立海 短編
君の名は?
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高校の体育教師になった俺は母校である立海大附属高校のテニス部顧問になった。
後輩となる生徒達は毎日厳しい鍛錬に励んでいる、教師となった今鉄拳制裁は許されない、俺も丸くなったものだ…
「真田先生、はい、先生も水分を…」
『あぁ……すまん』
カップを受け取ると一気に飲み干す。
俺を見上げるこの女学生は3年山田花 ……
臨時のマネージャーとして手伝ってくれている
俺の許嫁殿……
教師と生徒が……けしからん……
が、しかし、初めから教師と生徒だった訳では無い。
1ヶ月程前、突然見合いをしろと父殿から言われ顔を合わせたのが花
祖父同士交流があり、俺の祖父が花の祖父に大変な借りがあるとかないとか……
振袖姿の花は大人びて美しく少し年下なのだろうと思った。
見合いから数日、転校生としてやって来た花。
10も下だとは思いもしなかった
幸い受け持ちのクラスでは無いが体育の時間は俺の担当となり、やり難い事この上ない。
転校初日の放課後花を体育準備室に呼び出した
『山田……さん。これはどう言う事……なのですか。』
「お爺様が1年程はお互いを良く知るようにとのご配慮です。1年後お互いが気に入らなければ白紙に戻して構わないと。」
『ふむ……そ、そうか……だがしかしだな……』
「承知しております。校内ではあくまでも教師と生徒の立場で、周りには知られぬ様に、ですよね?」
『あぁ……色々とだな……』
「はい。私の事は他の生徒と同じく山田とお呼びください。私も真田先生と」
『そ、そうしよう。』
「あ、それと、これ新居の鍵です。住所は中に書いてあります。荷物は本日運び込まれた様です。私は先に帰宅致しますので。」
『……新居……っ……』
「えぇ……電車で2駅程だと聞いております。」
『…………同じ屋根の下で、お前と暮らす……っ……』
「はい、今夜はカレーで宜しいですか?」
『……あ、あぁ……』
「それでは、お先に失礼します」
『…………。』
颯爽と出て行った許嫁殿を黙って見送るしかない、手元の白い封筒には銀の鍵と住所が記されていた。
何の冗談だ…… ハッとして父殿に電話を掛ける
『父殿、どう言う事なのですか!』
父『いやーじじ殿がなー同じ家に入れとけば上手くいくやろーってな(笑)』
『年頃の娘なのですよ!』
父『お前が耐えればいい話だろうが。』
『……っ……しかしっ……』
父『手を出すなよ弦一郎、これも鍛錬だ、ま、許嫁だからな。無理矢理で無ければ問題にはならん。花さんは一応4月で18だ、法律上成人はしておる。結婚も問題ない。そう言う事だ!じゃ、上手くやれよ!』
『父殿っ!!…………全く……』
電話を切られ頭を抱えた。
いくら見合いをしたからと言ってもだ、28の健全な男子と、18の若き女学生が同じ屋根の下で寝起きするだと!けしからん!!
だか、じじ様の事だ俺が喚いた所で何とかなるお人ではない。
黙って従うしかないのは変わらない
モヤモヤしたまま部活に出た。
今年の夏も全国連覇させなければならないと言うのに、心がザワつく
しっかりしろ真田弦一郎、人生は鍛錬だ…
熱い指導を終え、書いてあった住所へ 向かった。 新築マンションの3階、表札にはSANADAの文字……
インターホンを押すべきか?鍵を開けて入るべきか? オートロックは鍵で解除して来たが……
ドアの前に佇む事5分。
カチャッ……
「おかえりなさい」
『たっ……ただいまっ……』
「遅いので迷われているのかと心配しました」
『いや、その……』
「オートロック解除されると通知が鳴りますので……カメラで……」
『あ、ぁ……そ、そうか……』
もしや、5分間ここで悩んでいたのも見られていたのか…… 何たる失態……
「……えっと、先にお風呂に入られます?」
『あぁ……』
「その後は直ぐにご飯にしても?」
『あぁ……』
「はい、」
エプロン姿の花は……と、とても可憐だ……
玄関を入り右に脱衣所と浴室、トイレ、左に1部屋、キッチン、リビングの右にもう1部屋がある2LDK。
「……先生、あの、部屋どっちにします?」
私服の花に校外で先生と呼ばれ心臓が跳ね上がる、なんて不埒なシチュエーション……否、部屋……だな、玄関側か、ベランダ側か…… ふたつの部屋を見ると家具は揃いの物で広さも変わりない。
防犯面を考えれば玄関側に俺が居た方が……
『俺が、こちらの玄関側で良いか?』
「はい。では、段ボールを運んでおきますので、先生は先にお風呂にどうぞ。」
『あぁ……俺の荷物は重い物もある、そのままで構わん』
「はい。」
風呂を出ると花はせっせとリビングに積まれた段ボールを部屋に運び込んでいた。 互いに生活に必要な最低限の荷物を持ち込んだ。 俺のは母殿が適当に詰めた物だが……
『こっちが俺の荷物だな。』
「はい」
段ボールを互いの部屋に入れ、とりあえず夕飯を食べる事にした。 ダイニングテーブルに向かい合い、手を合わせた。
『「頂きます。」』
家庭的なカレーは具が大きくとても美味い。 ここはキチンと伝えた方が良いのだろうか……
『山田……美味いぞ。』
「良かった!」
屈託のない笑顔が可憐だ……
「あ、先生、お水?お茶?」
『水を……その、先生と言うのは何とかならんか、家の中だとどうも落ち着かん……』
「でも、先生……人間うっかり呼んでしまうでしょ?私学校でつい弦一郎さんって呼んでしまうかもしれません。」
『そ、そうか……そうだな……それは困るな……』
「だから、卒業までは先生って呼びます」
『わ、分かった。』
一線をくっきりと引かれた様で少し自分が恥ずかしく思えた。 無意識に家庭内では距離を縮めようと下心を隠していた事に気付く。 俺とした事が……
「私の事は山田でも花でも、先生のお好きにどうぞ!」
『わ、分かった。では俺も山田と呼ぼう。』
花と呼ぶのは心の中だけにしようと心に決めた。
その日から俺達は細心の注意を払いながら同居生活を過ごした。
学校でも特別花に甘くならない様に気を付けた
花の料理は日に日に俺の好みを把握し毎日欠かさず弁当を作ってくれた。
校内で友達と楽しそうに過ごしている花に少しホッとした、通勤通学の時間もずらし、買い物などは花に任せた。
担任と部活顧問をする教員は事の他忙しく休日も殆どが部活になる
一緒に過ごす時間はほんの僅かだ。
テスト期間が過ぎると部活も忙しくなり、3年は進路の問題も出てくる
徹夜する事も多く、猫の手も借りたい程だった。
深夜自室の床でテストの採点をしていたが、ついウトウトしてしまった。
『ハッ……俺とした事がっ!!』
時計は4時半を回った所だった。
ベッドに持たれて寝てしまっていた俺の隣には花……
紙の束に赤ペンを走らせている……
『山田っ……何を……』
「明日返却ですよね?早くしないと間に合いませんよ。あ、名前は見てません。」
器用に名前の部分を押さえ、答案部分に丸つけをして点数を書き込みまた捲る……
『山田、いかん、手伝ってもらうなど……』
「分かってます。でも、学年400人の内先生の生徒は200人、まだ20人分しか採点出来てませんよ。今4時半です、先生1人で朝までに間に合います?1限目から授業入ってますよね?」
『だが、しかしだな……』
「守秘義務は心得てます。因みに、私は満点ですからご心配なく!先生も早くやって下さい、ほら」
『あ、あぁ……』
俺の雑な丸も数字も器用に真似されている、今日終わらせなくてはならないのは採点だけでは無い。 第1次進路希望の用紙もまだ作っていない。
『山田……すまん。急ぎの作成物があるのだ……こっちを頼んでもいいか……』
「はい。」
『す、すまん……』
「いえ」
花に任せて机でパソコンを開く。俺の苦手な資料作り……
進路は第三希望まで、就職は業種や企業名など第三希望まで、海外組は……えっと…… 国……??海外に就職?進学?これも第三希望まで?
花も3年か……花は進路どう書くつもりだろうか……
進学? ……永久就職……? ……結婚……するのか?直ぐに?
『山田……』
「はい」
『お前は進路どうするつもりなのだ』
「大学進学ですけど」
『そ、そうか。』
「はい、私は跡取りですから」
『そ、そうだったな……』
「先生は教職を続けたいならどうぞ、お爺様は先生を婿養子に欲しいそうですが、夫婦別姓でも構わないとの事です、但し!子供は山田の姓を名乗らせる様にとの事です。」
『そ、そうか……子、子供……わ、分かった。』
「先生、私は跡継ぎとして認められるまでは子供を産むつもりはありません。」
『わ、分かった。』
「……お前は、その、俺でいいのか?」
『先生は、私がご不満ですか?』
「いや、俺は構わん。お前は優秀だ、しかもその、綺麗だ……俺には勿体ない程に……その、もっと良い家の歳の近いご子息と……」
『先生っ!!私は他の方は嫌です。』
「そ、そうか……他は嫌か……」
初めて花の気持ちを聞いた気がする。他の人は嫌か……少しは俺を好いてくれているのか……
「先生は優しいです、時間があれば料理も手伝ってくれるし、洗い物もしてくれる、生ゴミだって捨ててくれるし、洗濯だってしてくれるし、畳んでくれるし、お掃除だってお風呂やトイレまで……夜中にリビングの拭き掃除もして下さってるでしょ?ごみ捨てだって私が忘れててもちゃんと出してくれる、観葉植物にお水だって上げてくれて葉っぱのホコリもちゃんと」
『そ、そこまで、し、知ってたのか……』
「忙しいのに、限りなく努力して下さってる、こんなにいい旦那様はいません。私が勉強に集中出来るように動いてくれてるんでしょ?」
『当然だ、夫婦とは協力しながら共に生きて行くものだ。男だから女だからでは無く、出来る事をお互いがやればいい。』
「重い物を買わなくて済む様にネットで注文もしてくれてるし、献立も考えてくれる。」
『当然だ、本来なら買い物も一緒に行って荷物は俺が持ってやりたいのだ、それにだ、放課後友達と遊びに行きたいなら俺に遠慮するな!学生生活ももっと楽しめ。夕飯は俺が作る。お前はもっと子供らしく居てもいい年齢だ。』
「先生こそ、私みたいな小娘じゃ無くてもっとしっかりした人が奥さんの方が良いんじゃないかなって……」
『いや、お前は完璧だ。それに……俺は甘えられるのも嫌では無い。頼って欲しいのだ……頼りないかもしれんが……』
「先生……私本当はね、結婚するなら本当は恋愛が先が良かったって……見合いなんて古臭いって思ってて……」
『そ、そうか……そうだな……』
当然だ、うら若き乙女が恋愛に憧れるのは
当たり前だ…… 見合いなど今の世に合わん……
『山田、もし、好意を持つ男が現れたら俺の事はいい、いつでも言ってくれ。』
大人ぶって吐く言葉は胸を締め付けるが、大人の男として言っておかねばならん。 花の心を縛る様な事はしたくない……
不意に背中から腕が周り俺を包んだ。
「違う、先生……そうじゃなくて……先生とお見合いじゃなくて……普通に恋愛から始めたかったって事……」
『……っ……そ、そうか……』
首筋に花の吐息がかかりゾクゾクする。 腹の底から湧き上がる衝動が止められないかもしれない、否、何が何でも止めなければ……
クッ……治まれ……俺の息子……深呼吸だ……
「先生……っ……」
やめろ、耳元でそんなに柔らかい可愛らしい声で囁くな……
下半身が疼く……このまま抱き締めてしまいたい……
「先生……Excel苦手なんですか?」
『っ……あぁ……』
後ろから伸ばされた白く細い手がキーボードに触れる、背中に触れる柔らかい感覚に焦り捲る。
「採点が終わったら手伝いますね」
『あぁ……』
もう何も手につきそうにない。
背中越しに早鐘を打つ鼓動がバレてしまったのではないかと耳が熱くなった。
とりあえず採点を先に済ませてそれから、Excelとやらを…… いつもこの手の事は幸村を頼りきりだった事を悔やんだ。
2人して採点する事1時間半、時計の針は6時になっていた。
『山田すまん、こんな時間になってしまった……』
「はい、急ぎましょ!指示を下さい。」
『あぁ、第1次進路希望、大学か専門か第3まで、その下が就職希望、職種、企業名、これも第3まで、その下に海外留学希望者の欄を、海外で就職……高卒で就職はないだろうか……』
「そうですね、普通は大学の後でしょうから……まぁご両親が外国籍の方もいますから、念の為に。」
『そうだな。』
「まだ進路を決めかねている生徒もいるかと思いますので、1番下に相談希望の欄も作っておきましょう。」
『あぁ……そうしてくれ』
「先生、今日は朝練ないんですか?」
『ハッ!!しまった!!』
「プリントアウトしたら職員室の机に置いておきますので、コピーは先生が空き時間に」
『わ、わかった!すまん!後は任せた。』
「はい。」
慌てて着替えて家を飛び出した。
学校まで2駅、電車を待つより走った方が早いか……
久しぶりに全力で走った。
何とか朝練に間に合った
夏休み前の追い込みの時期、合宿も控えている。たるんどるぞ俺!!
朝練を見届け職員室へ行くと茶封筒2つと水筒、弁当袋、それとは別に紙袋にペットボトルのお茶とおにぎりが入っていた。
あ。俺とした事が採点したテストも忘れていたのか……
もう1つの封筒に頼んだ進路希望の用紙。
昼の弁当に、こっちは朝ご飯か……あれから作って持って来てくれたんだな…。
1限目は花のクラスのテスト返却からだな。
答案用紙はクラス毎にクリアファイルに分けられ付箋に1組2組と書かれていた。
こんな調子では花の足を引っ張ると気合いを入れ直す。
花は山田家の跡取り
俺の手伝いをさせて良い訳がないのだ。
担任クラスの出欠を取り花のクラスに向かった。
窓際の1番後ろが花の席だ。
『皆、テスト御苦労だった。保健体育の点数は進学査定には入らんが、体育系の進路に進む者は記載されるからな。まぁ、皆そんなに点数は悪くない。 進路で体育系に進みたい者は相談に乗るから遠慮なく言ってくれ。ではテストを返却する。呼ばれたら取りに来てくれ。』
早朝のやり取りを思い出すと花の名を呼ぶ時少し気恥ずかしくなった。
『山田』
「はい。」
目の前に来た花に満点のテストを返す。今朝の礼を言いたいが万が一誰かに聞かれても敵わんからな…
花と視線が合う、少し照れくさくて口元が上がってしまった…
花も少しだけ笑うと席へ戻った。
言葉で言わなくても大丈夫と言ってくれている気がした。
俺はこの日を境に花への想いが大きくなるのを抑えきれなくなって行った、校内で花を見かける度目で追ってしまう、朝おはようございますと言われる度ときめいてしまう、 おかえりと出迎えてくれる度抱き締めたくなる。 一緒に居るのに触れられない、もどかしさで頭がおかしくなりそうだ。
夏休み前最後の体育の時間、体育館で男女に別れてバスケをしていた。 男子の投げたボールは花の顔面に直撃し花はコートに倒れ込んだ。
『花っ!!』
俺は咄嗟に花の名を呼んでしまった…体育館の端から駆け寄ったが、俺より先に花を抱き起こした奴がいた。
ボールを投げた張本人、篠山海斗。
若き日の不二周助に似た面差し、女生徒からの人気も高い大きな病院の跡取りだ。
篠『花、ごめんっ、大丈夫?』
「海斗…大丈夫…ちょっと顔痛いだけ…」
(花だと……海斗……だとっ……)
仲良さげな雰囲気の2人に湧き上がる嫉妬心……2人に駆け寄り花を抱き起こした篠山から花を奪い取る。
『保健室に行こう。皆はこのまま続けておいてくれ。』
篠『真田先生、俺が連れていきます。保健委員ですから。俺がぶつけたし…先生はこのまま授業を。また何かあって先生が居なかったとなると問題です。』
『だが、しかしだな……』
「……私、大丈夫だから……」
篠『花、捕まって。』
篠山は俺の腕から花を奪い取り軽々と持ち上げると、体育館を出て行った。 ここで追いかける訳にも行かない俺は終了のチャイムと共に保健室へ急いだ。
ガラッ!!
勢いよく開いたドアの向こうで俺を出迎えたのは気心の知れた嘗てのチームメイト、涼し気な顔立ちに白衣を纏い俺に向かって静かにと指を唇に押し当てる。
『幸村っ…』
幸『生徒の前では幸村先生…でしょ?真田先生…フフッ…』
『あぁ…… それより1組の山田はどうなった』
カーテンの締まった一角を指差す幸村、勢いに任せてカーテンを掴んだ俺の手を幸村が止める。
幸『静かに。寝てるから…2人とも…』
『2人共……っ……』
少し開いたカーテンの向こうには顔面をタオルで冷やしながら眠る花と、その傍らで椅子に座り花の手を握ったままベッドに頭を乗せた篠山がすぅすぅと寝息を立てている。
幸『お邪魔しちゃダメだよ真田。いいよね、高校生の若い恋愛って。僕も高校の頃が懐かしいなー』
『そう…なのか…2人は付き合っているのか?』
幸『んーまぁ少なくとも篠山は惚れちゃってるね。』
『山田は…どう見える?』
幸『山田さん?んー女の子は難しいと言うか山田さんって人気だよね。頭良いし、優しいし、気が利くし、顔も可愛いし、僕が同じ歳なら狙っちゃうかも!フフッ。』
『幸村…』
幸『冗談だよ。フフッ…山田さんが誰かと付き合ってるのは聞いてないな、告白はしょっちゅうらしいけど。玉砕された子が保健室で凹んでるのを僕が慰めてるよ』
『そ、そうか…』
幸『随分心配するね真田。』
『教師が生徒の心配をするのは当然だろう。』
幸『…本当にそれだけ?』
『…………篠山を起こさねば、』
幸『僕が起こすよ。』
幸村は優しく篠山を起こし次の授業へ促した。 篠山は心配そうに花の髪をひとなでして保健室を出て行った。
花の額に乗せられたタオルをそっと取り傍に置かれた氷水で濡らし固く絞ると赤みの残った額に乗せ直した。
「……先生……」
『起こしたか、すまん。もう少し寝ていろ。』
「うん……先生……さっき私の事……名前で呼んだ?……」
『あぁ……すまん……』
「…………ダメ……だよ……」
すぅっとそのまま眠りに落ちた花の髪を撫でた。
今日はもうタクシーで花を連れて帰ろう…… 次の時間で授業は終わる。
部活は部長に任せればいいだろう
ホームルームが終わったら迎えに……担任じゃない俺が連れ帰るのは不自然か……
もどかしい……
幸『真田……』
『……幸村っ……お前にだけは話しておきたい。』
幸『協力しろって事?』
『あぁ……すまん。山田は俺の許嫁殿だ。祖父同士が決めた事、白紙に戻る可能性もまだあるが、今の所一緒に暮らしている。』
幸『へ〜愛妻弁当の彼女はこの子だったって訳だ。』
『なっ……』
幸『最近浮かれてたのはそう言う事だったんだね……フフッ。』
『浮かれてなどおらんっ……それでだ、今日はタクシーで連れ帰りたい……1人で帰す訳には……ただ、担任では無い俺が……幸村どうすればいい……卒業までは内密にしておかねばならん。変な噂が立てば白紙に戻す事になった時花が困る事になる。』
幸『真田も成長したね。フフッ……いいよ、僕が手を貸してあげる。僕が山田さんをタクシーで家に送るよ、真田が帰ってくる迄僕が見ててあげるから、急いで帰ってくれば?』
『頼む。』
幸『任せて、とりあえず色々片付けて来なよ。僕は荷物とか制服とか教室に取りに行ってくるよ。』
『あぁ……なるべく早く帰る。』
諸々を済ませ家へ走った。
汗だくで辿り着き、家に入ると台所で幸村が飯の支度をしていた。
『山田は?』
幸『部屋で休んでるよ』
『はぁ……助かったぞ、幸村。すまん』
幸『同僚の前に友達だろ。』
『あぁ……もっと早くに話しておけば良かった……』
幸『もっと頼ってよ真田。それより汗だくで家の中歩き回る前にシャワー』
『あ、あぁ……そうしよう。』
軽くシャワーを浴びて髪も乾かさず花の部屋へ向かった。
トントンッ
『入るぞ……』
返事のないドアをそっと開けるとベッドで眠る花が居た。
ベッド脇に座り花の手を握った、大事無くて良かった…… 肝を冷やしたぞ…… 何よりそんな時に抱き抱えることが出来ない、もし、もっと大変な事が起きた時俺は何も出来ないのか…… 他の男が花に触れるのを黙って見ているしか出来ないなんて…… 耐えられない……
「おかえりなさい……先生っ……」
『まだ痛むか?』
「大丈夫……幸村先生が……」
『あぁ、俺の古くからの親友だ。決して他言しない奴だ、問題ない。』
「びっくりした……」
『すまん、もっと早く幸村とは合わせておくべきだった。それより……大きな怪我でなくて良かった。心配したぞ。』
「大丈夫だよ、あれぐらい……」
『お前の綺麗な顔が……まだ少し赤いな……』
花の髪を撫で赤くなった額にそっと口付けた。
「……っ……先生……」
『花……好きだ……』
気持ちを告げずには居られなかった
花の両手が俺の頬を包み、半身を起こした花は俺に口付けた。
「私も……先生が好きです。」
その言葉に俺の理性のダムは決壊した。
止められない濁流の如くベッドになだれ込んだ
幸『怪我人を押し倒すなんて最低……フフッ。』
そっと真田邸を後にした幸村、その後も幸村の協力もあって無事に卒業までバレずに過ごす事が出来た2人なのでした。
卒業式後。
真っ赤な薔薇を100本抱え指輪を片手に正門前でプロポーズした真田先生は無事に婿養子になりましたとさ。
めでたしめでたし。
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