短編
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甘い
学校の屋上から見上げる空は
地上からみるそれに比べると随分と近くに感じる。
空から見ればきっと大差ないことなのだろうけど
見上げていればそのうち手が届いて
流れる雲に乗れるような、
そんな錯覚さえ起こしてしまうここは本当に不思議な場所だ。
『ンなワケないじゃん。澪ってほんとロマンチストね』
友達に言ったらちょっと呆れたように言われた。
確かにそうかもしれない。
それでもやっぱりそういう感覚をあたしは無くしたくないと思う。
初夏を迎えた空は、太陽がその存在を主張している。
焼けたコンクリートから照り返す熱気。
―――――暑い
僅かに見つけた日陰に身を寄せて弁当の包みを開く。
―――――こんな事なら購買に寄っていちご牛乳買ってくればよかった
「よォ」
誰もいないと思ってたあたしは
びっくりして声のした方を見上げた。
逆光に照らされてぼんやりと輪郭が見えるだけだったが
それが誰なのか、あたしは確信していた。
「飲めよ」
「え?」
ストン、とあたしの手元に届いたのは
ピンク色の小さなパック。
「いちご牛乳・・・」
―――――もしかして、あたし、声に出してた?
「間違えたんだ。お前にやる」
―――――なんだ。独りごと言ったわけじゃないんだ。
「いいの?」
「そんな甘ったるそうなモン飲めるかよ」
「そうかなぁ。美味しいのに」
「お前、すごい顔してるぜ」
「だって眩しいんだもん」
と、その身体がフワリと宙に浮く。
やっぱり運動神経いいんだなぁなんてぼんやり思いながら
光の明暗になかなか対応できない視覚を2、3回まばたきして馴染ませると
目の前に降り立った宮田くんの姿をようやく確認することができた。
「こないだ、助かった」
身体二人分くらい空けて隣に座った宮田くんの視線は
金網ごしに広がるグラウンドに向いたままだったけど
主語のない言葉の意味をあたしはすぐに理解した。
「間に合ったんだ」
「ああ」
「よかったね」
「それにしても暑いな」
言葉通り、宮田くんは制服のネクタイを緩め、
襟元にできた隙間にワイシャツを無造作に引っ張って風を送っていた。
宮田くんの視線の先を追ってみると
真っ白いユニフォームの野球部員が走っているのが目に入った。
お昼休みにまで練習なんて大変だなぁ。
「宮田くんお昼は?」
「食った」
ふぅん、とのんびり応えると
宮田くんがあたしの手元を見た。
「お前も早く食えよ。昼休みもうすぐ終わるぜ」
「もうそんな時間?」
携帯で時間を確認する。
そういえば委員会の用事で職員室に呼ばれて
ここに来るの遅かったんだ。
「大変。早く食べよ」
ひとまずいちご牛乳を携帯の横に置いて
あたしはお弁当に箸をつけた。
「お前よくここにいるよな」
「ここで空をみるのが好きなの」
「空?」
「高いトコから見てると、雲に手が届いてそのまま乗れそうな気がしない?」
「・・・・・・・」
やっぱりおかしいかな。
「はいごめんロマンチストでしたー」
誤魔化すようにたまごやきをほお張った。
「別にいいんじゃねぇの?」
「ん?」
「ガキの頃サンタクロース信じてたとか、
そういう感覚持ち続けるのって、悪くないと思うぜ」
「・・・・・・・」
「何だよ」
「いや、ちょっとびっくりっていうか」
勝手な思い込みだけど
宮田くんはそういう事には全く関心ないと思ってた。
「宮田くんもサンタクロース信じてたの?」
「佐倉は信じてただろ」
宮田くんと目が合った。
時間にするとほんの僅かの間だったけれど
二人の時間が止まった。
二人分空けた距離は変わらないのに
なんだか急に近くなったような気がして
あたしは慌てて視線を逸らした。
「し、信じてたよっ」
なるべく平静を装って
おにぎりを半分の大きさにして口に運んだ。
「やっぱりな」
宮田くんを取り巻く雰囲気が変わった気がして
チラリと横を見てみると
口角を少しあげて、笑っていた。
「なによ、笑うことないじゃない」
「いや、佐倉らしいと思ってさ」
「そういう宮田くんはどうなのよ」
「さあな」
言うと同時に立ち上がった宮田くんは
両手を突き上げてウンと背を伸ばした。
「あ、ズルイ。あたしちゃんと答えたのに」
「わかんねぇよ。覚えてねぇ」
「うそだぁ」
「それよりお前、早く食った方がいいぜ」
ん?というあたしに宮田くんが『じ・か・ん』と言ってから
ドアに向かって歩き出した。
携帯で確認すると予鈴が鳴るまであと5分だった。
あたしは慌てて箸を動かしつつ
離れていく背中を見送った。
「いちご牛乳ありがとう」
あたしこれ好きなんだ
最後まで聞こえたのかどうかは判らないけれど
バタンという、重い金属製ドアの大きな音が屋上に響いて
あたしはひとりになった。
グラウンドからの掛け声が
いつの間にか聞こえなくなっていた。
それにしても、自販機で買ったわけじゃあるまいし、
どうやって間違えたんだろう。
・
・
・
・
・
まさかね。
都合のいい想像にあたしはひとり恥ずかしくなって
慌てていちご牛乳にストローを指した。
「・・・甘い」
それから誕生日を聞くのをすっかり忘れていた事に気が付いて
いちご牛乳のお礼をいう時忘れずに聞こうと思った。
END
2008/12/02 PCUP
+++++atogaki+++++
『二人乗り』その後のお話です。単品でも一応話はわかる・・・かな。
寝ても覚めてもボクシングの宮田くんだけど
時には鎧の紐解いて素になれる場所があったらいいなぁ、みたいな。
このふたりは恋愛云々でなく
お互いに居心地よくて何となく一緒にいる関係ってのが希望なんですが
それじゃ夢小説にならんですね(^^;
学校の屋上から見上げる空は
地上からみるそれに比べると随分と近くに感じる。
空から見ればきっと大差ないことなのだろうけど
見上げていればそのうち手が届いて
流れる雲に乗れるような、
そんな錯覚さえ起こしてしまうここは本当に不思議な場所だ。
『ンなワケないじゃん。澪ってほんとロマンチストね』
友達に言ったらちょっと呆れたように言われた。
確かにそうかもしれない。
それでもやっぱりそういう感覚をあたしは無くしたくないと思う。
初夏を迎えた空は、太陽がその存在を主張している。
焼けたコンクリートから照り返す熱気。
―――――暑い
僅かに見つけた日陰に身を寄せて弁当の包みを開く。
―――――こんな事なら購買に寄っていちご牛乳買ってくればよかった
「よォ」
誰もいないと思ってたあたしは
びっくりして声のした方を見上げた。
逆光に照らされてぼんやりと輪郭が見えるだけだったが
それが誰なのか、あたしは確信していた。
「飲めよ」
「え?」
ストン、とあたしの手元に届いたのは
ピンク色の小さなパック。
「いちご牛乳・・・」
―――――もしかして、あたし、声に出してた?
「間違えたんだ。お前にやる」
―――――なんだ。独りごと言ったわけじゃないんだ。
「いいの?」
「そんな甘ったるそうなモン飲めるかよ」
「そうかなぁ。美味しいのに」
「お前、すごい顔してるぜ」
「だって眩しいんだもん」
と、その身体がフワリと宙に浮く。
やっぱり運動神経いいんだなぁなんてぼんやり思いながら
光の明暗になかなか対応できない視覚を2、3回まばたきして馴染ませると
目の前に降り立った宮田くんの姿をようやく確認することができた。
「こないだ、助かった」
身体二人分くらい空けて隣に座った宮田くんの視線は
金網ごしに広がるグラウンドに向いたままだったけど
主語のない言葉の意味をあたしはすぐに理解した。
「間に合ったんだ」
「ああ」
「よかったね」
「それにしても暑いな」
言葉通り、宮田くんは制服のネクタイを緩め、
襟元にできた隙間にワイシャツを無造作に引っ張って風を送っていた。
宮田くんの視線の先を追ってみると
真っ白いユニフォームの野球部員が走っているのが目に入った。
お昼休みにまで練習なんて大変だなぁ。
「宮田くんお昼は?」
「食った」
ふぅん、とのんびり応えると
宮田くんがあたしの手元を見た。
「お前も早く食えよ。昼休みもうすぐ終わるぜ」
「もうそんな時間?」
携帯で時間を確認する。
そういえば委員会の用事で職員室に呼ばれて
ここに来るの遅かったんだ。
「大変。早く食べよ」
ひとまずいちご牛乳を携帯の横に置いて
あたしはお弁当に箸をつけた。
「お前よくここにいるよな」
「ここで空をみるのが好きなの」
「空?」
「高いトコから見てると、雲に手が届いてそのまま乗れそうな気がしない?」
「・・・・・・・」
やっぱりおかしいかな。
「はいごめんロマンチストでしたー」
誤魔化すようにたまごやきをほお張った。
「別にいいんじゃねぇの?」
「ん?」
「ガキの頃サンタクロース信じてたとか、
そういう感覚持ち続けるのって、悪くないと思うぜ」
「・・・・・・・」
「何だよ」
「いや、ちょっとびっくりっていうか」
勝手な思い込みだけど
宮田くんはそういう事には全く関心ないと思ってた。
「宮田くんもサンタクロース信じてたの?」
「佐倉は信じてただろ」
宮田くんと目が合った。
時間にするとほんの僅かの間だったけれど
二人の時間が止まった。
二人分空けた距離は変わらないのに
なんだか急に近くなったような気がして
あたしは慌てて視線を逸らした。
「し、信じてたよっ」
なるべく平静を装って
おにぎりを半分の大きさにして口に運んだ。
「やっぱりな」
宮田くんを取り巻く雰囲気が変わった気がして
チラリと横を見てみると
口角を少しあげて、笑っていた。
「なによ、笑うことないじゃない」
「いや、佐倉らしいと思ってさ」
「そういう宮田くんはどうなのよ」
「さあな」
言うと同時に立ち上がった宮田くんは
両手を突き上げてウンと背を伸ばした。
「あ、ズルイ。あたしちゃんと答えたのに」
「わかんねぇよ。覚えてねぇ」
「うそだぁ」
「それよりお前、早く食った方がいいぜ」
ん?というあたしに宮田くんが『じ・か・ん』と言ってから
ドアに向かって歩き出した。
携帯で確認すると予鈴が鳴るまであと5分だった。
あたしは慌てて箸を動かしつつ
離れていく背中を見送った。
「いちご牛乳ありがとう」
あたしこれ好きなんだ
最後まで聞こえたのかどうかは判らないけれど
バタンという、重い金属製ドアの大きな音が屋上に響いて
あたしはひとりになった。
グラウンドからの掛け声が
いつの間にか聞こえなくなっていた。
それにしても、自販機で買ったわけじゃあるまいし、
どうやって間違えたんだろう。
・
・
・
・
・
まさかね。
都合のいい想像にあたしはひとり恥ずかしくなって
慌てていちご牛乳にストローを指した。
「・・・甘い」
それから誕生日を聞くのをすっかり忘れていた事に気が付いて
いちご牛乳のお礼をいう時忘れずに聞こうと思った。
END
2008/12/02 PCUP
+++++atogaki+++++
『二人乗り』その後のお話です。単品でも一応話はわかる・・・かな。
寝ても覚めてもボクシングの宮田くんだけど
時には鎧の紐解いて素になれる場所があったらいいなぁ、みたいな。
このふたりは恋愛云々でなく
お互いに居心地よくて何となく一緒にいる関係ってのが希望なんですが
それじゃ夢小説にならんですね(^^;