お相手宮田くんの原作沿い連載です
長編
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20 Flower
木村さん―――木村達也と自己紹介された―――が淹れてくれたハーブティーは
あたしの身体の隅々に染み渡り、
まるで乾いたスポンジが水分を吸収するみたいにあたしの心を潤わせた。
「花屋の息子ってカンジだろ?」
手際よくハーブティーを淹れてくれた木村さんに
おいしいです、と素直に感想を告げると
いたずらっぽく笑ってそう言った。
なんだか、ホッとする笑顔の人だな。
あたしは久しく感じてなかった穏やかな時間をこの『木村園芸』で過ごしていた。
ハーブティーを半分くらい飲んだところで
木村さんが座るレジの背後にある棚が目に入る。
色とりどりのラッピング用のリボンや包装紙に混じって、一冊の本が置かれていた。
「花言葉、辞典・・・」
あたしの視線に気付いて
それを追うように木村さんが振り返った。
「あぁ、これ。花言葉で選ぶ客も結構いるんだよな。大抵は知ってるつもりだけど、珍しいのとかは流石にわかんねぇから。
ま、これも商売道具の一つかな」
見てみる?と差し出され、
あたしはソーサーの上にカップを乗せた手で受け取ってパラパラとめくってみた。
50音順にズラリと並ぶ花の名前と花言葉。
逆引きもできる、かなり内容の充実した本だった。
「・・・・木村さん」
「ん?」
「あのですね、数種類の花束の場合でも、やっぱりそれぞれの花言葉とか意識するんですか?」
「んー・・・一概には言えないけど
まぁ好みの花に混じえて伝えたいニュアンスを含めた花を入れることはよくあるよ」
「・・・そうですか・・・あのっ!」
「ん?」
「えっとですね、いくつか花の名前を教えて欲しいんですけど・・・」
記憶を辿りながらあの日宮田くんからもらった花束の花をひとつひとつ説明する。
だけど大きさや色だけでは伝わり辛く、木村さんは疑問符を浮かべた表情をしていた。
うーん・・・困ったな・・・・・あ!
「あのっ、ちょっと待ってくださいね」
百聞は一見に如かず。
あたしは鞄の中からスケッチブックを取り出し鉛筆を滑らせる。
口で説明するのは難しいのに
毎日見ていた対象物を描き出すという作業はなんて容易いんだろう。
「こんな花束なんですけど」
描き上がったスケッチを見せると木村さんがへぇ、と一目置いたように言って
それからあぁ、と何か思いついたように
レジの下から大きな辞典を引っ張り出してきた。
「この大きくて白い丸いのはこれかな?」
広げて見せられたページには
今まさにあたしが描いたそれが載っていて大きく頷いた。
「これはラナンキュラス。花言葉は確か魅力とか名誉・名声・・・あ」
説明の途中で何かを思い出したように言った。
「木村さん?」
「あーいやいやごめん。えっと、他の花は・・・」
それから木村さんはあたしの絵を見て的確に花を言い当てていった。
そしてその口調はさっきまでの疑問系でなく、まるでその花束を見たことがあるかのような自信に溢れたものだった。
ブルースター
サイネリア
ラグラス
「そしてこの小さな花はわすれなぐさ」
「わすれなぐさ・・・」
「この花束がどうかした?」
「いえ、別に・・・前に見かけて綺麗だなぁって思って」
名前さえわかれば花言葉を調べられる。
宮田くんが花言葉の意味を込めてあの花束をくれたかどうかはわからないけれど
何でもいいから、彼に関わることを考えていたかった。
あたしはスケッチに手早く教えてもらった名前を記入してから
お礼を言って木村さんに辞典を返した。
そのまま辞典をもとの位置に戻す木村さんを見ながら
あたしは残ったハーブティーを飲み干す。
「宮田から貰った?」
「・・・!」
空になったカップをソーサー戻す手が止まった。
かぁっと、体中の血液が頬に集まってきたみたいに熱くなった。
「はい大当たり、ってね。卒業式の日だったかなぁ。
アイツ、制服のままウチに来たから」
木村さんの言う、あたしの知らない宮田くんの姿に心臓は早鐘を打つ。
もっと聞きたいような、聞きたくないような。
そんなあたしの気持ちを知ってか知らずか、木村さんか続けた。
「そっかー、澪ちゃんにだったのか。
誰に渡すのか聞いても絶対言わねーからこれは絶対・・・」
そこで言葉を切る木村さん。
食い入るように見つめるあたしに気づいて
右手で口元を押さえ考え込んでしまった。
「木村さん?」
「・・・いや。オレが口を挟むべき事じゃないと思ってね。
第一、お客様のプライバシーは守る義務があるし」
今更そんな事を言われても
あたしは気になって仕方がない。
納得いかないあたしに木村さんは苦笑した。
「ま、何だ。今オレが言えるのは君次第ってコトかな」
「・・・意味が、よくわかりません」
「宮田と君がどういう関係なのか、オレは本ト何も知らないけど
宮田の気持ちはきっとあの花束に精一杯込めたハズだから
それをどう受け取るのかは澪ちゃん次第、ってコトだよ」
今度はあたしの方が考え込んでしまって
それを見た木村さんが若いっていいねぇ、と笑った。
そんなに年変わらないと思うんだけどなぁ
「それにしても澪ちゃん、絵上手いね。ソッチ系の学生さん?」
違う話を振られて
あたしは思い出したように顔を上げた。
「いえ、学生は学生ですけど、絵は趣味で描いてる程度です」
「そうなんだ。いやでもホント上手いね」
「ありがとうございます」
「それで」
「はい?」
スケッチブックを片付け始めたあたしに
木村さんが今度は意味深に問いかける。
「気にならない?」
「何がですか?」
「花言葉」
「・・・・・」
「その顔じゃ帰って速攻調べるつもりだろ」
「・・・・・・」
「ホント分かり易いなぁ、澪ちゃんは!」
そう言ってさも楽しげに笑う木村さん。
穏やかで優しげなフリして
本当はちょっとイジワルな人のなかもしれない。
「だ、だって、木村さんが意味深な言い方するから気になるじゃないですか」
どんどん顔が赤くなっていくのが自分でもわかる。
もし突っ込まれたらハーブティーのせいにしよう。
でもハーブティーって酔う成分あるのかな。ないよね。やっぱり。
そんな事を考えながら帰り支度をするあたしの前に、さっきの花言葉辞典が差し出される。
「よかったら持って帰んなよ。返すのはいつでもいいから」
「でも・・・」
「いいからいいから。ここで見てってもいいけど誰かがそばにいちゃアレだろ」
そう言って木村さんはまた悪戯っぽく笑った。
なんだか適わないなぁ、この笑顔には。
「ありがとうございます」
あたしは笑って素直に辞典を受け取った。
「今日は色々ありがとうございます。
ハーブティーも、凄くおいしかったです。ご馳走様でした」
「またいつでもおいでよ。そうだ、ジムの方にも遊びに来なよ。
バイト先からそう遠くないし、宮田の情報も入ってくるだろうし」
「はい!」
ありがとうございました、ともう一度言って頭を下げて
さぁ帰ろう、という所であたしはあっと声を上げる。
「どうしたの?」
「あたし、何も買ってない・・・」
宮田くんの事で夢中になって
ここが花屋である事をすっかり忘れてた。
だからといって元々目的があって入ったわけではないので
とりあえず目に付いた花を貰おうと店内に視線を泳がせた。
木村さんはそんなあたしの両肩を掴むと
そのまま身体を回れ右して、ゆっくりと店の外に押し出された。
「き、木村さん?!」
「今は花選んでる場合じゃないだろ。
いいから早く帰った帰った」
「でも、お茶までご馳走になったし」
「かわいい女の子とおしゃべりできてオレも楽しかったしさ。
その代わり、次来た時は是非よろしく」
笑顔で小さく手を振る木村さんに
感謝の気持ちでいっぱいになって
あたしはもう一度頭を下げ、
満面の笑みを残して木村園芸を後にした。
2009/08/10 PCUP
+++++atogaki+++++
木村さんはやっぱり癒し系だなぁ。
こういう役回りが一番良く似合う(笑)
木村さん―――木村達也と自己紹介された―――が淹れてくれたハーブティーは
あたしの身体の隅々に染み渡り、
まるで乾いたスポンジが水分を吸収するみたいにあたしの心を潤わせた。
「花屋の息子ってカンジだろ?」
手際よくハーブティーを淹れてくれた木村さんに
おいしいです、と素直に感想を告げると
いたずらっぽく笑ってそう言った。
なんだか、ホッとする笑顔の人だな。
あたしは久しく感じてなかった穏やかな時間をこの『木村園芸』で過ごしていた。
ハーブティーを半分くらい飲んだところで
木村さんが座るレジの背後にある棚が目に入る。
色とりどりのラッピング用のリボンや包装紙に混じって、一冊の本が置かれていた。
「花言葉、辞典・・・」
あたしの視線に気付いて
それを追うように木村さんが振り返った。
「あぁ、これ。花言葉で選ぶ客も結構いるんだよな。大抵は知ってるつもりだけど、珍しいのとかは流石にわかんねぇから。
ま、これも商売道具の一つかな」
見てみる?と差し出され、
あたしはソーサーの上にカップを乗せた手で受け取ってパラパラとめくってみた。
50音順にズラリと並ぶ花の名前と花言葉。
逆引きもできる、かなり内容の充実した本だった。
「・・・・木村さん」
「ん?」
「あのですね、数種類の花束の場合でも、やっぱりそれぞれの花言葉とか意識するんですか?」
「んー・・・一概には言えないけど
まぁ好みの花に混じえて伝えたいニュアンスを含めた花を入れることはよくあるよ」
「・・・そうですか・・・あのっ!」
「ん?」
「えっとですね、いくつか花の名前を教えて欲しいんですけど・・・」
記憶を辿りながらあの日宮田くんからもらった花束の花をひとつひとつ説明する。
だけど大きさや色だけでは伝わり辛く、木村さんは疑問符を浮かべた表情をしていた。
うーん・・・困ったな・・・・・あ!
「あのっ、ちょっと待ってくださいね」
百聞は一見に如かず。
あたしは鞄の中からスケッチブックを取り出し鉛筆を滑らせる。
口で説明するのは難しいのに
毎日見ていた対象物を描き出すという作業はなんて容易いんだろう。
「こんな花束なんですけど」
描き上がったスケッチを見せると木村さんがへぇ、と一目置いたように言って
それからあぁ、と何か思いついたように
レジの下から大きな辞典を引っ張り出してきた。
「この大きくて白い丸いのはこれかな?」
広げて見せられたページには
今まさにあたしが描いたそれが載っていて大きく頷いた。
「これはラナンキュラス。花言葉は確か魅力とか名誉・名声・・・あ」
説明の途中で何かを思い出したように言った。
「木村さん?」
「あーいやいやごめん。えっと、他の花は・・・」
それから木村さんはあたしの絵を見て的確に花を言い当てていった。
そしてその口調はさっきまでの疑問系でなく、まるでその花束を見たことがあるかのような自信に溢れたものだった。
ブルースター
サイネリア
ラグラス
「そしてこの小さな花はわすれなぐさ」
「わすれなぐさ・・・」
「この花束がどうかした?」
「いえ、別に・・・前に見かけて綺麗だなぁって思って」
名前さえわかれば花言葉を調べられる。
宮田くんが花言葉の意味を込めてあの花束をくれたかどうかはわからないけれど
何でもいいから、彼に関わることを考えていたかった。
あたしはスケッチに手早く教えてもらった名前を記入してから
お礼を言って木村さんに辞典を返した。
そのまま辞典をもとの位置に戻す木村さんを見ながら
あたしは残ったハーブティーを飲み干す。
「宮田から貰った?」
「・・・!」
空になったカップをソーサー戻す手が止まった。
かぁっと、体中の血液が頬に集まってきたみたいに熱くなった。
「はい大当たり、ってね。卒業式の日だったかなぁ。
アイツ、制服のままウチに来たから」
木村さんの言う、あたしの知らない宮田くんの姿に心臓は早鐘を打つ。
もっと聞きたいような、聞きたくないような。
そんなあたしの気持ちを知ってか知らずか、木村さんか続けた。
「そっかー、澪ちゃんにだったのか。
誰に渡すのか聞いても絶対言わねーからこれは絶対・・・」
そこで言葉を切る木村さん。
食い入るように見つめるあたしに気づいて
右手で口元を押さえ考え込んでしまった。
「木村さん?」
「・・・いや。オレが口を挟むべき事じゃないと思ってね。
第一、お客様のプライバシーは守る義務があるし」
今更そんな事を言われても
あたしは気になって仕方がない。
納得いかないあたしに木村さんは苦笑した。
「ま、何だ。今オレが言えるのは君次第ってコトかな」
「・・・意味が、よくわかりません」
「宮田と君がどういう関係なのか、オレは本ト何も知らないけど
宮田の気持ちはきっとあの花束に精一杯込めたハズだから
それをどう受け取るのかは澪ちゃん次第、ってコトだよ」
今度はあたしの方が考え込んでしまって
それを見た木村さんが若いっていいねぇ、と笑った。
そんなに年変わらないと思うんだけどなぁ
「それにしても澪ちゃん、絵上手いね。ソッチ系の学生さん?」
違う話を振られて
あたしは思い出したように顔を上げた。
「いえ、学生は学生ですけど、絵は趣味で描いてる程度です」
「そうなんだ。いやでもホント上手いね」
「ありがとうございます」
「それで」
「はい?」
スケッチブックを片付け始めたあたしに
木村さんが今度は意味深に問いかける。
「気にならない?」
「何がですか?」
「花言葉」
「・・・・・」
「その顔じゃ帰って速攻調べるつもりだろ」
「・・・・・・」
「ホント分かり易いなぁ、澪ちゃんは!」
そう言ってさも楽しげに笑う木村さん。
穏やかで優しげなフリして
本当はちょっとイジワルな人のなかもしれない。
「だ、だって、木村さんが意味深な言い方するから気になるじゃないですか」
どんどん顔が赤くなっていくのが自分でもわかる。
もし突っ込まれたらハーブティーのせいにしよう。
でもハーブティーって酔う成分あるのかな。ないよね。やっぱり。
そんな事を考えながら帰り支度をするあたしの前に、さっきの花言葉辞典が差し出される。
「よかったら持って帰んなよ。返すのはいつでもいいから」
「でも・・・」
「いいからいいから。ここで見てってもいいけど誰かがそばにいちゃアレだろ」
そう言って木村さんはまた悪戯っぽく笑った。
なんだか適わないなぁ、この笑顔には。
「ありがとうございます」
あたしは笑って素直に辞典を受け取った。
「今日は色々ありがとうございます。
ハーブティーも、凄くおいしかったです。ご馳走様でした」
「またいつでもおいでよ。そうだ、ジムの方にも遊びに来なよ。
バイト先からそう遠くないし、宮田の情報も入ってくるだろうし」
「はい!」
ありがとうございました、ともう一度言って頭を下げて
さぁ帰ろう、という所であたしはあっと声を上げる。
「どうしたの?」
「あたし、何も買ってない・・・」
宮田くんの事で夢中になって
ここが花屋である事をすっかり忘れてた。
だからといって元々目的があって入ったわけではないので
とりあえず目に付いた花を貰おうと店内に視線を泳がせた。
木村さんはそんなあたしの両肩を掴むと
そのまま身体を回れ右して、ゆっくりと店の外に押し出された。
「き、木村さん?!」
「今は花選んでる場合じゃないだろ。
いいから早く帰った帰った」
「でも、お茶までご馳走になったし」
「かわいい女の子とおしゃべりできてオレも楽しかったしさ。
その代わり、次来た時は是非よろしく」
笑顔で小さく手を振る木村さんに
感謝の気持ちでいっぱいになって
あたしはもう一度頭を下げ、
満面の笑みを残して木村園芸を後にした。
2009/08/10 PCUP
+++++atogaki+++++
木村さんはやっぱり癒し系だなぁ。
こういう役回りが一番良く似合う(笑)