短編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
二人乗り
下校時刻をとうに過ぎた校門に人影は少なく
グランドから運動部の掛け声がぼんやりと聞こえてくる。
先生から頼まれた用事を済ませ
自転車置き場から校門に差し掛かったときだった。
「佐倉!」
聞き覚えのある声。
だけどその声があたしの名前を呼んだのを聞くのははきっと初めてだ。
「宮田くん?」
振り返ると校舎から向かって走ってくる人影がどんどん大きくなって
自転車を引くあたしの目の前で止まった。
「お前の家って・・・」
宮田くんは少し息を切らしながらあたしの帰る方向を言ったので
あたしは黙って頷いた。
「だったら乗せてくれよ」
「え?」
「途中まででもいいから頼む」
頼むという割りに言い終えるより早く宮田くんは自分の鞄を自転車の前籠に入れると
あたしから半ば強引にハンドルを奪ってサドルに跨った。
「早く乗れよ」
「えぇ?!ちょっ・・・でも」
「早く!」
「う、うんっ!!」
宮田くんの勢いに押される形であたしは後ろに横乗りすると
すぐさま自転車が走り出した。
「きゃあ!」
思わず宮田くんの身体にしがみつく。
一年のときに同じクラスになって
まともに話したことなんて一度もないまま進級し、
クラスが離れてしまった今となっては何の接点もない。
そんな宮田くんが今あたしの自転車に乗って
その後ろにあたしが乗っている。
もしかしなくても、あたし今すごい状況なんだけど。
仕方ないよね。こうでもしないと落とされちゃうよね。
まるで言い訳でもするように理由を付けてみたけど
密かに好意を寄せている相手に
ずっとしがみついてることはやっぱりできなくて。
「ちゃんと掴まってろよ。振り落とされるぜ」
「えっ、あ、うん」
緩めかけた腕は宮田くんの言葉によって力を取り戻した。
制服越しに感じる宮田くんの身体は
想像していたよりもがっちりとしていて
照れてしまう反面、
デッサンのモデルにぴったりかもなんて考える余裕も少し出てきた。
「なぁ」
「何?」
風にのって宮田くんの声が耳に届く。
「入選したんだってな、絵」
まだ入学して間もない頃に一度だけ
宮田くんに話しかけられたことがある。
5時間目の授業が始まった校舎の屋上だった。
いい感じに描き進んでいたのでついチャイムを無視して居座っていると
宮田くんが不意に現れた。
あたしが気付かなかっただけで
先にいて少し離れた場所で昼寝をしていたらしい。
あたしの絵を覗き込んで綺麗な色だな、とだけ言った。
宮田くんは入学式のときからすごく目立ってて
同じクラスになったあたしは友達から随分羨ましがられた。
だけど宮田くんはいつもひとりでいることが多くて
どこか近寄りがたい雰囲気もあったから
到底話しかけることなんてできなかった。
だからこそ、屋上で会った時はすごく動揺したけど
話しかけてきてくれたのがすごく嬉しかった。
「よく知ってるね」
「クラスの女子が話してた」
「そうなんだ」
宮田くんが他人の会話を気にしたという事がちょっと意外だった。
「でも入選じゃなくて佳作なんだけどね」
「それでもすごいじゃん」
「うん」
あたしはありがとうとだけ言うと
宮田くんもそれ以上何も言わないで自転車を走らせた。
夕焼けの差す土手を宮田くんとあたしの二人乗りの自転車が走る。
あまり舗装されていない道はガタガタと揺れ
毎日通る度、転ばないようにハンドルを握り締める手が
今日は宮田くんの身体を抱き締める。
いつもの通学路なのにまるで違った道みたいだ。
「お前、鴨川ジム知ってる?」
「うん」
「そこまで行っていいか?」
「それは構わないけど・・・宮田くんボクシングやってるの?」
「ああ」
「すごい!もしかしてプロボクサーとか?」
「・・・8月になったらな」
「?」
「ライセンス取れんの17からだから」
「ふーん、そうなんだ」
8月なんだ、宮田くんの誕生日。
何日なんだろう。
いつになく積極的になってるあたしは
この勢いに乗じて聞こうとしたところで自転車が止まった。
いつの間にか鴨川ジムに到着していた。
「悪ィ。ホント助かった」
視線を合わす時間すら勿体無いといった様子の宮田くん。
こうなったらもうあたしの話なんて聞こえないよね。
「うん。あの、頑張ってね」
急ぐ背中に少し寂しくなってしまったあたしに
宮田くんが振り返った。
「サンキュ。佐倉もな」
その顔と言葉にあたしはカッと顔が赤くなったのが自分でもわかった。
こんな顔見られたら絶対バレてしまう。
だけど見られる前に宮田くんはドアの向こうに消えてしまい
それは余計な心配に終わってしまった。
よかったような、残念なような
そんな複雑な気持ちを抱えてサドルにまたがると
何となく、宮田くんが乗っていた感覚が残っていた。
誕生日は、今度学校で会ったときに聞いてみよう。
あたしは嬉しくなって自転車のペダルを踏み込んだ。
END
2008/10/26 PCUP
+++++atogaki+++++
当社比30%増しで糖度を上げてみたんですが
宮田くんではこれが限界でした・・・
ストイックが代名詞のひとつでもある宮田くんなので
高校時代はボクシング以外全く興味なかったんじゃないかとか思ってるので
甘い恋愛物語はなかなか想像できず・・・
でもコレくらいの夢はみてもいいよね(笑)
時系列的には一歩との二回目のスパーの日のつもり。
何気に続きを考えてたりしてます。
下校時刻をとうに過ぎた校門に人影は少なく
グランドから運動部の掛け声がぼんやりと聞こえてくる。
先生から頼まれた用事を済ませ
自転車置き場から校門に差し掛かったときだった。
「佐倉!」
聞き覚えのある声。
だけどその声があたしの名前を呼んだのを聞くのははきっと初めてだ。
「宮田くん?」
振り返ると校舎から向かって走ってくる人影がどんどん大きくなって
自転車を引くあたしの目の前で止まった。
「お前の家って・・・」
宮田くんは少し息を切らしながらあたしの帰る方向を言ったので
あたしは黙って頷いた。
「だったら乗せてくれよ」
「え?」
「途中まででもいいから頼む」
頼むという割りに言い終えるより早く宮田くんは自分の鞄を自転車の前籠に入れると
あたしから半ば強引にハンドルを奪ってサドルに跨った。
「早く乗れよ」
「えぇ?!ちょっ・・・でも」
「早く!」
「う、うんっ!!」
宮田くんの勢いに押される形であたしは後ろに横乗りすると
すぐさま自転車が走り出した。
「きゃあ!」
思わず宮田くんの身体にしがみつく。
一年のときに同じクラスになって
まともに話したことなんて一度もないまま進級し、
クラスが離れてしまった今となっては何の接点もない。
そんな宮田くんが今あたしの自転車に乗って
その後ろにあたしが乗っている。
もしかしなくても、あたし今すごい状況なんだけど。
仕方ないよね。こうでもしないと落とされちゃうよね。
まるで言い訳でもするように理由を付けてみたけど
密かに好意を寄せている相手に
ずっとしがみついてることはやっぱりできなくて。
「ちゃんと掴まってろよ。振り落とされるぜ」
「えっ、あ、うん」
緩めかけた腕は宮田くんの言葉によって力を取り戻した。
制服越しに感じる宮田くんの身体は
想像していたよりもがっちりとしていて
照れてしまう反面、
デッサンのモデルにぴったりかもなんて考える余裕も少し出てきた。
「なぁ」
「何?」
風にのって宮田くんの声が耳に届く。
「入選したんだってな、絵」
まだ入学して間もない頃に一度だけ
宮田くんに話しかけられたことがある。
5時間目の授業が始まった校舎の屋上だった。
いい感じに描き進んでいたのでついチャイムを無視して居座っていると
宮田くんが不意に現れた。
あたしが気付かなかっただけで
先にいて少し離れた場所で昼寝をしていたらしい。
あたしの絵を覗き込んで綺麗な色だな、とだけ言った。
宮田くんは入学式のときからすごく目立ってて
同じクラスになったあたしは友達から随分羨ましがられた。
だけど宮田くんはいつもひとりでいることが多くて
どこか近寄りがたい雰囲気もあったから
到底話しかけることなんてできなかった。
だからこそ、屋上で会った時はすごく動揺したけど
話しかけてきてくれたのがすごく嬉しかった。
「よく知ってるね」
「クラスの女子が話してた」
「そうなんだ」
宮田くんが他人の会話を気にしたという事がちょっと意外だった。
「でも入選じゃなくて佳作なんだけどね」
「それでもすごいじゃん」
「うん」
あたしはありがとうとだけ言うと
宮田くんもそれ以上何も言わないで自転車を走らせた。
夕焼けの差す土手を宮田くんとあたしの二人乗りの自転車が走る。
あまり舗装されていない道はガタガタと揺れ
毎日通る度、転ばないようにハンドルを握り締める手が
今日は宮田くんの身体を抱き締める。
いつもの通学路なのにまるで違った道みたいだ。
「お前、鴨川ジム知ってる?」
「うん」
「そこまで行っていいか?」
「それは構わないけど・・・宮田くんボクシングやってるの?」
「ああ」
「すごい!もしかしてプロボクサーとか?」
「・・・8月になったらな」
「?」
「ライセンス取れんの17からだから」
「ふーん、そうなんだ」
8月なんだ、宮田くんの誕生日。
何日なんだろう。
いつになく積極的になってるあたしは
この勢いに乗じて聞こうとしたところで自転車が止まった。
いつの間にか鴨川ジムに到着していた。
「悪ィ。ホント助かった」
視線を合わす時間すら勿体無いといった様子の宮田くん。
こうなったらもうあたしの話なんて聞こえないよね。
「うん。あの、頑張ってね」
急ぐ背中に少し寂しくなってしまったあたしに
宮田くんが振り返った。
「サンキュ。佐倉もな」
その顔と言葉にあたしはカッと顔が赤くなったのが自分でもわかった。
こんな顔見られたら絶対バレてしまう。
だけど見られる前に宮田くんはドアの向こうに消えてしまい
それは余計な心配に終わってしまった。
よかったような、残念なような
そんな複雑な気持ちを抱えてサドルにまたがると
何となく、宮田くんが乗っていた感覚が残っていた。
誕生日は、今度学校で会ったときに聞いてみよう。
あたしは嬉しくなって自転車のペダルを踏み込んだ。
END
2008/10/26 PCUP
+++++atogaki+++++
当社比30%増しで糖度を上げてみたんですが
宮田くんではこれが限界でした・・・
ストイックが代名詞のひとつでもある宮田くんなので
高校時代はボクシング以外全く興味なかったんじゃないかとか思ってるので
甘い恋愛物語はなかなか想像できず・・・
でもコレくらいの夢はみてもいいよね(笑)
時系列的には一歩との二回目のスパーの日のつもり。
何気に続きを考えてたりしてます。
1/13ページ