊船。
そして、あの緑の髪が、ゆっくりとこちらを振り返る。
「ありがとう!!」
叫んだ声は、潮風に乗って、彼の耳に届いたのか。 彼ははほんの少し、片目を細めて――そして、手を軽く挙げた。
その背中は、二度と振り返らなかった。
でも私は、あの時、確かに救われたのだと思う。
遅すぎた救いでも、届いた心があった。
婚約者を殺したのは、旗印も鮮やかな海賊。
その日から、風の音さえ憎しみのざわめきに聞こえる。
この街は見捨てられた。
政府も、正義も、遠く海の向こう。 ただ毎月、奴らに差し出す金と物資と、時々の命だけが秩序だった。
そんな風に諦めた世界を――壊したのも、また海賊だった。
剣で前線を割り、斬撃一閃、すべてをなぎ払った男。 その背に掲げた海賊旗を見たとき、体の奥が冷たくなった。 違う。あのときの連中とは違う。
けれど、海賊であることには変わりない。
「……飲み物、頼めるか」
その声に振り返ると、あの男―― 緑の髪をした剣士が、壊れた長椅子にもたれ、空の酒瓶を手にしていた。
「……はい」
差し出した杯を手にしながら、男はほんの一瞬、目を細めた。
その視線は痛いほどまっすぐで、底知れなかった。 礼を言われ慣れていないような、そんな目をしていた。
それでも、彼に笑いかける気にはなれなかった。 この人たちが救ってくれたのは事実。
けれどその「事実」と、「感情」は、まるで別の場所にある。
宴は夜通し続いた。
陽が昇る頃には、酔いつぶれた人々が広場に転がりはじめる。
誰かの吐瀉物を洗い流し、空の皿を重ねていくと、 背後から――低く落ち着いた声がした。
「……憎いか?」
振り返ると、彼がいた。
さっきまで杯を手にしていた剣士。
「……ええ」
吐き出すように言って、それでもすぐにかぶりを振った。
「違う、すみません。こんなことを言っていい相手じゃないのに。……街を、救ってくれてありがとう」
「礼なんていらねェよ」
ぽつりと、彼は言った。
「……言いたいことがあるなら、無理に飲み込むな。ああいう顔で生きてると、どっかで壊れんぞ」
言葉を返す前に、手首をつかまれた。
一瞬、過去の記憶がよぎる。体が強張る。
だが、引きずり込まれた先――広場の裏手、石畳の裏路地には、人気がなかった。
「……慰め者にでもする気ですか?」
皮肉混じりに言った声が、自分でも驚くほど震えていた。
だが、彼は眉一つ動かさなかった。
「しねェよ。……ここなら、泣けるだろ。殴ってもいい。喚いてもいい。吐き出せ」
「………なんでもっと早く来てくれなかったのよ……!」
手が、勝手に動いた。拳が彼の胸を叩く。
それでも彼は動じず、ただその腕を受け止める。
まるで岩のように、硬く、温かい胸。
「……今さら誰を責めたって、戻らねェのはわかってる。でも、それでも、お前は……」
彼の声はそこで止まった。
何かを呑み込んだように、静かに、私を抱きしめるだけだった。
その温度が、あまりに人間らしくて――声をあげて泣いた。
朝、目を覚ました時には、彼はいなかった。
路地裏の石に、微かに残る体温。
駆け出して、港へ向かった。
「もう、出航の時間だ……!」
岸壁には、見慣れぬ海賊船。
そして、あの緑の髪が、ゆっくりとこちらを振り返る。
「ありがとう!!」
叫んだ声は、潮風に乗って、彼の耳に届いたのか。 彼ははほんの少し、片目を細めて――そして、手を軽く挙げた。
その背中は、二度と振り返らなかった。
でも私は、あの時、確かに救われたのだと思う。
遅すぎた救いでも、届いた心があった。
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