お相手宮田くんの原作沿い連載です
長編
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19 偶然の出会い
自分の気持ちに気付いたからと言って
宮田くんがいないという現実は変わらない。
それでもどこかスッキリした部分もあって
いつまでもこんなままじゃいけないと
あたしは少しずつ、今の日常を受け入れようとしていた。
ゴールデンウィークを控えたその日、
講義を終えバイトも休みで時間を持て余していたあたしは
学校から2駅向こうの自宅に向かってひとり歩いていた。
天気の良さも手伝っていつもより心が軽かったあたしは
普段あまり通らない道を迂回してみた。
商店街に入り、ふと見覚えのある店の前で足が止まる。
そこは宮田くんのお見舞いに行く前に立ち寄った花屋だった。
フワリと漂う優しい花の香りに誘わて、店内を覗いてみた。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
若い男の声に今日はあの漫画みたいな髪型のおばさんじゃないんだと
そんな事を考えていた。
「あれ?君って確か・・・」
営業トークというより、明らかにあたし個人に向けられた言葉に
花から声の主に視線を移すと途端に目が合った。
「やっぱり。宮田のバイト先の」
まさかこんなところで聞くはずのない名前に驚いて
あたしは改めてその人の顔を見た。
記憶を手繰り寄せ、その中のひとつに辿り着いた時
あたしはあっと小さく声をあげた。
一度宮田くんとバイト中の時に来た、ジャージ姿の三人組を思い出す。
トサカ頭をした大柄な人と、今時珍しいパーマの人、
そして人の良さそうな、この人。
その風貌もさることながら
ニヤニヤと意味深にあたしを見てはやたらと声をかけてこられたのと、
宮田くんがいつも以上に不機嫌だったのでよく覚えてる。
「宮田くんの知り合いの方ですか?」
「ああ。元ジムメイトなんだ」
「じゃあ、あなたもボクシングを?」
「一応、Jr.ライト級の日本ランカーなんだけどね」
ポリポリと頭を掻きながら
まぁ宮田とは比べモンにもなんねぇけど、と苦笑する彼に
あたしは慌てて言葉を足した。
「すみません。あたし、ボクシングって言っても宮田くんしか知らなくて」
彼と同じフェザー級の人なら少しはわかるんですが、と
取り繕うあたしに、まぁまぁと笑顔を向けられる。
「いいよいいよ、そんな気ィ遣ってもらわなくても。
君が宮田一筋なのはよーくわかったから」
「いえっ、そんな、別に違・・・」
「あれ、違うの?」
「・・・・いや・・・ち、違わない・・です、けど」
なんだか誘導されてるなぁと思いながら
あたしは自分の言ってることに恥ずかしくなって俯くと
彼は笑って、それからごめんごめんと言葉を続けた。
「しっかし、あいつ女のファン多いし、色々心配だろ?」
「べ、別に、あたしはただバイト仲間として応援してるだけで・・・」
「ふーん」
含んだ返事にあたしは困ってしまう。
どうしよう。もう帰っちゃおうかな。
そんなあたしの考えは
彼の次の一言で吹き飛んでしまった。
「でも復帰戦が無名選手にドローったァ、宮田もキツいだろうな」
「え?」
「あれ、知らない?雑誌に載ってたけど・・・えっと、ちょっと待っててくれる?」
そう言って店の奥から雑誌をめくりながら戻ってきて
ここなんだけど、とページを開いて見せてくれた。
それは白黒ページの小さな記事で
『宮田一郎【川原】無念の引き分け(ドロー)』という見出しに
僅か数行にまとめられた記事と、小さく写った宮田くんの姿があった。
「地元びいきっていうのがあってね、海外ではよくある事なんだ。
聞くところによるとこの試合も宮田が2回もダウンとって
圧倒的に優位だったらしいけど・・・」
「そんな・・・」
「ボクシングってそういう世界なんだよ。
でも、そんな世界に飛び込んで行ったのもアイツ自身なんだ」
「・・・・・・」
あたしは何も言えなかった。
そしてまた、情けない自分が顔を出す。
頑張る宮田くんに何も出来ない不甲斐ない自分。
立ち止まって、現実にただ戸惑うだけの自分。
あたしは一体、何やってるんだ。
「ところで君さ、名前教えてもらってもいいかな?」
心の奥深くの、暗い部分に引きずり込まれそうだったあたしを
彼の穏やかな声が引き留めた。
救われたような気分だった。
「佐倉です。佐倉、澪」
「澪ちゃんか。ね、澪ちゃん。
オレこれからちょっと一息入れようと思うんだけど
一人でも何だし、時間大丈夫だったら一緒にどうかな」
「え?」
「とっておきのハーブティー、淹れるからさ」
優しい笑顔に張り詰めた心がふわりと解き解された気がして
あたしは知らない間に入ってた力を緩めた。
「・・・いいんですか?勝手にお客さん店の奥に入れちゃって」
「いーのいーの、ここオレの家だし。
親父もお袋も今配達でいないし・・・って、
あ、だからって別に変な意味じゃないから!」
ちょっと慌てたその様子がおかしくて
あたしは思わず笑ってしまった。
「じゃあ、お言葉に甘えてご馳走になります」
お邪魔しますとばかりに頭を下げると
どうぞどうぞ、と店の奥に案内された。
2009/08/10 PCUP
+++++atogaki+++++
そろそろ鴨川メンバーと接触させたい!ということでまずは木村さん登場。
自分の気持ちに気付いたからと言って
宮田くんがいないという現実は変わらない。
それでもどこかスッキリした部分もあって
いつまでもこんなままじゃいけないと
あたしは少しずつ、今の日常を受け入れようとしていた。
ゴールデンウィークを控えたその日、
講義を終えバイトも休みで時間を持て余していたあたしは
学校から2駅向こうの自宅に向かってひとり歩いていた。
天気の良さも手伝っていつもより心が軽かったあたしは
普段あまり通らない道を迂回してみた。
商店街に入り、ふと見覚えのある店の前で足が止まる。
そこは宮田くんのお見舞いに行く前に立ち寄った花屋だった。
フワリと漂う優しい花の香りに誘わて、店内を覗いてみた。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
若い男の声に今日はあの漫画みたいな髪型のおばさんじゃないんだと
そんな事を考えていた。
「あれ?君って確か・・・」
営業トークというより、明らかにあたし個人に向けられた言葉に
花から声の主に視線を移すと途端に目が合った。
「やっぱり。宮田のバイト先の」
まさかこんなところで聞くはずのない名前に驚いて
あたしは改めてその人の顔を見た。
記憶を手繰り寄せ、その中のひとつに辿り着いた時
あたしはあっと小さく声をあげた。
一度宮田くんとバイト中の時に来た、ジャージ姿の三人組を思い出す。
トサカ頭をした大柄な人と、今時珍しいパーマの人、
そして人の良さそうな、この人。
その風貌もさることながら
ニヤニヤと意味深にあたしを見てはやたらと声をかけてこられたのと、
宮田くんがいつも以上に不機嫌だったのでよく覚えてる。
「宮田くんの知り合いの方ですか?」
「ああ。元ジムメイトなんだ」
「じゃあ、あなたもボクシングを?」
「一応、Jr.ライト級の日本ランカーなんだけどね」
ポリポリと頭を掻きながら
まぁ宮田とは比べモンにもなんねぇけど、と苦笑する彼に
あたしは慌てて言葉を足した。
「すみません。あたし、ボクシングって言っても宮田くんしか知らなくて」
彼と同じフェザー級の人なら少しはわかるんですが、と
取り繕うあたしに、まぁまぁと笑顔を向けられる。
「いいよいいよ、そんな気ィ遣ってもらわなくても。
君が宮田一筋なのはよーくわかったから」
「いえっ、そんな、別に違・・・」
「あれ、違うの?」
「・・・・いや・・・ち、違わない・・です、けど」
なんだか誘導されてるなぁと思いながら
あたしは自分の言ってることに恥ずかしくなって俯くと
彼は笑って、それからごめんごめんと言葉を続けた。
「しっかし、あいつ女のファン多いし、色々心配だろ?」
「べ、別に、あたしはただバイト仲間として応援してるだけで・・・」
「ふーん」
含んだ返事にあたしは困ってしまう。
どうしよう。もう帰っちゃおうかな。
そんなあたしの考えは
彼の次の一言で吹き飛んでしまった。
「でも復帰戦が無名選手にドローったァ、宮田もキツいだろうな」
「え?」
「あれ、知らない?雑誌に載ってたけど・・・えっと、ちょっと待っててくれる?」
そう言って店の奥から雑誌をめくりながら戻ってきて
ここなんだけど、とページを開いて見せてくれた。
それは白黒ページの小さな記事で
『宮田一郎【川原】無念の引き分け(ドロー)』という見出しに
僅か数行にまとめられた記事と、小さく写った宮田くんの姿があった。
「地元びいきっていうのがあってね、海外ではよくある事なんだ。
聞くところによるとこの試合も宮田が2回もダウンとって
圧倒的に優位だったらしいけど・・・」
「そんな・・・」
「ボクシングってそういう世界なんだよ。
でも、そんな世界に飛び込んで行ったのもアイツ自身なんだ」
「・・・・・・」
あたしは何も言えなかった。
そしてまた、情けない自分が顔を出す。
頑張る宮田くんに何も出来ない不甲斐ない自分。
立ち止まって、現実にただ戸惑うだけの自分。
あたしは一体、何やってるんだ。
「ところで君さ、名前教えてもらってもいいかな?」
心の奥深くの、暗い部分に引きずり込まれそうだったあたしを
彼の穏やかな声が引き留めた。
救われたような気分だった。
「佐倉です。佐倉、澪」
「澪ちゃんか。ね、澪ちゃん。
オレこれからちょっと一息入れようと思うんだけど
一人でも何だし、時間大丈夫だったら一緒にどうかな」
「え?」
「とっておきのハーブティー、淹れるからさ」
優しい笑顔に張り詰めた心がふわりと解き解された気がして
あたしは知らない間に入ってた力を緩めた。
「・・・いいんですか?勝手にお客さん店の奥に入れちゃって」
「いーのいーの、ここオレの家だし。
親父もお袋も今配達でいないし・・・って、
あ、だからって別に変な意味じゃないから!」
ちょっと慌てたその様子がおかしくて
あたしは思わず笑ってしまった。
「じゃあ、お言葉に甘えてご馳走になります」
お邪魔しますとばかりに頭を下げると
どうぞどうぞ、と店の奥に案内された。
2009/08/10 PCUP
+++++atogaki+++++
そろそろ鴨川メンバーと接触させたい!ということでまずは木村さん登場。