比嘉 短編
君の名は?
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『あのね、あんたの事は好きにならないから』
困った顔で見られてもこっちが困る。
永四郎は良い奴だけど、それ以上もそれ以下もない、どんなに優しくされても心が動かない…
「俺はキミが好きですよ」
何度もそう言ってくれてもどうしようも無い、私達はただの幼なじみ。
父親同士が幼稚園からの親友で、偶然にも両親は同じ時に結婚してお隣同士に家を建て、子供が出来て私達は同じ日に同じ病院で生まれた。
それから毎年どちらかの家で誕生日会が開かれる。
アルバムに残った写真には必ず隣に永四郎がいる、私にとってはもう姉と弟みたいなもの。
1分私の方が先に生まれたし……
ずっとずっと一緒に居すぎて恋愛感情なんて生まれる訳もない。
中学生になっても高校生になってもそれは変わらなかった
大学でも永四郎はまだ隣にいる。
腐れ縁にも程がある……
こいつが隣に居るせいで私の周りには男が寄ってこない……
寄ってきてもスーっと消えていく。
「花、今日は買い出し当番ですよ」
『うん、あーぁ練習だるい』
「代表に怒られるでしょうが」
『分かってるって』
私達はエイサーの青年会も勿論一緒なのだ…
初心者マークをつけた免許取り立ての永四郎の車で買い出しに向かう、大量の飲み物や弁当を買い込み溜息をつきながら練習に向かった。
エイサーは好きだけどそろそろ引退したい所だ。
代『ぬーが、お前らまた一緒か?もう付き合えばいいやっし。』
「ないない」
代表はニヤッとして冷やかすが、毎度の事なのでスルー
こう言うのがホントにダルい、ウザイのだ。
あぁ……もう永四郎から逃げたい……
進学する時本土の大学にするべきだった。
飲みもや弁当をくばりながら就職する時は今度こそ沖縄を出ようとこの時心に誓った。
女1『木手先輩〜♡お疲れ様です♡』
永四郎ファンその1が来た。
ここ1年この子は永四郎に夢中、可愛らしい高校生で私的にはいい子だと思う。
付き合えばいいのに……
邪魔な荷物を押し付けたい余りに後押しをしているが永四郎は一向になびく様子がない。
その1がいるということは……その2、その3がいて日々永四郎を巡ったバトルが繰り広げられている。
気配を消してそっと永四郎から離れ小学生の元へ。
「はーい、やるよー!しっかり覚えないと恥ずかしいから頑張るよー!」
素直で小さな女の子達と僅かな時間汗を流した。
さっさと後継者を育てて引退!!
小一時間した頃あゆちゃんが座り込んだ。
今年から1人で練習に来ている小学1年生
おっとりした可愛い女の子
「あゆちゃん、大丈夫?」
あゆ『花ネーネーお腹痛い。』
「トイレ行く?お家帰る?」
あゆ『帰る……』
「歩ける?」
あゆ『痛い……』
「お母さん、家に今いる?」
あゆ『いる』
「迎えに来てもらおうか?」
あゆ『ダメ、お母さんお腹に赤ちゃんいるから』
「そっか、じゃぁ、ネーネーがおんぶしてあげようね」
あゆちゃんの家は歩いて10分程、小さな彼女を背負って家に歩き出した。
「凄く痛い?」
あゆ『大丈夫……』
「我慢できないぐらい痛かったら言ってね」
あゆ『うん』
「いつから痛いの?」
あゆ『朝から……』
「ずっと我慢してたの?」
あゆ『うん、痛かったり、痛くなかったりしたから大丈夫…』
「なるべく急いで帰りましょうね」
あゆ『うん。』
「赤ちゃん、いつ産まれるの?」
あゆ『……多分、もうすぐ……だからね、お母さんはエイサー見に来られないかもしれないって……』
「そっか……あゆちゃん頑張って練習してるもんね、ちょっと寂しいけど、お家でお母さんに見せてあげようね」
あゆ『うん……ネーネー、赤ちゃんが生まれても大丈夫……だよね……』
「大丈夫!」
きっと不安でずっと色んな事を我慢して来たんだ、お母さんは妊娠してから入退院を繰り返していると聞いた。
「ネーネーになるって大変だけど、きっと楽しいさー、一緒にエイサー踊ろうね」
あゆ『うん。』
「大丈夫さ、心配いらないよ」
何の根拠もないけれど、少しでも慰めてあげたかった…
ふと思い出した、遠い日の夕暮れ
あの日もこんな夕焼けだった
公園で転んだ私を永四郎が背負って家まで連れ帰ってくれた
あの時は私より小さな身長だった癖に……
多分4歳か5歳の頃……
永四郎はホントにあの頃から優しかったな
『なくな花、ちょっとひねっただけさ、なんくるないさー。おれがいるからしんぱいすんな』
あの時はちょっとカッコよかったな……
遠い日の忘れた記憶にちょっと笑った
あの時恋心が芽生えていたら、何か変わったかな。
まぁ、無いけど……
あゆちゃんの家に着いてチャイムを押したが応答がない。
「お母さんお昼寝してるのかな?」
あゆ『あゆ、鍵ある。』
そっと背中から下ろすとポケットから鍵を出したあゆちゃんはクルリと鍵を回した。
あゆ『お母さーん。』
……
………
あゆ『お母さーーん』
……
………
あゆちゃんの声が静かな家に消えて行く
あゆ『お母さーーーん……っぐずっ……』
「こんにちはーー比嘉青年会の山田です!」
………
………
ガタンっ……
廊下の奥で小さな音がした……
あゆ『お母さn……っぐすっ……っ』
「あゆちゃん、あがるよ、いい?」
あゆ『…うんっ……花ネーネーっ……』
「大丈夫、ネーネーがいるからね。」
あゆちゃんの小さな手を繋いで後ろに隠しながら玄関にあった傘を掴んで廊下を進んだ。
ギシッ……
奥の扉から音がした……
少し怖い……泥棒だったら……どうしよう……
永四郎……なんでいないのよ……バカ……
こんな時こそ隣に居て欲しいのに……
カタンっ………
鼓動が早まり繋いだ手に汗が滲む、ゴクリと息を飲んで1歩また1歩廊下を進んだ……
バンッ!!!
『「きゃぁぁぁぁぁぁぁあぁ!!!」』
奥の扉が大きな音を立てて開く、私とあゆちゃんは驚いて大きな声を上げた
まるでお化け屋敷でゾンビにでも出くわしたかのように絶叫して抱き合って廊下にへたりこんだ。
『花っ!!!』
あゆちゃんを抱き締めた私を大きな体が包み込む、ガッチリした腕が私達2人を守ってくれた。
『花っ、あゆ、大丈夫ですか?』
「……っ……永四郎っ……」
『急に居なくなるから心配しました…』
「……っ……ごめんっ……」
『何があったんです?』
「……っ……ど、ドアが……」
『ドア?……俺が見て来ます』
凄い速さで永四郎の背中を見送る、5メートル程先にある半開きのドア。
震えるあゆちゃんを抱き締めたまま逃げられるようにしないとと思うのに足に力が入らない…
『大丈夫ですか?比嘉青年会の木手です。お母さんしっかり!!花ッ!救急車!!!』
「えっ……救急車っ!!!わ、わかった!!!」
しまった、携帯は集会所だ……
「あゆちゃん、電話どこ?」
震えたあゆちゃんは固まっている
『花っ!!!』
シャーーーッ
廊下を凄い勢いで永四郎のスマホが滑って来た……
「えっと……119……」
ロックがかかったスマホ……
テンパって指紋認証に指を押し当てた
開くはずがないのに
……
……
えっと……119..
ロックはすんなりと解除された。
「……えっと……救急車をお願いします。」
『花、生まれます、もう頭が見えてます。』
「えっと、えっと、赤ちゃんが生まれます、頭が見えてます。」
住所を伝えてあゆちゃんを抱えて永四郎の側まで行った。
脱衣所の中であゆちゃんのお母さんは顔を歪め苦しんでいた……
あゆ『お母さんっ……』
震えていたあゆちゃんはお母さんに駆け寄って手を握った。
あゆ『お母さんっ……お母さんっ……』
『花、タオルか何か見つけて下さい。』
「うん、あゆちゃん、バスタオルどこ?」
あゆ『そこ、引き出し……』
脱衣所の中にある3段ケースを指さされ中にあったバスタオルを全部出した。
「永四郎っ……」
『広げましょう、大丈夫!!!すぐに救急車が来ます!!!俺達で出来ることを!!!』
母『すみませんっ……っ……あーだめっ痛ーーい……』
『大丈夫!!!息を吸って、はい!!!』
母『ンンンンンンんっ!!!』
あゆ『お母さんっ!頑張って!!!お母さんっ!!!』
繋いだままの電話から指示が聞こえる
赤ちゃんの頭が出たらゆっくり支えて引っ張らない……
何度かお母さんがいきむ度私達も息を止めた、一緒になって力を込める
あゆちゃんも真っ赤な顔になるまで踏ん張ってお母さんの手を握る
もう何分経った?
救急車まだ?
こんなにも時間が遅く感じた瞬間は初めてだった……
スルりと永四郎と私の手の中に赤ちゃんが降りて来た…
小さな体を優しくバスタオルの上に置き背中をさする。
早く泣いて、お願い……
お願いっ……
(んぎゃーーーーっ!!!)
『「泣いたー!!!」』
安堵と解放感で涙が溢れた。
皆ハラハラと涙を流しながら手を握りあった。
母『よかった……あゆが来てくれなかったら……ダメだったかも……っ……』
「おめでとうだね、あゆちゃんネーネーだね〜!」
バスタオルに来るんだ赤ちゃんをお母さんの腕に渡した。
母『あゆネーネー、ありがとうねーお母さん頑張れたよ』
あゆ『お母さんっ、大丈夫?もう大丈夫?赤ちゃんも大丈夫?』
母『大丈夫!!!』
あゆ『良かった……』
私と永四郎はそんな2人を横目に手を洗って少し荒らした脱衣所を整理させてもらった、すぐに救急車の音が聞こえ始めた。
『俺、救急車を誘導して来ます』
永四郎は何事も無かったかの様に外に出ていった。
母『山田さん、ありがとうね、助けてくれて、ありがとう……』
「いえ、良かったです、ホントに……良かった……」
母『あ……旦那に連絡しないと……あゆ、ベッドに携帯あるの、取ってきてくれる?』
あゆ『うんっ』
母『山田さん、木手さんもホントにありがとう、風呂掃除してたら急に動けなくなって携帯も無くてもうだめかと思った、声も出なくて……』
「良かった、ホントに……」
もうこの感動の出来事に胸がいっぱいになった、私もあゆちゃんも永四郎もきっとこうやって生まれてきたんだ……
命懸けの瞬間に立ち会わせてもらって改めて母の偉大さを感じた。
この世に生まれてくるのは当たり前じゃない、同じ日に生まれた私と永四郎もただの偶然じゃないのかもしれない。
奇跡に浮かされてそんな事を考えてしまった……
程なくして到着した救急車にお母さんとあゆちゃんを乗せ見送った。
「はぁ……」
『…………花帰りましょうか』
「うん」
急に気が抜けて、道に座り込んでしまった。
『安心しましたか?』
「うん……永四郎……来てくれてありがとう」
『キミの隣には俺がいないとね…そうでしょ?』
「うん…」
『……フッ……今日はヤケに素直ですね……』
「だって……怖かったんだもん」
『……クククッ……コレからはいつもキミを怖がらせないといけませんね』
「なんでよ……」
『怖い思いをする度に俺が必要になるでしょ?』
「…………」
『俺が隣に居れば安心すると認めなさいよ』
「それは……そうだけど……」
『吊り橋効果で…いつかキミのその冷めた心臓が動くかもしれないでしょ?』
「……っ……吊り橋効果……そんなの……ない」
『試してみないと分からないでしょーが。』
クスクス笑いながら私の手を引っ張る永四郎、立ち上がれない私に背中を向けてしゃがんだ。
『早く来なさいよ』
腰を抜かしたままの私は渋々その背中の世話になる。
あの頃とは違う大きな背中……
まだ奇跡のせいで心臓は落ち着かない
「……ね、永四郎っ……何でそんなに私なの?」
『……さぁ……』
「姉弟みたいなもんじゃん……」
『キミを姉だと思った事は一度もありませんよ』
「はぁ??」
『俺の中でキミはずっとあの日の女の子ですから』
「あの日?」
『えぇ……転んで泣いたあの日です』
「…………」
『俺のせいで転んだんです、覚えてませんか?』
「……そうだっけ?」
『えぇ、俺の投げたボールが当たって転んで足を捻った……普段は泣かないキミがわんわん泣いて……』
「そんなに泣いてない!!!」
『クククッ……はいはい。』
「何でそれが好きになんのよ……」
『……一生守らなきゃいけない……そう感じたんです、幼心にね……』
「何それ……」
『さぁ……俺もいつかは修正されると思ってましたよ』
「……」
『振り向いてもらえないのは分かってます。俺以上にキミを大切にする男が出て来たら潔く身を引きますよ。』
「……出てこなかったら?」
『…………諦めて俺で我慢しなさい』
「……我慢……」
『えぇ……妥協です。現れない白馬の王子様を待つより身近な庶民の方が親も安心しますし』
「王子を暗殺してんのは永四郎なんじゃないの?」
『そんな弱い王子ならキミを守れないでしょ?』
「………………」
『先は長い……いつかキミが気に入る男になりますから、待ってなさいよ……』
「はいはい」
馬鹿げた会話をしながら家にたどり着いた。
まだ心臓は落ち着かないままだったけれど、玄関先で背中から降ろされた
『じゃぁ、また明日』
頭をポンと押さえた永四郎を見上げると
不意打ちで触れる唇……
「……っ……」
『もう大学生ですから、そろそろ本気を出しますね。おやすみなさい。』
『(吊り橋が揺れてる内がチャンスですからね花……覚悟しなさいよ。)』
………………………………
8年後
吊り橋を揺らされまくった挙句
吊り橋からバンジージャンプさせられて
大学を卒業する頃には完全に白馬の王子様は全員消え失せた。
と言うか、王子様だと思っても永四郎と比べると大したことが無くてすぐ冷めた。
時が経てば経つほど永四郎よりいい男が居ないと分からされた。
悔しいけど。
今日は1番カッコイイ……
白いタキシードの永四郎は隣で幸せそうに私を見下ろしている。
…………………………………………………………
健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、妻を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?
『「誓います。」』
END
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