お相手宮田くんの原作沿い連載です
長編
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36 決死のお願い
試合の翌日に店長から聞いた祝勝会の話と、久しぶりに会った元バイト仲間の彼女の話。
宮田くんのいない一年間、鴨川ジムの皆の試合を観に行って、勝った時には祝勝会に何度か誘われたこともあった。
でもその時は部外者が同席するのもどうかと思って遠慮したんだけれど、試合に勝つと祝勝会はするものだと思ってた。
だけど店長の口ぶりからして、宮田くんはそういう類のは全部断ってるような気がする。
だからあたしごときが祝勝会なんて、ちょっと厚かましい気もする。
祝勝会は却下ということにして。
料理は全くできなかったけれど栄養学の勉強もして、この一年で自分で言うのも何だけどかなり頑張って上達したと思う。
その成果を見てもらいたい、という気持ちがないわけじゃない。
だけど手料理を振舞うとなると部屋にお招きしないといけない。
お弁当というテもあるけど、一緒に出掛けたのならまだしも、そうじゃないなら、なんか押し付けがましいし。
だからっていきなり部屋に誘ったら、きっと宮田くんビックリするだろうし、何よりあたしにそんな度胸はない。
でも。
料理ができるようになったところは見てもらいたいという願望はある。
きっと宮田くんは、あたしは料理のできない女と思ってるだろうから。間違いなく。
そして決心がついた2日後。
宮田くんがバイトに復帰した。
先に出勤していた宮田くんはあたしが行くなり「ご迷惑おかけしました」と、いつもの挨拶をされた。
宮田くんは試合前後に長期で休みを取るため試合の後の最初の出勤ではいつも皆にこうして挨拶をする。
普段ならなんでもないことなのに、今日のあたしは宮田くんに話しかけられるだけで必要以上に意識してしまって、どこかぎこちない返事しか返せなかった。
そんなあたしを宮田くんはどう思ってるのかわからないけれど、特別何かを言われるでもなく、いつもと変わらない様子で仕事に戻った。
仕事に関しては表向き平静を装い、大きな失敗もなく淡々とこなしていた。
だけど内心は、いつ話を切り出そうかそればかりが気になって、あたしはとてつもなく落ち着きがなかった。
納品があり、届いたおにぎりを並べる宮田くんの隣で、あたしはどこか集中できないままスィーツを並べてる。
「・・・さん、佐倉さん!」
「はいっ?!」
呼ばれた名前に必要以上の大きな声で返事する。
宮田くんからはもうずっと『澪さん』と呼ばれているけれど、バイト先では今も『佐倉さん』だ。
「何?どしたの?」
「それ、和菓子はレジ前ですよ」
「へっ?!」
見ればあたしはシュークリームと一緒に大福餅を並べていた。
「わぁっ、ごめん!」
慌てて大福餅を避けると、今日初めて宮田くんと目が合った。
.
「どうしたんですか、来てからずっとボーっとしてますよ」
「あ、そうかな?ごめ・・・」
「まぁボーっとしてんのはいつもの事だけど」
ポツリと呟いて何事もなかったようにおにぎりを並べる宮田くんに、あたしのプリンを並べる手が止まる。
「ちょっと、それどういう意味?」
「言葉通りですよ」
聞き返すあたしにサラリと言って、おにぎりを並べる手は休めず視線だけをチラリとあたしに向け、さも当然とばかりの宮田くん。
「ムカつくー!」と表情付きで言うと小さく笑う宮田くんに、あたしの落ち着かなかった心がみるみる穏やかになる。
―――やっぱり、宮田くんの隣りは居心地いい
あたしは小さく息をのんで、覚悟を決めた。
心臓、落ち着け。
声、震えないで。
「あ、あのさっ」
「何ですか?」
「うちにね、ごはん食べに来ない?」
「は?」
それまで順調に動いていた宮田くんの手が止まった。
「あ、あれ?何か固まってる?」
「イヤ、固まるだろ、普通。ていうか、突然何なんですか、一体」
おにぎりを持ったまま感情を隠そうともしない、怪訝な顔で宮田くんが聞き返す。
「だからね、祝勝会っていうか・・・」
「いいですよ、そんなの」
「じゃあチケットのお礼」
「・・・!だから、それはもういいって言っただろ」
『チケット』という単語に語尾を荒げ、必要以上の反応をする宮田くん。
自分で言ったにも関わらず、思わずあたしも顔が熱くなる。
きっと、あたしと宮田くんは同じ事を思い出してる。
慌ててかき消し、言葉を続けようしたけれど上手く出てこない。
「う、うん、そうなんだけどね、あの、うん、でも・・・」
あーもう、なんかまどろっこしくなってきた!
「あのね、もう材料買ったから!来てくれないとすごーく困るから!」
言い切った自分に万歳三唱。
あとは宮田くんの返事を聞く・・・はずなんだけど、何故か宮田くんはあたしの予想もしなかった答えを返してきた。
「は?材料買ったって・・・まさか手料理ですか?!」
「い、家に呼ぶんだもん、当たり前でしょ・・・って」
あたしが言い終えるより前に宮田くんの顔があからさまに歪む。
「ちょっと、何その顔」
「・・・いえ」
「その顔はあたしを料理もできないダメ女と思ってる」
「・・・いや、ダメ女とは思ってないけど」
「けど?」
「と、とにかく祝勝会なんてしなくていいし、オレそんな食わないし」
慌てて仕事に戻ろうとする宮田くん。
ここまで誘っといて、もう後には引けない。
「じゃあ、名誉挽回のため」
「名誉挽回?」
「わかってるよ、宮田くんからそんな風に思われてるのは。だからこそ、名誉挽回するためには宮田くんに食べてもらうしかないから!」
片やプリン、片やおにぎりを持ったまま向き合うふたり。
一切引く気配のないあたしに観念したのか、宮田くんは溜息をついて肩を落とした。
「・・・・わかりました。いつ行けばいいですか?」
「え?いいの?」
「仕方ないだろ、材料無駄にすんのも悪ィし・・・」
そして宮田くんはもう一度小さな溜息をついたけど、OKの返事を貰った今では全く気にならない。
「じゃあさ、宮田くん、いつだったら都合いい?」
「基本的に夜はジムに行くから・・・明後日の昼ならバイトまで時間あるけど」
「じゃ明後日ね!」
弾む声のあたしとは対照的に、まだ複雑な表情の宮田くん。
「・・・行く前に連絡入れます」
「うん!待ってるね!」
意気揚々と仕事を再開するあたしの隣で『胃薬・・・』と呟いた宮田くんの声は、店内に流れる有線にかき消されてあたしの耳には届かなかった。
2011/04/19 UP
+++++atogaki+++++
ようやっと宮田くん登場です(苦笑)
.
.
試合の翌日に店長から聞いた祝勝会の話と、久しぶりに会った元バイト仲間の彼女の話。
宮田くんのいない一年間、鴨川ジムの皆の試合を観に行って、勝った時には祝勝会に何度か誘われたこともあった。
でもその時は部外者が同席するのもどうかと思って遠慮したんだけれど、試合に勝つと祝勝会はするものだと思ってた。
だけど店長の口ぶりからして、宮田くんはそういう類のは全部断ってるような気がする。
だからあたしごときが祝勝会なんて、ちょっと厚かましい気もする。
祝勝会は却下ということにして。
料理は全くできなかったけれど栄養学の勉強もして、この一年で自分で言うのも何だけどかなり頑張って上達したと思う。
その成果を見てもらいたい、という気持ちがないわけじゃない。
だけど手料理を振舞うとなると部屋にお招きしないといけない。
お弁当というテもあるけど、一緒に出掛けたのならまだしも、そうじゃないなら、なんか押し付けがましいし。
だからっていきなり部屋に誘ったら、きっと宮田くんビックリするだろうし、何よりあたしにそんな度胸はない。
でも。
料理ができるようになったところは見てもらいたいという願望はある。
きっと宮田くんは、あたしは料理のできない女と思ってるだろうから。間違いなく。
そして決心がついた2日後。
宮田くんがバイトに復帰した。
先に出勤していた宮田くんはあたしが行くなり「ご迷惑おかけしました」と、いつもの挨拶をされた。
宮田くんは試合前後に長期で休みを取るため試合の後の最初の出勤ではいつも皆にこうして挨拶をする。
普段ならなんでもないことなのに、今日のあたしは宮田くんに話しかけられるだけで必要以上に意識してしまって、どこかぎこちない返事しか返せなかった。
そんなあたしを宮田くんはどう思ってるのかわからないけれど、特別何かを言われるでもなく、いつもと変わらない様子で仕事に戻った。
仕事に関しては表向き平静を装い、大きな失敗もなく淡々とこなしていた。
だけど内心は、いつ話を切り出そうかそればかりが気になって、あたしはとてつもなく落ち着きがなかった。
納品があり、届いたおにぎりを並べる宮田くんの隣で、あたしはどこか集中できないままスィーツを並べてる。
「・・・さん、佐倉さん!」
「はいっ?!」
呼ばれた名前に必要以上の大きな声で返事する。
宮田くんからはもうずっと『澪さん』と呼ばれているけれど、バイト先では今も『佐倉さん』だ。
「何?どしたの?」
「それ、和菓子はレジ前ですよ」
「へっ?!」
見ればあたしはシュークリームと一緒に大福餅を並べていた。
「わぁっ、ごめん!」
慌てて大福餅を避けると、今日初めて宮田くんと目が合った。
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「どうしたんですか、来てからずっとボーっとしてますよ」
「あ、そうかな?ごめ・・・」
「まぁボーっとしてんのはいつもの事だけど」
ポツリと呟いて何事もなかったようにおにぎりを並べる宮田くんに、あたしのプリンを並べる手が止まる。
「ちょっと、それどういう意味?」
「言葉通りですよ」
聞き返すあたしにサラリと言って、おにぎりを並べる手は休めず視線だけをチラリとあたしに向け、さも当然とばかりの宮田くん。
「ムカつくー!」と表情付きで言うと小さく笑う宮田くんに、あたしの落ち着かなかった心がみるみる穏やかになる。
―――やっぱり、宮田くんの隣りは居心地いい
あたしは小さく息をのんで、覚悟を決めた。
心臓、落ち着け。
声、震えないで。
「あ、あのさっ」
「何ですか?」
「うちにね、ごはん食べに来ない?」
「は?」
それまで順調に動いていた宮田くんの手が止まった。
「あ、あれ?何か固まってる?」
「イヤ、固まるだろ、普通。ていうか、突然何なんですか、一体」
おにぎりを持ったまま感情を隠そうともしない、怪訝な顔で宮田くんが聞き返す。
「だからね、祝勝会っていうか・・・」
「いいですよ、そんなの」
「じゃあチケットのお礼」
「・・・!だから、それはもういいって言っただろ」
『チケット』という単語に語尾を荒げ、必要以上の反応をする宮田くん。
自分で言ったにも関わらず、思わずあたしも顔が熱くなる。
きっと、あたしと宮田くんは同じ事を思い出してる。
慌ててかき消し、言葉を続けようしたけれど上手く出てこない。
「う、うん、そうなんだけどね、あの、うん、でも・・・」
あーもう、なんかまどろっこしくなってきた!
「あのね、もう材料買ったから!来てくれないとすごーく困るから!」
言い切った自分に万歳三唱。
あとは宮田くんの返事を聞く・・・はずなんだけど、何故か宮田くんはあたしの予想もしなかった答えを返してきた。
「は?材料買ったって・・・まさか手料理ですか?!」
「い、家に呼ぶんだもん、当たり前でしょ・・・って」
あたしが言い終えるより前に宮田くんの顔があからさまに歪む。
「ちょっと、何その顔」
「・・・いえ」
「その顔はあたしを料理もできないダメ女と思ってる」
「・・・いや、ダメ女とは思ってないけど」
「けど?」
「と、とにかく祝勝会なんてしなくていいし、オレそんな食わないし」
慌てて仕事に戻ろうとする宮田くん。
ここまで誘っといて、もう後には引けない。
「じゃあ、名誉挽回のため」
「名誉挽回?」
「わかってるよ、宮田くんからそんな風に思われてるのは。だからこそ、名誉挽回するためには宮田くんに食べてもらうしかないから!」
片やプリン、片やおにぎりを持ったまま向き合うふたり。
一切引く気配のないあたしに観念したのか、宮田くんは溜息をついて肩を落とした。
「・・・・わかりました。いつ行けばいいですか?」
「え?いいの?」
「仕方ないだろ、材料無駄にすんのも悪ィし・・・」
そして宮田くんはもう一度小さな溜息をついたけど、OKの返事を貰った今では全く気にならない。
「じゃあさ、宮田くん、いつだったら都合いい?」
「基本的に夜はジムに行くから・・・明後日の昼ならバイトまで時間あるけど」
「じゃ明後日ね!」
弾む声のあたしとは対照的に、まだ複雑な表情の宮田くん。
「・・・行く前に連絡入れます」
「うん!待ってるね!」
意気揚々と仕事を再開するあたしの隣で『胃薬・・・』と呟いた宮田くんの声は、店内に流れる有線にかき消されてあたしの耳には届かなかった。
2011/04/19 UP
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ようやっと宮田くん登場です(苦笑)
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