短編
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小さな恋のはじまり
高校2年の一大イベントといえば修学旅行。
カップリング成功率が格段に上がるこの時期。
だけどあたしにそんな相手がいるわけもなく、三日目の自由行動は美術部の友達と回る約束をしていた。
「ホントにごめん!澪」
「そんなに気にしないでよ。それよりよかったね」
「うん。でね、これから・・・」
修学旅行二日目の夜。
消灯時間を過ぎた六人部屋に残っているのは・・・あたし一人だった。
昨日の夜は一緒だった美術部の友達も
今日の団体行動で同じグループだった、ずっと片思いしていた彼に告白され
晴れてカップル成立の運びとなり
他の子と同じく、先生の目を盗んで彼に会いに行ってしまった。
明日の自由行動も当然お誘いを受けて
先約のあたしにお詫びしてきた次第だった。
彼女がずっと片思いしてたのは知ってたし、応援もしていた。
好きな人と自由行動を回りたいという気持ちもわかる。
あたしは二つ返事で了解した。
了解したのはいいけれど。
―――明日、どうしよう
彼女と回るつもりだったので当然他にアテがあるわけがない。
せっかくの自由行動を一人で回るのは流石に寂しい。
だからと言って期間限定の彼氏を作る気もない。
どこかの女子グループに混ぜてもらおうかと思いながらも
告白されたと頬を赤く染めながら嬉しそうに話してくれた彼女を思い出す。
―――好きな人・・・かぁ
咄嗟に浮かんだ顔にあたしは思わず赤面した。
宮 田 く ん
確かに宮田くんのことは好きだけど。
1年の時は同じクラスってだけでしゃべったことなんてなくて
同じ教室にいられるだけで嬉しかった。
2年になって、クラスが離れて
接点がなくなってしまい、遠い存在になってしまった。
でも、夏休みに入る少し前
校門前でいきなり声をかけられて二人乗りして帰ったあの日から
宮田くんに対する印象が随分変わった。
絶対に手の届かない人だと思ってた宮田くんが、実はそうでもなくて
名前を呼ばれた時は心臓が口から飛び出しそうなくらいドキドキしたけれど
今はドキドキしながらも、宮田くんと話す時の穏やかな時間がたまらなく心地よかった。
―――宮田くん、明日は誰と回るのかな
そんな事を考えながら、いつしかあたしは眠りについた。
修学旅行三日目。
あたしは起床時間より随分早くに目が覚めた。
同室の布団にはいつの間に戻ったのか、
皆が静かに寝息をたてていた。
布団を抜け出して簡単に身支度を整えてから
そっと部屋を出た。
静まり返った旅館内を当てもなく散策していると
朝靄の中に見える、この旅館自慢の日本庭園。
詳しいことはよくわからないけれど、
朝の透き通った空気の中にあるそれは
とても神聖で美しいものに見えた。
あたしは何だか嬉しくなってきた。
好きな人と過ごす夜のひと時も羨ましいけど
こんなに素敵な風景を独り占めできる朝もいいものだ。
そんなことを考えながら、旅館の周りをブラブラと歩いた。
朝日が昇り始め、次第に視界が明るくなる。
ウンと伸びをして、新鮮な空気を目一杯吸い込んだ。
そろそろ皆が起き出して、1日が始まる。
―――どうしようかなぁ・・・今日の自由行動
朝日とともに現実に引き戻され、ポロリと本音がこぼれる。
「宮田くん、誰と回るんだろ・・・」
「オレが何?」
独り言に返事が返ってきて
ビックリして振り返った先には宮田くんが立っていた。
「み、み、み、み、み、みやたくんっ?!」
びっくりしすぎて声が裏返る。
「いっ・・・いつからいたの?」
「ずっといたぜ。佐倉が気付かなかっただけだろ」
「そ・・・・そうなんだ・・・」
っていうか、めちゃくちゃ聞かれたよね、今の・・・
確認する勇気もないあたしは
慌てて言葉を続けた。
「こ、こんな朝早くからこんなトコで何してるの?」
「佐倉こそ何してんだよ」
「あたし?あたしは、なんか早く目が覚めちゃって・・・」
へぇ、という気のない返事。
何とか誤魔化せたかなと思いつつ
花壇に腰掛けてぼんやりとしている宮田くんを見た。
「・・・宮田くんって、あたしが聞いてもいつも逆に聞いてきて、いっつも質問に答えてくれないよね。なんかズルい」
宮田くんと目が合った。
それから、不思議そうな顔をして「何だよそれ」と言った。
「だから、宮田くんこそ、こんな早くに何してるの?」
「毎朝ロードワーク行ってるから、早くに目が覚めるんだよ」
「ロードワーク・・・あ、ジョギング?」
あたしの言葉に宮田くんはちょっと眉間を寄せた。
何か、おかしなこと言ったかな・・・
だけど気分を害した様子もなく、
少し苦笑してから「ま、そんなもん」と言って
宮田くんはまた視線を外した。
「そういえばプロテストは?」
「受かった」
「すごい!おめでとう!!じゃあもうプロボクサーなんだ」
「まぁ、な」
その時宮田くんはあたしのいない方に顔を向けたので
ちゃんと見る事はできなかったけど
俄か笑顔のように感じた。
それがなんだか嬉しくて
でもそれに気付かれるのも恥ずかしかったので
少し俯いて口元を綻ばせた。
でも宮田くんの次の一言が
そんな甘い気持ちからあたしを現実に引き戻した。
「それで、お前さっき何かオレの事言ってただろ」
「え・・・」
やっぱり聞こえてたんだ。
宮田くんから痛いほど視線を感じる。
何か言い訳しようと考えたが、咄嗟に思いつくほど頭の回転が速いほうではない。
それに見方を変えればこれは千載一遇のチャンスかもしれない。
あたしは小さく深呼吸した。
「あ、あのさ、宮田くん、よかったら今日の自由行動、一緒にどうかな、なんて・・・」
ありったけの勇気を振り絞り、勢いに乗せて言った言葉。
だけど返ってきたのは無言の宮田くんだった。
「あの、ご、ごめ・・」
「何で」
言葉が重なった。
けれどあたしの言葉は宮田くんの勢いに押され、瞬く間に力を失った。
「いや、その・・・約束してた子に彼氏ができちゃってその人と回るからって。それであたし1人になっちゃって」
居たたまれない気持ち。
後悔より先に、一刻も早くここを立ち去りたかった。
「でも宮田くんもきっと約束あるよね。ごめんね急に。今の忘れて!」
「いいぜ」
それじゃ、と言いかけた言葉の代わりに
聞こえてきたのは宮田くんの声。
「・・・え?」
「今日の自由行動だろ。一緒にまわろうぜ」
信じられない言葉に、一瞬あっけにとられて。
「ホントに?」
「言っとくけどな、意味はないからな。
強いていえば、先月のお礼」
意味がわからず、それがそのまま表情に出たのか
宮田くんは少し顔をしかめて「アメ玉」とだけ言った。
アメ玉?と聞き返すあたしに、わかれよ、とばかりに視線を向けられて
ようやく、夏休みの終わりに偶然学校で宮田くんに会った事を思い出した。
「あ・・・!うん。でも、宮田くん、誰かと約束してないの?」
「別に。最初からひとりで回るつもりだったし」
「そうなの?」
「特別行きたいところもねぇし、誰かと一緒だと面倒だろ、色々と」
「え・・・でも、あたしと一緒でいいの?」
「そのかわり、観光ルートはお前が決めろよな」
「う、うん」
「じゃ決まり」
宮田くんは組んでいた足を解いて立ち上がると
「そろそろ戻ろうぜ」と歩き出した。
気付けばすっかり朝陽が登って外が明るくなっていた。
近くに時計が見当たらなかったので時間こそわからないが、そろそろ起床時間になるのだろう。
「あ、待ってよ宮田くん!」
あたしが慌てて駆け寄ると
「さっさとついてこないと、観光の時はぐれても知らないぜ」とか言われて
すっかり浮かれていたあたしは「案内役はあたしでしょ?」なんて言ってしまった。
言ってから思わず口を塞いだらそのまま宮田くんと目があって
思わず赤面するあたしを見て
宮田くんが笑った。
その笑顔に思わず見惚れてしまったけど
きっと宮田くんには気付かれていないはず。
修学旅行三日目。
小さな小さな恋のはじまり。
END
2009/09/30 UP
+++++atogaki+++++
『flavor of strawberry』その後です。
地味に続いてます(苦笑)
高校生といえば修学旅行!
ときめき修学旅行ですYO!
プロデビュー戦を控えてるであろう時期に
宮田くんが修学旅行に行くとは
なかなか考えにくいのですが
パパからすごい言われて
仕方なく参加とかだったらなんかいい。
高校2年の一大イベントといえば修学旅行。
カップリング成功率が格段に上がるこの時期。
だけどあたしにそんな相手がいるわけもなく、三日目の自由行動は美術部の友達と回る約束をしていた。
「ホントにごめん!澪」
「そんなに気にしないでよ。それよりよかったね」
「うん。でね、これから・・・」
修学旅行二日目の夜。
消灯時間を過ぎた六人部屋に残っているのは・・・あたし一人だった。
昨日の夜は一緒だった美術部の友達も
今日の団体行動で同じグループだった、ずっと片思いしていた彼に告白され
晴れてカップル成立の運びとなり
他の子と同じく、先生の目を盗んで彼に会いに行ってしまった。
明日の自由行動も当然お誘いを受けて
先約のあたしにお詫びしてきた次第だった。
彼女がずっと片思いしてたのは知ってたし、応援もしていた。
好きな人と自由行動を回りたいという気持ちもわかる。
あたしは二つ返事で了解した。
了解したのはいいけれど。
―――明日、どうしよう
彼女と回るつもりだったので当然他にアテがあるわけがない。
せっかくの自由行動を一人で回るのは流石に寂しい。
だからと言って期間限定の彼氏を作る気もない。
どこかの女子グループに混ぜてもらおうかと思いながらも
告白されたと頬を赤く染めながら嬉しそうに話してくれた彼女を思い出す。
―――好きな人・・・かぁ
咄嗟に浮かんだ顔にあたしは思わず赤面した。
宮 田 く ん
確かに宮田くんのことは好きだけど。
1年の時は同じクラスってだけでしゃべったことなんてなくて
同じ教室にいられるだけで嬉しかった。
2年になって、クラスが離れて
接点がなくなってしまい、遠い存在になってしまった。
でも、夏休みに入る少し前
校門前でいきなり声をかけられて二人乗りして帰ったあの日から
宮田くんに対する印象が随分変わった。
絶対に手の届かない人だと思ってた宮田くんが、実はそうでもなくて
名前を呼ばれた時は心臓が口から飛び出しそうなくらいドキドキしたけれど
今はドキドキしながらも、宮田くんと話す時の穏やかな時間がたまらなく心地よかった。
―――宮田くん、明日は誰と回るのかな
そんな事を考えながら、いつしかあたしは眠りについた。
修学旅行三日目。
あたしは起床時間より随分早くに目が覚めた。
同室の布団にはいつの間に戻ったのか、
皆が静かに寝息をたてていた。
布団を抜け出して簡単に身支度を整えてから
そっと部屋を出た。
静まり返った旅館内を当てもなく散策していると
朝靄の中に見える、この旅館自慢の日本庭園。
詳しいことはよくわからないけれど、
朝の透き通った空気の中にあるそれは
とても神聖で美しいものに見えた。
あたしは何だか嬉しくなってきた。
好きな人と過ごす夜のひと時も羨ましいけど
こんなに素敵な風景を独り占めできる朝もいいものだ。
そんなことを考えながら、旅館の周りをブラブラと歩いた。
朝日が昇り始め、次第に視界が明るくなる。
ウンと伸びをして、新鮮な空気を目一杯吸い込んだ。
そろそろ皆が起き出して、1日が始まる。
―――どうしようかなぁ・・・今日の自由行動
朝日とともに現実に引き戻され、ポロリと本音がこぼれる。
「宮田くん、誰と回るんだろ・・・」
「オレが何?」
独り言に返事が返ってきて
ビックリして振り返った先には宮田くんが立っていた。
「み、み、み、み、み、みやたくんっ?!」
びっくりしすぎて声が裏返る。
「いっ・・・いつからいたの?」
「ずっといたぜ。佐倉が気付かなかっただけだろ」
「そ・・・・そうなんだ・・・」
っていうか、めちゃくちゃ聞かれたよね、今の・・・
確認する勇気もないあたしは
慌てて言葉を続けた。
「こ、こんな朝早くからこんなトコで何してるの?」
「佐倉こそ何してんだよ」
「あたし?あたしは、なんか早く目が覚めちゃって・・・」
へぇ、という気のない返事。
何とか誤魔化せたかなと思いつつ
花壇に腰掛けてぼんやりとしている宮田くんを見た。
「・・・宮田くんって、あたしが聞いてもいつも逆に聞いてきて、いっつも質問に答えてくれないよね。なんかズルい」
宮田くんと目が合った。
それから、不思議そうな顔をして「何だよそれ」と言った。
「だから、宮田くんこそ、こんな早くに何してるの?」
「毎朝ロードワーク行ってるから、早くに目が覚めるんだよ」
「ロードワーク・・・あ、ジョギング?」
あたしの言葉に宮田くんはちょっと眉間を寄せた。
何か、おかしなこと言ったかな・・・
だけど気分を害した様子もなく、
少し苦笑してから「ま、そんなもん」と言って
宮田くんはまた視線を外した。
「そういえばプロテストは?」
「受かった」
「すごい!おめでとう!!じゃあもうプロボクサーなんだ」
「まぁ、な」
その時宮田くんはあたしのいない方に顔を向けたので
ちゃんと見る事はできなかったけど
俄か笑顔のように感じた。
それがなんだか嬉しくて
でもそれに気付かれるのも恥ずかしかったので
少し俯いて口元を綻ばせた。
でも宮田くんの次の一言が
そんな甘い気持ちからあたしを現実に引き戻した。
「それで、お前さっき何かオレの事言ってただろ」
「え・・・」
やっぱり聞こえてたんだ。
宮田くんから痛いほど視線を感じる。
何か言い訳しようと考えたが、咄嗟に思いつくほど頭の回転が速いほうではない。
それに見方を変えればこれは千載一遇のチャンスかもしれない。
あたしは小さく深呼吸した。
「あ、あのさ、宮田くん、よかったら今日の自由行動、一緒にどうかな、なんて・・・」
ありったけの勇気を振り絞り、勢いに乗せて言った言葉。
だけど返ってきたのは無言の宮田くんだった。
「あの、ご、ごめ・・」
「何で」
言葉が重なった。
けれどあたしの言葉は宮田くんの勢いに押され、瞬く間に力を失った。
「いや、その・・・約束してた子に彼氏ができちゃってその人と回るからって。それであたし1人になっちゃって」
居たたまれない気持ち。
後悔より先に、一刻も早くここを立ち去りたかった。
「でも宮田くんもきっと約束あるよね。ごめんね急に。今の忘れて!」
「いいぜ」
それじゃ、と言いかけた言葉の代わりに
聞こえてきたのは宮田くんの声。
「・・・え?」
「今日の自由行動だろ。一緒にまわろうぜ」
信じられない言葉に、一瞬あっけにとられて。
「ホントに?」
「言っとくけどな、意味はないからな。
強いていえば、先月のお礼」
意味がわからず、それがそのまま表情に出たのか
宮田くんは少し顔をしかめて「アメ玉」とだけ言った。
アメ玉?と聞き返すあたしに、わかれよ、とばかりに視線を向けられて
ようやく、夏休みの終わりに偶然学校で宮田くんに会った事を思い出した。
「あ・・・!うん。でも、宮田くん、誰かと約束してないの?」
「別に。最初からひとりで回るつもりだったし」
「そうなの?」
「特別行きたいところもねぇし、誰かと一緒だと面倒だろ、色々と」
「え・・・でも、あたしと一緒でいいの?」
「そのかわり、観光ルートはお前が決めろよな」
「う、うん」
「じゃ決まり」
宮田くんは組んでいた足を解いて立ち上がると
「そろそろ戻ろうぜ」と歩き出した。
気付けばすっかり朝陽が登って外が明るくなっていた。
近くに時計が見当たらなかったので時間こそわからないが、そろそろ起床時間になるのだろう。
「あ、待ってよ宮田くん!」
あたしが慌てて駆け寄ると
「さっさとついてこないと、観光の時はぐれても知らないぜ」とか言われて
すっかり浮かれていたあたしは「案内役はあたしでしょ?」なんて言ってしまった。
言ってから思わず口を塞いだらそのまま宮田くんと目があって
思わず赤面するあたしを見て
宮田くんが笑った。
その笑顔に思わず見惚れてしまったけど
きっと宮田くんには気付かれていないはず。
修学旅行三日目。
小さな小さな恋のはじまり。
END
2009/09/30 UP
+++++atogaki+++++
『flavor of strawberry』その後です。
地味に続いてます(苦笑)
高校生といえば修学旅行!
ときめき修学旅行ですYO!
プロデビュー戦を控えてるであろう時期に
宮田くんが修学旅行に行くとは
なかなか考えにくいのですが
パパからすごい言われて
仕方なく参加とかだったらなんかいい。