立海 短編
君の名は?
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暑苦しい初夏の通勤通学電車に揺られ今日も学校へ向かう。
3両目のドア付近が毎日の定位置でテニスバックは網棚の上へ乗せ両手は吊り革と網棚を掴む事にしている、皆息苦しそうに無言でこの時間に耐える。
真夏のテニスコートに比べればこれしきの事造作もない
多くの人が駅へ降り、またそれ以上の人間が乗り込んでくる。
駅員に押し込まれ目の前に小さな女学生が苦しそうに乗り込んで来た、胸に両手で鞄をぎゅっと抱き締めている。俺の肩より低い旋毛からは良い香りがする。
電車が揺れる度小さな箱の中で人間が重心を人の背に容赦なく乗せ、小さい者は押し潰されそうになる
ぎゅっとカーブで俺の胸に彼女が押し込まれて来る
1駅過ぎた頃、俺が窓の外に視線をやっていると、ワイシャツの胸付近に違和感を感じた。
目線を落とすと目の前の彼女が涙目で俺のワイシャツを小さく握りながら縋るように見上げて必死に何かを訴えている。
眉間に皺を寄せどうしたのだろうと目を合わせると、小さなピンクの唇が何かを呟く。
「助けて……」
彼女が胸の前に抱えたカバンに小さめのバッチが付いていて、彼女がそれを指さす
【痴漢は犯罪】
そのバッチにはそう書かれている、
恐らく今痴漢されている、そう言いたいのだろう。
けしからん!!
吊り革から手を離し左手を彼女の背中にねじ込み右手で彼女を引き寄せる。
身を捩りながら他のに圧をかけると少しだけドアと座席の角に隙間が出来た
彼女を抱いたままその隙間に小さな体を捩じ込ませ自分で周りをガードした。
彼女を触った手は捕まえられなかったが、一先ずここなら触られる事は無いだろう。
抱き寄せたままだった手を離し再び金網に捕まり、右手はドアに手を着いた
これなら揺れで人が重心をかけて来ても俺が踏ん張ればいい。
「…あ、ありがとうございます」
『大丈夫か?』
「はい」
彼女は瞳を潤ませたまま少し震えていた
『どこまで行くのだ?』
「学園前です」
『俺もだ。』
あと数駅の辛抱だ、直に着く。
満員電車とは本当に不快な物だ、ただでさえ不快だと言うのに痴漢など全く持ってけしからん!!
漸く駅に電車が滑り込んで停車した。
『俺は荷物を取ってから降りる、先に』
頷いた彼女は鞄をぎゅっと抱き締めてドアが開くと人の流れに飲まれて行った。
人の波が最後付近になったのを見計らって大きなテニスバックを網棚から降ろし
電車を降りた。
ドアからすぐの階段を登ると、中程まで登った所で数人の人が立ち止まっている。
こんな場所で立ち止まるなど危ないだろうと視線をやると、人々の視線の先に先程の彼女の鞄が見えた。
『すみません…』
立ち尽くした人を割ると、彼女は足を抑え階段に座り込んでいて、女性が心配そうに下段で様子を聞いている様だった。
『どうした?』
「あっ…」
俺の声に彼女はさっきの…と言う顔をして
また目を潤ませた。
『転んだのか?立てるか?』
彼女は小さく首を振る
『頭は打ってないか?』
彼女の向かいに姿勢を低くしながらそう聞くと、彼女は小さく頷いた。
『ここでは危ない、掴まれ』
彼女の膝下に腕を入れ一気に抱え上げると周りで見ていた人々がおーと歓声を上げた。
「あ、あの、……」
『鞄落とすなよ』
「はい。/////」
彼女は顔を真っ赤にして鞄を抱き、もう片方の腕で俺の肩を掴む。
『心配するな落としたりしない。そんなにヤワではない。』
「はい」
階段の上まで上がり座れそうな所を探すが、朝のラッシュで人の流れが早い。
このまま改札を出る訳にも行かず、駅員室へ向かい椅子を出して貰った。
椅子に彼女を置き、テニスバックを降ろすと、座った彼女の前に膝まづいて足の状態を確認する。
靴を脱がし靴下も取り払う、少し腫れてきているのでテニスバックからアイシングキットを取り出した。
叩き割ればしばらく冷たくなる便利な袋、
その袋をテーピングで足首に固定させ、その上から手ぬぐいで縛り上げた。
『折れてはいない、恐らく捻挫だろう。誰か迎えに来てくれる者はいるか?』
「いえ、両親はもう仕事で、私これから学校に行かなきゃいけなくて……」
『学校?立海か?』
「はい」
『そうか… では、俺が連れて行こう』
「えっ。」
『俺も立海だ』
駅員『良かったねー先生が連れてってくれるなら安心だね』
『いや、俺は生徒です』
駅員『!!!!!!!!どうみても……いや、じゃぁ後は大丈夫かな?うん。良かった、良かった』
「……生徒……さん……」
『そうだ、3年の真田だ。』
「……3年……」
『遅刻する、早速行こう。』
「タ、タクシーで…」
『何を言っている、正門はすぐそこだ!』
「いや……でも……歩けないし……」
『問題ない』
時間も迫る中、彼女の靴下を靴に捩じ込むと彼女に渡し、先程と同じく抱えた。
「……あ、あの……さすがにこのまま学校は……」
『おぶってやりたいが、カバンがデカくてな、すぐ着くから我慢してくれ』
「…いやっ…あの……あのっ……」
『ギリギリだ、急ぐぞ、』
彼女の言葉を遮って、大股で正門まで急いだ。
遅刻ギリギリの生徒達が慌しく正門を抜けて行く、チラチラ視線は感じたか医務室へ急ぐしかない。
保険の先生が処置をするなり、なんなり判断されるだろう
転校生か……?
6月のこんな時期に珍しいなと思いながら医務室のドアを開ける。
保健医が目を丸くして、彼女の足を見ると察したのかベッドのカーテンを開けてくれた。
『後は頼みます。』
彼女をベッドに降ろすと、予鈴の時間が迫る中慌てて3階の教室へ向かった。
こんなにギリギリに学校に着いたのは初めてだ。
荷物を出し席に着く、風紀委員が遅刻するなど示しがつかん。
ほっと一息着いた所で担任が入って来て一日が始まった。 6月の終わりと言えど暑さが教室を温くして行く。
風でも吹けば少しはマシなのに今日に限って無風だ。
昼飯を平らげながら今朝の彼女はどうしただろうかと考える、学年を聞かなかったので探しようがない、部活の時に他の学年に聞いてみるかと思い一旦彼女の存在は隅に追いやった。
5限目は歴史か……
キーンコーンカーンコーン
教師を迎えに行った生徒がドアを開ける
その後ろから松葉杖を着いた小さな影。
『なっ……』
紛れもない今朝の小さな彼女だった。
「皆さん、初めまして!笠原先生が入院されたので臨時講師で参りました。山田花です。よろしくお願いします!えっと、コレ気になりますよね(笑)今朝、駅の階段でコケました!!!!満員電車って初めて乗ったんだけど、皆も毎朝アレに乗るの?はぁー私明日からこの足でどうしよう……」
生徒がケタケタと笑い、彼女も笑った。
「さ、授業しましょ!しばらくの間皆さん仲良くして下さいね!!!!」
生徒達は小さくて可愛らしい姿にパチパチと拍手で歓迎したが、俺は動けなかった。
彼女は俺の存在にまだ気が付いていない様だ
何故が胸が少し苦しく感じた、生温い教室の空気のせいだと思いたい。
幸『真田……先生はダメだよ。』
隣で幸村が俺を見て笑っていた……
初夏の出会いは始まる事は許されそうに無かった。
END
おまけ……
笠原先輩は来週から産休だと聞いていたが、緊急入院との事で大学の後輩である私は今すぐやれと呼び出されたのだった。
大学で教員免許は取ったが歴史研究が好きだった私は大学院へ残り修士課程を2年終わらせ研究員として働いていた。
そんな時に立海付属高校で歴史の教師をしている先輩が産休の間の代打としてやらないかと打診されて半ば強制的に半年だけとの約束で合意した。
先生!!!!とか呼ばれちゃうのかな〜!なんて少しワクワクしながら乗り込んだ電車は激混み、もう少し早く家を出るべきだったと激しく後悔する。 童顔の低身長は埋もれやすいし痴漢に良く会う
案の定痴漢に遭遇、目の前に立っていた背の高い黒い帽子を被った紳士に助けて貰った。キリッとしていて鍛え上げられた肉体で私を人の圧からも救って下さった。 初めて3次元の人間に胸がトキメク♡ ………ハッ!!!……愛しの真田幸村様、私の心は貴方一筋だと決めておりますが、今だけ少しだけお許し下さい。 現世にもこの様な逞しい殿方がいらっしゃるとは……
浮かれたまま人の波に飲み込まれながら揉みくちゃで降りた電車、そのまま流される様に階段を登ったのだが、中程で誰かと足が交錯し転んだ上に足首を踏まれて大惨事。
今日から教壇に立つのに…なんて考えているとさっきの殿方が颯爽と私を運んでくださった……
あぁ……なんて素敵な方……少し年上かしら…… 30歳ぐらい? きっと結婚してらっしゃるよね…… 指輪なしっ!!よしっ!お名前を聞かないと!!
真田っ!!!!!!!!!!!!!!!
生徒っ……だとっ…… !!!!!!!!!!!!!!!
山田花一生の不覚っ!!
年下無念っ!!!! しかも立海の学生っ!!
抵抗虚しくお姫様抱っこで無様な姿を他の生徒に晒したあげく医務室に到着。
せめて籠で来たかった…… 生徒にお姫様抱っこはないわーおとなとしてないわー
念の為近くの病院に医務室の先生が連れて行って下さった… 少しヒビが入っているが直ぐに治るとの事で松葉杖をお借りして学校に戻った。
3年の真田君か…………
不覚にもときめいた心を愛しの真田幸村様に捧げる事を再び深く心に刻む。
同じ真田…… 否、ダメっ!生徒なんだから!!
今日は5限目だけで終わり、冷静に!
お迎えに来てくれた生徒さんが優しく荷物を全部持ってくれて、ゆっくり教室に案内してくれた。
軽く挨拶を済ませて、名簿に目を通し名前と顔を覚える為に名前を呼んで手を挙げてもらった。
「幸村くんっ!!」
幸『はい』
「……さ、真田くん……」
真『…………はい』
はい、お気に入り!!お気に入り決定!!!
真田幸村くん!!贔屓しちゃうかもしれないっ!!可愛がっちゃうかもしれないっ!!
幸村君なんて美男子!!
半年の臨時講師生活頑張れる気がする!!
おしまいっ!
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