比嘉 短編
君の名は?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
5限目
「はぁーバドミントンかー」
『適当にやればいいでしょ?』
仲良く手を繋いで体育館へ向かいながら空を見上げる。
古い学校は体育館へ行くのにわざわざ靴に履き替えて一旦外へ出なければいけない、普通渡り廊下とか、屋根があるのでは無いだろうか… 老朽化したこの高校は3月に取り壊しになると聞いた。
そんなオンボロ高校を選んだのは兎に角自由、髪型も髪色も、ネイルだって自由、化粧も自由、制服もレトロ可愛い! 先生が緩い!優しい!そして父の教育方針、子供は伸び伸びと自由に!
永四郎は髪型とバイクOKで選んだのだとか。
離れた敷地に新しい校舎が完成したらしいが、高三の我々には無関係な話だ
私達は1週間後卒業してそれぞれに進学したり、就職が待っている。
私と永四郎は同じ専門学校へ進学する
沢山思い出の詰まったこの高校とももう少しでお別れかと思うと少し寂しい。
初めて永四郎と出会った高一の春、同じクラスの隣の席だった。
見た目はインテリヤクザと言われた彼だったが、意外にも紳士的で優しかった、成績も良くて女子人気も高かった
好きになったきっかけは放課後の些細な出来事
『山田さん、スカートほつれてますよ。』
「え?」
『ほら、そこ』
「あ、ホントだ…」
『あ、ダメです、糸を引いては…』
ほつれて垂れた糸を何気に引くとパラパラと解けて行く、しまった…と思ったが最初よりかなり解けてしまった糸…
「………」
『…………はぁ……』
「ごめん…折角教えてくれたのに……」
『いえ……』
「…………」
不意に永四郎が近付いて来て私の解れたスカートの裾を掴む、一瞬抱き締められるのかと思った…
『山田さん、脱いでくれます?』
「え?……」
『全部解いてしまうつもりですか?』
「いや、でも、脱ぐって……言っても……その」
『ジャージは?』
「……友達に貸しちゃった」
『……仕方ないですね、ではこのままココに座ってください。』
永四郎の席にそっと腰掛けると、裾を持ったまま永四郎は真正面の床に腰を下ろした。 机の横に掛かったカバンから何か取り出している。
『触らない。』
「はい。」
糸を摘む私に怖い顔をする永四郎、さっと手を引っ込める私。
カバンから取り出した皮のケースから出て来たのはソーイングセット……
インテリヤクザのカバンから針と糸!!
衝撃だった。
手際よく針に糸を通すと、解れた最後の場所を捲る、膝上のスカートをこんな形で男子に捲られるとは……
『動くと危ないからじっとしてなさいよ』
「うん。」
永四郎の手が時より太ももに触れる、暖かくて大きな手、その体温にドキドキしてしまう。
20cmほど解いてしまった裾を綺麗にまつり縫いしていく指が私の太もももなぞっていく、私の鼓動が聞こえてしまう程に静かな教室、恋に落ちない訳が無い…
『足、開いて……』
「え?」
1人で鼓動を早めていると不意に永四郎は私の太ももを掴んだ、ゆっくり開かれる閉じた足……
『綺麗な足に刺したくないんです』
優しい目が私を見上げる、頷くしか選択肢はない。
ホンの15分程の出来事なのに凄く長く感じた、スカートを押さえる手が震えてしまいそう、凄く恥ずかしい事をされている様な感覚…… でも嫌な訳じゃない…
縫い終わった糸を永四郎が噛み切る、近付いた頬が足に触れた…
足に力が入らない、ダメだ……コレ立てないかも……
『出来ましたよ』
「あ、ありがとう。」
『いえ……暗くなって来ました、帰りましょう』
「うん」
頑張って立ち上がったけれど、やっぱり力が抜けてる……
「ぁ……」
少し後ろに下がって床でソーイングセットを片付けている永四郎の上に…不覚にも座ってしまった。
崩れ落ちた私を抱き留めてくれた永四郎がクスリと笑う
『クスッ……どうしたんですか?お礼でもしてくれるんですか?』
「ちがっ…ごめんっ…あのっ」
両手で触れた胸板は見かけよりずっと逞しくて上げた顔は触れそうな程近くて、眼鏡の奥の瞳があまりにも真っ直ぐに私を見つめるから何も言えなくなった。
抱き留めた手が私の髪を撫で、下敷きにしてしまった永四郎の体温が薄い布越しに私を暖める
『本当に君は可愛い人ですね……無防備にそんな目で見つめられたら……意地悪したくなるでしょうが…』
こんな時なんて言えばいいのかなんて高一の私には分からなかった、意地悪の意味も、永四郎の我慢もこの時は分からなかった。
この後1週間恥ずかしさで永四郎を避けまくる私は8日目に物凄く怖い顔をした永四郎に捕まり詰め寄られる事になる。
永四郎から逃げ屋上の貯水槽の裏で1人パンを噛じる昼休み
先輩からこっそり教えてもらった屋上の鍵の開け方、嫌な事があったら逃げ場にするといいよって言われてた。
誰も来ない筈の屋上で1人このまま避け続けるのも限界だと今後の身の振り方を考える。
ポカポカ陽気の4月の終わり満腹と緊張感からの解放でついついうとうと……
『やっと見つけました……』
ボヤけた視界に瞬きをする、ヤバい……
壁に寄りかかって座った私は慌てて立ち上がろうとするが、時既に遅し。
伸ばした足を跨いで屈むと両手で逃げ場を塞がれた。俗に言う壁ドンだ……
『何で俺を避けるんです?』
「避けてn『避けてますよね?』」
『理由を聞きに来ました、俺が何か君に悪い事をしたのなら謝罪します。理由も分からず君に避けられるのは……耐えられない』
「…………」
好きだからドキドキし過ぎて顔も見れなくて避けてますなんて言えない…
『君に避けられると苦しいんです……とても……理由が無ければ諦められそうにない。俺の事嫌いですか?』
余りに切ない声に視線を合わせた、レンズの奥で瞳が哀しく揺れて今にも潤みそうで、私がこんな目をさせたんだと罪悪感に襲われた
「違うの…嫌いじゃないっ…ごめんっ…」
永四郎の頬を包んで覚悟を決める。
「ドキドキして……苦しくなるから……避けてた……っ」
告白なんて初めてでどう伝えればいいかなんて分からない、嫌われたら、この気持ちが迷惑だったら… 隣の高校に編入しよう……
手が震える……怖い……視界が滲む……
「……っ……私……木手君の事が……好きn……」
暖かい唇で遮られた、何もかも初めての始まりだった…
ぎゅっと抱きしめられて力が抜けてく、涙が止まらなくて自分で自分がコントロール出来ない
『俺も……君が好きです。もう俺から逃げないでくれますか?』
「うん」
『良かった。』
後から聞いた話、永四郎は一目惚れだったと白状した、それは中1の時だったと。 テニスの試合で他校のチア部だった私をずっと忘れられなかったと言った
高校の初日隣の席になって驚いたけど、運命だと思ったって……
永四郎のお陰で充実した高校生活を送る事が出来た、成績も上がった、夢も出来た、2人でアパレルのブランドを立ち上げる事が目標だ。
卒業式は泣かなかった
皆と沢山写真を撮ってアルバムにメッセージを描きあった。
最後のホームルームが終わった教室に招かざる客…
m「花!!!」
はい、来ました、パワフル異国人MyMother…
「お母さん、恥ずかしい。」
m「ママハ時間ガ無イネ。コレ明日。」
「は?何コレ」
m「アナタノ旦那、金持ちボンボンムスコネ」
机に叩き付けられたのは見合い写真。
うちのお母さんは異国人、安心、安泰、お金持ちが大好き、玉の輿に乗れば将来安泰……って、このご時世に見合い? ありえない。
自分がそうだったからって、私にも押し付ける。
永四郎の事だって何度も彼氏だって言ったのに… 高校生の恋愛なんてどうせ別れるって…
「絶対!!!嫌!!!」
m「アウダケ」
「嫌、とりあえず帰って、恥ずかしい」
m「カエッタラ話ス、デキル?」
「出来ない、嫌、」
m「ジャァ、今ョ」
「こんな所で?卒業式の後よ?皆も居るのにぶち壊さないで、自分がしてる事良く見て!ほら!家族に恥をかかせない、お父さんとの約束でしょ?」
m「ワカッタ、ワカタ、帰ル、ウルサイネ〜」
「帰って!」
やっとの事で母親を追い払う。
皆にごめんと頭を下げると、皆はまぁまぁと慰めてくれた。
母は父と出会って玉の輿に乗った、親戚からは何処の馬の骨か分からない金目当ての異国人と未だに扱いは良くない。
安泰に執着するあまり空気が読めない…
私の事を思ってくれるのは分かるけど、そろそろ私の意見も尊重して欲しい。
父にこの事を電話で報告すると、またかと呆れた様子で後は任せて卒業旅行に行って来いと言ってくれた。
直ぐに届いたメールには2人分の飛行機のチケットと2泊3日のホテル(テーマパーク2dayチケット)が手配されてた。
2人で東京旅行に行って来いって事だ!
『このまま空港に行きなさいってお父さんが言ってます』
永四郎のスマホに父からLINEが入った。
娘の事は頼んだって。
父は永四郎を気に入っている
着替えは途中で買いなさいカードでと私にもLINEが入った。
「「「いーなーーーー」」」
クラスの皆が羨ましがる。
友1「じゃぁ、卒業証書とか他の荷物預かるよ、邪魔じゃん?」
「ホント?助かる!」
友1「お土産ヨロ〜!」
「分かってる〜!!!」
友2「木手、バイクで行くんば?」
『花どうします?』
「途中で着替えとか買わなきゃだよね、タクシーで行く?でも最後に制服でバイクも乗りたい」
『じゃぁ取り敢えず店までバイクで行きましょうかね』
友2.3『じゃぁ、俺らバイク預かるさー!2ケツで付いてって俺ん家置いとく』
『助かります』
「時間ないから行こ!皆お土産買って来るね〜」
裏門の倉庫脇に停めたバイクに乗り込む、制服で乗るのは最後かーと少し名残惜しい。
『行きますよ』
インカムから聞こえる永四郎の声は今日も優しい。
「出発!!!」
私達の人生はまだまだ長い、未来は力ずくで切り開く。
永四郎となら大丈夫だって信じてる。
END