比嘉 短編
君の名は?
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蝉の声が煩くてたまらない
はかどらない宿題
暑すぎて頭がおかしくなりそうだ…
ここ数年の暑さは異常だ、油断するとホントにやばい。
生命に関わる……
クーラーから生ぬるい風しか出て来ない、16℃にしてるのに…… 絶対壊れてる……
これだから1台でおうち丸ごと空調は……
修理業者の依頼は予約で埋まっているのか電話さえ繋がらない。
「あぁ〜もうっ!暑いっ!!!!」
止まらない汗、宿題所ではない。
私は宿題を一式抱えて浴室へ向かった
浴槽に栓をして全開で水を出す
貯まる間に冷蔵庫からお茶のボトルを取り出しがぶ飲みしつつ浴室へ戻った
風呂の蓋を半分被せその上に宿題を並べた。
もう汗だく過ぎて服なんてどうでもいいとそのまま腰をおろした。
「あーーー生き返る〜」
煮えあがった体がゆっくりと冷えていくのが分かる。
ピンポーン!!!!
折角落ち着いた所なのに誰よっ!!
そうだ無視しよう、居留守にしよう
しばらくここから出たくない
ピンポーン!!
ピンポーン!!
ピンポーン!!
…………
諦めたか……?
ピンポーン!!ピンポーン!!ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン!!
「しにうるさいっ!!!!ぬーが!!インターホン壊れるやっし!!」
ガチャッ!!!!!!
嘘っ!!玄関の鍵開いてるっ!!!!
あのクソジジィ、朝閉めていかなかったな!!!!
もう全ての怒りが爆発、私は玄関に向かった叫んだ。
「しに忙しーから、帰れ!!!!!!」
流石に風呂場には入ってこないだろうと思いながらも、家には今私1人……
あれ、これ、やばいんじゃ?
一気に熱が引いていく…………
勝手に家に入ってくる?
泥棒?強盗?
逃げなきゃ……
風呂の窓には鉄格子、脱衣場の窓も鉄格子…… ドアを開ければストレートで玄関…… 右のトイレの窓にも鉄格子……
あれ、これ、逃げらんないじゃんっ……
私が助かる道は……
シャワーヘッドで殴るしかない……
熱湯って手もある……
私は慌ててお湯の設定温度をMAX60℃まであげる
シャワーを手に、そっと浴室の華奢な鍵をスライドさせた。
シャワーヘッドのワンタッチロックをしてから熱湯を全開にする。
ロックを外せばいつでも熱湯が出せる
心臓が壊れそうなぐらい早く脈打つ、息を飲み足音に耳を済ませた。
キイ……
すぐそこに人の気配っ……
半透明のブラスチックには近付いてくるシルエット…
こんな華奢な鍵じゃ、一溜りもないっ
熱湯をかけて一気に突き飛ばし玄関に走る……それしかないっ……
やるしかないっ!!!!
根性っ!!!!
ガチャッ!!
力いっぱい折れ戸を引いて人影に向かってシャワーのロックを解除っ!!!!
『花っ!!!!』
ガシッとロックごと掴まれてお湯は出ない……
声の主は非常に聞きなれたお隣の幼なじみで、力が抜けて腰を抜かした。
「永四郎のバカー!!!!」
『すみません、驚かせましたね……声を掛けたんですが返事がなくて……もしかして暑さで倒れたんじゃないかと……』
「もう、強盗かと思ったし、しに怖かった」
『すみません、さっき花んちの親父さんに会いましてね。花がクーラーが壊れたとか言ってるから様子見に行ってくれって言われて鍵預かったんです。インターホン鳴らしても出て来ないので何かあったのかと……』
どうやら私の暴言は2枚ドアのせいで永四郎には聞こえてなかった模様……
「もう……電話してよね……」
『すみませんっ……家にスマホを忘れてきてしまいました……』
「怖かったんだから……窓からも逃げられないし……」
永四郎は苦笑いしながら手を離した……
ジャーーーー!!!!!
『熱っ!!!』
「わーーーーーー」
気が抜けてついロックを外してしまって、熱湯が永四郎の腹に直撃してしまった。
直ぐにロックを握ってお湯は止まったけど……
冷やさなきゃっ……
「永四郎っ、浸かって!!!!早くっ!!!!」
私は永四郎の腕を引いて浴槽に入れた
お湯を止めて水のバルブをめいっぱい捻り排水溝に向けて熱湯が出切るのを待ち、冷水になった所で永四郎の腹目掛けてシャワーをかけた。
「永四郎っ、ごめんっ……大丈夫?病院っ……救急車っ!!!! 火傷の病院っ?えっとえっと……」
『花っ!!!!落ち着きなさいよ、そんなにかかってないから大丈夫です。』
「でもっ……でもっ……熱湯だったしっ……」
『大丈夫だから、ね?ほら』
永四郎はそう言ってシャツを捲った
綺麗にシックスパックした腹筋がほんのり赤くなっている……
「大丈夫じゃないじゃん、赤いじゃん……」
パニックで涙が止まらない、痛いのは永四郎なのにっ…… 申し訳なさで頭が回らないっ
「氷っ……氷持ってくるっ!!!!待ってて!!!!」
シャワーを永四郎に渡して脱衣場に出ようとする私の腕を永四郎は強く掴んだ
『花っ!!!!大丈夫って言ってるでしょーが。』
「…………永四郎っ……」
『それより、風呂で宿題とは考えましたね……クククッ……』
永四郎は心からウケたのか、私のノートをまじまじと見ながら笑った。
「あっ!!!!ちょっと!!!!見ないでよっ!!!!」
『えー何何、自由研究のテーマは……クククッ……フフフッ……ククク……あはははは!!!!何ですか晴美のアロハシャツコレクションっ!!!!キミこの為にあのハゲを毎日毎日っ……!!!!』
「ちょっ!!!!やめてーー!!!! 何も思いつかなかったの!晴美のアロハなら部活の時チェック出来るし、そんなに枚数ないはずだしっ!!!!晴美ちょっと褒めたらどこでいくらで買ったとか教えてくれるしっ!!!!」
『クククッ、傑作です……流石、キミには誰も敵わないっ……』
「もーーバカにしてるでしょー!」
『いえ……クククッ……キミにしか出来ない研究です……晴美はキミには優しいですからねっ……』
「頑張って機嫌とってんの……」
『これの締めはどうするつもりなんですか?』
「うーん……まだ考え中だけど、商店街行って晴美に似合いそうなシャツを選んでオススメしようかと……晴美の全身写真切り抜いて、シャツの写真も撮って切り抜いて昔ながらの着せ替え的な……磁石で着せ替えられる様にしようかと……」
『クククッ……フフフッ……ダメですっ、それは反則でしょ……クククッ……今夜夢に見そうですよ……』
「ダメかな……怒られるかなっ……」
『最高でしょ……等身大パネルでお願いしたいぐらいですよっ……クククッ……これだからキミはっ……ホントに……』
「笑いすぎっ!!!!あーもう!暑い!!!!」
『すみませんっ……クククッ……キミも入ればいいでしょうが、暑くて入ってたんでしょ?』
永四郎は蓋を端に動かして自分の足の間を指さした
『来なさいよ、早く。これだけあれば入れるでしょ?キミは小さいから。』
強引に私の腕を引っ張ってスッポリ間に収まった。
増えていく水かさが火照った体に染みていく様だ
不意に永四郎が後ろから身を寄せて私の肩に顎を置いた
「ちょっと!!!!」
『ん?』
「…………」
『そんなに照れなくても……クククッ……』
永四郎の冷たい体が私の熱くなった背中をひんやり冷やしてくれる
お腹に回された腕がやんわりと私を引き寄せて永四郎の熱い唇が首筋に触れる……
「ちょっとっ……もぅ……」
『着替えて俺ん家に行きますか?濡れたままでもいいですよ?どうせ脱ぎますから、帰りは俺の服で帰ればいいですし……』
「バカ……」
『宿題も手伝ってあげます』
「う……」
『キミの好きなアイスも冷やしてきました
し、キミの家のクーラーはしばらく治りませんからね……今夜は寝られないかもしれませんね……俺の部屋は涼しいですよ……お泊まりしますか?幼なじみ殿…』
「意地悪っ……」
『断る理由なんてないでしょ?返事は?』
「はい。」
『物分りのいい子は好きですよ、では、早速移動しましょうね。』
上機嫌の永四郎に急かされて浴槽を出た。
1枚の大きなバスタオルでざっと水分を拭き取り少し濡れてしまった宿題を抱えて永四郎の家へ向かった。
冷やされた部屋は天国過ぎた……
『早く脱がないと風邪引きますよ』
「あっち向いてて!!!!」
雑に絞ってきた服を脱いで永四郎に手渡すと手馴れた様子でベランダに干してくれた。
「あ……」
『なんです?』
下着まで干されるのは嫌だ……
私はバスタオルを巻いてこの格好で家まで取りに行くのかと溜息を吐く
折角涼しい部屋に来たのに、またあの灼熱の外に出るのかと思うと嫌になる。
『キミの可愛い下着ならそこに干してありますよね?あのカバーの中でしょ?』
「ちょっと、なんで知ってんのよ!!!!」
『いや、うちの母親もあれ使ってますし』
「……そっか……」
永四郎の部屋のベランダとうちのベランダは向かい合っていて、私ではたどり着けないけど永四郎なら向こうのベランダに飛び移れる。 2階だけど……
『あれごと取ってきましょうか?』
「落ちないでよ……」
『俺はキミみたいにドン臭くないので落ちませんよ。』
「……どーせ私は運動音痴ですよっ……」
『クククッ……待ってなさいよ』
そう言うと永四郎はサッと忍者の如くベランダへ飛び移るとカバーの付いたピンチハンガーごと戻ってきた。
「ありがと……」
『もぅ、着替えるの?』
「だって……濡れてるし……」
『終わったら、乾いてるのを着ればいいでしょ?』
「え、もう!バカっ!!!!」
永四郎はサッとカーテンを締めて、湿ったバスタオル巻きになった私を抱いてベッドへダイブした。
『はい、もう黙って……好きですよ花……』
私達の夏休みはまだ始まったばかり。
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