お相手宮田くんの原作沿い連載です
長編
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35 ガールズトーク
店長と祝勝会の話をしてから数日が過ぎた。
宮田くんはもう練習に復帰していたけれど、
試合の翌日から取材がたくさん入っているらしく
なかなかバイトには戻って来られないでいた。
そんなある日のことだった。
「佐倉ちゃーん」
「あれーお久しぶりです!お元気ですか?」
以前このコンビニでバイトしていた元同僚が訪ねてきた。
彼女はあたしより二つ年上で、この春から社会人になったばかりだった。
バイトを始めたばかりの頃は教育係の宮田くんと入ることが多かったけれど、慣れてからは彼女と一緒になることも多かった。
人見知りをしない今風の大学生だった彼女とは
いつの間にかバイト仲間の中でも比較的親しくなっていた。
初めて彼女とふたりで仕事に入った時に、宮田くんとの関係を聞かれて全力で否定したことも、今となっては懐かしい思い出だ。
仕事帰りの彼女の目当ては宮田くんだったらしく、復帰戦のお祝いも兼ねて久しぶりに立ち寄ったようだった。
シフトで次の宮田くんの出勤日を確認しようとすると「また出直すからいい」と断られた。
「それより佐倉ちゃん、今日何時まで?」
「今日は六時までですけど」
「じゃもうすぐね。時間大丈夫だったら一緒にゴハン食べにいかない?」
彼女がまだバイトしていた頃、上がり時間が同じだと時々一緒にお茶したり食事に行っていた。
特に断る理由もなかったあたしはOKの返事をした。
バイトを終えて、彼女に連れられて来たのは、見た目もすごくオシャレなイタリアンのお店だった。
料理も美味しくて、しかも手頃な価格で、オシャレな人は違うなぁなんて考えながら、互いの近況なんかを話した。
「ところで佐倉ちゃん」
食事も会話もひと段落したところで、彼女が改めて声を掛けてきた。
「なんですか?」
「よかったね、宮田君戻ってきてくれて」
デザートのケーキに手を付けようとしていたフォークを思わず取り落としそうになる。
慌てて持ち直し、反論しようと彼女を見ると
意味深な笑顔を浮かべていた。
「海外に行くからって宮田君が辞めた時、必死だったもんねぇ。求人かけようかって言う店長に、あたしが宮田くんの分まで頑張りますから!って」
あたしの真似をしているのか、ちょっと声の調子を変えて彼女が言った。
「ま、結局佐倉ちゃん一人じゃカバーしきれなくてあたしも協力したんだけどね?」
「……すみません」
「ごめんごめん。そんなつもりじゃないのよ。私だって宮田君のことは気に入ってたから戻って来てほしかったし。でも、プロボクサーだったなんてビックリだよねぇ」
コーヒーを飲みながら感慨深げに言う彼女に
あたしも頷いた。
ボクサーであることを宮田くんはずっと隠していた。
けれど試合の度に仕事を休むことに加え、試合を重ねるごとに人気も上がり、熱心なファンがどこで調べたのかバイト先のコンビニに来るようになった。
そんなファンも数人ではなく、あたしが他言しなくても全員に知れ渡るのにそう時間はかからなかった。
「でも佐倉ちゃんは皆が知るよりずっと前から知ってたんだよねぇ」
「それは偶然っていうかたまたまっていうか……」
口ごもるあたしに、興味津々の彼女。
「やっぱり私の思った通りになったね。最初から、二人は絶対付き合うと思ったもの」
「あのですね、何度も言いますけど、付き合ってるとかそんなんじゃないですから」
「またまたぁ……こないだの試合も会場までシッカリ応援に行ったんでしょ?」
「……それは、まぁ……ていうか、バイト辞めたのに何で知ってるんですか?」
「ふっふっふ。私の情報網ナメないでよ」
―――何の情報網なんだ
「でもさぁ、佐倉ちゃん」
コーヒーカップを一旦ソーサーに置き、じっと見つめてくる。
そこにはさっきまでのからかうような雰囲気は一切なく、その空気につられてあたしもフォークを置き、座りなおした。
「宮田君ってさ、モテるじゃない?ウカウカしてたら誰かに取られちゃうかもよ」
「だから……っ!」
「ハイハイハイハわかってるわかってる。でもね?」
真面目かと思ったら茶化してきたり、彼女のテンポにいい加減ついて行けなくなりそうだ。
そんなあたしに構わず、彼女はもう一度あたしを見据えた。
「佐倉ちゃん、宮田君のいない間頑張ってたじゃん。私はそれ見てきたからさ、本気で応援してるのよ」
「……」
「料理教室まで通ってたんだから、部屋に呼んで手料理ご馳走しちゃえば?」
「へっ、部屋にですか?!」
「で、そのまま押し倒して既成事実作っちゃえばコッチのモン。宮田君、真面目そうだからちゃんと責任取ってくれるって」
「?!」
「アハハ、冗談冗談」
突拍子もない発言にいい加減頭が混乱してきたあたしは
落ち着こうと紅茶を一口飲んだ。
「けどさ、せっかく頑張った成果を見せるっていうのも、大切だと思うんだけどな」
乗り出していた身体を背もたれに預け、彼女もコーヒーに口を付ける。
「いきなり誘いにくかったら、そうねぇ……祝勝会しよ、とか理由つけてさ」
「や、祝勝会って理由では来ないと思います。店長の誘いも断ってたみたいだし」
あたしの返事に意味深な笑みを隠そうともしない彼女。
「どうかしました?」
「否定する割に前向きに考えてるんだなーって」
「!!」
「アハハ、照れない照れない」
「やっ、ちょ、もう、だから!」
なまじ本音を暴露させられたみたいな気がして
あたしは慌てて取り繕おうとしたけれど、
何を言っても茶化されるのがオチなので溜息をついて、
目の前の食べかけのケーキに手を付けた。
「今日はいっぱいからかっちゃってごめんね」
「いえ。それよりご馳走様でした」
まとめて支払いを済ませてくれた彼女に、店を出てから自分の分を払おうとすると、初任給が出たからということで、結局ご馳走してもらう結果になった。
あたしがお礼を言うのもそこそこに、彼女は話を続ける。
「でも、佐倉ちゃんにその気があるんだったら、応援してるっていうのは本当だからね。頑張んなよ」
にっこり笑ってあたしの肩をポンと叩くと、「じゃあね」と彼女は立ち去っていった。
あれこれ言われたものの、彼女の気持ちが嬉しくて自然と笑みがこぼれた。
あたしは遠くなる背中に向かって一礼し、その姿が見えなくなるまで見送った。
2011/04/13 UP
+++++atogaki+++++
またも宮田くん出てなくてごめんなさい(汗)
店長と祝勝会の話をしてから数日が過ぎた。
宮田くんはもう練習に復帰していたけれど、
試合の翌日から取材がたくさん入っているらしく
なかなかバイトには戻って来られないでいた。
そんなある日のことだった。
「佐倉ちゃーん」
「あれーお久しぶりです!お元気ですか?」
以前このコンビニでバイトしていた元同僚が訪ねてきた。
彼女はあたしより二つ年上で、この春から社会人になったばかりだった。
バイトを始めたばかりの頃は教育係の宮田くんと入ることが多かったけれど、慣れてからは彼女と一緒になることも多かった。
人見知りをしない今風の大学生だった彼女とは
いつの間にかバイト仲間の中でも比較的親しくなっていた。
初めて彼女とふたりで仕事に入った時に、宮田くんとの関係を聞かれて全力で否定したことも、今となっては懐かしい思い出だ。
仕事帰りの彼女の目当ては宮田くんだったらしく、復帰戦のお祝いも兼ねて久しぶりに立ち寄ったようだった。
シフトで次の宮田くんの出勤日を確認しようとすると「また出直すからいい」と断られた。
「それより佐倉ちゃん、今日何時まで?」
「今日は六時までですけど」
「じゃもうすぐね。時間大丈夫だったら一緒にゴハン食べにいかない?」
彼女がまだバイトしていた頃、上がり時間が同じだと時々一緒にお茶したり食事に行っていた。
特に断る理由もなかったあたしはOKの返事をした。
バイトを終えて、彼女に連れられて来たのは、見た目もすごくオシャレなイタリアンのお店だった。
料理も美味しくて、しかも手頃な価格で、オシャレな人は違うなぁなんて考えながら、互いの近況なんかを話した。
「ところで佐倉ちゃん」
食事も会話もひと段落したところで、彼女が改めて声を掛けてきた。
「なんですか?」
「よかったね、宮田君戻ってきてくれて」
デザートのケーキに手を付けようとしていたフォークを思わず取り落としそうになる。
慌てて持ち直し、反論しようと彼女を見ると
意味深な笑顔を浮かべていた。
「海外に行くからって宮田君が辞めた時、必死だったもんねぇ。求人かけようかって言う店長に、あたしが宮田くんの分まで頑張りますから!って」
あたしの真似をしているのか、ちょっと声の調子を変えて彼女が言った。
「ま、結局佐倉ちゃん一人じゃカバーしきれなくてあたしも協力したんだけどね?」
「……すみません」
「ごめんごめん。そんなつもりじゃないのよ。私だって宮田君のことは気に入ってたから戻って来てほしかったし。でも、プロボクサーだったなんてビックリだよねぇ」
コーヒーを飲みながら感慨深げに言う彼女に
あたしも頷いた。
ボクサーであることを宮田くんはずっと隠していた。
けれど試合の度に仕事を休むことに加え、試合を重ねるごとに人気も上がり、熱心なファンがどこで調べたのかバイト先のコンビニに来るようになった。
そんなファンも数人ではなく、あたしが他言しなくても全員に知れ渡るのにそう時間はかからなかった。
「でも佐倉ちゃんは皆が知るよりずっと前から知ってたんだよねぇ」
「それは偶然っていうかたまたまっていうか……」
口ごもるあたしに、興味津々の彼女。
「やっぱり私の思った通りになったね。最初から、二人は絶対付き合うと思ったもの」
「あのですね、何度も言いますけど、付き合ってるとかそんなんじゃないですから」
「またまたぁ……こないだの試合も会場までシッカリ応援に行ったんでしょ?」
「……それは、まぁ……ていうか、バイト辞めたのに何で知ってるんですか?」
「ふっふっふ。私の情報網ナメないでよ」
―――何の情報網なんだ
「でもさぁ、佐倉ちゃん」
コーヒーカップを一旦ソーサーに置き、じっと見つめてくる。
そこにはさっきまでのからかうような雰囲気は一切なく、その空気につられてあたしもフォークを置き、座りなおした。
「宮田君ってさ、モテるじゃない?ウカウカしてたら誰かに取られちゃうかもよ」
「だから……っ!」
「ハイハイハイハわかってるわかってる。でもね?」
真面目かと思ったら茶化してきたり、彼女のテンポにいい加減ついて行けなくなりそうだ。
そんなあたしに構わず、彼女はもう一度あたしを見据えた。
「佐倉ちゃん、宮田君のいない間頑張ってたじゃん。私はそれ見てきたからさ、本気で応援してるのよ」
「……」
「料理教室まで通ってたんだから、部屋に呼んで手料理ご馳走しちゃえば?」
「へっ、部屋にですか?!」
「で、そのまま押し倒して既成事実作っちゃえばコッチのモン。宮田君、真面目そうだからちゃんと責任取ってくれるって」
「?!」
「アハハ、冗談冗談」
突拍子もない発言にいい加減頭が混乱してきたあたしは
落ち着こうと紅茶を一口飲んだ。
「けどさ、せっかく頑張った成果を見せるっていうのも、大切だと思うんだけどな」
乗り出していた身体を背もたれに預け、彼女もコーヒーに口を付ける。
「いきなり誘いにくかったら、そうねぇ……祝勝会しよ、とか理由つけてさ」
「や、祝勝会って理由では来ないと思います。店長の誘いも断ってたみたいだし」
あたしの返事に意味深な笑みを隠そうともしない彼女。
「どうかしました?」
「否定する割に前向きに考えてるんだなーって」
「!!」
「アハハ、照れない照れない」
「やっ、ちょ、もう、だから!」
なまじ本音を暴露させられたみたいな気がして
あたしは慌てて取り繕おうとしたけれど、
何を言っても茶化されるのがオチなので溜息をついて、
目の前の食べかけのケーキに手を付けた。
「今日はいっぱいからかっちゃってごめんね」
「いえ。それよりご馳走様でした」
まとめて支払いを済ませてくれた彼女に、店を出てから自分の分を払おうとすると、初任給が出たからということで、結局ご馳走してもらう結果になった。
あたしがお礼を言うのもそこそこに、彼女は話を続ける。
「でも、佐倉ちゃんにその気があるんだったら、応援してるっていうのは本当だからね。頑張んなよ」
にっこり笑ってあたしの肩をポンと叩くと、「じゃあね」と彼女は立ち去っていった。
あれこれ言われたものの、彼女の気持ちが嬉しくて自然と笑みがこぼれた。
あたしは遠くなる背中に向かって一礼し、その姿が見えなくなるまで見送った。
2011/04/13 UP
+++++atogaki+++++
またも宮田くん出てなくてごめんなさい(汗)