白菜
君の名は?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
はぁ……
分かってる、ちゃんとしねぇといけねぇって事は。
花はいつも笑って隣にいてくれた、クソしんどい時も大丈夫だって俺の背中を押してくれた。
ヤケになって別れるって言って突き放した時も、やっぱお前がいなきゃダメだって泣きついた時も花はしょうがないなーもうって許してくれた。
クソな俺がどれだけ花に迷惑をかけ傷付けて来たかも分かってる。
だからこそここ半年ずっと心がモヤついてる。
こんな時ばっかりクズがカッコつけてもカッコイイ訳が無い、俺の側にいて幸せなのか……
俺のクソな人生にお前を巻き込んでいいのか、決心が付けられない
ちゃんとすればいい話
簡単な話なんだきっと……
分かってる……
俺は自分に自信がない。
ダラダラと10年も花の時間を奪った……
皆、何がきっかけなんだよ。
周りはデキ婚ばかり……
どこかでそれを期待してた所もある。
ガキが出来たって言われた時がその時なんて……
はぁ……情けねぇ……
ピロン♪
(仁、今日会えないかな?)
花からのLINEに分かったと返事をする。
(20時に仕事終わるから待ってて)
不意になんだか嫌な予感がした。
いつもと変わらないメッセージのはずなのに……
別れ話か……
理由もなく花が遠くに行ってしまう気がして、俺は車に乗り込んだ。
20時までは後1時間ある、俺は何度か花と行った大きなモールへ急いだ。
駆け込んだ閉店間際の店内
店員は何事かと目を見開いた。
(いらっしゃいませ〜)
俺はショーケースを端からざっと見回す
キラキラ光る商品はどれも良さそうだが
何を基準に選べばいいのか分からない……
(お客様〜何をお求めですか?宜しければお手伝いを……)
『ダイヤの指輪を、直ぐに……サイズは、こんぐらいだ』
俺は前に花にプレゼントした指輪の大きさを摘むように店員に示す。
店員は慌ててジャラジャラと沢山の輪っかを出してきた。
(これくらいで如何でしょうか、後でお直しも出来ますので。)
『あぁ、こんぐらいだ。』
(ご予算は…)
『いくらでもいい、カードで頼む』
(かしこまりました。)
店員はダイヤの指輪をいくつもケースから出してくれた。
(お客様お急ぎの様ですので消去法で参りましょう、好みで無いものを下げていきます。)
『あぁ、頼む。』
もう1人店員がやってくると1人が指輪を片っ端から出してくる、もう1人は俺が却下した物をスっと下げて行く。
花の顔を思い浮かべながら、視線を滑らせる
『コレは無い、コレも、コレも、コレも無し、コレも、コレも……』
もう何個弾いたか分からないが、ふと目に留まる物を見つけた。
『これだ……サイズは……』
(ございます)
『包まないでくれ、すぐに使う』
(かしこまりました)
俺は静かにカードを差し出し、少しほっとする。
(お客様……)
『あぁ?』
(3軒隣に花屋が御座います。もし花束が必要でしたら直ぐにご用意致します)
『あぁ……花か……そうだな……頼む』
(赤の薔薇でよろしいでしょうか、本数はこちらを……)
店員が差し出して来た紙には本数の意味が書かれていた……
1本:「ひとめぼれ」「あなたしかいない」
2本:「この世界にはあなたと私2人だけ」
3本:「愛しています」「告白」
4本:「死ぬまで気持ちは変わりません」
5本:「あなたに出会えて本当によかった」
6本:「あなたに夢中」
7本:「ひそやかな愛」
8本:「あなたの思いやりに感謝します」
9本:「いつもあなたを想っています」「いつまでも一緒にいてください」
10本:「あなたは完璧な人」
11本:「最愛」
12本:「付き合ってください」
99本:「永遠の愛」「ずっと好きでした」
100本:「100%の愛」
108本:「結婚してください」
365本:「あなたが毎日恋しい」
『おい、今から直ぐに108本なんて準備出来ないよな……』
(お客様、少々お待ちください)
そう言うと店員は物凄い勢いで店から出ていった。
10秒足らずで戻って来た店員
(亜久津様、大丈夫です。108本ご用意出来ます)
『そ、そうか、じゃぁ、頼む』
(はい!)
店員はまた物凄い勢いで出て行った。
そして15秒程で汗を拭いながら戻って来た。
(亜久津様、15分程でご用意出来ます。お時間間に合いますでしょうか……)
『あぁ……大丈夫だ。』
(良かった……指輪も直ぐにご用意しておりますので、冷たいコーヒーなど如何でしょうか)
『あぁ……貰うよ。』
何でこんなに必死に動いてくれているのか分からなかったが、先に焦って駆け込んで来た俺の剣幕のせいだとコーヒーを飲みながら少し恥ずかしくなった。
あぁ……やべぇ……
俺レストランとか……そんなのも予約してねぇ……
おい。どのタイミングで言い出せばいいんだ……
先に別れ話でもされたらどうすんだよ……
ババァが口煩くプロポーズは一生モノだからちゃんとしろって言ってたな
産前産後の恨みは一生とも言ってた……
失敗したら一生愚痴愚痴言われるらしい
クソっ……ちゃんとが……わからねぇ……
プロポーズ 場所
検索っ……
オシャレなレストラン……
思い出の場所
彼女の好きな所
やべぇ……何も出てこねぇ……
プロポーズ セリフ
検索っ
クソっ……こんな甘いセリフ言えるかっ!!!
頭の中でババァがちゃんとしろ!って怒鳴ってる。うるせぇ……分かってる……
冷や汗が出そうだ……
何もまとまらない……
(亜久津様、大変お待たせ致しました)
目の前に置かれた箱と袋
(こちらに外箱と鑑定書と保証書、クリーニング液、クロス、領収書が入っております。この度は誠にありがとうございます)
『あぁ……急かして悪かった。』
(亜久津様!お待たせしました!)
もう1人がどデカい薔薇の花束を必死に抱えて駆け込んで来た。
『デカイな……ありがとう、代金は』
(こちらは当店からのサービスでございますのでお代は結構です。)
『そ、そうか。悪いな……』
(お車までお持ちいたしまょうか)
『いや、大丈夫だ。ありがとう』
箱を内ポケットに押し込んで袋と花束を受け取って時計を見る。
やべぇ、後15分、ギリだな……
(ありがとうございました〜!)
にこやかな店員2人に見送られ店を後にした、近くに停めた車のトランクに花束と紙袋を入れてアクセルを踏んだ。
店員1(背も高くてクールでカッコよかったねー!彼女さん羨ましいな〜)
店員2(ね〜!しかも500万の指輪……)
店員1(絶対、断らないよね……)
店員2(断らない!ありえないっ!!!)
店員1(彼女さんには甘々なのかな〜♡)
店員2(えー!クールでしょー!ぶっきらぼうなドSって感じ)
((はぁ〜♡羨ましい〜♡))
俺の頭の中もうぐちゃぐちゃで、どのシュミレーションも上手く行きそうにない。
仕事の商談の方がよっぽど強気で押せるのに……
花の事になると俺はまるっきりクズになる。
20時05分
花の会社の前に車を滑り込ませた。
5分後花は小走りで出て来た
「ごめんね、待たせて!」
『いや、今来たとこだ』
「迎えに来てくれてありがと!」
『どこ行く?』
「ん〜焼き鳥屋さん!」
『焼き鳥っ!!!』
こっちの気も知らねぇで焼き鳥だと!
「前に行ったおやっさんの店!ヤダ?鳥の気分じゃない?私あの店の砂肝好きなんだ〜それで冷えた生できゅ〜っとさ……って仁車か……代行で帰ろう、うん、それがいい。ね?そうしよ?」
『お前な……はぁ……』
「何?ダメ?今日クレーム対応ですっごい大変だったの!きゅーっとやりたいの!」
『分かったよ。』
俺はトランクのバラの花が気になった
花は暑いと開いちまうんじゃないか?
代行で帰るだと?帰る頃にはもうボロボロになっちまう。
8月の車内、夜と言えども暑い……
それより、あの嫌な予感は何だったんだ……
花の様子はいつもと変わらない……
俺の思い違い?
それならそれでいいが……
勢いで買ってしまった指輪。
また決意が揺らぎそうになる
どんな顔して言えばいい……
タイミングなんて来る訳もなく
焼き鳥屋に着いた…
「おやっさん、生ふたつと砂肝とももとネギまと豚バラと後オススメ適当に5本づつ!あと手羽先も〜!」
(あいよー!花ちゃん今日も元気だね〜)
「今日は疲れてんのー!きゅーっとやるからよろしく〜」
(あいよー!)
『お前、ホントに疲れてんのか?』
「疲れてる、もうホントに疲れてる!」
『分かった、分かった。もう好きにしろ!』
「ありがと♡」
ニコッと笑って届いた生をグイッと傾ける。 心底美味そうに飲みやがる…
疲れた時は疲れた、美味い時は美味い、マズイ時はマズイ、そんなハッキリした所も分かりやすくて好きだ。
察してくれなんて俺には難しいから
バクバク食べて、グイグイ飲んで、会社のやり方をあーだこーだ言いながら花は少しづつ酔っていく。
あぁ……今日はもう諦めよう……
「ご馳走様でした〜!!!」
上機嫌の花を連れて店を出た
車は代行に任せる。
「仁!家まで歩いて帰ろうよ!」
『はぁ?危ねぇだろうが!』
「えーーすぐだよー!そこだもん!」
『ダメだ!!!暑いしよ、酔ってんだろ!』
「大丈夫〜!!!歩ける〜!!!」
花はご機嫌に俺の腕を離して家の方に歩き出した。
何時もはこんな事言わねぇのに……
『……ったく……』
酔えねぇシラフの俺は花を追い掛け並んで歩いた。
じんわり滲む汗が気持ち悪い……
5分程歩いた所で花が立ち止まった。
「仁……」
『あぁ?何だ、足痛えのか?』
「……っ……」
『タクシー拾うか?』
「……はぁ……仁……あのね……」
『何だよ、背負えってか?ったく……』
あぁ……やっぱり気のせいじゃなかったのか……
俺は何も言わせたくなくて、強引に花の手を掴み背中に乗せた。
「仁っ……」
花はギュッと俺にしがみついて肩に顔を伏せて小さく震えた。
『……っ……』
泣く程の事って何だよ……
分かんねぇ……
「……仁……」
『何も言うな……』
「…………仁っ……私ね……」
『………………………』
「…………ちゃんと話さなきゃって思ってたのに……言い出せなくて……」
『…………………………』
「もっと早くに話すべきだったのに……言えなくて……っ……ごめんね……」
『……………………』
もうここまで言われたら何も言えねぇだろうが……
「仁っ……」
『何だよ……』
「……私ね」
『うん……』
「…………転勤だって……」
……………………
………………………………
転勤っ…………だとっ!!!
『何処に……』
「………………ハワイ」
『……ハワイ……はぁぁぁ???』
「ハワイだって……っ……クククッ」
『……チッ…………お前な……喜んでんだろ!!!ハワイ大好きだもんな!バカンスはいつもハワイハワイ、ボーナスもハワイ、年越しもハワイ!!!大好きだよな?ヒタチアンダンスが趣味だもんな!お前もう毎日が天国じゃねぇかよ!さっきの涙はなんだよ、嬉し涙か?深刻な顔しやがって!俺がどんだけ日焼けしたと思ってんだよ!馬鹿が!』
「ごめんって!新店舗の店長だって、私!!!」
『……チッ……』
分かってた、こいつは何でも出来るやつ
だって……
プロポーズなんてもう出来ねぇよ……
こんなに目をキラキラさせてるのに俺の傍に居てくれなんて言えねぇよ
「……仁っ………遠距離になっちゃうね」
『あぁ……』
「寂しい?」
『…………………………』
「寂しくないの?」
『別に……』
「……そっか……」
『……………………』
「…………………………正直まだ迷ってる」
『はぁ?』
「……だって、仁と一緒に居たいから」
『馬鹿か、俺より……夢だろ』
「夢も大事……同じぐらい仁も大事……」
『………………』
「……………………引き止めてくれないの?」
『…………引き止めて欲しいのか?』
「……クククッ……引き止めても行くけどね〜ハワイ〜〜〜!!!」
『お前っ……チッ……』
「仁っ……会いに来てくれるよね……?」
『……さぁな……』
「えー!私がマウイみたいなナイスガイに取られちゃうとか心配してよ〜」
『チッ……』
「………………ね……仁……何処にいても私は仁だけだからね」
『あぁ……』
ホントに行っちまう。
このまま手放してホントにいいのか……
会いたい時に直ぐに会えなくなる
抱き締めたくても抱き締められない……
でも……花の夢は邪魔出来ねぇ……
他の男にも渡せねぇ……
そうこうしてるうちに自宅に着いてしまった、待ちくたびれた代行から鍵を受け取る。
あぁ……花……
花が背中からスルリと降りた……
なぁ……花……
俺だけだって言ったよな……
「仁……っ……怒ってる?」
『怒ってねぇよ……』
「顔が怒ってる……早く言わなきゃと思ったけど、まだホントに迷ってる。」
『迷うな……仕事と俺どっちかなんて決める必要はねぇ……』
「……っ……うん……」
『……行くなら条件がある』
「うん……」
『俺と結婚しろ。』
「……え……」
『ずっと俺の物だって誓ってから行け』
「…………それって……え?」
『誓えないのか?』
「…………ッ……誓えるぅ……」
涙目で俺を見上げる花の頭をポンっと撫でるとポロポロ大粒の涙が溢れる。
ハッと胸元の箱を思い出し取り出した。
パカッと開けて花の目の前に差し出した。
『花……何時でも会いに行くから、心配すんな。』
「うんっ……」
指輪を花の左手の薬指に付けると、花はその指輪をじーっと眺めて俺にしがみついた。
「仁っ……ありがと、大好き♡」
『あぁ……俺もだ。』
なんだか、大丈夫な気がした
こいつとなら何でも乗り越えて行けると思えた。
心配ばっかりして怖気付いてたのが馬鹿馬鹿しいぐらいに、こいつはやわな女じゃねぇと心底思い知らされた。
この後少し開いたパンパンのデカイ花束をトランクから引っ張り出すと花は重たそうにそれを抱え写真を撮ろうとはしゃいだ。
静かなベッドでひとしきり愛を重ねた後花を腕に抱いてふと思う。
『なぁ、お前いつ出発すんの?』
「えっとね……9月末かな?」
『おい、後1ヶ月ちょっとしかねぇじゃねぇか!』
「うん」
『お前、どうすんだよ』
「え?」
『手続きだよ、親にも挨拶に行かねぇーと、結納も、名前も変わんだぞ、免許とか、パスポートとか……』
「あーーー何とかなるっしょ!」
『式は』
「勿論ハワイで〜!」
『それは決定事項かよ』
「勿論〜♡」
『まぁ、やれるだけとりあえずやるか』
「任せて!私を誰だと思ってんの?」
『………………』
「日本一のウェディングプランナーよ!結婚の事はおまかせあれ〜♡」
そうこいつは最強のプランナー
海外ウェディングにはめっぽう強い敏腕プランナー
任せてと言って1ヶ月ちょいの間に本当に入籍までをやってのけた。
式は新店舗がまとまったら追追という事に。
5年間は確実にハワイ勤務は免れない、5年で軌道に乗せろとの抜擢だった。
「仁っ!!!行ってくるね!!!」
『あぁ……行ってこい。』
浮かれ散らかした嫁を空港で見送った……
会いに行かなきゃ帰って来ないだろう俺の嫁。
『ったく……適わねぇよお前には……』
さぁ……俺もウジウジしてらんねぇ……
ちゃんとしねぇとな…。
とりあえず会社行くか……
(おはようございます。社長……)
『あぁ……おはよう。』
(本日のスケジュールですが……)
『あーあのさ、ハワイに新店舗出すから土地とか調べてくんね?』
(……ハワイ……ですか?)
『あぁ……スポーツショップでも不動産でも車屋でも何でもいいから、よろしく!』
(……あっ(察し……分かりました〜)
さっさと初めからこうすれば良かったんだ。仕事なんざリモートで何とかなる。
拠点移して必要な時に日本に飛べばいい話。
花の側にいたくて海外はなるべく避けて来たけど、まぁコレも転機ってやつだな。
『あー跡部にアポ取っといてな。』
(はい〜)
海外の事はとりあえずあいつに聞いとけばなんとかなるだろ。
花待ってろ、直ぐそっちに行ってやる。
END
3/3ページ