お相手宮田くんの原作沿い連載です
長編
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21 戸惑い
木村さんから借りた辞典によると、宮田くんのくれた花束には色んな意味の花言葉があった。
花言葉と一口に言っても、同じ花でも国や地域によって違ったものがつけられていて、教えてもらった名前を頼りにひとつずつ調べてみたが花言葉がわかればわかるほど、木村さんの言ってる意味がわからなくなる。
信じあう心、望み・思い出、私を信じて・・・
あたしと宮田くんはバイト先の同僚で、特別なものは何一つない。
そんな相手にこんな言葉を贈ったところで一体何の意味があるのか。
まして相手はあの宮田くんだ。
良くも悪くも、彼はストレートな性格だから
こんなまわりくどい事をするとは考えられない。
―――深い意味なんてなかったのかな。
あの花束を作ったのは木村さんで、その時の様子から察して何か意味があるのかと深読みしすぎただけだろうか。
小さくため息を零しながら残り最後の花のページをめくると、勿忘草の花言葉は『わたしを忘れないで』だった。
ふと、『ごめん』と言った宮田くんの事が浮かんだ。
勿忘草の花言葉と、連絡の来ない現実。
どう受け取るのかはあたし次第だと言った木村さん。
「わかんないよ・・・」
辞典を置いてあたしはそのままフローリングに寝転がった。
硬くて冷たい感覚が洋服越しに伝わって、真っ白い天井が目に入る。
照明の眩しさに顔を背けると、先程置いた花言葉辞典の横にある茶色い袋が目に入った。
あたしは手を伸ばしてそれを掴むと、重い身体をのっそりと起こして袋をあけた。
新人王が終わって以来久しく買ってなかった『月刊ボクシングファン』。
木村さんのところで見せてもらったページをめくる。
今の宮田くんを示す、たった数行の記事と小さな写真。
ほんの少し前まですぐ近くにいた人なのに、白黒紙面の片スミにいる宮田くんはまるで現実味がなく、一緒に過ごした時間も全て、幻だったのかもしれないとすら錯覚してしまう。
それまで輝かしいボクシングロードを突き進んでいた宮田くんにとって、これがどれほど辛い事なのかあたしでも容易に想像できる。
周りは敵だらけの中、失ってしまった自信と、自分自身を取り戻すため、たった一人で戦い続けなければいけないという事実。
「幻なんかじゃないよ」
ひとり暮らしの部屋に自分の声が響く。
「あたし、宮田くんの事、ちゃんと見てたじゃない」
誰に向けてでもない。
あたしは、あたし自身に叱咤する為に声を出す。
「あたしが宮田くんの事、忘れるわけないじゃない・・・っ」
泣きたくない。
「もう・・・バッカみたい・・・・」
だけど声が震えて涙が止まらない。
それがくやしくて、また涙が出た。
数日後、借りた辞典を返そうと木村園芸を訪れると、店にはシャッターが下ろされ『定休日』の札が掛かっていた。
出直そうかとも思ったけれどあたしは少し考えてからよし、と決意を固めて木村園芸を後にした。
向かった先は、木村さんの所属する鴨川ボクシングジム。
木村さんに誘われていたこともあり、持っていた雑誌であらかじめ場所は確認してたので記憶を頼りに目的のジムに向かった。
空が夕焼け色に染まるのを眺めながら借りた本を手に、ゆるやかに続く土手を歩く。
いいところだな。
今度スケッチに来てみようか、なんて考えながら、時折吹き抜ける風に身を晒し先を急いだ。
雑誌で外観の写真は見たことがあったけれど、実際ボクシングジムに行くのは初めてなので、一体どんなところだろうと想像もつかなかった。
到着した『鴨川ボクシングジム』は二階建てのビルだった。
一階の窓からこっそり中を覗いてみると中央にはリングが設置され、その奥にはサンドバックらしきものがいくつも見える。
バンバン、という激しい音と縄跳びの跳ねる音、シューズの擦れる音も聞こえる。
初めて見るボクシングジムにあたしは相当尻込みしていた。
勢いで来たものの、よく考えたら木村さんが来てるかどうかもわからない。
こうして窓からその姿を探してはみるものの、リングや機材、それに人が入り混じっていて隅々まで確認することができない。
ジムの入り口で不審者さながらに中を覗く自分。
傍から見ればさも滑稽にみえるのだろうけど、今のあたしは周りを気にする余裕もなかったのが災いした。
「おう、何だ?オレ様のファンか」
「ひゃぁ!!」
背後の声に心臓が飛び出るかと思うほど驚いて振り返ると、大柄の男があたしを見下ろしていた。
「ま、とりあえず入れや!」
「へっ?!やっ、ちょっ・・・・」
慌てるあたしに構わず、その男は軽々と、まるで丸太を抱えるみたいにあたしの身体を腰から片手で抱え上げ、空いた方の手でジムのドアを豪快に空けた。
「きゃァァァァァアァアァァァ!!!!」
あたしの叫び声にジム内の視線が一斉に集まる。
これはもう、恥ずかしいとかいうレベルじゃない。
「ちょっと、離してくださいっ!!」
ジタバタ抵抗して必死に脱出を試みるみるものの、手足は空を切るだけでその腕はビクともしない。
「ンだよ。せっかくオレ様が丁寧に案内してやってるっつーのに」
そのままつかつかとジムを横切る途中、痛いくらいに視線を感じる。
「どこが丁寧なんですかー!これ丸太!あたし丸太扱いだからっ!!」
「あれ、澪ちゃん?」
ザワつくジム内から誰かがあたしの名前を呼んだ。
「木村さん!!」
まるで神様にでも巡りあえたような気分だった。
2009/11/06 UP
+++++atogaki+++++
色んなキャラと絡ませよう第二弾、ということで、もう手っ取り早く鴨川ジムに行ってもらうことにしました(笑)
木村さんから借りた辞典によると、宮田くんのくれた花束には色んな意味の花言葉があった。
花言葉と一口に言っても、同じ花でも国や地域によって違ったものがつけられていて、教えてもらった名前を頼りにひとつずつ調べてみたが花言葉がわかればわかるほど、木村さんの言ってる意味がわからなくなる。
信じあう心、望み・思い出、私を信じて・・・
あたしと宮田くんはバイト先の同僚で、特別なものは何一つない。
そんな相手にこんな言葉を贈ったところで一体何の意味があるのか。
まして相手はあの宮田くんだ。
良くも悪くも、彼はストレートな性格だから
こんなまわりくどい事をするとは考えられない。
―――深い意味なんてなかったのかな。
あの花束を作ったのは木村さんで、その時の様子から察して何か意味があるのかと深読みしすぎただけだろうか。
小さくため息を零しながら残り最後の花のページをめくると、勿忘草の花言葉は『わたしを忘れないで』だった。
ふと、『ごめん』と言った宮田くんの事が浮かんだ。
勿忘草の花言葉と、連絡の来ない現実。
どう受け取るのかはあたし次第だと言った木村さん。
「わかんないよ・・・」
辞典を置いてあたしはそのままフローリングに寝転がった。
硬くて冷たい感覚が洋服越しに伝わって、真っ白い天井が目に入る。
照明の眩しさに顔を背けると、先程置いた花言葉辞典の横にある茶色い袋が目に入った。
あたしは手を伸ばしてそれを掴むと、重い身体をのっそりと起こして袋をあけた。
新人王が終わって以来久しく買ってなかった『月刊ボクシングファン』。
木村さんのところで見せてもらったページをめくる。
今の宮田くんを示す、たった数行の記事と小さな写真。
ほんの少し前まですぐ近くにいた人なのに、白黒紙面の片スミにいる宮田くんはまるで現実味がなく、一緒に過ごした時間も全て、幻だったのかもしれないとすら錯覚してしまう。
それまで輝かしいボクシングロードを突き進んでいた宮田くんにとって、これがどれほど辛い事なのかあたしでも容易に想像できる。
周りは敵だらけの中、失ってしまった自信と、自分自身を取り戻すため、たった一人で戦い続けなければいけないという事実。
「幻なんかじゃないよ」
ひとり暮らしの部屋に自分の声が響く。
「あたし、宮田くんの事、ちゃんと見てたじゃない」
誰に向けてでもない。
あたしは、あたし自身に叱咤する為に声を出す。
「あたしが宮田くんの事、忘れるわけないじゃない・・・っ」
泣きたくない。
「もう・・・バッカみたい・・・・」
だけど声が震えて涙が止まらない。
それがくやしくて、また涙が出た。
数日後、借りた辞典を返そうと木村園芸を訪れると、店にはシャッターが下ろされ『定休日』の札が掛かっていた。
出直そうかとも思ったけれどあたしは少し考えてからよし、と決意を固めて木村園芸を後にした。
向かった先は、木村さんの所属する鴨川ボクシングジム。
木村さんに誘われていたこともあり、持っていた雑誌であらかじめ場所は確認してたので記憶を頼りに目的のジムに向かった。
空が夕焼け色に染まるのを眺めながら借りた本を手に、ゆるやかに続く土手を歩く。
いいところだな。
今度スケッチに来てみようか、なんて考えながら、時折吹き抜ける風に身を晒し先を急いだ。
雑誌で外観の写真は見たことがあったけれど、実際ボクシングジムに行くのは初めてなので、一体どんなところだろうと想像もつかなかった。
到着した『鴨川ボクシングジム』は二階建てのビルだった。
一階の窓からこっそり中を覗いてみると中央にはリングが設置され、その奥にはサンドバックらしきものがいくつも見える。
バンバン、という激しい音と縄跳びの跳ねる音、シューズの擦れる音も聞こえる。
初めて見るボクシングジムにあたしは相当尻込みしていた。
勢いで来たものの、よく考えたら木村さんが来てるかどうかもわからない。
こうして窓からその姿を探してはみるものの、リングや機材、それに人が入り混じっていて隅々まで確認することができない。
ジムの入り口で不審者さながらに中を覗く自分。
傍から見ればさも滑稽にみえるのだろうけど、今のあたしは周りを気にする余裕もなかったのが災いした。
「おう、何だ?オレ様のファンか」
「ひゃぁ!!」
背後の声に心臓が飛び出るかと思うほど驚いて振り返ると、大柄の男があたしを見下ろしていた。
「ま、とりあえず入れや!」
「へっ?!やっ、ちょっ・・・・」
慌てるあたしに構わず、その男は軽々と、まるで丸太を抱えるみたいにあたしの身体を腰から片手で抱え上げ、空いた方の手でジムのドアを豪快に空けた。
「きゃァァァァァアァアァァァ!!!!」
あたしの叫び声にジム内の視線が一斉に集まる。
これはもう、恥ずかしいとかいうレベルじゃない。
「ちょっと、離してくださいっ!!」
ジタバタ抵抗して必死に脱出を試みるみるものの、手足は空を切るだけでその腕はビクともしない。
「ンだよ。せっかくオレ様が丁寧に案内してやってるっつーのに」
そのままつかつかとジムを横切る途中、痛いくらいに視線を感じる。
「どこが丁寧なんですかー!これ丸太!あたし丸太扱いだからっ!!」
「あれ、澪ちゃん?」
ザワつくジム内から誰かがあたしの名前を呼んだ。
「木村さん!!」
まるで神様にでも巡りあえたような気分だった。
2009/11/06 UP
+++++atogaki+++++
色んなキャラと絡ませよう第二弾、ということで、もう手っ取り早く鴨川ジムに行ってもらうことにしました(笑)