お相手宮田くんの原作沿い連載です
長編
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17 FirstLove
3月に入り、暦の上では春を迎えるというのに
ここ数日、真冬を思わせる寒い日が続いていた。
それでもあたしは描きかけのスケッチを手に
いつもの緑地公園に来ていたが、降り出した雪に観念して早々に作業を切り上げ、
今は屋根のあるベンチに座って降り続く雪をボンヤリと見ていた。
こんな日にここに出向く人はいなくて、
まだ昼間だというのに辺りはシンとしている。
その中を空からゆっくりと舞い落ちる雪が幻想的で、まるでここが異世界のように感じていた。
「やっぱりここでしたか」
そんなあたしを現実世界に引き戻す声。
本来なら邪魔されたって怒るトコロだけれど、
その声の心地よさに適うものは今のあたしには見当がつかない。
「宮田くん。どうしたの?」
「家に行ってもいないし、バイトも今日は休みだし、ここかと思って・・・こんな日に風邪引きますよ」
「まさか雪が降るなんて思ってなかったんだもん。もうちょっと描きたかったけど、今から帰ろうと思ってたのよ。
それよりどうした・・・あ、卒業式?」
制服姿と、手にした黒い筒が目に入る。
「で、その花束は後輩から?やっぱモテるんだ宮田くん」
「違いますよ。これは澪さんに」
「え?」
どうぞ、と差し出された花束を受け取る。
一本の白い大きな花を中心に、ブルーを基調とした優しい花束。
花に特別詳しいというわけじゃないので
それぞれの花の名前まではわからないけれど素直に綺麗だと思った。
「すごく綺麗な花束だね。ありがとう。でも何で?」
正直な感想と、疑問をぶつける。
「ホワイトデーの、お返しです」
「ホワイトデーって、まだ先だよ?」
「ホワイトデーには渡せないから」
「え?」
意味がわからず、
それをそのまま表情に出したあたしに宮田くんは少し言いにくそうな素振りをしてから、
意を決したようにあたしの目を真っ直ぐに見た。
「しばらく、日本を離れるんです」
は?
「今日はそれを伝えにきました」
今、何て・・・
「ここで雨に遭っても、バイトでヘマしても、オレ、もういないから、しっかりしてくださいよ」
力なく笑いながら宮田くんは続ける。
だけどあたしは頭が混乱してしまって、
発する言葉を整理できないでいる。
「う、そ・・・何で、そんな、急に・・・」
思った単語をそのまま話すというより
口からこぼれ落ちるように言葉がついて出た。
「急じゃない。ずっと、考えてた」
真摯な瞳の宮田くんに、あたしははっとなる。
バレンタインの辺りから宮田くんは様子がおかしかいことが度々あった。
話しかけてもどこか上の空で、仕事中もボンヤリしてることが多く、
お客さんに気付かなかったり、商品の陳列を間違えたり、
どうしたのかと何度かさり気なく聞いてみたがけれど、何でもないと言われるだけでそれ以上はあたしも聞けなかった。
今思えば、この事だったんだ。
「果たさなきゃいけない約束があるんです。ここに・・・日本にいて、もうこれ以上遠回りはできない。
アジア各国の強いヤツと戦って、強くなってきます。約束と、オレ自身のプライドの為に」
揺ぎないその決意。
あたしは何も言えない。
「そっか。頑張ってね」
ようやく出てきたのは自分でもびっくりするくらい前向きな言葉で。
だけどあたしの中では何が何だかだかわからなくて、
ただ宮田くんが遠くへ行ってしまうという事実だけが理解できた。
表向きは笑っているけど心の中は今にも泣き出してしまいそうで、
こんなにも心と身体がバラバラなのは初めてだった。
だけど、目指す場所に向かって歩いていく宮田くんに暗い顔は見せられない。
作り物でも何でも、うまく笑顔になれた自分を褒めたい気分だった。
それでも、心に渦巻く不安定な気持ちは本物で、今まですぐ近くにいた宮田くんが自分の届かないところに行ってしまう不安に、
このまま黙っていたら心が押し潰されてしまいそうで、あたしは必死で言葉を続けた。
「いつ出発するの?」
「明日」
「わっ、ホント急なんだね。もっと早く言ってくれてたらお餞別くらい用意したのに」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
明るく振舞ってはみたけれど、押し黙った宮田くんを前にどうしていいのかわからなくて、
結局黙り込んでしまった。
程なくして宮田くんが送ります、と歩き出したのであたしはただうんとだけ答えて
雪の降る中、宮田くんと二人、その場を後にした。
帰り道に会話はなく
気がつけばハイツの前に来ていた。
「明日早いのに、わざわざ送ってくれてありがとう」
「・・・・・」
「あ、それとお花。ホント、ありがとね」
ハイツの前で立ち止まって、向かいに立つ宮田くんは何も言わない。
このまま離れたくない。
こんなに強く願ったのは初めてで、だからと言ってあたしには何の術もなくて。
「あの、それじゃ」
結局何も言い出せないままあたしは言って
宮田くんに背を向けた。
今、宮田くんがどんな顔をしているのかさえ確認できない。
あの時もそうだった。
病院の白いベットに横たわる、傷ついた宮田くんにあたしは何もできなかった。
あの時宮田くんはありがとうと言ってくれたけれど、あたしはただ宮田くんのそばで泣くことしか出来なかった。
結局あたしは自分がどうしたいのか、何を伝えたいのかさえわからないままで。
今も旅立つ宮田くんに『頑張って』などありがちなことしか言えなくて。
宮田くんがいなくなってしまうという現実を受け止めるのに必死でただ混乱していて。
気を抜けばそのまま崩れてしまいそうな身体を心の中で叱咤して、一歩を踏み出そうとした時だった。
つかまれた腕に振り向くと、その反動で思わず花束を取り落としてしまう。
あっと、小さく声を上げるとまるでスローモーションみたいにゆっくりと花束が落下して、
薄く積もった雪の上まで見届けた時、
あたしは宮田くんの腕の中にいた。
あまりに突然で、思考が止まり、言葉が出ない。
宮田くんも、何も言わない。
ただ制服越しに宮田くんの心臓の音が聞こえる。
病院で聞いた、不思議と落ち着くその音。
だけどあの時より随分と速い。
色んな事があたしの中を駆け巡るけれど、
宮田くんのぬくもりの前にあたしの思考は停止してしまった。
そして、今一度宮田くんの腕に優しい力が加わった時、あたしの耳朶に冷たい唇が触れる。
「ごめん」
たった一言、紡がれた言葉。
同時にかかった吐息の温かさに、あたしの身体は小さく震えた。
そして、その言葉の意味をあたしは理解することができなかった。
2009/07/07 PCUP
+++++atogaki+++++
はい!宮田くん旅立って行かれましたー。
卒業式が3月とか、次の日に旅立ったとかは捏造です。すんません(爆)
3月に入り、暦の上では春を迎えるというのに
ここ数日、真冬を思わせる寒い日が続いていた。
それでもあたしは描きかけのスケッチを手に
いつもの緑地公園に来ていたが、降り出した雪に観念して早々に作業を切り上げ、
今は屋根のあるベンチに座って降り続く雪をボンヤリと見ていた。
こんな日にここに出向く人はいなくて、
まだ昼間だというのに辺りはシンとしている。
その中を空からゆっくりと舞い落ちる雪が幻想的で、まるでここが異世界のように感じていた。
「やっぱりここでしたか」
そんなあたしを現実世界に引き戻す声。
本来なら邪魔されたって怒るトコロだけれど、
その声の心地よさに適うものは今のあたしには見当がつかない。
「宮田くん。どうしたの?」
「家に行ってもいないし、バイトも今日は休みだし、ここかと思って・・・こんな日に風邪引きますよ」
「まさか雪が降るなんて思ってなかったんだもん。もうちょっと描きたかったけど、今から帰ろうと思ってたのよ。
それよりどうした・・・あ、卒業式?」
制服姿と、手にした黒い筒が目に入る。
「で、その花束は後輩から?やっぱモテるんだ宮田くん」
「違いますよ。これは澪さんに」
「え?」
どうぞ、と差し出された花束を受け取る。
一本の白い大きな花を中心に、ブルーを基調とした優しい花束。
花に特別詳しいというわけじゃないので
それぞれの花の名前まではわからないけれど素直に綺麗だと思った。
「すごく綺麗な花束だね。ありがとう。でも何で?」
正直な感想と、疑問をぶつける。
「ホワイトデーの、お返しです」
「ホワイトデーって、まだ先だよ?」
「ホワイトデーには渡せないから」
「え?」
意味がわからず、
それをそのまま表情に出したあたしに宮田くんは少し言いにくそうな素振りをしてから、
意を決したようにあたしの目を真っ直ぐに見た。
「しばらく、日本を離れるんです」
は?
「今日はそれを伝えにきました」
今、何て・・・
「ここで雨に遭っても、バイトでヘマしても、オレ、もういないから、しっかりしてくださいよ」
力なく笑いながら宮田くんは続ける。
だけどあたしは頭が混乱してしまって、
発する言葉を整理できないでいる。
「う、そ・・・何で、そんな、急に・・・」
思った単語をそのまま話すというより
口からこぼれ落ちるように言葉がついて出た。
「急じゃない。ずっと、考えてた」
真摯な瞳の宮田くんに、あたしははっとなる。
バレンタインの辺りから宮田くんは様子がおかしかいことが度々あった。
話しかけてもどこか上の空で、仕事中もボンヤリしてることが多く、
お客さんに気付かなかったり、商品の陳列を間違えたり、
どうしたのかと何度かさり気なく聞いてみたがけれど、何でもないと言われるだけでそれ以上はあたしも聞けなかった。
今思えば、この事だったんだ。
「果たさなきゃいけない約束があるんです。ここに・・・日本にいて、もうこれ以上遠回りはできない。
アジア各国の強いヤツと戦って、強くなってきます。約束と、オレ自身のプライドの為に」
揺ぎないその決意。
あたしは何も言えない。
「そっか。頑張ってね」
ようやく出てきたのは自分でもびっくりするくらい前向きな言葉で。
だけどあたしの中では何が何だかだかわからなくて、
ただ宮田くんが遠くへ行ってしまうという事実だけが理解できた。
表向きは笑っているけど心の中は今にも泣き出してしまいそうで、
こんなにも心と身体がバラバラなのは初めてだった。
だけど、目指す場所に向かって歩いていく宮田くんに暗い顔は見せられない。
作り物でも何でも、うまく笑顔になれた自分を褒めたい気分だった。
それでも、心に渦巻く不安定な気持ちは本物で、今まですぐ近くにいた宮田くんが自分の届かないところに行ってしまう不安に、
このまま黙っていたら心が押し潰されてしまいそうで、あたしは必死で言葉を続けた。
「いつ出発するの?」
「明日」
「わっ、ホント急なんだね。もっと早く言ってくれてたらお餞別くらい用意したのに」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
明るく振舞ってはみたけれど、押し黙った宮田くんを前にどうしていいのかわからなくて、
結局黙り込んでしまった。
程なくして宮田くんが送ります、と歩き出したのであたしはただうんとだけ答えて
雪の降る中、宮田くんと二人、その場を後にした。
帰り道に会話はなく
気がつけばハイツの前に来ていた。
「明日早いのに、わざわざ送ってくれてありがとう」
「・・・・・」
「あ、それとお花。ホント、ありがとね」
ハイツの前で立ち止まって、向かいに立つ宮田くんは何も言わない。
このまま離れたくない。
こんなに強く願ったのは初めてで、だからと言ってあたしには何の術もなくて。
「あの、それじゃ」
結局何も言い出せないままあたしは言って
宮田くんに背を向けた。
今、宮田くんがどんな顔をしているのかさえ確認できない。
あの時もそうだった。
病院の白いベットに横たわる、傷ついた宮田くんにあたしは何もできなかった。
あの時宮田くんはありがとうと言ってくれたけれど、あたしはただ宮田くんのそばで泣くことしか出来なかった。
結局あたしは自分がどうしたいのか、何を伝えたいのかさえわからないままで。
今も旅立つ宮田くんに『頑張って』などありがちなことしか言えなくて。
宮田くんがいなくなってしまうという現実を受け止めるのに必死でただ混乱していて。
気を抜けばそのまま崩れてしまいそうな身体を心の中で叱咤して、一歩を踏み出そうとした時だった。
つかまれた腕に振り向くと、その反動で思わず花束を取り落としてしまう。
あっと、小さく声を上げるとまるでスローモーションみたいにゆっくりと花束が落下して、
薄く積もった雪の上まで見届けた時、
あたしは宮田くんの腕の中にいた。
あまりに突然で、思考が止まり、言葉が出ない。
宮田くんも、何も言わない。
ただ制服越しに宮田くんの心臓の音が聞こえる。
病院で聞いた、不思議と落ち着くその音。
だけどあの時より随分と速い。
色んな事があたしの中を駆け巡るけれど、
宮田くんのぬくもりの前にあたしの思考は停止してしまった。
そして、今一度宮田くんの腕に優しい力が加わった時、あたしの耳朶に冷たい唇が触れる。
「ごめん」
たった一言、紡がれた言葉。
同時にかかった吐息の温かさに、あたしの身体は小さく震えた。
そして、その言葉の意味をあたしは理解することができなかった。
2009/07/07 PCUP
+++++atogaki+++++
はい!宮田くん旅立って行かれましたー。
卒業式が3月とか、次の日に旅立ったとかは捏造です。すんません(爆)