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1章

今日も東の海イーストブルーはどこまでも青い。
自分達を全て包み込んでくれるかのような安心感と心地よい潮風に身を任せ帆にもたれていると、変わらないその風景に少し不安を覚えた。まるで船の上だけ時間が止まっているかのように錯覚される。感傷に浸っているのも束の間、男は自分の目を疑った。
小さな小舟に幼い女の子が横たわっているではないか!男は急いで他のクルーに声をかけた。

「おい!!あそこみてみろ!女の子が流されてるぞ!」
「お頭!船にあげてやってもいいか!」

船首でタバコを吸っていたベックマンが返答した。
「お頭なら二日酔いで朝から部屋で伸びてる・・・許可なら副船長が出した、そんなことより急いで船にあげてやれ!」

許可が出るとクルーはロープを海に下ろし小舟を引き寄せた。

「息はあるか!?」
引き上げられるとクルー達は女の子の方に向かう。
女の子を抱きあげて顔を覗くとそこには目を閉じてすぅすぅと小さな寝息をたてている可愛らしい顔があった。肌は陶器のように白く、控えめで小さな口はベリーのような赤い果実を連想させた。頬は薄くピンク色、目を閉じていることで長いまつ毛が更に長く綺麗に見えた。

「ほぅ・・こりゃえらい可愛らしい子だな・・・」
クルー達はその可愛らしさにため息をついてしまった。

ベックマンは甲板に横たわってる女の子が寝ているのを確認すると「こんな野蛮な海賊船には似合わねェくらい穏やかな顔だな」と言い、医務室のベッドまで運んでやろうと女の子を抱きかかえた。
医務室までの通路の間で例の二日酔いのお頭ーーシャンクスに出くわした。

「よぉお頭、気分はどうだ?」
「お、ベックか、寝てたら大分良くなったが・・・ん?お前、幼女趣味でもあったのか・・??」

ベックマンはその言葉に対しつい素の声で「は?」と口に出した。
「誤解だ、さっきうちのクルーが引き上げたんだよ」と急いでさっきまでの出来事を話すと
「なんだ!そういう事か!!」とお頭は声を出して笑った。
するとベックマンの腕の中で眠っていた女の子が体を少し動かしうっすらと目を開けた。

「ん、ぅん・・・」
「ん?起こしちまったか、悪いな」

瞼を開いた女の子は透き通った綺麗な瞳でこちらを覗いた。

「気分はどうだ?具合が悪い所や怪我はないか?もし腹が減っているようなら今コックを呼んでくるが、」
「まあ落ち着けよ、ベック」

シャンクスはベックマンの言葉を制し少し屈んで彼の腕の中にいる女の子の顔を覗き込んだ。

「やぁお嬢ちゃん、おはよう」
「?おじさんだあれ?」

「お、おじさんか・・・俺はシャンクスだ。この船の頭をしている。こいつはベック、副船長だ」
「こんな廊下で話すのもアレだな」
ベックマンはそう言うとすぐ側にあったシャンクスの部屋に入り女の子を抱えたままソファに座ると疑問に思っていることを聞いてみた。

「ところでお前さんどうしてまたあんな海王類の餌になるような真似してたんだ?」
「かいおうるい・・?それって大きいおさかなさんたちのこと?」
「お魚さんと言うには可愛すぎる気がするが・・・」
ベックマンは目の前の少女に少し毒気を抜かれた。

「お嬢ちゃん名前はなんて言うんだ?」
シャンクスがそう尋ねると
「アリア」
女の子はそういった。

「アリアか!いい名だ!」
「おかあさまがつけてくれたっていってた!私おかあさまだいすき!おかあさまにあいたいなぁ」
「そうか、お母さんと一緒に住んでいたのか?」
ベックマンは嬉しそうに話すアリアの頭を控えめに撫でながら尋ねた。
「うん、おとうさまとおかあさまと3人ですんでたよ」
続けて彼女は頬を膨らませながらこう言った。
「この間アリアがいい子にしてたからチョコレート屋さんに連れてってくれるっておとうさまがいったの。だから舟に乗っかったんだけどおかあさまもおとうさまも一緒に乗ってくれなかったの。波にながされて島が小さくなってかなしくて泣いてるうちにぷかぷかきもちよくて寝ちゃった」

それは・・・ベックマンがすかさずこう尋ねた。
「家はどの辺りにあるんだ?東の海イーストブルーの辺りか?」
「おっきな木の真下にあるよ!青いおうち!いーすとぶるーはわかんない!」
「・・・そうか」
どうやら家に帰すことは不可能に近そうだ。あの様子から見てこの近くに住んでいるようには見えない。
話を聞く限りアリアはチョコレート屋に連れていくと騙され両親から捨てられた為海をさ迷っていたようだった。それを察したシャンクスは
「そうか、アリアはお母さんとお父さんに会いたいか?」
と聞いた。
「会いたいけどチョコレート屋さんにいくまでは帰らないよ!」
とアリアが元気いっぱいに答えるとシャンクスは声を上げて笑った。
「はっはっは!!そうか!そうだアリア、家が見つかるまでこの船で過ごすといいさ」
「正気か?ここは海賊船だぞ、こんな幼い女の子を置く場所じゃ、」
「かいぞく〜!!??」
ベックマンの言葉を遮りアリアは彼の腕の中で大声を上げながら興奮したように目を輝かせた。
「なんだ、お前海賊が好きなのか?」
「海賊だいすき!しょうらいの夢は海賊とケーキ屋さんなの!」
「なら話は早いな!」
「ちょっと待て、お頭本気で言ってんのか?!」

ベックマンが急激に進んでいく話を止め丁寧に説得する。
「まあ確かに、お前の言うことも一理ある。1年後には偉大なる航海グランドラインに戻らなきゃならんしな」
「あぁ、そうだな。しかしこの海に放り投げる訳にもいかねェもんだしな・・・」
「そうだ、今の拠点のフーシェ村の村長にアリアを置いて貰うよう相談してみるか。あそこにはルフィもいるし何かと上手くやれそうだ」

2人で意見が纏まったら視線はアリアの方に移る。
「海賊船、のせてくれないの・・?しゃんくす・・・」
「ヴゥッッッ!!!」
眉を下げて涙目で上目遣いをしたアリアがそう言うとシャンクスは心臓を掴み倒れ込んだ。

「なーんてな、今のは冗談だ!ずっとこの船にいるといいさ!!」
とだらしない顔をしながら言うシャンクスにベックマンはため息を着くと思い出したように
「そういえばお前歳はいくつなんだ?」
と聞いた。

「んと、5さい!」
「5歳か〜そうかぁ!可愛いなぁ!おいベック、そろそろアリアを離してやれ、さっきから近いぞ。それとなにか温かい飲み物を」
「はいはい、お頭・・・」
これは面倒臭いことになってしまったと悟り、フーシャ村に着くまでの短い航海の間なるべくお頭のあの甘やかしスイッチが入らないよう努めようとベックマンは誓った。
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