短編
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約束
『試合まで部屋に来るな。
ジムにも顔出すな。
近寄られると、何するかわからねぇ』
初の世界戦を一ヵ月後に控えたその日。
アパートの台所に立つ澪に鷹村は言った。
『何するかわからねぇ』
殺気立ち、残り少なくなった理性を振り絞って発した言葉。
それはこれから本格的になっていく減量が
どれほど過酷なものになるかを暗示していた。
けれどそれが弱気からくるものではないことは明らかで
そんな鷹村の決意がわからないような馬鹿な女ではない。
『わかった』
それだけ言って、澪は部屋を後にした。
国内に世界チャンピオン不在が続く中
もっとも近いとされた伊達英二の引退もあり、
鷹村守の世界初挑戦が正式発表されてからは
スポーツ各誌が連日大きく取り上げていた。
加えて現チャンピオンであるブライアン・ホークの素行の悪さも相俟って
この一ヶ月、澪は鷹村に一度も会うことはなかったけれど
マスコミを通じて彼の様子を知ることができた。
想像を絶する減量の結果、無事に計量をパスし
テレビ放映された試合前日の公式記者会見で
澪は久しぶりに鷹村と画面越しに再会した。
減量の影響を一番に心配していたが、計量後に水分を摂ったせいか、
肌のつやも随分よく見えて、澪は安堵した。
一触即発の記者会見はとりあえず事なきを得たが
明日の試合に波乱の兆しを残したものになった。
そして試合当日。
試合前の会場はいつも熱気と活気に溢れているが
加えて、今日はそれ以外のものを強く感じた。
前日の記者会見で見せたチャンピオンの態度と放った言葉は
日本国民を激怒させるに充分だった。
数ヶ月前、同じ場所で行われた世界戦。
同じものを目指した伊達が散った場所。
会場がこの両国国技館と聞いて
鷹村のさらなる決意を澪は痛感した。
『WBC世界Jミドル級タイトルマッチ』
高鳴る鼓動を抑えながら
澪は会場に入った。
セミファイナルの試合が終わり、メインイベント開始までの時間。
鷹村の後輩・幕之内一歩が1RKOという快挙を成し遂げ会場が盛り上がる中
澪は席を立ち、控室に向かった。
試合が決まってから今日まで、
チャンピオンの横暴な態度をただひたすら堪えてきただけに
さぞ重い雰囲気になってると思いきや、
控室からは笑い声まじりに和やかな声が漏れてきた。
ドアにかけた手を一旦戻し、
少し離れた廊下で澪は一人、立ち竦んでいた。
程なくして控室のドアが開くと、
日本ボクシング界の錚々たる顔ぶれが次々と部屋から出てきた。
「澪さん」
呼ばれた声に顔を上げると
OPBFフェザー級チャンピオンの宮田一郎の姿があった。
宮田は元々鴨川ジムにいて、鷹村とは一番付き合いが長く、
澪の知らない鷹村を知る、数少ない人物のひとりだった。
「久しぶりね、宮田君」
近づいた宮田に笑顔を向けると
軽く会釈を返してくれた。
「どんな様子だった?」
視線で、控室を指す。
「ベストコンディションですよ」
「そっか・・・よかった」
「会っていかないんですか?」
「ん・・・そのつもりだったんだけど、どうしようかなぁ」
戸惑っている気持ちを悟られるのも嫌で
誤魔化すように言うと、少し間をおいてから
ゆっくりと、言葉を選ぶように宮田が言った。
「・・・今、鴨川の連中しか残ってないから、行った方がいいですよ」
気遣いながら、それでもはっきりとした言葉で背中を押す宮田。
「うん・・・そうね。ありがとう」
そんな宮田の優しさに笑顔で答え、
彼を見送った後、澪は決意を固めてドアをノックした。
「澪さん!」
「遅かったじゃないッスか」
「待ってましたよ」
「お待ちかねですよ」
「久しぶりダニ」
「ワン」
控室の見慣れた顔ぶれに、
澪は必要以上に入っていた力を抜いた。
「お邪魔します」
会釈して、ドアを閉めると
聞こえてきたのは、ちょっと不機嫌な声。
「遅い」
ドアから真っ直ぐ奥にある台に座る鷹村。
澪鷹村、一直線に繋がるように皆が道を開けた。
「そっちが顔見せるなって言ったんじゃない」
「試合“まで”と言ったハズだ」
「へりくつ」
「フン」
二人の会話を見守りながら
やりとりとは裏腹に控室には優しい空気が流れた。
「ひとまず全員部屋から出るぞい」
試合前のひと時、
馴染みの顔が揃い、和らいでいた空間に
鴨川会長の一言がたちまち緊張感を走らせた。
名残を惜しむように皆踵を返す。
足りない何かを感じながら、それを伝えることができない。
そんな空気を一蹴したのは青木だった。
「思う存分暴れて下さいよ!!」
振り返り、鷹村の拳に縋り付く。
それをきっかけに木村、板垣、猫田とハチ、
そして一歩が一言ずつ声を掛けた。
鷹村の拳に、それぞれの夢と願いを託す。
「オレ様が約束を破ると思うか!?」
鷹村の言葉に、皆が一同に頭を振る中
澪だけは冷静のその様子を見ていた。
そして会長が最後に声を掛けると、
退室する皆に続いて控室を出ようとした時。
「待てよ、澪」
呼び止める声に、足が止まった。
ただでさえ広い控室が
二人きりになって、その広さをさらに感じる。
「部屋来んなっつったのに、来てただろ」
問い詰めるでもなく、まして怒るでもない鷹村の口調。
「だって、洗濯しなきゃ着替えなくなるじゃない」
鷹村のいない時間を見計らって
澪は時々合鍵を使って部屋に入り掃除や洗濯を片付けていた。
キッチンは使った形跡が日を追うごとになくなっていき、
普段からお世辞にも綺麗とは言えない部屋が
散らかるというより荒くれた状態に変化していた。
台所と部屋をつなぐガラス戸が派手に割れていたこともあった。
その有様が今回の減量の過酷さを伺わせた。
しかしそれを見事克服し、鷹村は今、ここにいる。
グローブを付け、ガウンを羽織り
戦闘態勢を整え、開戦のゴングを待っている。
「それより、よく平気な顔してあんなコト言えるよね」
「あんなコト?」
「約束破ると思うかって、みんな騙されちゃってさ。約束守ったコトなんてないじゃない」
「何だと?」
「・・・でも、ボクシングにだけは嘘をつかないってコト、私は知ってる。だから・・・」
目頭が熱くなり、鼻の奥がツンとする。
ヤバイ、と思った。
―――――――試合前なのに、駄目だよ
思わず目を伏せる。
と、その時。
「バーカ」
目の前にいる澪の額をコツンと上げる。
夢と願いを託されたその拳で。
「泣くのは試合が終わった後だ。
心配すんな。嬉し涙以外の出番はねぇっ!」
ここで滲んだ涙を拭いながら
ニッコリ笑って頷けたら“かわいい女”なのかもしれない。
「何で今そういうコト言うかな。
うっかり信じそうになるじゃない」
残念ながら、わたしはそんな女じゃない。
「だから信じろ」
見つめあうというより睨み付けるような二人。
お互いの決意が交差する。
「・・・・わかった。その代わり、何があっても勝って。絶対に」
「お前に言われなくてもオレ様が勝つ以外ありえねぇんだよ」
「例え試合後どうにかなっても、勝って。
私、絶対に目を逸らさないで最後まで見てるから」
時間にすれば僅かだったのかもしれない。
けれども二人には途方もない時間が過ぎたように感じた。
フッ、と鷹村が表情を和らげる。
「・・・普通元気で戻って来てとか言うもんだろーが」
「そんな死刑宣告できないよ」
「む・・・・?」
「リングの上が、守の生きる場所だから、
そこから降りてもいいなんてコト、絶対に言えない。だから・・・」
言葉を切って、もう一度鷹村を見る。
「何があっても勝って」
驚く鷹村に、澪はニヤリ顔で拳を突き出し
鷹村のそれにぶつける。
その感触を確かめると、鷹村は言った。
「まかしとけ!」
澪の夢と願いが、鷹村の拳に宿った。
場内アナウンスに続き、会場の照明が落とされると
青いレーザー光線の飛び交う中、日本中の期待を一身に背負った鷹村が現れる。
派手な入場とは逆に
鷹村の表情からはとてつもない決意が伺えた。
―――何があっても目を逸らさない
最後まで見てるから
絶対に、勝って
大歓声の会場に試合開始のゴングが鳴り響いた。
END
2009/06/08 UP
+++++atogaki+++++
アニメ20話の鷹村さんがあまりにもかっこよすぎて勢いだけで書きました。萌ってすごいな!(笑)
そして今回のお話のモデルに勝手になってもらった親愛なる紅葉さんに押し付け(笑)
こんな中途半端な終わり方のモノを押し付けるという暴挙・・・(爆)
途中出てきた宮田くんですが、密かにヒロインのことを好きだったんだけど
ヒロインは鷹村さんが好きなので告白する間もなく玉砕。
今ではもう気持ちの整理はついてて憧れの人、みたいな
ただ純粋に幸せになって欲しいと願ってて
そしてそんな宮田くんの気持ちをヒロインは気付いてんだけど気付かないフリしてみたりとかそんな裏設定を考えてひとりでコッソリ萌えてました(爆)
『試合まで部屋に来るな。
ジムにも顔出すな。
近寄られると、何するかわからねぇ』
初の世界戦を一ヵ月後に控えたその日。
アパートの台所に立つ澪に鷹村は言った。
『何するかわからねぇ』
殺気立ち、残り少なくなった理性を振り絞って発した言葉。
それはこれから本格的になっていく減量が
どれほど過酷なものになるかを暗示していた。
けれどそれが弱気からくるものではないことは明らかで
そんな鷹村の決意がわからないような馬鹿な女ではない。
『わかった』
それだけ言って、澪は部屋を後にした。
国内に世界チャンピオン不在が続く中
もっとも近いとされた伊達英二の引退もあり、
鷹村守の世界初挑戦が正式発表されてからは
スポーツ各誌が連日大きく取り上げていた。
加えて現チャンピオンであるブライアン・ホークの素行の悪さも相俟って
この一ヶ月、澪は鷹村に一度も会うことはなかったけれど
マスコミを通じて彼の様子を知ることができた。
想像を絶する減量の結果、無事に計量をパスし
テレビ放映された試合前日の公式記者会見で
澪は久しぶりに鷹村と画面越しに再会した。
減量の影響を一番に心配していたが、計量後に水分を摂ったせいか、
肌のつやも随分よく見えて、澪は安堵した。
一触即発の記者会見はとりあえず事なきを得たが
明日の試合に波乱の兆しを残したものになった。
そして試合当日。
試合前の会場はいつも熱気と活気に溢れているが
加えて、今日はそれ以外のものを強く感じた。
前日の記者会見で見せたチャンピオンの態度と放った言葉は
日本国民を激怒させるに充分だった。
数ヶ月前、同じ場所で行われた世界戦。
同じものを目指した伊達が散った場所。
会場がこの両国国技館と聞いて
鷹村のさらなる決意を澪は痛感した。
『WBC世界Jミドル級タイトルマッチ』
高鳴る鼓動を抑えながら
澪は会場に入った。
セミファイナルの試合が終わり、メインイベント開始までの時間。
鷹村の後輩・幕之内一歩が1RKOという快挙を成し遂げ会場が盛り上がる中
澪は席を立ち、控室に向かった。
試合が決まってから今日まで、
チャンピオンの横暴な態度をただひたすら堪えてきただけに
さぞ重い雰囲気になってると思いきや、
控室からは笑い声まじりに和やかな声が漏れてきた。
ドアにかけた手を一旦戻し、
少し離れた廊下で澪は一人、立ち竦んでいた。
程なくして控室のドアが開くと、
日本ボクシング界の錚々たる顔ぶれが次々と部屋から出てきた。
「澪さん」
呼ばれた声に顔を上げると
OPBFフェザー級チャンピオンの宮田一郎の姿があった。
宮田は元々鴨川ジムにいて、鷹村とは一番付き合いが長く、
澪の知らない鷹村を知る、数少ない人物のひとりだった。
「久しぶりね、宮田君」
近づいた宮田に笑顔を向けると
軽く会釈を返してくれた。
「どんな様子だった?」
視線で、控室を指す。
「ベストコンディションですよ」
「そっか・・・よかった」
「会っていかないんですか?」
「ん・・・そのつもりだったんだけど、どうしようかなぁ」
戸惑っている気持ちを悟られるのも嫌で
誤魔化すように言うと、少し間をおいてから
ゆっくりと、言葉を選ぶように宮田が言った。
「・・・今、鴨川の連中しか残ってないから、行った方がいいですよ」
気遣いながら、それでもはっきりとした言葉で背中を押す宮田。
「うん・・・そうね。ありがとう」
そんな宮田の優しさに笑顔で答え、
彼を見送った後、澪は決意を固めてドアをノックした。
「澪さん!」
「遅かったじゃないッスか」
「待ってましたよ」
「お待ちかねですよ」
「久しぶりダニ」
「ワン」
控室の見慣れた顔ぶれに、
澪は必要以上に入っていた力を抜いた。
「お邪魔します」
会釈して、ドアを閉めると
聞こえてきたのは、ちょっと不機嫌な声。
「遅い」
ドアから真っ直ぐ奥にある台に座る鷹村。
澪鷹村、一直線に繋がるように皆が道を開けた。
「そっちが顔見せるなって言ったんじゃない」
「試合“まで”と言ったハズだ」
「へりくつ」
「フン」
二人の会話を見守りながら
やりとりとは裏腹に控室には優しい空気が流れた。
「ひとまず全員部屋から出るぞい」
試合前のひと時、
馴染みの顔が揃い、和らいでいた空間に
鴨川会長の一言がたちまち緊張感を走らせた。
名残を惜しむように皆踵を返す。
足りない何かを感じながら、それを伝えることができない。
そんな空気を一蹴したのは青木だった。
「思う存分暴れて下さいよ!!」
振り返り、鷹村の拳に縋り付く。
それをきっかけに木村、板垣、猫田とハチ、
そして一歩が一言ずつ声を掛けた。
鷹村の拳に、それぞれの夢と願いを託す。
「オレ様が約束を破ると思うか!?」
鷹村の言葉に、皆が一同に頭を振る中
澪だけは冷静のその様子を見ていた。
そして会長が最後に声を掛けると、
退室する皆に続いて控室を出ようとした時。
「待てよ、澪」
呼び止める声に、足が止まった。
ただでさえ広い控室が
二人きりになって、その広さをさらに感じる。
「部屋来んなっつったのに、来てただろ」
問い詰めるでもなく、まして怒るでもない鷹村の口調。
「だって、洗濯しなきゃ着替えなくなるじゃない」
鷹村のいない時間を見計らって
澪は時々合鍵を使って部屋に入り掃除や洗濯を片付けていた。
キッチンは使った形跡が日を追うごとになくなっていき、
普段からお世辞にも綺麗とは言えない部屋が
散らかるというより荒くれた状態に変化していた。
台所と部屋をつなぐガラス戸が派手に割れていたこともあった。
その有様が今回の減量の過酷さを伺わせた。
しかしそれを見事克服し、鷹村は今、ここにいる。
グローブを付け、ガウンを羽織り
戦闘態勢を整え、開戦のゴングを待っている。
「それより、よく平気な顔してあんなコト言えるよね」
「あんなコト?」
「約束破ると思うかって、みんな騙されちゃってさ。約束守ったコトなんてないじゃない」
「何だと?」
「・・・でも、ボクシングにだけは嘘をつかないってコト、私は知ってる。だから・・・」
目頭が熱くなり、鼻の奥がツンとする。
ヤバイ、と思った。
―――――――試合前なのに、駄目だよ
思わず目を伏せる。
と、その時。
「バーカ」
目の前にいる澪の額をコツンと上げる。
夢と願いを託されたその拳で。
「泣くのは試合が終わった後だ。
心配すんな。嬉し涙以外の出番はねぇっ!」
ここで滲んだ涙を拭いながら
ニッコリ笑って頷けたら“かわいい女”なのかもしれない。
「何で今そういうコト言うかな。
うっかり信じそうになるじゃない」
残念ながら、わたしはそんな女じゃない。
「だから信じろ」
見つめあうというより睨み付けるような二人。
お互いの決意が交差する。
「・・・・わかった。その代わり、何があっても勝って。絶対に」
「お前に言われなくてもオレ様が勝つ以外ありえねぇんだよ」
「例え試合後どうにかなっても、勝って。
私、絶対に目を逸らさないで最後まで見てるから」
時間にすれば僅かだったのかもしれない。
けれども二人には途方もない時間が過ぎたように感じた。
フッ、と鷹村が表情を和らげる。
「・・・普通元気で戻って来てとか言うもんだろーが」
「そんな死刑宣告できないよ」
「む・・・・?」
「リングの上が、守の生きる場所だから、
そこから降りてもいいなんてコト、絶対に言えない。だから・・・」
言葉を切って、もう一度鷹村を見る。
「何があっても勝って」
驚く鷹村に、澪はニヤリ顔で拳を突き出し
鷹村のそれにぶつける。
その感触を確かめると、鷹村は言った。
「まかしとけ!」
澪の夢と願いが、鷹村の拳に宿った。
場内アナウンスに続き、会場の照明が落とされると
青いレーザー光線の飛び交う中、日本中の期待を一身に背負った鷹村が現れる。
派手な入場とは逆に
鷹村の表情からはとてつもない決意が伺えた。
―――何があっても目を逸らさない
最後まで見てるから
絶対に、勝って
大歓声の会場に試合開始のゴングが鳴り響いた。
END
2009/06/08 UP
+++++atogaki+++++
アニメ20話の鷹村さんがあまりにもかっこよすぎて勢いだけで書きました。萌ってすごいな!(笑)
そして今回のお話のモデルに勝手になってもらった親愛なる紅葉さんに押し付け(笑)
こんな中途半端な終わり方のモノを押し付けるという暴挙・・・(爆)
途中出てきた宮田くんですが、密かにヒロインのことを好きだったんだけど
ヒロインは鷹村さんが好きなので告白する間もなく玉砕。
今ではもう気持ちの整理はついてて憧れの人、みたいな
ただ純粋に幸せになって欲しいと願ってて
そしてそんな宮田くんの気持ちをヒロインは気付いてんだけど気付かないフリしてみたりとかそんな裏設定を考えてひとりでコッソリ萌えてました(爆)