お相手宮田くんの原作沿い連載です
長編
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23 TurningPoint
鴨川ジムを(鷹村さんから逃げるように)後にして、夕日が翳り始めた土手を歩いてる時だった。
「澪さん・・・!」
振り返ると幕之内くんがこちらに向かって走ってきた。
程なくしてあたしの前に現れた幕之内くんは、さほど乱れていない呼吸を整えてから少し遠慮がちに言った。
「あの、ちょっといいですか?」
実際に試合を見たことはなくて、雑誌で知る限りの印象と全く違う幕之内くんに少し戸惑ったけれど、それが断る理由にはならなかったのであたしは頷いた。
「じゃあ、あの、送りがてら・・・」
幕之内くんに促されて
あたし達は夕日で赤く染まった土手を歩き始めた。
「全日本新人王おめでとうございます」
話があるといいながらなかなか切り出さない幕之内くんに、あたしの方から声をかけた。
「あ、ありがとうございます。よくご存知なんですね」
「まぁ・・・フェザー級の人は、ね」
その時、脳裏に宮田くんの姿が浮かんできて
あたしはどこか遠くを見た。
「本当だったら」
「え?」
そんなあたしの意識を引き戻したのは、意を決した幕之内くんだった。
「東日本新人王の決勝で、宮田くんと戦う約束だったんです」
「約束・・・」
その言葉が、何故かひっかかった。
幕之内くんは真っ直ぐ前を見据え、それからあたしを見た。
「宮田くんは元々鴨川ジムにいたんです」
どちらともなく立ち止まり、そしてひとつひとつ言葉を選びながらまるで大切な何かを伝えるように幕之内くんは話してくれた。
入門する時に初めてのスパーリングが宮田くんだった事。
同い年の宮田くんにボコボコにやられた事。
三ヵ月後の再戦で幕之内くんが勝った事。
プロのリングで決着をつける為、宮田くんがジムを移籍した事。
東日本新人王決勝で会おうと約束した事。
「卒業式の日、宮田くんはボクに言いました。その差が埋まるまで帰ってこない、と」
幕之内くんは言葉を止め、拳を強く握り締めた。
あたしはただ、黙って彼の話を聞いた。
「宮田くんはすごい人です。もともとすごい才能があるのに努力を惜しまない」
「そんな宮田くんだから、ボクとの差なんてあっという間に埋めてすぐ日本に帰ってくるはずです」
川辺に向けていた幕之内くんの視線があたしを見た。
逸らすことなんてできないくらいの真っ直ぐな視線は、あたしをしっかりと捕らえた。
「だから、ボクも次に宮田くんに会った時がっかりされないように頑張ってるんです」
「幕之内くん・・・」
揺るぎない意思のこもった言葉に、最後に会った宮田くんの姿が浮かんだ。
宮田くんと幕之内くん、この二人の約束というものが彼らにとってどれだけ大切なものなのかわかった気がした。
「・・・って、す、すいません。なんか生意気な事を言ってしまって。木村さんから、その、澪さんの事、聞いてまして・・・・」
「ありがとう。幕之内くん」
さっきとは別人のように急にオドオドした幕之内くんに、
あたしは心の底から感謝の言葉を告げると頭を掻きながら少し照れたように笑った。
「そ、それにしてもやっぱりすごいや宮田くんは」
「何が?」
「だって、こんなにステキな彼女さんまでいて、やっぱりすごいです、宮田くんは」
幕之内くんの言葉に、あたしは一瞬あっけにとられた。
「は?違・・・あたし宮田くんの、その、彼女とかじゃないよ?」
「え?だって木村さんが・・・」
ちょっとォォォォ木村さァァァァん!!
みんなに一体何て話してるですかァァァァ?!
「とっ、とにかく違うから。ま、まぁ、見かけによらず、優しいトコあって、嫌いじゃないけど」
「そうなんですよね!」
「へ?」
あたしのフォローみたいな言い訳に
幕之内くんはいきなり目を輝かせた。
「宮田くんって、一見クールでおっかないけど、本当は情に厚いっていうか」
「う、うん・・・・」
「ボクがボクシング始めた頃の話なんですけどね、シューズを買いに行った時に偶然会って・・・」
それから幕之内くんは宮田くんとのエピソードを色々聞かせてくれた。それはもう嬉しそうに。
「それで・・・!」
あたしが驚きを隠さないで聞き入ってる事に気付いたのか、幕之内くんはようやく言葉を止めた。
そして自分の言ったことに今更恥ずかしくなったのか、ちょっと気まずそうな顔をした。
「・・・あははっ」
それがおかしくてあたしは思わず笑ってしまった。
「す、すいません・・・」
木村さんからジムに遊びにくるよう誘われた時『宮田オタクがいる』と言っていた事を思い出す。
「幕之内くんにとって、宮田くんはライバルっていうより憧れの人って感じだね」
「はい!同い年なのに強くて何やってもかっこいいし、憧れます!」
ここまでハッキリ言われると聞いてるコッチが恥ずかしくなってくる。
宮田くんはこんな幕之内くんをどう思ってるんだろう。
きっとボクサーとしては認めてるんだろうけど、それ以外はなんかめちゃくちゃ迷惑してそうだな。
幕之内くんに羨望の眼差しを向けられて心底迷惑そうな顔をしている宮田くんが容易に想像できて、あたしはおかしくなって小さく笑った。
「だから」
そんなあたしに幕之内くんは改めて向き直って断言した。
今度はあたしに言い聞かせるように。
「そんな宮田くんだから、きっとすぐ帰ってきます」
この時ようやくあたしを引き止めた幕之内くんの本当の意図がわかった。
「ありがとう。幕之内くん」
立ち止まっても時間は流れ、過ぎ去ってしまえば、すべての出来事は過去になる。
過去に囚われて動けないでいたら、流れる時間に取り残されてしまう。
現実を受け止め、過去に打ち勝つ為、そして、己の信念の為旅立って行った宮田くん。
あたしも、立ち止まってなんかいられない。
立ち止まっていたら、それこそ本当に宮田くんが手の届かないところに行ってしまう。
寂しいとか会いたいとか、叶わぬ現実を嘆く前にやらなければいけないことがある。
あたしは、今のあたしが出来る事を精一杯やらなくちゃいけない。
同じ場所に立ち止まってなんかいられない。
木村さんも幕之内くんも、きっとあたしにそれを伝えたかったんだと思う。
遠くなった幕之内くんの背中とこの結論を出すきかっけを作ってくれた木村さんに向かって、あたしは大きく頭を下げた。
2009/12/21 UP
+++++atogaki+++++
ネガティブ期、ようやく脱出。宮田くん帰国まであともう少しです。
鴨川ジムを(鷹村さんから逃げるように)後にして、夕日が翳り始めた土手を歩いてる時だった。
「澪さん・・・!」
振り返ると幕之内くんがこちらに向かって走ってきた。
程なくしてあたしの前に現れた幕之内くんは、さほど乱れていない呼吸を整えてから少し遠慮がちに言った。
「あの、ちょっといいですか?」
実際に試合を見たことはなくて、雑誌で知る限りの印象と全く違う幕之内くんに少し戸惑ったけれど、それが断る理由にはならなかったのであたしは頷いた。
「じゃあ、あの、送りがてら・・・」
幕之内くんに促されて
あたし達は夕日で赤く染まった土手を歩き始めた。
「全日本新人王おめでとうございます」
話があるといいながらなかなか切り出さない幕之内くんに、あたしの方から声をかけた。
「あ、ありがとうございます。よくご存知なんですね」
「まぁ・・・フェザー級の人は、ね」
その時、脳裏に宮田くんの姿が浮かんできて
あたしはどこか遠くを見た。
「本当だったら」
「え?」
そんなあたしの意識を引き戻したのは、意を決した幕之内くんだった。
「東日本新人王の決勝で、宮田くんと戦う約束だったんです」
「約束・・・」
その言葉が、何故かひっかかった。
幕之内くんは真っ直ぐ前を見据え、それからあたしを見た。
「宮田くんは元々鴨川ジムにいたんです」
どちらともなく立ち止まり、そしてひとつひとつ言葉を選びながらまるで大切な何かを伝えるように幕之内くんは話してくれた。
入門する時に初めてのスパーリングが宮田くんだった事。
同い年の宮田くんにボコボコにやられた事。
三ヵ月後の再戦で幕之内くんが勝った事。
プロのリングで決着をつける為、宮田くんがジムを移籍した事。
東日本新人王決勝で会おうと約束した事。
「卒業式の日、宮田くんはボクに言いました。その差が埋まるまで帰ってこない、と」
幕之内くんは言葉を止め、拳を強く握り締めた。
あたしはただ、黙って彼の話を聞いた。
「宮田くんはすごい人です。もともとすごい才能があるのに努力を惜しまない」
「そんな宮田くんだから、ボクとの差なんてあっという間に埋めてすぐ日本に帰ってくるはずです」
川辺に向けていた幕之内くんの視線があたしを見た。
逸らすことなんてできないくらいの真っ直ぐな視線は、あたしをしっかりと捕らえた。
「だから、ボクも次に宮田くんに会った時がっかりされないように頑張ってるんです」
「幕之内くん・・・」
揺るぎない意思のこもった言葉に、最後に会った宮田くんの姿が浮かんだ。
宮田くんと幕之内くん、この二人の約束というものが彼らにとってどれだけ大切なものなのかわかった気がした。
「・・・って、す、すいません。なんか生意気な事を言ってしまって。木村さんから、その、澪さんの事、聞いてまして・・・・」
「ありがとう。幕之内くん」
さっきとは別人のように急にオドオドした幕之内くんに、
あたしは心の底から感謝の言葉を告げると頭を掻きながら少し照れたように笑った。
「そ、それにしてもやっぱりすごいや宮田くんは」
「何が?」
「だって、こんなにステキな彼女さんまでいて、やっぱりすごいです、宮田くんは」
幕之内くんの言葉に、あたしは一瞬あっけにとられた。
「は?違・・・あたし宮田くんの、その、彼女とかじゃないよ?」
「え?だって木村さんが・・・」
ちょっとォォォォ木村さァァァァん!!
みんなに一体何て話してるですかァァァァ?!
「とっ、とにかく違うから。ま、まぁ、見かけによらず、優しいトコあって、嫌いじゃないけど」
「そうなんですよね!」
「へ?」
あたしのフォローみたいな言い訳に
幕之内くんはいきなり目を輝かせた。
「宮田くんって、一見クールでおっかないけど、本当は情に厚いっていうか」
「う、うん・・・・」
「ボクがボクシング始めた頃の話なんですけどね、シューズを買いに行った時に偶然会って・・・」
それから幕之内くんは宮田くんとのエピソードを色々聞かせてくれた。それはもう嬉しそうに。
「それで・・・!」
あたしが驚きを隠さないで聞き入ってる事に気付いたのか、幕之内くんはようやく言葉を止めた。
そして自分の言ったことに今更恥ずかしくなったのか、ちょっと気まずそうな顔をした。
「・・・あははっ」
それがおかしくてあたしは思わず笑ってしまった。
「す、すいません・・・」
木村さんからジムに遊びにくるよう誘われた時『宮田オタクがいる』と言っていた事を思い出す。
「幕之内くんにとって、宮田くんはライバルっていうより憧れの人って感じだね」
「はい!同い年なのに強くて何やってもかっこいいし、憧れます!」
ここまでハッキリ言われると聞いてるコッチが恥ずかしくなってくる。
宮田くんはこんな幕之内くんをどう思ってるんだろう。
きっとボクサーとしては認めてるんだろうけど、それ以外はなんかめちゃくちゃ迷惑してそうだな。
幕之内くんに羨望の眼差しを向けられて心底迷惑そうな顔をしている宮田くんが容易に想像できて、あたしはおかしくなって小さく笑った。
「だから」
そんなあたしに幕之内くんは改めて向き直って断言した。
今度はあたしに言い聞かせるように。
「そんな宮田くんだから、きっとすぐ帰ってきます」
この時ようやくあたしを引き止めた幕之内くんの本当の意図がわかった。
「ありがとう。幕之内くん」
立ち止まっても時間は流れ、過ぎ去ってしまえば、すべての出来事は過去になる。
過去に囚われて動けないでいたら、流れる時間に取り残されてしまう。
現実を受け止め、過去に打ち勝つ為、そして、己の信念の為旅立って行った宮田くん。
あたしも、立ち止まってなんかいられない。
立ち止まっていたら、それこそ本当に宮田くんが手の届かないところに行ってしまう。
寂しいとか会いたいとか、叶わぬ現実を嘆く前にやらなければいけないことがある。
あたしは、今のあたしが出来る事を精一杯やらなくちゃいけない。
同じ場所に立ち止まってなんかいられない。
木村さんも幕之内くんも、きっとあたしにそれを伝えたかったんだと思う。
遠くなった幕之内くんの背中とこの結論を出すきかっけを作ってくれた木村さんに向かって、あたしは大きく頭を下げた。
2009/12/21 UP
+++++atogaki+++++
ネガティブ期、ようやく脱出。宮田くん帰国まであともう少しです。