短編
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水風船
地元でいちばん大きな神社で行われる夏祭り。
夏の終りを賑やかに締めくくる行事で、あたしは毎年楽しみに出掛けていた。
小さい頃は両親と姉と弟、そして向かいに住む幼馴染の一郎くんとおじさん。
まるで恒例行事のように出掛けていたのに、姉が友達と行くようになったくらいから家族恒例ではなくなったけど、あたしは毎年必ず、この夏祭りには行っていた。
今年は高校生になって最初の夏。
仲良し三人で出掛ける予定がうち一人が昨日キャンセルの連絡が入り、二人でも行こう、という事で待ち合わせをしていた。
新調した浴衣は店で一目惚れした一枚。
帯飾りとしてアクセサリーを洋服さながら付ける今風な感じではなく、敢えて古典的なこの浴衣を一目見て気に入った。
シンプルだからこそ少し凝った着こなしがしたくて、数日前からネットで調べた飾り結びを母親に何度も練習してもらった。(お母さんありがとう!)
今日の為に伸ばしておいた髪をきっちりと結い上げ、きらきらと光るガラス玉のついたシンプルな髪飾りを差す。
姿見の前でクルリと回ってその出来栄えに我ながら満足して、あたしは上機嫌だった。
履き慣れない下駄にもめげず、軽い足取りで家を出た。
.
背後のドアがバタンと閉まった音で、向かいにいた人影が振り返った。
「一郎くん」
ちょうど帰宅したところなのか、鍵を開けようとしていた幼馴染と目が合った。
「・・・よォ」
思わず声をかけてしまった。
「今帰り?」
「ああ」
幼馴染なのに、やけに他人行儀なのは、久しぶりに声をかけたせい。
「相変わらず頑張ってるんだ、ボクシング」
「まあな」
一郎くんは肩からかけたスポーツバックを持ち直した。
幼い頃は毎日のように遊んでたのに、いつの頃からか何となく話さなくなって、気付いた時には同じ学校に通っているにも関わらず、目も合わさない存在になっていた。
「それじゃ」
気まずさこそなかったが約束の時間もあったし、行こうとしたときだった。
「そういえば今日だったな」
「え?」
まさか声をかけてくるとは思ってなかったのであたしはちょっとびっくりしては驚いて振り返ると、一郎くんは「花火大会」と付け加えた。
「うん。一郎くんは行かないの?」
「ああ。行かねぇ」
「・・・そうなんだ」
「気をつけろよ」
「うん。ありがとう。バイバイ」
.
久しぶりに話した一郎くんにあたしはなんともいえないくすぐったい気持ちになって、慌てて背を向け気付かれないように顔を綻ばせた。
そして待ち合わせ場所に向かおうとしたところ、巾着の中の携帯電話が鳴り出した。
「もしもし、あたし。うん、今からそっち・・・・え?」
相手の言葉に一瞬耳を疑う。
「―――――そっか。仕方ないよ、うん。気にしないで。それより頑張って。うん」
なるべく感情を出さないように勤めて明るく振る舞い、電話を切った。
切った途端に零れる、大きな溜息。
「どうしたんだよ」
振り返るとそこにはまだ一郎くんが自宅の玄関先で立っていた。
「一緒にいく予定だった友達が、急にバイトだって・・・」
バイトじゃ仕方ないよね、とあたしは苦笑した。
「仕方ないから、お姉ちゃんか弟か・・・
最悪はお父さん帰ってきたらお母さんと三人で行こうかな」
「澪」
名前を呼ばれたのなんて本当に久しぶりで、あたしはビックリして門扉を開ける手が止まった。
「荷物置いてくるから、ちょっと待ってろ」
「え?」
「・・・いいから、とにかくそこで待ってろ。わかったな?」
返事をする間もなく一郎くんは一旦自宅に消えると、程なくして荷物だけ置いて出てきた。
「行こうぜ」
「一郎くん・・・?」
「行きたいんだろ、花火大会」
疑問符だらけのあたしに、ちょっと苛々した様子の一郎くんがわかれよ、とばかりに言った。
会場となる神社は多くの人で溢れ返っていた。
見渡す限りの人波。
隣りを歩く一郎くんが小さく溜息をこぼした。
「大丈夫?」
「何が?」
「人混み。今ウンザリしたでしょ」
「・・・・・」
僅かに歪む表情。
小さい頃は表情豊かで明るい性格だった一郎くんだけど、成長するにつれて人と距離を置いて付き合うようになってあからさまに喜怒哀楽を出さなくなっていた。
それがどう美化されたのか、学校では『クールでかっこいい宮田くん』という認識が大多数を占めているけれど
あたしにとっての『幼馴染の一郎くん』はただ不器用なだけで、実に単純明快な人だと思っている。
入り口付近こそ込み合っていたが、進んでいくと空いてるとは言い難いが身動きが取れない、というほどではなかった。
祭り太鼓が心を逸らせる。
並んだりんご飴、金魚すくい、さまざまな種類のお面、屋台の喧騒もなぜか心地よい。
「昔は一郎くんの家族とうちの家族、皆で行ったよね」
「そうだったな」
「ヨーヨーつりやっても、金魚すくいやっても、一郎くん、全然取れなくて拗ねてたよね」
「澪だってすぐダメにして泣いてただろーが」
「そうでした」
あはは、と笑うあたしにつられるように一郎くんも表情を和らげた。
「久しぶりにやってみるか?」
言われて、一郎くんの指差す方を見てみると
ヨーヨーつりの屋台があった。
「うん!じゃあさ、せっかくだから勝負しよう」
「構わないぜ。で、負けた方はどうするんだ」
「そうねー・・・勝った方のお願いをひとつ何でも聞く」
「OK」
あたしたちは意気揚々と屋台に近づいた。
「・・・なんか、お互い成長してないね」
「・・・・・」
あたしは『つれなくても1コプレゼント』されたピンクのヨーヨーを指に通した。
「せっかく一郎くんにお願い聞いてもらえるチャンスだったのになぁ」
手のひらで弾くとバシャバシャと小気味いい音がする。
「お前一体何を頼むつもりだったんだよ」
「今日全部奢ってもらおうと思ってた」
「・・・・・」
「りんご飴でしょ、カキ氷にたこ焼き綿飴・・・あ、ベビーカステラも!」
「太るぜ」
「それは言わないの!」
プーとむくれるあたしを見て一郎くんが笑った。
昔はよく二人で遊んでこうやってよく笑ってくれたのに、笑い合うどころかまともに話すこともなくなって
このまま一郎くんとの間にどんどん距離ができて、もう普通に話すこともなくなってしまうんじゃないかと思ってた。
だからこそ、こうして昔みたいに笑い合えてることがたまらなく嬉しかった。
「じゃあさ、一郎くんはもし勝ってたら何をお願いしようと思ってたの?」
「オレか?そうだな・・・」
言って、一郎くんは少し考え込んでしまった。
何もそこまで悩まなくても。
・・・そんなに考えなきゃわからないくらい
あたしにしてほしいことなんてないのかな。
「一郎くんは何でも自分でやっちゃうもんね!別にあたしにしてほしいことなんて、ないよね」
自分の言葉に、チクリと胸が痛んだ。
でもそれを認めるのが嫌で、あたしは努めて明るく振舞った。
.
.
「あるぜ、澪にしてほしいこと」
ところが返ってきたのはそんな言葉で、いつになく真面目な口ぶりにあたしは思わず一郎くんを見た。
「言ってもいいのかよ。教えたからには聞いてもらうことになるぜ?」
すると一郎くんは人が悪い笑みを浮かべてこっちを見たので、あたしはなんだか恥ずかしくなって慌てて反論した。
「そ、それはズルイ!あたし負けてないのに」
「だったら言わねぇ」
「そんな気になる言い方されたら気持ち悪いじゃない」
「だから教えてやろうか?」
「いらない!」
なんかめちゃくちゃ腑に落ちない。
そんなあたしの隣で一郎くんがまた笑った。
「なぁ」
「何?」
ちょっと不機嫌ぽくヨーヨーを弾きながら返事をして隣を見上げると、途端に目が合った。
その距離が思ったより近くてあたしはちょっと面食らったけど、一郎くんは構うことなく続けた。
「来年まで持ち越しな」
そう言って一郎くんはブルーのヨーヨーを弾いた。
最初意味がわからなくて、水を弾く二つ分の音だけが耳に入ってきて、思わずまじまじと見つめた一郎くんの顔は少し赤くなっていた。
それからようやく理解すると、とてもじゃないけど一郎くんを見ていることなんて出来なくなって。
慌てて視線を逸らして、ただ「うん」とだけ答えた。
その時ちょうどドーンという音と共に最初の花火が上がった。
すぐに見上げたけれど木が邪魔をして上手く見えない。
「こっち。急ごう」
そう言って引き寄せられた手はあたしの知る『幼馴染の一郎くん』ではなく、その大きさにあたしは戸惑いを隠せなかった。
それでも力強くあたしを導くその手は昔から変わらない一郎くんのもので、伝わるぬくもりにあたしは言いようもない安堵感を覚えた。
―――来年も、また。
一郎くんが振り返りませんように。
綻ぶ顔を抑えきれないあたしはそう願いながら、一郎くんに手を引かれながら先を急いだ。
end
+++++atogaki+++++
桜風さんへ、相互リンクのお礼で『じれったい2人、同級生か幼馴染で』というリクエストを頂きました。
実は幼馴染が苦手なわたし。
読む分には全然OK父さんなんですが、書くにはどうも苦手だったりします。
なので逆に、こういう機会を頂かなければ書けなかった設定でもあり、桜風さんには大感謝です。
それよりも。それよりも、です。
リク頂いた日付見て驚愕・・・2009年7月10日ですよ(爆)
・・・いや、確かコレ去年の秋くらいに思いついて8割書いてたんですが、なにぶん内容が内容だけに流石に秋冬に贈るのも・・・と熟成させておりました。
だったら別のにしろよ、というツッコミはナシの方向で。
だ、だって、これは桜風さんの為に書いたんだもん!と必死の言い訳はこの辺で自粛します。
とにもかくにも、お待たせしすぎてホントすみませんでした;;
こんなわたしですが、末永くよろしくお願いします。
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地元でいちばん大きな神社で行われる夏祭り。
夏の終りを賑やかに締めくくる行事で、あたしは毎年楽しみに出掛けていた。
小さい頃は両親と姉と弟、そして向かいに住む幼馴染の一郎くんとおじさん。
まるで恒例行事のように出掛けていたのに、姉が友達と行くようになったくらいから家族恒例ではなくなったけど、あたしは毎年必ず、この夏祭りには行っていた。
今年は高校生になって最初の夏。
仲良し三人で出掛ける予定がうち一人が昨日キャンセルの連絡が入り、二人でも行こう、という事で待ち合わせをしていた。
新調した浴衣は店で一目惚れした一枚。
帯飾りとしてアクセサリーを洋服さながら付ける今風な感じではなく、敢えて古典的なこの浴衣を一目見て気に入った。
シンプルだからこそ少し凝った着こなしがしたくて、数日前からネットで調べた飾り結びを母親に何度も練習してもらった。(お母さんありがとう!)
今日の為に伸ばしておいた髪をきっちりと結い上げ、きらきらと光るガラス玉のついたシンプルな髪飾りを差す。
姿見の前でクルリと回ってその出来栄えに我ながら満足して、あたしは上機嫌だった。
履き慣れない下駄にもめげず、軽い足取りで家を出た。
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背後のドアがバタンと閉まった音で、向かいにいた人影が振り返った。
「一郎くん」
ちょうど帰宅したところなのか、鍵を開けようとしていた幼馴染と目が合った。
「・・・よォ」
思わず声をかけてしまった。
「今帰り?」
「ああ」
幼馴染なのに、やけに他人行儀なのは、久しぶりに声をかけたせい。
「相変わらず頑張ってるんだ、ボクシング」
「まあな」
一郎くんは肩からかけたスポーツバックを持ち直した。
幼い頃は毎日のように遊んでたのに、いつの頃からか何となく話さなくなって、気付いた時には同じ学校に通っているにも関わらず、目も合わさない存在になっていた。
「それじゃ」
気まずさこそなかったが約束の時間もあったし、行こうとしたときだった。
「そういえば今日だったな」
「え?」
まさか声をかけてくるとは思ってなかったのであたしはちょっとびっくりしては驚いて振り返ると、一郎くんは「花火大会」と付け加えた。
「うん。一郎くんは行かないの?」
「ああ。行かねぇ」
「・・・そうなんだ」
「気をつけろよ」
「うん。ありがとう。バイバイ」
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久しぶりに話した一郎くんにあたしはなんともいえないくすぐったい気持ちになって、慌てて背を向け気付かれないように顔を綻ばせた。
そして待ち合わせ場所に向かおうとしたところ、巾着の中の携帯電話が鳴り出した。
「もしもし、あたし。うん、今からそっち・・・・え?」
相手の言葉に一瞬耳を疑う。
「―――――そっか。仕方ないよ、うん。気にしないで。それより頑張って。うん」
なるべく感情を出さないように勤めて明るく振る舞い、電話を切った。
切った途端に零れる、大きな溜息。
「どうしたんだよ」
振り返るとそこにはまだ一郎くんが自宅の玄関先で立っていた。
「一緒にいく予定だった友達が、急にバイトだって・・・」
バイトじゃ仕方ないよね、とあたしは苦笑した。
「仕方ないから、お姉ちゃんか弟か・・・
最悪はお父さん帰ってきたらお母さんと三人で行こうかな」
「澪」
名前を呼ばれたのなんて本当に久しぶりで、あたしはビックリして門扉を開ける手が止まった。
「荷物置いてくるから、ちょっと待ってろ」
「え?」
「・・・いいから、とにかくそこで待ってろ。わかったな?」
返事をする間もなく一郎くんは一旦自宅に消えると、程なくして荷物だけ置いて出てきた。
「行こうぜ」
「一郎くん・・・?」
「行きたいんだろ、花火大会」
疑問符だらけのあたしに、ちょっと苛々した様子の一郎くんがわかれよ、とばかりに言った。
会場となる神社は多くの人で溢れ返っていた。
見渡す限りの人波。
隣りを歩く一郎くんが小さく溜息をこぼした。
「大丈夫?」
「何が?」
「人混み。今ウンザリしたでしょ」
「・・・・・」
僅かに歪む表情。
小さい頃は表情豊かで明るい性格だった一郎くんだけど、成長するにつれて人と距離を置いて付き合うようになってあからさまに喜怒哀楽を出さなくなっていた。
それがどう美化されたのか、学校では『クールでかっこいい宮田くん』という認識が大多数を占めているけれど
あたしにとっての『幼馴染の一郎くん』はただ不器用なだけで、実に単純明快な人だと思っている。
入り口付近こそ込み合っていたが、進んでいくと空いてるとは言い難いが身動きが取れない、というほどではなかった。
祭り太鼓が心を逸らせる。
並んだりんご飴、金魚すくい、さまざまな種類のお面、屋台の喧騒もなぜか心地よい。
「昔は一郎くんの家族とうちの家族、皆で行ったよね」
「そうだったな」
「ヨーヨーつりやっても、金魚すくいやっても、一郎くん、全然取れなくて拗ねてたよね」
「澪だってすぐダメにして泣いてただろーが」
「そうでした」
あはは、と笑うあたしにつられるように一郎くんも表情を和らげた。
「久しぶりにやってみるか?」
言われて、一郎くんの指差す方を見てみると
ヨーヨーつりの屋台があった。
「うん!じゃあさ、せっかくだから勝負しよう」
「構わないぜ。で、負けた方はどうするんだ」
「そうねー・・・勝った方のお願いをひとつ何でも聞く」
「OK」
あたしたちは意気揚々と屋台に近づいた。
「・・・なんか、お互い成長してないね」
「・・・・・」
あたしは『つれなくても1コプレゼント』されたピンクのヨーヨーを指に通した。
「せっかく一郎くんにお願い聞いてもらえるチャンスだったのになぁ」
手のひらで弾くとバシャバシャと小気味いい音がする。
「お前一体何を頼むつもりだったんだよ」
「今日全部奢ってもらおうと思ってた」
「・・・・・」
「りんご飴でしょ、カキ氷にたこ焼き綿飴・・・あ、ベビーカステラも!」
「太るぜ」
「それは言わないの!」
プーとむくれるあたしを見て一郎くんが笑った。
昔はよく二人で遊んでこうやってよく笑ってくれたのに、笑い合うどころかまともに話すこともなくなって
このまま一郎くんとの間にどんどん距離ができて、もう普通に話すこともなくなってしまうんじゃないかと思ってた。
だからこそ、こうして昔みたいに笑い合えてることがたまらなく嬉しかった。
「じゃあさ、一郎くんはもし勝ってたら何をお願いしようと思ってたの?」
「オレか?そうだな・・・」
言って、一郎くんは少し考え込んでしまった。
何もそこまで悩まなくても。
・・・そんなに考えなきゃわからないくらい
あたしにしてほしいことなんてないのかな。
「一郎くんは何でも自分でやっちゃうもんね!別にあたしにしてほしいことなんて、ないよね」
自分の言葉に、チクリと胸が痛んだ。
でもそれを認めるのが嫌で、あたしは努めて明るく振舞った。
.
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「あるぜ、澪にしてほしいこと」
ところが返ってきたのはそんな言葉で、いつになく真面目な口ぶりにあたしは思わず一郎くんを見た。
「言ってもいいのかよ。教えたからには聞いてもらうことになるぜ?」
すると一郎くんは人が悪い笑みを浮かべてこっちを見たので、あたしはなんだか恥ずかしくなって慌てて反論した。
「そ、それはズルイ!あたし負けてないのに」
「だったら言わねぇ」
「そんな気になる言い方されたら気持ち悪いじゃない」
「だから教えてやろうか?」
「いらない!」
なんかめちゃくちゃ腑に落ちない。
そんなあたしの隣で一郎くんがまた笑った。
「なぁ」
「何?」
ちょっと不機嫌ぽくヨーヨーを弾きながら返事をして隣を見上げると、途端に目が合った。
その距離が思ったより近くてあたしはちょっと面食らったけど、一郎くんは構うことなく続けた。
「来年まで持ち越しな」
そう言って一郎くんはブルーのヨーヨーを弾いた。
最初意味がわからなくて、水を弾く二つ分の音だけが耳に入ってきて、思わずまじまじと見つめた一郎くんの顔は少し赤くなっていた。
それからようやく理解すると、とてもじゃないけど一郎くんを見ていることなんて出来なくなって。
慌てて視線を逸らして、ただ「うん」とだけ答えた。
その時ちょうどドーンという音と共に最初の花火が上がった。
すぐに見上げたけれど木が邪魔をして上手く見えない。
「こっち。急ごう」
そう言って引き寄せられた手はあたしの知る『幼馴染の一郎くん』ではなく、その大きさにあたしは戸惑いを隠せなかった。
それでも力強くあたしを導くその手は昔から変わらない一郎くんのもので、伝わるぬくもりにあたしは言いようもない安堵感を覚えた。
―――来年も、また。
一郎くんが振り返りませんように。
綻ぶ顔を抑えきれないあたしはそう願いながら、一郎くんに手を引かれながら先を急いだ。
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+++++atogaki+++++
桜風さんへ、相互リンクのお礼で『じれったい2人、同級生か幼馴染で』というリクエストを頂きました。
実は幼馴染が苦手なわたし。
読む分には全然OK父さんなんですが、書くにはどうも苦手だったりします。
なので逆に、こういう機会を頂かなければ書けなかった設定でもあり、桜風さんには大感謝です。
それよりも。それよりも、です。
リク頂いた日付見て驚愕・・・2009年7月10日ですよ(爆)
・・・いや、確かコレ去年の秋くらいに思いついて8割書いてたんですが、なにぶん内容が内容だけに流石に秋冬に贈るのも・・・と熟成させておりました。
だったら別のにしろよ、というツッコミはナシの方向で。
だ、だって、これは桜風さんの為に書いたんだもん!と必死の言い訳はこの辺で自粛します。
とにもかくにも、お待たせしすぎてホントすみませんでした;;
こんなわたしですが、末永くよろしくお願いします。
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