お相手宮田くんの原作沿い連載です
長編
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33 本音
一年半ぶりの、後楽園ホールからの帰り道。
結局ホールから最寄の駅まで宮田くんはあたしの手首を掴んだままだった。
駅に着いてようやく解放されてからも、手首に残った感覚があたしの平常心を失わせた。
混み合う電車も相変わらずで、必要以上に意識してしまうせいであたしはつい無口になってしまっていた。
駅に到着し、少し歩いて人通りがまばらになりあたしの緊張がようやく和らいだ頃、宮田くんに声を掛けられた。
「何?」
「だから、どうしたんですか。ホールからずっと黙り込んで」
「そうかな?」
「・・・心配かけるような試合、したつもりないんですけどね」
ポツリと呟いた宮田くんの言葉に、あたしは一番大切なことをまだ伝えてないことに気付いた。
「ごめん!あたしまだ言ってなかった!」
立ち止まり、宮田くんと向き合う。
改まったあたしにつられて、宮田くんもちょっと改まる。
「帰国第一戦3RKO、おめでとう」
言った途端、宮田くんが本当に帰ってきたんだと今更ものすごく実感してきて、あたしは無償に嬉しくなってきた。
さっきまで黙りこくっていたあたしが180度違う表情になったので、宮田くんはちょっとビックリしたような顔をしたけどすぐにその顔をすこし綻ばせた。
「ありがとうございます」
それからまた歩き始める。
自然に合う歩幅に、心地いい沈黙が続く。
「そういえばさ、宮田くんのお父さんがあたしのこと覚えててくれてたなんて、ちょっとびっくりしちゃった」
「それはそうだろ」
不意に振ったあたしの問いかけに宮田くんはサラリと答えた。
「何で?」
さも当たり前のような口ぶりだったのであたしは疑問符を投げかけると、宮田くんはハッとして慌てて答えた。
「何ででもだ!」
「何ででもって・・・ちゃんと教えてよ、気になる」
「じゃずっと気にしてろ。オレは知らない」
「何それー!」
フイと向こうを向いたきり無口になってしまった宮田くん。
構わず聞き続けているとしつこいとばかりに睨みつけられ、それでも怯まないあたしに観念したのか、大きな溜息を吐いた。
「・・・試合のチケット、いつも澪さんに頼まれてただろ。誰に頼まれたんだって、あんまりしつこいから言ったんだよ。それだけだよ」
前を向いたまま、面倒くさそうに言って鞄を持ち直す宮田くん。
「ふーん。宮田くんってお父さんとボクシング以外の話もするんだ」
率直な感想を述べると宮田くんがこっちを見た。
「当たり前だろ、失礼なヤツだな」
「だって、宮田くんってボクシング以外の事考えてなさそうなんだもん」
「何だよ、人をボクシングバカみたいに」
「あれ、そうじゃないの?」
「・・・・・・」
「いーじゃん。むしろ羨ましいって思ってるんだよ。全てを賭ける何かなんて、なかなか見つからないもの」
宮田くんのすごいところはそこだと思う。
すごいというか、羨ましいところ。
打ち込める何かがあるのは理想的なことだと思う。
でも実際はそれが何なのかわからないことが多くて、そういうものに一生出会えないままの人もいる。
あたしも絵を描くことは好きだけど、宮田くんみたいにそこまでストイックにはなれない。
だけど今は、そんな宮田くんを身近で応援できることがたまらなく嬉しい。
本音は心の奥にしまっておくとして、あたしは続けた。
.
「ていうか、チケットで思い出したんだけど、今日の試合、チケット余ってたなんて嘘じゃない!」
「嘘じゃねーよ」
「だって、すごい人だったし、ホールの前にダフ屋とかいっぱいいたよ?」
「知らねーよ。余ってたモンは余ってたんだから」
「嘘!」
「どうでもいいだろ、そんな事」
今日、後楽園ホールに来て一番驚いたこと。
とにかくすごい人だった。
当然当日券があるわけもなく、それをアテにしていた人が残念そうに帰っていく姿も見かけた。
どう考えても余ってたなんて考えられない。
自分の読みの甘さも問題だけどひとまずそれは置いておくとして、あたしの為に用意してくれたものだったらやっぱりケジメはつけなくちゃいけない。
なのに適当に話を終わらせようとする宮田くんにあたしは言い寄った。
「よくない!だって」
「あーもう、オレがアンタに来て欲しかったんだよ!」
「え?」
立ち止まり、向かい合って言い合ってた目が合い、お互いに言葉を失う。
ビックリしたあたしの顔に我に返った宮田くんは慌てて視線を逸らし、ムスッとして、でもそれは明らかに怒ってるのではないことがわかった。
「・・・今日勝ったんだから、もういいだろ」
「うん・・・」
どちらともなく再び歩き出したけれど会話はなく、だけどそれは決して居心地の悪いものではないことをお互いに感じていた。
2010/12/24 UP
+++++atogaki+++++
今更ですが名前変換が少なくてごめんなさい;;
一年半ぶりの、後楽園ホールからの帰り道。
結局ホールから最寄の駅まで宮田くんはあたしの手首を掴んだままだった。
駅に着いてようやく解放されてからも、手首に残った感覚があたしの平常心を失わせた。
混み合う電車も相変わらずで、必要以上に意識してしまうせいであたしはつい無口になってしまっていた。
駅に到着し、少し歩いて人通りがまばらになりあたしの緊張がようやく和らいだ頃、宮田くんに声を掛けられた。
「何?」
「だから、どうしたんですか。ホールからずっと黙り込んで」
「そうかな?」
「・・・心配かけるような試合、したつもりないんですけどね」
ポツリと呟いた宮田くんの言葉に、あたしは一番大切なことをまだ伝えてないことに気付いた。
「ごめん!あたしまだ言ってなかった!」
立ち止まり、宮田くんと向き合う。
改まったあたしにつられて、宮田くんもちょっと改まる。
「帰国第一戦3RKO、おめでとう」
言った途端、宮田くんが本当に帰ってきたんだと今更ものすごく実感してきて、あたしは無償に嬉しくなってきた。
さっきまで黙りこくっていたあたしが180度違う表情になったので、宮田くんはちょっとビックリしたような顔をしたけどすぐにその顔をすこし綻ばせた。
「ありがとうございます」
それからまた歩き始める。
自然に合う歩幅に、心地いい沈黙が続く。
「そういえばさ、宮田くんのお父さんがあたしのこと覚えててくれてたなんて、ちょっとびっくりしちゃった」
「それはそうだろ」
不意に振ったあたしの問いかけに宮田くんはサラリと答えた。
「何で?」
さも当たり前のような口ぶりだったのであたしは疑問符を投げかけると、宮田くんはハッとして慌てて答えた。
「何ででもだ!」
「何ででもって・・・ちゃんと教えてよ、気になる」
「じゃずっと気にしてろ。オレは知らない」
「何それー!」
フイと向こうを向いたきり無口になってしまった宮田くん。
構わず聞き続けているとしつこいとばかりに睨みつけられ、それでも怯まないあたしに観念したのか、大きな溜息を吐いた。
「・・・試合のチケット、いつも澪さんに頼まれてただろ。誰に頼まれたんだって、あんまりしつこいから言ったんだよ。それだけだよ」
前を向いたまま、面倒くさそうに言って鞄を持ち直す宮田くん。
「ふーん。宮田くんってお父さんとボクシング以外の話もするんだ」
率直な感想を述べると宮田くんがこっちを見た。
「当たり前だろ、失礼なヤツだな」
「だって、宮田くんってボクシング以外の事考えてなさそうなんだもん」
「何だよ、人をボクシングバカみたいに」
「あれ、そうじゃないの?」
「・・・・・・」
「いーじゃん。むしろ羨ましいって思ってるんだよ。全てを賭ける何かなんて、なかなか見つからないもの」
宮田くんのすごいところはそこだと思う。
すごいというか、羨ましいところ。
打ち込める何かがあるのは理想的なことだと思う。
でも実際はそれが何なのかわからないことが多くて、そういうものに一生出会えないままの人もいる。
あたしも絵を描くことは好きだけど、宮田くんみたいにそこまでストイックにはなれない。
だけど今は、そんな宮田くんを身近で応援できることがたまらなく嬉しい。
本音は心の奥にしまっておくとして、あたしは続けた。
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「ていうか、チケットで思い出したんだけど、今日の試合、チケット余ってたなんて嘘じゃない!」
「嘘じゃねーよ」
「だって、すごい人だったし、ホールの前にダフ屋とかいっぱいいたよ?」
「知らねーよ。余ってたモンは余ってたんだから」
「嘘!」
「どうでもいいだろ、そんな事」
今日、後楽園ホールに来て一番驚いたこと。
とにかくすごい人だった。
当然当日券があるわけもなく、それをアテにしていた人が残念そうに帰っていく姿も見かけた。
どう考えても余ってたなんて考えられない。
自分の読みの甘さも問題だけどひとまずそれは置いておくとして、あたしの為に用意してくれたものだったらやっぱりケジメはつけなくちゃいけない。
なのに適当に話を終わらせようとする宮田くんにあたしは言い寄った。
「よくない!だって」
「あーもう、オレがアンタに来て欲しかったんだよ!」
「え?」
立ち止まり、向かい合って言い合ってた目が合い、お互いに言葉を失う。
ビックリしたあたしの顔に我に返った宮田くんは慌てて視線を逸らし、ムスッとして、でもそれは明らかに怒ってるのではないことがわかった。
「・・・今日勝ったんだから、もういいだろ」
「うん・・・」
どちらともなく再び歩き出したけれど会話はなく、だけどそれは決して居心地の悪いものではないことをお互いに感じていた。
2010/12/24 UP
+++++atogaki+++++
今更ですが名前変換が少なくてごめんなさい;;