お相手宮田くんの原作沿い連載です
長編
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07 初観戦
翌日、バイト中のあたしの元に宮田くんが来てくれた。
ちょうど会計を済ませた客と入れ違うように宮田くんは入ってきて
そのままレジまでやって来た。
「わ、現役高校生」
学校帰りなのか、ワイシャツにネクタイという制服姿に
あたしは素直に声が出た。
「少し前まではアンタもそうだったんでしょ」
「それはそうだけど」
でも普段の宮田くんは大人びててとても年下とは思えないんだけど
こうしてみるとやっぱり高校生なんだよね。
あたしはえへへ、と笑って見せた。
「それよりこれ」
対照的に、現れた時からの仏頂面のままで
宮田くんはあたしの前に封筒を差し出した。
中身は確認しなくてもすぐにわかった。
あたしの顔が一気に緩む。
チケットだ!
「ありがとう!もーめちゃくちゃ張り切って応援するから!」
「だから応援はいいって。じゃ、オレこれからジムなんで」
「うん。忙しいのにわざわざありがとう。練習頑張ってね」
レジに背を向けたままあたしの声に応えるように小さく手を上げて
開いた自動ドアから出て行った。
そして試合当日。
生まれて初めて来た後楽園ホールに少し緊張しながら
あたしはチケットを手に、中へ急いだ。
ちょうど4試合目が始まった時だった。
宮田くんは5試合目と聞いていたので
間に合ってよかったと思いながら
あたしはチケットに記載されている席についた。
程なくして試合は終わり、次はいよいよ宮田くんの試合だ。
初めて味わう空気にあたしはとにかく落ち着かなかった。
ソワソワと辺りを見回してみると
いつのまにか目立ってた空席が観客で埋まっていた。
わぁっと一際大きな歓声に釣られて視線を向けると
そこにはいつもと違う、プロボクサーの顔をした宮田くんがいた。
グローブをはめた拳を軽く突き出しながらゆっくりとリングに向かう宮田くんに
会場の温度が上がったような気がする。
客席のあちこちが熱気を帯び、声援が行き交う。
根っからのボクシングファンらしき男の声に混じって
黄色い声援がやけに耳に付く。
確かプロデビューしてまだ3試合しかしてないのに
すごい人気あるんだ。
雑誌で取り上げられるのも納得・・・
色んな状況に圧倒され、不思議な気分になっていたが
リングに上がった宮田くんの姿があまりにも眩しくて、
その強烈すぎるインパクトに
あたしはすぐに宮田くんの事でいっぱいになった。
そして、彼の勝利をただ祈った。
あたしのボクシング初観戦は僅か3分足らずで終わってしまった。
激しい打ち合いの後、ホールにもの凄い音が響き
倒れた相手選手の傍に駆け寄ったレフリーが慌てて両手を交差させると
試合終了を告げるゴングが鳴り響いた。
大きな歓声に応えるように静かに右拳を掲げる宮田くんの姿を
あたしは食い入るように見つめた。
この気持ちをどう表現すればいいんだろう。
圧倒的な強さを見せつけ、悠然と佇むその姿に
あたしは言葉が見つからず、ただその身体を小さく震わせた。
メインイベントを含め、まだ他の試合が残っていたが
あたしは足早に席を後にし、1階のエレベーター付近で
宮田くんが出てくるのを待っていた。
もしかして、関係者出入口なんかが他にもあるのかな。
不安になりながら
もう何度目かのエレベーターが開いた時だった。
「あっ」
思わずこぼれたあたしの声に
降りてきた数人の視線が集まる。
「佐倉さん」
その中にスポーツバックを片手に持った宮田くんがいて
すぐにあたしに気付いた。
「なんだ一郎。彼女が来てたのか」
宮田くんのすぐそばにいた男の人が言った。
「そんなんじゃないよ、父さん」
ぅえええっ!父さん!?
あたしは思わず『父さん』と呼ばれた男の人を見る。
宮田くんとは全然違う感じの人だったけれど
意思の強そうな鋭い瞳は宮田くんのそれと同じだった。
「一郎くん、そんな事言っちゃ彼女に失礼じゃないか」
「この人はただのバイト先の人ですよ、木田さん」
そうなのか?という風に宮田くんのお父さんと木田さんと呼ばれた人がこっちを見たので
あたしは慌てて頭を下げて挨拶をした。
「はじめまして。佐倉と申します」
それから同じコンビニでアルバイトをしていて
宮田くんから仕事を教わったことを説明すると
さも意外だという風に宮田くんのお父さんが言った。
「一郎が教育係ねぇ・・・」
「店長に頼まれたんだから仕方ないだろ」
宮田くんが溜息混じりに言うと
横で木田さんがあたしの方をチラリと見た。
「だけど一郎くんが知り合いを試合に呼ぶなんて初めてなんじゃないかな」
含んだ言い方の木田さんに、
宮田くんが間髪入れずに反論する。
「呼んだんじゃなくて脅されたんですよ。呼ばなきゃボクシングやってる事言いふらすって」
宮田くんの一方的な言い方に
今度はあたしが反論した。
「ちょっ、脅すって、人聞き悪いこと言わないでよね!あたしはただ・・・」
「なんだよ、本当の事だろ」
「まぁまぁ二人とも落ち着いて。こんなとこで騒いだら迷惑だぞ」
エレベーター前で言い合いになりそうだったあたし達を
苦笑まじりで宮田くんのお父さんが止めに入った。
気付けば通行する人が遠巻きにコチラを見ていて
あたしと宮田くんは慌てて口をつぐんだ。
「じゃ、落ち着いたところで今日はここで解散するとしよう。
一郎、明日ジムの方に顔出せるな?」
トレーナーとしての父の言葉に
選手として宮田くんは頷いた。
「今日は大して打たれてないから大丈夫だよ」
「そうか。でも帰ってゆっくり休むんだぞ」
「わかってるよ、父さん」
「それじゃ、私達はこれで」
軽く会釈されてあたしも慌てて頭を下げると
宮田くんのお父さんと木田さんは
あたしと宮田くんを置いて帰ってしまった。
ようやく宮田くんと2人になった途端、
その現実にあたしは急に緊張してしまった。
お父さん達を見送る宮田くんの頬はまだ少し上気していて
いつもは整った前髪が、今日は若干乱れていた。
スポーツバックを持つ腕は逞しく
いつもバイト先で一緒に働いている宮田くんとは似て非なる人に思えた。
さっきは思わぬことで言い合いになりそうになって出足をくじかれたけど
本当は、おめでとうを伝えて、それから・・・
「じゃ」
あれこれ想いを巡らすあたしに気付くわけもなく
短く言って宮田くんはスタスタと歩き出してしまった。
「あっ・・・うん」
どうしていいのかわからないあたしは
そんな間抜けな返事をしてその場に立ち尽くしてしまった。
と、見送る背中が立ち止まり、
クルリと振り返る。
いつもの、無愛想な宮田くん。
「何やってんだよ」
「へ?」
「へ?じゃねぇよ。帰るんだろ。はやく来いよ」
そう言って手を差し出す・・・なんて事は絶対にあり得ないんだけど
それでも明らかに隣を空けて待ってくれている宮田くんに
あたしはものすごく嬉しくなって駆け寄った。
「・・・・・・うん!」
2008/12/14 PCUP
+++++atogaki+++++
コミック4巻、一歩と鷹村さんが観に行った試合です。
原作では一歩と久美ちゃんが初めて会った時じゃなかったっけ。
アレ?パン屋で会うのが最初やったっけ??
翌日、バイト中のあたしの元に宮田くんが来てくれた。
ちょうど会計を済ませた客と入れ違うように宮田くんは入ってきて
そのままレジまでやって来た。
「わ、現役高校生」
学校帰りなのか、ワイシャツにネクタイという制服姿に
あたしは素直に声が出た。
「少し前まではアンタもそうだったんでしょ」
「それはそうだけど」
でも普段の宮田くんは大人びててとても年下とは思えないんだけど
こうしてみるとやっぱり高校生なんだよね。
あたしはえへへ、と笑って見せた。
「それよりこれ」
対照的に、現れた時からの仏頂面のままで
宮田くんはあたしの前に封筒を差し出した。
中身は確認しなくてもすぐにわかった。
あたしの顔が一気に緩む。
チケットだ!
「ありがとう!もーめちゃくちゃ張り切って応援するから!」
「だから応援はいいって。じゃ、オレこれからジムなんで」
「うん。忙しいのにわざわざありがとう。練習頑張ってね」
レジに背を向けたままあたしの声に応えるように小さく手を上げて
開いた自動ドアから出て行った。
そして試合当日。
生まれて初めて来た後楽園ホールに少し緊張しながら
あたしはチケットを手に、中へ急いだ。
ちょうど4試合目が始まった時だった。
宮田くんは5試合目と聞いていたので
間に合ってよかったと思いながら
あたしはチケットに記載されている席についた。
程なくして試合は終わり、次はいよいよ宮田くんの試合だ。
初めて味わう空気にあたしはとにかく落ち着かなかった。
ソワソワと辺りを見回してみると
いつのまにか目立ってた空席が観客で埋まっていた。
わぁっと一際大きな歓声に釣られて視線を向けると
そこにはいつもと違う、プロボクサーの顔をした宮田くんがいた。
グローブをはめた拳を軽く突き出しながらゆっくりとリングに向かう宮田くんに
会場の温度が上がったような気がする。
客席のあちこちが熱気を帯び、声援が行き交う。
根っからのボクシングファンらしき男の声に混じって
黄色い声援がやけに耳に付く。
確かプロデビューしてまだ3試合しかしてないのに
すごい人気あるんだ。
雑誌で取り上げられるのも納得・・・
色んな状況に圧倒され、不思議な気分になっていたが
リングに上がった宮田くんの姿があまりにも眩しくて、
その強烈すぎるインパクトに
あたしはすぐに宮田くんの事でいっぱいになった。
そして、彼の勝利をただ祈った。
あたしのボクシング初観戦は僅か3分足らずで終わってしまった。
激しい打ち合いの後、ホールにもの凄い音が響き
倒れた相手選手の傍に駆け寄ったレフリーが慌てて両手を交差させると
試合終了を告げるゴングが鳴り響いた。
大きな歓声に応えるように静かに右拳を掲げる宮田くんの姿を
あたしは食い入るように見つめた。
この気持ちをどう表現すればいいんだろう。
圧倒的な強さを見せつけ、悠然と佇むその姿に
あたしは言葉が見つからず、ただその身体を小さく震わせた。
メインイベントを含め、まだ他の試合が残っていたが
あたしは足早に席を後にし、1階のエレベーター付近で
宮田くんが出てくるのを待っていた。
もしかして、関係者出入口なんかが他にもあるのかな。
不安になりながら
もう何度目かのエレベーターが開いた時だった。
「あっ」
思わずこぼれたあたしの声に
降りてきた数人の視線が集まる。
「佐倉さん」
その中にスポーツバックを片手に持った宮田くんがいて
すぐにあたしに気付いた。
「なんだ一郎。彼女が来てたのか」
宮田くんのすぐそばにいた男の人が言った。
「そんなんじゃないよ、父さん」
ぅえええっ!父さん!?
あたしは思わず『父さん』と呼ばれた男の人を見る。
宮田くんとは全然違う感じの人だったけれど
意思の強そうな鋭い瞳は宮田くんのそれと同じだった。
「一郎くん、そんな事言っちゃ彼女に失礼じゃないか」
「この人はただのバイト先の人ですよ、木田さん」
そうなのか?という風に宮田くんのお父さんと木田さんと呼ばれた人がこっちを見たので
あたしは慌てて頭を下げて挨拶をした。
「はじめまして。佐倉と申します」
それから同じコンビニでアルバイトをしていて
宮田くんから仕事を教わったことを説明すると
さも意外だという風に宮田くんのお父さんが言った。
「一郎が教育係ねぇ・・・」
「店長に頼まれたんだから仕方ないだろ」
宮田くんが溜息混じりに言うと
横で木田さんがあたしの方をチラリと見た。
「だけど一郎くんが知り合いを試合に呼ぶなんて初めてなんじゃないかな」
含んだ言い方の木田さんに、
宮田くんが間髪入れずに反論する。
「呼んだんじゃなくて脅されたんですよ。呼ばなきゃボクシングやってる事言いふらすって」
宮田くんの一方的な言い方に
今度はあたしが反論した。
「ちょっ、脅すって、人聞き悪いこと言わないでよね!あたしはただ・・・」
「なんだよ、本当の事だろ」
「まぁまぁ二人とも落ち着いて。こんなとこで騒いだら迷惑だぞ」
エレベーター前で言い合いになりそうだったあたし達を
苦笑まじりで宮田くんのお父さんが止めに入った。
気付けば通行する人が遠巻きにコチラを見ていて
あたしと宮田くんは慌てて口をつぐんだ。
「じゃ、落ち着いたところで今日はここで解散するとしよう。
一郎、明日ジムの方に顔出せるな?」
トレーナーとしての父の言葉に
選手として宮田くんは頷いた。
「今日は大して打たれてないから大丈夫だよ」
「そうか。でも帰ってゆっくり休むんだぞ」
「わかってるよ、父さん」
「それじゃ、私達はこれで」
軽く会釈されてあたしも慌てて頭を下げると
宮田くんのお父さんと木田さんは
あたしと宮田くんを置いて帰ってしまった。
ようやく宮田くんと2人になった途端、
その現実にあたしは急に緊張してしまった。
お父さん達を見送る宮田くんの頬はまだ少し上気していて
いつもは整った前髪が、今日は若干乱れていた。
スポーツバックを持つ腕は逞しく
いつもバイト先で一緒に働いている宮田くんとは似て非なる人に思えた。
さっきは思わぬことで言い合いになりそうになって出足をくじかれたけど
本当は、おめでとうを伝えて、それから・・・
「じゃ」
あれこれ想いを巡らすあたしに気付くわけもなく
短く言って宮田くんはスタスタと歩き出してしまった。
「あっ・・・うん」
どうしていいのかわからないあたしは
そんな間抜けな返事をしてその場に立ち尽くしてしまった。
と、見送る背中が立ち止まり、
クルリと振り返る。
いつもの、無愛想な宮田くん。
「何やってんだよ」
「へ?」
「へ?じゃねぇよ。帰るんだろ。はやく来いよ」
そう言って手を差し出す・・・なんて事は絶対にあり得ないんだけど
それでも明らかに隣を空けて待ってくれている宮田くんに
あたしはものすごく嬉しくなって駆け寄った。
「・・・・・・うん!」
2008/12/14 PCUP
+++++atogaki+++++
コミック4巻、一歩と鷹村さんが観に行った試合です。
原作では一歩と久美ちゃんが初めて会った時じゃなかったっけ。
アレ?パン屋で会うのが最初やったっけ??