比嘉 短編
君の名は?
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『君とは付き合えません。』
「何で?」
『他に…付き合ってる人がいます。』
「はぁ?聞いてないんだけど、誰っ!!!」
『それは…言う必要はないでしょう』
「聞くまで諦めない」
『……はぁ……』
「永四郎……私、3年も片想いしてたんだけど、少しはさ……」
『すみません…』
「謝んないでよ……」
『………』
「だから、誰?」
『山田花さんです』
「………はぁ???」
『……何か問題でも?』
「全然分かんない、何で?何処が?……可愛くないじゃん、太ってるし……」
『人は見た目じゃないでしょ』
「信じらんない。あんなのに負けるとか……諦められる訳ない…」
『勝ち負けじゃないでしょ…』
「だって……私の方が!!!」
『相応しいかどうかは君が決められるとでも?』
「何で?……意味わかんない。」
『俺がいいと思ったからです』
「…………絶対、認めないから……」
……また遭遇してしまった。
もうこんなやり取りを何度聴いたんだろう。
居残り終わりに部活帰りの永四郎と裏門で待ち合わせた、普段は永四郎の部活が遅くなるのと私のバイトの時間が合わないから一緒には帰れない。
私達が付き合っている事を知ってる人は多くない、永四郎はモテるから、隠しておいた方がトラブルを避けられると……
裏門の柱の影で息を殺して彼女が立ち去るのを待った。
遠ざかる足音に少しほっとした。
『花……居るんでしょ?』
「…………」
『そんな顔しないでくれます?』
少し困った顔で私を見下ろして頭を撫でる永四郎は帰りますよと手を握る。
一緒に居られる時間は長くない、同じ学校でもクラスは離れている
たまに廊下ですれ違う程度
何の接点も無い永四郎に呼び出されたのは半年前だった。
『付き合ってくれませんか?』
突然の申し出にテニス部の部長で殺し屋との情報しか持たなかった私は戸惑った。
木手永四郎と言う人はとんでもなく恐ろしいと聞いていて、何かの罰ゲームなのだと思った。
私は可愛くも無いし、骨太だし、その上に肉も付いてるし、女の子らしくも無い。
男子高校生が連れて歩きたいと思える様な女じゃない……
なのに、断っても、断っても永四郎はしつこく付き合ってと迫って来た。
バイト帰りには必ず裏口に居て、私を家まで送ってくれた。
何故私なのかと何度も聞いたけど秘密としか言わない……
3ヶ月もそんな毎日を過ごした、永四郎は噂と違って優しかった、怖さなんてない。
ただ、優しくて、バイトで失敗した日には元気をくれて、私の話を笑って聞いてくれて、晴れた日も雨の日も台風の日も私がバイトの日は必ず送り届けに来てくれた。
そんな優しい永四郎を好きになった。
『そろそろ付き合ってくれるでしょ?』
そう言われて頷いた。
その日から3ヶ月……
その間永四郎が振った女の子は3人。
私が遭遇しただけで……
きっと私が知らない間に断っている人も居るはず。
皆、綺麗で可愛くて細くて永四郎の隣が似合いそうな子ばかりだった。
何で私なんだろう……
『やー花、また変な事考えるでしょ』
「…………」
『不安ですか?』
「不安……ではない。」
『うん。じゃぁ、何?』
「分かんない……」
『まぁ、いい気はしないでしょーね、俺だってキミが告られてたら気分は良くならない。』
「それは、ありえない。」
『俺が何も知らないとでも?』
「え?」
『お客さん』
「は?あれは酔っ払いの冗談でしょ」
『店の前で愛してるよ〜って叫ばれてましたね』
「昨日ね(笑)あんなの唐揚げ好きと同じじゃん!」
『それと、』
「それと?」
『店長』
「おじさんじゃん」
『35歳はおじさんですか?』
「うちのお父さん37だし、2個しか変わらないし……」
『クククッ……花のお父さんは若かったんでしたね』
「うん、付き合うはない。」
『俺も同じです、キミ以外は無い。それだけです、だから、そんな顔しないでくれます?』
「うん」
久しぶりにゆっくり歩いて海にも寄って、バイトの無い貴重な夕暮れを噛み締める。
こんなにも幸せで良いのだろうかと……
ずっとこんな日が続けばいいと思った。
……が……
平穏な日々はお決まりのパターンで儚く崩れた。 靴箱に別れろと書かれた紙。
机の中にもご丁寧にゴミ。
ロッカーの中身は全部ない……教科書やノートもジャージも体操服も。
上履きが残っていたのが奇跡だった。
あぁ……お父さんになんて言おう……
教科書、ノート、体操服にジャージ、もう学用品新入生並みに揃えなきゃいけないレベル。
心配はかけられない……
先生に相談して古い教科書を貰った。
ノートはとりあえず1番安い物を購買で買った。
体操服にジャージは誰かお下がりが無いか聞いてみる事にする。
誰が犯人かなんて、昨日の女に決まってる。
同じクラスのハーフ美女、金城エミリー彩芽さんだ。
そりゃ、モデル経験もある美女が私みたいなちんちくりんに負けたと思ってるんだもん、嫌がらせもしたくなるよね……
別れろか……
弁当は捨てられない様に守ろ……
エミリー集団にヒソヒソ睨まれながら迎えた昼休み、田仁志と弁当を広げた。
田『ぬーが、全部やられた?』
「うん。」
田『俺のお下がりなら家にあるさ、デカいかもしんねーけどいるか?』
「ホント?」
田『あぁ、俺のでいいか?』
「助かる」
田『明日持ってくるさ』
「ありがと!」
田『お礼は卵焼きな!』
私の弁当箱から全ての卵焼きが田仁志の弁当箱に持っていかれる。
「バイト代入ったらお礼する」
田『いや、卵焼きでいい、やーの卵焼き最高さ!』
「じゃぁ、1ヶ月卵焼き」
田『じゅんにか?』
「うん」
田『成立!』
体操服とジャージを確保出来て少しほっとした。持つべき物は大柄な友達に限る!
女子のSMLサイズなんて入らない。
ガラッ!!!
不意に教室のドアが勢い良く開いて、クラス中の視線がそちらに向けられる。
そこには物凄く怖いオーラを纏った永四郎がジャージ抱えて眼鏡を光らせていた。
田『永四郎……』
ザワつく教室の中を真っ直ぐに歩いて来た永四郎は私の隣に屈むと、ジャージを差し出した。
『他にやられた物は?』
「大丈夫、教科書は先生に古いの貰った。」
『午後、体育でしょ、俺のを着てなさい』
「あ、ありがと…」
田『え、は?ぬーが…お前ら…って…』
「『………………』」
田『水臭いやっし……言えよ山田……』
「ごめん。」
『そう言う事なんで田仁志君、宜しくお願いしますね。』
田『あぁ。』
永四郎はそのまま教室を出て行った。
ザワつくクラスメイト、皆の私を見る目が凄く変わった気がした。
田『いつからさ』
「3か月前」
田『言えよ、友達やっし』
「永四郎が誰にも言うなって」
田『あにひゃー照れ屋か……』
「トラブルになるからって」
田『永四郎、モテるもんな……今回の嫌がらせはそれでか?』
「うん」
田『山田、犯人誰だか分かってるんば?』
「うん」
田『誰だ!』
「多分エミリー」
田『あーーー、あいつか。山田なるべく1人になるな。俺の近くにいろ』
「うん、ありがと。」
6限目の体育終わりまで田仁志が近くに居てくれたお陰で何も無かった。
体育館からの帰りトイレに寄る
「ごめん、ちょっとトイレ!」
田『あぁ、ここで待ってるさ』
「うん」
後からエミリーが付いてこない様に田仁志が入口で見張っていてくれる事に安心して完全に油断した。
まさか先にトイレの中にエミリーが居るとは思わなかった。
たまたま居合わせたのかも知れない
田『おー、永四郎!掃除体育館か?』
『えぇ、』
田『山田なら、今、トイレやっし』
『何もありませんでしたか?』
田『今のとこ』
『田仁志君、頼りになります』
田『俺の友達だからな、永四郎、大事にしろよ』
『えぇ、勿論です。』
廊下でそんなやり取りをしているとも知らず、呑気に用を足して永四郎のジャージを整える。
永四郎の香水が少し残ってる……
バシャッ!!!
あぁ…昔のアニメで良く見た。
虐めっ子がトイレでバケツの水を個室に…の展開か…
永四郎のジャージなのに…
鍵を開けると、逃げもせずエミリーが1人私を睨み付けていた。
エ『別れなさいよ』
「……」
エ『永四郎と別れて』
「……」
エ『永四郎のジャージなんて着て、あんたさえ居なきゃ……』
「……」
エ『ブスの癖に!!!私の方が永四郎の事好きなのに!!!』
何も言わない私に腹が立ったのだろう、エミリーは手を振り上げて私の左頬を殴った。
『花ッ!!!』
田『山田ッ!!!』
エミリーの大きな声に2人がトイレの中に駆け込んで来た。
先に泣き出したのはエミリーで永四郎の胸に飛び込んで縋るように大きな声を上げた。
エ『永四郎がこんな女と付き合うから、永四郎が私にこんな事させてるの!分かってよ!』
田『山田、大丈夫か?殴られたのか?』
「大丈夫。」
『金城エミリー彩芽さん、俺を本気で怒らせないで下さい。』
エ『なんで?ねぇ、なんでこんな女のどこがいいの?』
『花はキミと違って人の悪口を言ったり嫌がらせをしません。困っている人には優しく手を差し伸べる人です。自分の事しか考えてない貴方に俺の心は動かせない。』
エ『私を選ばなかった事っ……後悔するからっ……』
『しません。』
エ『……っ……』
ガタンッ……
エミリーは静かにトイレを出て行った。
『花……大丈夫ですか?保健室に行きましょう。間に合わなくてすみません。』
「永四郎のジャージ、濡れちゃった。ごめん」
『キミのせいではないでしょ』
田『俺、やーの制服、教室から取ってくるさ!』
「ありがと、」
永四郎と2人保健室に歩く、すれ違う生徒の視線が痛い。
「永四郎、私そんなに優しい人じゃないよ。」
『キミは優しいですよ、いつもね』
「そうかな?」
『横断歩道で転んだ老人を助けた事は?』
「だって転んでたから」
『信号は?』
「赤でした。」
『老人を持ち上げるとは思いませんでした。』
「だって車が来てたから」
『酔っ払いの介抱をした事は?』
「だって、ベロベロで電柱にしがみついてたから」
『タクシー拾ってお金まで出したでしょ』
「それは、財布がないって言ってたから」
『雨の日、汚れた猫を拾った事は?』
「だって、にゃーにゃー鳴いてたから」
『あの猫はその後どうしたんです?』
「お隣さんが飼ってくれたよ」
『それは、良かったですね、……あぁ、迷子の子供を助けた事は?』
「そりゃ、迷子は助けるでしょ?」
『30分もおぶって交番まで?』
「そりゃーね、まぁそうなるよね」
『たんこぶを作った金髪に』
「冷えピタ」
『ゴーヤー嫌いの弁当のゴーヤーを』
「食べる」
『腹を空かせた田仁志君には』
「飯を与える」
『紙で指を切った生徒に絆創膏を?』
「貼るよね?」
『そう言う事です。』
「当たり前じゃん!」
『えぇ、当たり前の事です。日頃の行いが善良なんですキミは。無意識に見返りを求めず、咄嗟の判断も早い。キミが俺の顔も見ずに血が出てると絆創膏を貼ってくれたでしょ、俺の心が動いたんです』
「え?そんな事?」
『えぇ、留めだったかも知れませんね』
「そうなの?」
『見かける花はいつも誰かを助けてた、俺が手を出す暇もないぐらい早く、そして颯爽と去って行く。とても眩しく見えたんです。いつの間にかキミが何処の誰なのか探してました。やっと校内で見つけた時絆創膏をくれたんです。』
「そうだったんだ……」
『えぇ……』
「お母さんのお陰で永四郎と会えたんだね、いつも人に優しくしなさいって言ってくれてたから。」
『そろそろ1年になりますね』
「え?」
『溺れた子を助けて亡くなったんですよね』
「……知ってたの……」
『えぇ、お母さんもキミの様に優しい方だったんですね』
「うん、ほっとけない人だった。強くて優しい人。」
『キミといると心が優しくなります。』
「私も永四郎といるとほっとする」
『キミ以外は無いと言った理由、分かりましたか?』
「うん」
『日頃の行いは誰かが見ている物です、今度お母さんのお墓にご挨拶に行ってもいいですか?』
「うん、ちゃんと紹介するね」
『気に入って貰えるといいのですが……』
「大丈夫!」
笑いながら保健室でタオルを借りた、田仁志が持って来てくれた制服に着替え3人で帰る事にした。
靴箱まで辿り着いて蓋を開ける……
「……ない。」
田『永四郎ぉー!靴がないってよー!』
『あの女……』
田『おんぶしてやるさ!』
「いーよ、上履きで帰る!帰って洗うからさー」
田『いーのか?』
『花、帰りに商店街の靴屋に寄りましょう、俺が買ってあげます』
「いーよ、自分で買う」
『ダメです。』
田『山田買ってもらえよー!』
「やだ、だって汚されたり取られたら、折角買って貰ったのにショックじゃん!勿体なくて履けない!!!」
『クククッ……大丈夫です、もう何もされませんよ、ねぇ、田仁志君!』
田『あ、俺忘れ物した、2人先に帰れよ、俺後から追い掛けるさー』
「待ってよーか?」
田『いい、先に行け』
『早く来なさいよ』
田『おー、じゃ、後で!』
田仁志を置いて上履きのまま歩き出した。
太陽が海に沈んで行く、オレンジに染まった空が綺麗で心が落ち着いて行く。
嫌な事、辛い事は沢山ある、でも目の前で母が海に飲まれたあの日より辛い事はない、あの日から海には入ってない。
海を嫌いにならずに済んだのは永四郎が隣に居てくれたから
母からの最後の贈り物は永四郎なのかもしれない。
前を向いて生きていく、母の教えの通りに優しい人で居られるように。
『靴を奪われたシンデレラにガラスの靴でも買いましょうね。』
「シンデレラは片方だし、脱げたんだし」
『最初にガラスの靴は魔法で出して貰ったんでしょ?』
「永四郎がフェアリーゴットマザー?」
『えぇ、馬車も必要ですか?』
「かぼちゃの?」
『ゴーヤーなら……』
「リムジン的な?長いやつになるの?ゴーヤー」
『形的にはそうなりますかね……』
「あはは……ちょっと乗ってみたい」
田『やっと追いついたさー!』
『運転手になりそうなのが来ましたね』
「王子様は何処で待ってるの?」
『首里城ですかね?』
「永四郎が待っててくれるの?」
『えぇ、先回りして……クククッ』
「一人二役?」
『えぇ、キミを手に入れる為なら』
「あ、私今日もバイトだった…パーティーには行けないわ、フェアリーゴットマザー」
『クククッ、終わる頃に迎えに行きます、鐘が鳴り終わる前に家に帰るんでしたっけ?』
「門限は22時(笑)」
『俺も同じ店でバイトでも始めましょうかね』
「ホントに?」
『えぇ…』
田『俺は客で行くから美味い飯出してくれ!永四郎のおごりで!』
『出世払いなら…』
END
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おまけ
エ『ちょっと!!!私の…ないっ…なーーい!!!』
エミリーの全ての荷物は田仁志君によって焼却炉に投げ込まれた。
エミリーの机にはマジックで大きく
やられたらやり返す、二度とやるな。
田仁志様より。
と書かれていた。
それ以降花に嫌がらせする生徒は居なくなった。
数年後、よく晴れた日
白い砂浜で行われた2人の結婚式には
多くの人が祝福に集まった。
思考に気をつけなさい、
それはいつか言葉になるから。
言葉に気をつけなさい、
それはいつか行動になるから。
行動に気をつけなさい、
それはいつか習慣になるから。
習慣に気をつけなさい、
それはいつか性格になるから。
性格に気をつけなさい、
それはいつか運命になるから。
マザーテレサ