お相手宮田くんの原作沿い連載です
長編
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31 小さな約束
思いがけない事態になってしまった。
「人が来るなんて思ってなかったから散らかってるけど」
『散らかってるけど』というのは謙遜でも何でもなくて、朝から絵を描き通しだった部屋は足の踏み場もないくらい散らかっていた。
「・・・ホントに散らかってるな」
なんとか座るスペースを確保しているあたしに、部屋の前で立ち止まった宮田くんが呆れたように言った。
「だから言ったでしょ、散らかってるって!」
自分から言い出したとはいえ、やっぱり今日はまずかったかな。
でもあの状況だと部屋に入ってもらうしかなかったし、あたしは開き直って部屋を片付けた。
「お待たせ。どーぞ」
画材を一箇所に集めローテーブルとクッションを置いてどうにか座るスペースを確保すると、宮田くんが部屋に入ってきて用意したクッションに座った。
「紅茶でいい?すぐお湯沸かすね」
入れ違いで部屋を出てあたしはキッチンで紅茶の缶を取り出しながら聞くと、はいという返事が返ってきた。
ケトルを火にかけながらチラリと部屋の方を覗き見ると、見慣れた空間のはずがまるでそこだけ違った風に思えてならなかった。
宮田くんはといえば落ち着かない様子で、チラチラと部屋の中を見ているみたいだった。
―――洗濯物は夕べ片付けたし、見られて困るようなものは、ないよね
程なくしてケトルがしゅんしゅんと音を立てると、ガスを切って茶葉の入ったティーポットに湯を注いだ。
「お砂糖いるー?」
一番お気に入りの紅茶をマグカップに注ぎながら聞くと「いらないです」と予想通りの返事が返ってきた。
「お待たせしました。どうぞ」
片方を宮田くんの前に置くと「どうも」というように宮田くんは頭を下げた。
あたしがそのまま向かいに座ると、宮田くんはゆっくりとマグカップに口をつけた。
あたしも宮田くんも、黙ったままただ紅茶を飲んだ。
居心地が悪いというわけでは決してなかったけれど、この微妙な沈黙にすっかり声をかけ辛くなってしまった。
.
「あの絵」
そんな沈黙を破ったのは宮田くんだった。
その声にあたしは顔を上げると、宮田くんの視線の先にはさっきまであたしが向き合っていたキャンバスがあった。
「あれって緑地公園ですよね」
「うん、そうだよ。あそこの桜、好きなんだ」
それはいつも通っている緑地公園の、中でも一番好きな桜の季節の絵だった。
ここに住むようになってから描き始め、もう二年近く経つのにまだまだ完成には至ってなかった。
「大学入って初めてあの桜並木見てすごい感動しちゃってさ、
まだまだ描きかけなんだけど」
「え?あれでまだ途中なんですか」
まじまじとキャンバスを見つめる宮田くんの視線の先を追った。
まだまだ全然、納得できるものじゃない。
「うん。もっと色を重ねて深みを出さないと」
「へぇ」
「ま、大学卒業するまでに完成したらいいかなーって。趣味で描いてるだけだし」
「じゃ完成したら見せてくださいね」
軽い気持ちの返事に、宮田くんは思いも寄らない意味を持たせてきた。
予想もしてなかったその言葉に、あたしはまじまじと宮田くんを見た。
「え?でもまだ数年先だよ」
「卒業までだったらあと二年だろ」
宮田くんと目が合った。
あたしはただ「うん」とだけ答えた。
「じゃ約束」
そう言うと宮田くんは何事もなかったように視線を外し紅茶を飲んだ。
この一連の会話があまりにも自然で、あたしはしばらく状況についていけなかった。
言葉のやりとりを頭の中で再生する。
それはつまり、あたしと宮田くんの間に思いがけない約束ができたということだ。
それはほんの些細な約束だけれど、あたしは嬉しくて、でもそれを知られるのも気恥ずかしくて誤魔化すように慌ててマグカップに口をつけた。
「あのさ」
紅茶と共に浮き足だった心を飲み込んで、今度はあたしの方から声を掛けた。
ちょうど紅茶を飲もうとしていた宮田くんは、マグカップに口をつけながら覗き込むようにあたしを見た。
「これ」
あたしはさっき宮田くんから受け取った封筒を出した。
それは勿論、後にもらった方だ。
「5月、絶対に応援に行くね。でね、チケット代・・・」
「だから、ホントにいらないですから」
「そう言われてもそんなわけにはいかないよ。ちょっと待ってね、お財布・・・」
「本当にいいから!」
立ち上がろうとしたあたしを宮田くんの言葉が制止した。
その口調の強さにビックリして見ると、少し言い過ぎたという風な素振りで視線を外し、それからもう一度、本当にいいですから、と宮田くんが言った。
「どうせ余ってたやつだから、本当に気にしないでください」
そう言うと宮田くんは紅茶を一気に飲み干し、そろそろ帰ります、と立ち上がってそばにおいていた上着を羽織ると足早に玄関に向かった。
あたしも慌てて立ち上がり、靴を履く宮田くんの背中ごしに今日のお礼を言うと「ああ」とか「いえ」とかの返事が返ってきた。
それからドアを開けて宮田くんの背中が見えなくなるまで見送ったけれど、宮田くんは一度も振り返ることなく行ってしまった。
急に逃げるように帰った宮田くんに違和感を覚えながら部屋に戻り、改めて見た試合のチケットには宮田くんの名前が大きく書かれていた。
「ホントに余ってたのかなぁ」
―――1年以上も日本のリングから離れてたし、海外遠征中、雑誌でもそんなに大きく取り扱われてなかったからそんなもんなのかなぁ
その時のあたしは呑気に宮田くんの言葉を素直に信じることにした。
2010/10/23 UP
+++++atogaki+++++
お部屋に招き入れちゃって、期待された方がいらしたらすみません(爆)
いやいや、書いてるのわたしですからね!
これからも3歩進んで4歩下がるくらいのペースになると思われますがお付き合いいただけたら嬉しいです・・・って、それじゃ後退してるやん!いかんいかん(苦笑)
思いがけない事態になってしまった。
「人が来るなんて思ってなかったから散らかってるけど」
『散らかってるけど』というのは謙遜でも何でもなくて、朝から絵を描き通しだった部屋は足の踏み場もないくらい散らかっていた。
「・・・ホントに散らかってるな」
なんとか座るスペースを確保しているあたしに、部屋の前で立ち止まった宮田くんが呆れたように言った。
「だから言ったでしょ、散らかってるって!」
自分から言い出したとはいえ、やっぱり今日はまずかったかな。
でもあの状況だと部屋に入ってもらうしかなかったし、あたしは開き直って部屋を片付けた。
「お待たせ。どーぞ」
画材を一箇所に集めローテーブルとクッションを置いてどうにか座るスペースを確保すると、宮田くんが部屋に入ってきて用意したクッションに座った。
「紅茶でいい?すぐお湯沸かすね」
入れ違いで部屋を出てあたしはキッチンで紅茶の缶を取り出しながら聞くと、はいという返事が返ってきた。
ケトルを火にかけながらチラリと部屋の方を覗き見ると、見慣れた空間のはずがまるでそこだけ違った風に思えてならなかった。
宮田くんはといえば落ち着かない様子で、チラチラと部屋の中を見ているみたいだった。
―――洗濯物は夕べ片付けたし、見られて困るようなものは、ないよね
程なくしてケトルがしゅんしゅんと音を立てると、ガスを切って茶葉の入ったティーポットに湯を注いだ。
「お砂糖いるー?」
一番お気に入りの紅茶をマグカップに注ぎながら聞くと「いらないです」と予想通りの返事が返ってきた。
「お待たせしました。どうぞ」
片方を宮田くんの前に置くと「どうも」というように宮田くんは頭を下げた。
あたしがそのまま向かいに座ると、宮田くんはゆっくりとマグカップに口をつけた。
あたしも宮田くんも、黙ったままただ紅茶を飲んだ。
居心地が悪いというわけでは決してなかったけれど、この微妙な沈黙にすっかり声をかけ辛くなってしまった。
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「あの絵」
そんな沈黙を破ったのは宮田くんだった。
その声にあたしは顔を上げると、宮田くんの視線の先にはさっきまであたしが向き合っていたキャンバスがあった。
「あれって緑地公園ですよね」
「うん、そうだよ。あそこの桜、好きなんだ」
それはいつも通っている緑地公園の、中でも一番好きな桜の季節の絵だった。
ここに住むようになってから描き始め、もう二年近く経つのにまだまだ完成には至ってなかった。
「大学入って初めてあの桜並木見てすごい感動しちゃってさ、
まだまだ描きかけなんだけど」
「え?あれでまだ途中なんですか」
まじまじとキャンバスを見つめる宮田くんの視線の先を追った。
まだまだ全然、納得できるものじゃない。
「うん。もっと色を重ねて深みを出さないと」
「へぇ」
「ま、大学卒業するまでに完成したらいいかなーって。趣味で描いてるだけだし」
「じゃ完成したら見せてくださいね」
軽い気持ちの返事に、宮田くんは思いも寄らない意味を持たせてきた。
予想もしてなかったその言葉に、あたしはまじまじと宮田くんを見た。
「え?でもまだ数年先だよ」
「卒業までだったらあと二年だろ」
宮田くんと目が合った。
あたしはただ「うん」とだけ答えた。
「じゃ約束」
そう言うと宮田くんは何事もなかったように視線を外し紅茶を飲んだ。
この一連の会話があまりにも自然で、あたしはしばらく状況についていけなかった。
言葉のやりとりを頭の中で再生する。
それはつまり、あたしと宮田くんの間に思いがけない約束ができたということだ。
それはほんの些細な約束だけれど、あたしは嬉しくて、でもそれを知られるのも気恥ずかしくて誤魔化すように慌ててマグカップに口をつけた。
「あのさ」
紅茶と共に浮き足だった心を飲み込んで、今度はあたしの方から声を掛けた。
ちょうど紅茶を飲もうとしていた宮田くんは、マグカップに口をつけながら覗き込むようにあたしを見た。
「これ」
あたしはさっき宮田くんから受け取った封筒を出した。
それは勿論、後にもらった方だ。
「5月、絶対に応援に行くね。でね、チケット代・・・」
「だから、ホントにいらないですから」
「そう言われてもそんなわけにはいかないよ。ちょっと待ってね、お財布・・・」
「本当にいいから!」
立ち上がろうとしたあたしを宮田くんの言葉が制止した。
その口調の強さにビックリして見ると、少し言い過ぎたという風な素振りで視線を外し、それからもう一度、本当にいいですから、と宮田くんが言った。
「どうせ余ってたやつだから、本当に気にしないでください」
そう言うと宮田くんは紅茶を一気に飲み干し、そろそろ帰ります、と立ち上がってそばにおいていた上着を羽織ると足早に玄関に向かった。
あたしも慌てて立ち上がり、靴を履く宮田くんの背中ごしに今日のお礼を言うと「ああ」とか「いえ」とかの返事が返ってきた。
それからドアを開けて宮田くんの背中が見えなくなるまで見送ったけれど、宮田くんは一度も振り返ることなく行ってしまった。
急に逃げるように帰った宮田くんに違和感を覚えながら部屋に戻り、改めて見た試合のチケットには宮田くんの名前が大きく書かれていた。
「ホントに余ってたのかなぁ」
―――1年以上も日本のリングから離れてたし、海外遠征中、雑誌でもそんなに大きく取り扱われてなかったからそんなもんなのかなぁ
その時のあたしは呑気に宮田くんの言葉を素直に信じることにした。
2010/10/23 UP
+++++atogaki+++++
お部屋に招き入れちゃって、期待された方がいらしたらすみません(爆)
いやいや、書いてるのわたしですからね!
これからも3歩進んで4歩下がるくらいのペースになると思われますがお付き合いいただけたら嬉しいです・・・って、それじゃ後退してるやん!いかんいかん(苦笑)