短編
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flavor of strawberry
夏休みの校舎は人気がなく
いつもは開け放たれている下足室のガラス戸も
一箇所を除いて全て施錠されていた。
まるでビニルハウスのように暑くなった場所で
持参した上靴に履き替え靴箱に脱いだ靴をしまった。
額に滲む汗を拭いながら職員室まで行くと
ノックしてドアを開けた途端、エアコンの冷気があたしを包む。
一礼して美術室の鍵を取ると
顧問の先生から荷物を押し付けられた。
嫌とも言えず、あたしはダンボールを両手に抱え職員室を出ると
顧問の先生がドアを閉め、また蒸し暑い場所に放り出された。
荷物は大して重くなかったが
右手に鍵を持ったままなので随分持ちにくかった。
少し歩いたところで
下足室の方から現れた人影がこちらに向かってくるのが見えた。
「「あ」」
目が合って、言葉が重なった。
「夏休みにどうしたの、宮田くん」
「佐倉こそどうしたんだよ」
「あたしは部活。美術部の。そっちは?」
「夏休み中に提出する書類があったからそれ出しに」
手にした茶封筒を見せられ、そうなんだと答えた。
「じゃあね」
「どこまで?」
「何が?」
「荷物」
そういうと宮田くんは茶封筒を小脇に抱えてあたしの荷物を持ち上げた。
「なんだ、軽いじゃん」
びっくりするあたしに構うことなく「ちょっと持てよ」と
視線で茶封筒を指され、あたしは慌てて宮田くんの小脇に挟まった茶封筒を持った。
「で、どこまで?」
「び、美術室」
歩き出した宮田くんを慌てて追いかける。
隣に並ぼうと思うと宮田くんの歩幅は大きくて
付いて行くのにちょっと必死になった。
それに気付いたのか、階段のところまで来ると
宮田くんはペースを落としてくれたので
ようやく落ち着いて並んで歩くことができた。
「職員室に用だったのにいいの?」
「別に荷物運ぶ時間くらいあるぜ」
「ありがとう」
あたしは嬉しくなってニヤつく顔を隠すように少し俯くと
宮田くんから預かった茶封筒が目に入った。
そこには別の区役所の名前が書かれていた。
「宮田くん、転校するの?」
考えるより先に言葉が出た。
隣を見上げると宮田くんは何でもないように言った。
「こないだ引越して、遠くなるけど通える距離だから転校はしねぇよ」
「そうなんだ」
あたしは心の底からホッとした。
そして、青くなったり赤くなったり、その一部始終を
宮田くんが見ていたなんて
その時のあたしは気付きもしなかった。
「あ、そうだ」
「宮田くんって今月誕生日だったよね。何日なの?」
「27」
「ふーん・・・って、今日?!」
「あぁ」
「じゃ今日からプロボクサー?」
「プロテストに受からなきゃプロにはなれねーよ」
無知なあたしの質問に
宮田くんはちょっと苦笑した。
「そうなんだ。でそのテストはいつ受けるの?」
「今週末」
「もうすぐだね!頑張って」
「着いたぜ」
あたしが一人大騒ぎしてる間に美術室前に来ていて
促されてあたしは鍵を開けた。
ドアを開けると生暖かい空気が絵の具の匂いとともに充満していて
あたしは預かった茶封筒を机に置いて端から窓を開けはじめた。
すると、その隣にダンボールを置いて反対側から宮田くんも窓を開けてくれた。
最後の一つを開け終えると
それじゃ、と宮田くんが背を向けた。
「ちょっと待って、宮田くん!!」
机の茶封筒を手に
振り返った宮田くんの元に駆け寄る。
「わざわざありがとう。それと、えっと、これ・・・」
あたしはスカートのポケットを探った。
「誕生日おめでとう。今こんなのしか持ってないから」
差し出したのは小さな飴玉。
苺の模様が描かれた包装紙に包まっている。
「お前ホントいちご味好きだよな」
「だっておいしいんだもん」
「有難く貰っとくよ」
あたしの手から飴玉を奪うと
一度高く放り投げてから掴んだ手をポケットに入れた。
ひとりになって
ふと、宮田くんの言葉が蘇る。
―――お前ホントいちご味好きだよな
それって、あたしがいつも飲んでるいちご牛乳の事?
もしかして、あれはやっぱり・・・・・
程なくして集まった部員に顔が赤いと指摘され、
熱があるんじゃないかと心配されたけど
あたしは何とか誤魔化して本当の事は自分の心の中だけに
そっとしまいこんだ。
END
2009/03/07 PCUP
+++++atogaki+++++
『甘い』その後です。
藤井さんの話だと、鴨川ジムやめてすぐ引っ越したそうなので
この時期くらいかな、と。
でも高2で一人暮らしってすごいですよね。
でも宮田くんならアリな気もします。
しかし、季節外れもいいトコですねー(苦笑)
夏休みの校舎は人気がなく
いつもは開け放たれている下足室のガラス戸も
一箇所を除いて全て施錠されていた。
まるでビニルハウスのように暑くなった場所で
持参した上靴に履き替え靴箱に脱いだ靴をしまった。
額に滲む汗を拭いながら職員室まで行くと
ノックしてドアを開けた途端、エアコンの冷気があたしを包む。
一礼して美術室の鍵を取ると
顧問の先生から荷物を押し付けられた。
嫌とも言えず、あたしはダンボールを両手に抱え職員室を出ると
顧問の先生がドアを閉め、また蒸し暑い場所に放り出された。
荷物は大して重くなかったが
右手に鍵を持ったままなので随分持ちにくかった。
少し歩いたところで
下足室の方から現れた人影がこちらに向かってくるのが見えた。
「「あ」」
目が合って、言葉が重なった。
「夏休みにどうしたの、宮田くん」
「佐倉こそどうしたんだよ」
「あたしは部活。美術部の。そっちは?」
「夏休み中に提出する書類があったからそれ出しに」
手にした茶封筒を見せられ、そうなんだと答えた。
「じゃあね」
「どこまで?」
「何が?」
「荷物」
そういうと宮田くんは茶封筒を小脇に抱えてあたしの荷物を持ち上げた。
「なんだ、軽いじゃん」
びっくりするあたしに構うことなく「ちょっと持てよ」と
視線で茶封筒を指され、あたしは慌てて宮田くんの小脇に挟まった茶封筒を持った。
「で、どこまで?」
「び、美術室」
歩き出した宮田くんを慌てて追いかける。
隣に並ぼうと思うと宮田くんの歩幅は大きくて
付いて行くのにちょっと必死になった。
それに気付いたのか、階段のところまで来ると
宮田くんはペースを落としてくれたので
ようやく落ち着いて並んで歩くことができた。
「職員室に用だったのにいいの?」
「別に荷物運ぶ時間くらいあるぜ」
「ありがとう」
あたしは嬉しくなってニヤつく顔を隠すように少し俯くと
宮田くんから預かった茶封筒が目に入った。
そこには別の区役所の名前が書かれていた。
「宮田くん、転校するの?」
考えるより先に言葉が出た。
隣を見上げると宮田くんは何でもないように言った。
「こないだ引越して、遠くなるけど通える距離だから転校はしねぇよ」
「そうなんだ」
あたしは心の底からホッとした。
そして、青くなったり赤くなったり、その一部始終を
宮田くんが見ていたなんて
その時のあたしは気付きもしなかった。
「あ、そうだ」
「宮田くんって今月誕生日だったよね。何日なの?」
「27」
「ふーん・・・って、今日?!」
「あぁ」
「じゃ今日からプロボクサー?」
「プロテストに受からなきゃプロにはなれねーよ」
無知なあたしの質問に
宮田くんはちょっと苦笑した。
「そうなんだ。でそのテストはいつ受けるの?」
「今週末」
「もうすぐだね!頑張って」
「着いたぜ」
あたしが一人大騒ぎしてる間に美術室前に来ていて
促されてあたしは鍵を開けた。
ドアを開けると生暖かい空気が絵の具の匂いとともに充満していて
あたしは預かった茶封筒を机に置いて端から窓を開けはじめた。
すると、その隣にダンボールを置いて反対側から宮田くんも窓を開けてくれた。
最後の一つを開け終えると
それじゃ、と宮田くんが背を向けた。
「ちょっと待って、宮田くん!!」
机の茶封筒を手に
振り返った宮田くんの元に駆け寄る。
「わざわざありがとう。それと、えっと、これ・・・」
あたしはスカートのポケットを探った。
「誕生日おめでとう。今こんなのしか持ってないから」
差し出したのは小さな飴玉。
苺の模様が描かれた包装紙に包まっている。
「お前ホントいちご味好きだよな」
「だっておいしいんだもん」
「有難く貰っとくよ」
あたしの手から飴玉を奪うと
一度高く放り投げてから掴んだ手をポケットに入れた。
ひとりになって
ふと、宮田くんの言葉が蘇る。
―――お前ホントいちご味好きだよな
それって、あたしがいつも飲んでるいちご牛乳の事?
もしかして、あれはやっぱり・・・・・
程なくして集まった部員に顔が赤いと指摘され、
熱があるんじゃないかと心配されたけど
あたしは何とか誤魔化して本当の事は自分の心の中だけに
そっとしまいこんだ。
END
2009/03/07 PCUP
+++++atogaki+++++
『甘い』その後です。
藤井さんの話だと、鴨川ジムやめてすぐ引っ越したそうなので
この時期くらいかな、と。
でも高2で一人暮らしってすごいですよね。
でも宮田くんならアリな気もします。
しかし、季節外れもいいトコですねー(苦笑)