お相手宮田くんの原作沿い連載です
長編
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40 悩める気持ち
少しの間、あたしに店番を任せて木村さんは店の奥に消えてしまった。
木村さんのいない間、幸いお客さんが来ることもなく、
あたしが大人しく待っていると、
両手にマグカップを持った木村さんが戻ってきた。
「どうぞ」と渡されたカップには紅茶が入っていた。
「ありがとうございます」
受け取って、木村さんが座ってから口を付ける。
「美味しい!」
木村さんの淹れてくれるお茶はカサカサになったあたしの心をいつも潤わせてくれる。
「前にご馳走になったハーブティーも美味しかったですけど、木村さん、お茶淹れるの上手なんですね」
「ありがと。ちょっとは元気になった?」
よかったと言わんばかりの笑顔。
つられてあたしも顔が綻んだ。
「なんか悩みでもあるんだったら聞くけど?」
カップに口をつけながら、あたしの心の動きを察してサラッと聞いてくる。その優しさに少し甘えたくなった。
「あの……宮田くんって、どうして一人暮らしなのか木村さんご存知ですか?」
「え?……さぁ……鴨川ジムにいた頃は親父さんと二人で暮らしてるって聞いてたけど」
「そうですか……」
「何?そんなことが知りたくて悩んでんの?本人に聞けばいいじゃん」
「まぁ……そうなんですけど」
本人に聞けなかった理由を上手く説明できなくて、
あたしは口ごもってしまった。
両手で持ったマグカップからじんわり熱が伝わる。
「聞きにくいんなら鷹村さんか会長にでも聞いてあげようか?」
「あっ、いえ。別にそこまではいいんです」
言葉が繋がらなくなったあたしに木村さんが助け舟を出してくれる。あたしはそれを慌てて否定する。
「でも気になってるんだろ?」
話し始めてみたものの、木村さんはイマイチ意図がわからない様子で、それでもひとつずつ丁寧に聞こうとしてくれる気持ちは十分に伝わってきた。
宮田くんのいなかった一年間、前向きに考えられるキッカケをくれたのは木村さんだった。
その後も店に立ち寄るたびに話し相手になってくれて、随分と助けてもらった。
木村さんに話すことで、何か見えてくるかもしれない。
「…………あたし、宮田くんのこと、色々知ったつもりでいたけど、本当は何も知らないんだなって」
木村さんは何も言わないで話を聞いてくれている。
あたしは言葉を続けた。
「元々鴨川ジムにいたことも幕之内くんとの約束のことも、結局周りから聞いたことばっかりで、宮田くん本人からはあたし、何も聞いてないんです」
ずっと心の中で思ってたことを初めて言葉に出してみて
それが事実であることを改めて痛感する。
ちょっと、悲しくなってきた。
あたし今、すっごい情けない顔してるんだろうなぁ。
「復帰戦、見に来て欲しかった、なんて言われてちょっと浮かれ過ぎてました」
自嘲気味に笑って顔を上げると、この上なく驚いた顔の木村さんと目が合った。
「木村さん?」
「…ちょっと待って澪ちゃん。宮田が、見に来て欲しいって言ったの?」
「はい。チケット代払うって言っても全然受け取ってくれなくて」
「大丈夫だ、澪ちゃん」
驚いてるかと思えば、急に自信ありげにそんなことを言われて、あたしは少し混乱した。
「オレ、宮田のことはあいつが中坊の時から知ってるけど、ボクシングはあんなにスゲェのに、それ以外はホントからっきしダメだから!」
「ぇえっ?どういうことですか」
「不器用なんだよ、不器用」
そう言ってなんだか楽しげな木村さん。
「そうかなぁ……」
「まぁ気持ちはわかるけど、そんなに焦んなくてもいいんじゃない?やっと戻ってきてこれからは一緒に居れるわけだし。少しずつ距離を縮めていけば自ずとそういう不安もなくなるんじゃないかな」
木村さんの言葉にハッとなる。
焦ってる……つもりはなかったけれど、今まで離れていた分いつでも会えるという事実に、欲張りな気持ちが芽生えていたのかもしれない。
「ありがとうございます。なんか、ちょっとモヤモヤが晴れてきたかもです」
初めてここでハーブティーをご馳走になった時もゆっくり話を聞いてくれて、気持ちを整理する言葉をくれた。
優しくて、寄り添ってくれて、本当に素敵な人だ。
「木村さんってめっちゃいい人ですよね。本当に彼女いないんですか?」
穏やかな笑顔から一変、ウッと苦虫を噛み潰したような顔になったけど、それはまたすぐに笑みに変わった。
「えっ?!もしかしてできたんですか、彼女??」
以前から青木さんにはトミ子さんっていう看護師の彼女がいるのは聞いていたけれど、木村さんは全然彼女ができなくてよく愚痴っているのを聞いていた。木村さんの反応に期待が高まる。
「彼女ってわけじゃないけど、ずっと気になってた子がいて、今度の試合友達と観に来てくれることになったんだ」
少し照れくさそうな木村さん。
あたしはなんだか嬉しくなってきた。
「やったじゃないですか!!あ、あたしもその試合応援に行きます!」
もともと幕之内くんの再起戦なので宮田くんと観に行く予定だった。
「ありがと。まぁ一歩の再起戦だから元々宮田と来る予定だったんだろ」
ニヤッとした顔で図星をつかれる。
あたしはイタズラがばれた子供みたいに笑った。
それから木村さんのお相手のれーコさんの話を聞いたり、青木さんの“幻のメインイベンター”のことや再起戦を控えた幕之内くんの話をして、木村園芸でのティータイムは終わった。
2025/09/13 UP
+++atogaki+++
困った時の木村さん(笑)
少しの間、あたしに店番を任せて木村さんは店の奥に消えてしまった。
木村さんのいない間、幸いお客さんが来ることもなく、
あたしが大人しく待っていると、
両手にマグカップを持った木村さんが戻ってきた。
「どうぞ」と渡されたカップには紅茶が入っていた。
「ありがとうございます」
受け取って、木村さんが座ってから口を付ける。
「美味しい!」
木村さんの淹れてくれるお茶はカサカサになったあたしの心をいつも潤わせてくれる。
「前にご馳走になったハーブティーも美味しかったですけど、木村さん、お茶淹れるの上手なんですね」
「ありがと。ちょっとは元気になった?」
よかったと言わんばかりの笑顔。
つられてあたしも顔が綻んだ。
「なんか悩みでもあるんだったら聞くけど?」
カップに口をつけながら、あたしの心の動きを察してサラッと聞いてくる。その優しさに少し甘えたくなった。
「あの……宮田くんって、どうして一人暮らしなのか木村さんご存知ですか?」
「え?……さぁ……鴨川ジムにいた頃は親父さんと二人で暮らしてるって聞いてたけど」
「そうですか……」
「何?そんなことが知りたくて悩んでんの?本人に聞けばいいじゃん」
「まぁ……そうなんですけど」
本人に聞けなかった理由を上手く説明できなくて、
あたしは口ごもってしまった。
両手で持ったマグカップからじんわり熱が伝わる。
「聞きにくいんなら鷹村さんか会長にでも聞いてあげようか?」
「あっ、いえ。別にそこまではいいんです」
言葉が繋がらなくなったあたしに木村さんが助け舟を出してくれる。あたしはそれを慌てて否定する。
「でも気になってるんだろ?」
話し始めてみたものの、木村さんはイマイチ意図がわからない様子で、それでもひとつずつ丁寧に聞こうとしてくれる気持ちは十分に伝わってきた。
宮田くんのいなかった一年間、前向きに考えられるキッカケをくれたのは木村さんだった。
その後も店に立ち寄るたびに話し相手になってくれて、随分と助けてもらった。
木村さんに話すことで、何か見えてくるかもしれない。
「…………あたし、宮田くんのこと、色々知ったつもりでいたけど、本当は何も知らないんだなって」
木村さんは何も言わないで話を聞いてくれている。
あたしは言葉を続けた。
「元々鴨川ジムにいたことも幕之内くんとの約束のことも、結局周りから聞いたことばっかりで、宮田くん本人からはあたし、何も聞いてないんです」
ずっと心の中で思ってたことを初めて言葉に出してみて
それが事実であることを改めて痛感する。
ちょっと、悲しくなってきた。
あたし今、すっごい情けない顔してるんだろうなぁ。
「復帰戦、見に来て欲しかった、なんて言われてちょっと浮かれ過ぎてました」
自嘲気味に笑って顔を上げると、この上なく驚いた顔の木村さんと目が合った。
「木村さん?」
「…ちょっと待って澪ちゃん。宮田が、見に来て欲しいって言ったの?」
「はい。チケット代払うって言っても全然受け取ってくれなくて」
「大丈夫だ、澪ちゃん」
驚いてるかと思えば、急に自信ありげにそんなことを言われて、あたしは少し混乱した。
「オレ、宮田のことはあいつが中坊の時から知ってるけど、ボクシングはあんなにスゲェのに、それ以外はホントからっきしダメだから!」
「ぇえっ?どういうことですか」
「不器用なんだよ、不器用」
そう言ってなんだか楽しげな木村さん。
「そうかなぁ……」
「まぁ気持ちはわかるけど、そんなに焦んなくてもいいんじゃない?やっと戻ってきてこれからは一緒に居れるわけだし。少しずつ距離を縮めていけば自ずとそういう不安もなくなるんじゃないかな」
木村さんの言葉にハッとなる。
焦ってる……つもりはなかったけれど、今まで離れていた分いつでも会えるという事実に、欲張りな気持ちが芽生えていたのかもしれない。
「ありがとうございます。なんか、ちょっとモヤモヤが晴れてきたかもです」
初めてここでハーブティーをご馳走になった時もゆっくり話を聞いてくれて、気持ちを整理する言葉をくれた。
優しくて、寄り添ってくれて、本当に素敵な人だ。
「木村さんってめっちゃいい人ですよね。本当に彼女いないんですか?」
穏やかな笑顔から一変、ウッと苦虫を噛み潰したような顔になったけど、それはまたすぐに笑みに変わった。
「えっ?!もしかしてできたんですか、彼女??」
以前から青木さんにはトミ子さんっていう看護師の彼女がいるのは聞いていたけれど、木村さんは全然彼女ができなくてよく愚痴っているのを聞いていた。木村さんの反応に期待が高まる。
「彼女ってわけじゃないけど、ずっと気になってた子がいて、今度の試合友達と観に来てくれることになったんだ」
少し照れくさそうな木村さん。
あたしはなんだか嬉しくなってきた。
「やったじゃないですか!!あ、あたしもその試合応援に行きます!」
もともと幕之内くんの再起戦なので宮田くんと観に行く予定だった。
「ありがと。まぁ一歩の再起戦だから元々宮田と来る予定だったんだろ」
ニヤッとした顔で図星をつかれる。
あたしはイタズラがばれた子供みたいに笑った。
それから木村さんのお相手のれーコさんの話を聞いたり、青木さんの“幻のメインイベンター”のことや再起戦を控えた幕之内くんの話をして、木村園芸でのティータイムは終わった。
2025/09/13 UP
+++atogaki+++
困った時の木村さん(笑)