比嘉 短編
君の名は?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
待ちに待った合宿の朝は5時に目が覚めた。 今日からの3日間眠れそうにない…
徹底的にしごかれる夏合宿、気温も上がる中山田さんはお母さんの車で到着した。
「おはよー!」
『おはようございます』
〈 えーうちの娘頼むねー!〉
『はい、お借りします』
〈 返さんくてもいいからさー〉
『ちゃんと3日に…』
〈 木手君、またご飯食べに来なさいね!〉
『はい』
「お母さん!もう!」
〈 えーうるさいね花は!お母さんは木手君を気に入ってるだけさ!〉
「もーいいから、帰って!送ってくれてありがと、はい、行ってきます!」
車の後部座席から何やら大きな鞄と緑の物を引っ張り出した山田さんは大事そうに抱えてドアを閉めた。
『それは……』
「ゴーヤの抱き枕、これがないと寝れないから///」
『いいですね……それ』
「でしょ?」
『俺も欲しいです』
「じゃぁ、合宿終わったら作るね」
『手作りなんですか?』
「うん、だから大きさとか固さとか好みに出来るよ!」
『お願いします。荷物はそれだけですか?』
「うん」
『持ちます』
大きな鞄はずっしり重かった、まぁ、女子ですから中身は聞かないでおきましょうか…
1階の家庭科室の隣に準備室があり、そこに大きなソファーがある。山田さんにはそこで休んでもらう事になっている。
荷物を置くと休む暇もなく今日の昼飯の下拵えを開始した。
隣で手伝いながら今日の流れについて確認して、人数分の皿やコップなどテーブルに重ねた
『個別に盛り付けるのは大変ですから鍋ごと並べて下さい。各自取らせましょう』
「了解、夜はカレーよね?多めに作っとくね」
『はい、なるべく早く手伝える様にしますね』
「ありがとう、沢山作るのは慣れてるから任せて!!!」
『あの……これ、』
俺はレギュラージャージ、一式を手渡した。
「いいの……レギュラージャージ……」
『俺が1年の時に着ていた奴なんです、直ぐに小さくなってしまってあまり着なかった奴なので……マネージャーですから、』
「ありがとう」
『俺達は外から帰ってくるのでクーラーを強くするかもしれません、寒かったら羽織って下さい』
「うん、そうする!」
『そろそろ、時間ですね、行きます』
「うん、頑張って!」
『はい。』
山田さんに見送られてコートへ走った。
これから大量のキャベツをスライスして、玉ねぎを刻み、生姜焼きを作る彼女を手伝いたい気持ちを抑え午前の練習を開始した。
コートと家庭科室は近く、見える場所にある
昼近くになると良い匂いがし始めてメンバー皆が腹を鳴らした。
甲『木手ぇ〜腹減った〜』
凛『永四郎ぉー限界さー飯ぃ〜』
田『俺……も、ダメ……しぬ。』
知『…………11時40分さ〜(ぐぅ〜)』
木『君達だらしないですね、12時までもう少しでしょ』
不、新『………………俺達は準備を手伝いに行きましょうか……』
木『いえ、大丈夫です。』
凛『永四郎ぉ……まだ初日さー今ならゴーヤでも喰える……かも……』
甲『凛。余計な事言うな!』
凛『花ーー!!!飯ぃー!!!』
皆が一斉に家庭科室の窓を見ると、山田さんがにっこり笑って両手で大きく丸を作っていた。
凛『飯!!!出来た!!!って!!!』
皆が俺の許可を待たずに練習でも見せなかった本気モードで走り出した。
木『まだいいとは……チッ……』
久しぶりに全力の縮地法で追い掛ける。
獣の様なレギュラーが他の人の分までちゃんと考えて食べるとは思えない、出遅れれば食いっぱぐれる…
山田さんの生姜焼きっ……
全員で家庭科室に雪崩込む。
ガラッ!!!
「わっ!早っ!皆。今コートに居たのに……ちょっ、手洗った?……そんなに慌てないで沢山作ったから!」
我先にと皿に山盛りにしていく、大きな炊飯器の白米も炊きたてで美味しそう
キャベツに味噌汁、漬物まで…
凛『ちょっ、皿2枚!!慧くんずるっ……』
甲『凛、どけっ!』
田『ぬーーが!』
知『デブ、邪魔っ』
不『新垣そっちから取るさ!』
新『……サッ……』
木『君達落ち着きなさいよ!……チッ……』
全員『『『『頂きます!!!』』』』
「はーい、沢山食べてねー!!!」
クーラーのガンガン効いた部屋で野獣共が一心不乱に山田さんの料理にがっつく、誰1人口を開かない
喋る暇もない、喋れば負け。
狙うはおかわり!!!
田『おかわりっ!』
化け物が一番乗り……
山田さんは俺の渡したジャージを着てくれていて、その上にエプロン。
袖と裾を少し捲っている。
可愛い……
次々に皆がおかわりをして行く、負けじと自分もおかわりに立ち上がり皿に盛り付ける。
いつも教員が居る場所に座った山田さんは何も食べていない。
木『山田さんは食べないんですか?』
「うん、味見でお腹いっぱいになっちゃった。皆足りるかな?」
木『凄く美味しいので皆止まらないんです。』
「ありがとう、嬉しい♡」
木『片付けは皆でやるので、山田さんは少し休んで下さいね』
「うん。」
木『慧君、4回目おかわりは反則です!!!』
田『弱肉強食っ!!!』
木『そうはさせないっ!!!』
30分で全てが無くなった。
全員が短時間ではち切れる程詰め込んだ
凛『わん、動けないさー』
甲『俺も……ゲフッ』
田『食休み……』
知『昼寝……』
皆が一斉に床に転がった。
冷たい床が焼けた肌を冷やしてくれる為直ぐに皆が寝息を立て始めた。
木『まるで動物園のアザラシですね……まぁ、日も高いですから14時まで休み時間にします。』
そう言った俺も睡魔に襲われてる
準備室のドアが開くと山田さんが教員机の影へ俺を手招きした。
「木手君も少しお昼寝しなよ!貸してあげる!!!」
そう言ってゴーヤ枕を差し出す。
あぁ……もぅ……なんて可愛い人だ……
そっと枕を受け取って隅に陣取ると枕に頭を乗せた。 柔らかいのにしっかりしている大きな枕……
寝ぼけた意識で山田さんを手招きした。
「ん?何?ちょっ……」
近くに来た彼女を捕まえて横向きに寝転んだ腹の前に引き寄せた、くるりと背中を向けた彼女は大人しくそこに座ってくれた。
木『2時前に……起こして……』
「うん。」
ふわふわ旅立つ意識、ひんやりした床が気持ちいい、腕の中には山田さんに借りた抱き枕…… このままずっと眠り続けたい……
14時……
凛『なんでこいつら一緒に寝てるんば?』
先に目覚めた平古場は見てしまった
教室の隅、見えにくい教員机の奥で花愛用の枕に永四郎が寝ていてその腕枕の中、後ろから永四郎に抱き締められる形ですやすや気持ち良さそうに眠っている花の姿を……
凛『ま、いっか……永四郎っ……2時』
木『……2時……』
平古場君の声に目を開けハッとする。
抱き枕だと思っていたのは山田さんだった。 俺の腕枕で気持ち良さそうにすやすや眠っている。
木『ひ、平古場君っ…あの、これは……』
平『シー!!起きるやっし』
木『……えぇ、』
そっと腕枕を引き抜いて隣の準備室からタオルケットを持って来てそっとかけた。
静かにレギュラー陣を起こし午後練に向かわせる。
俺と平古場君でメンバーの食器を山田さんから1番離れたシンクで静かに洗う。
平『…………永四郎……』
木『…………』
平『花の事どう思ってるんば?』
木『…………それは』
平『わんは、永四郎になら花を任せられると思ってる』
木『平古場君……』
平『あいつ守ってやらねぇと本当は泣き虫だからよ、もし、永四郎が花を良いと思ってるなら……』
木『……えぇ……』
平『花には絶対幸せになってもらいたいさ……ならねぇーと困る。』
木『彼女が俺を望むなら、俺は……』
「んーーーーー!!!!ふぁ〜!!!……あ、ごめんっ!寝ちゃってた!!!私やるから2人共練習行って!!!」
まだ眠そうな彼女は目を擦りながらこちらに来て平古場君を押し退けた。
俺を寝惚けた目で見上げると少し笑って見せた。
「ほら、木手君も!!!」
木『……えぇ……』
抱き締めてしまいたい程可愛い寝起きの顔にやられながら頷き、平古場君と2人で練習に向かった。
歯切れの悪い俺に平古場君はそれ以上答えは求めなかった
まだ照り付ける太陽の下で試合型式の練習を始め各自の弱点克服の為ガットが切れるまで打ち合った。
高校最後の夏、テニスをするのは最後の者もいる、行ける所まで行きたい…
俺達の夏は人生の中でこの夏が1番の青春になるだろう。
19時までボールを追いかけると風に乗ってスパイスの良い匂いがして来た。
凛『……花!!!飯ぃー!!!』
平古場君が家庭科室に向かって叫ぶと
山田さんが×と大きく手で示す。
平『まだか……しぬっ……』
そこから10分。
田『我慢ならないさー、俺手伝って来る!!!』
デブが走り出した。
木『慧君っ、待ちなさいっ!!!』
待つ訳もないデブが跳ねながら走り去る姿に皆が俺をじっと見る。
手伝うでは無く、出来たら1番にあいつが食うに決まってる、皆の心の声がダダ漏れだ……
木『……ったく……俺の分も取っておいて下さいね。デブを止めてください。俺は片付けてから行きます……って、もう居ない……』
言い終わる前に全員が走り出していた。
1人残されたコートでボールを集める、赤く夕焼けに染まる空が綺麗だった。
「木手君、手伝いに来たよ〜!!!外まだ暑いね〜」
木『山田さん……』
「ちょっとクーラーで体冷えたから温まりに来た!!!ボール集めればいい?」
木『えぇ……』
「木手君と私の分は別にして隠して来たから大丈夫だよ!!!」
木『……ホッとしました(笑)』
2人でボールを集めると、コートをならす
大きなブラシを引く、ジャージ姿の山田さんが夕焼けに照らされて俺の胸を熱くした。
「私さー部活した事ないから、なんかこう言うのいいね♡」
木『えぇ……青春って感じがします』
「木手君、誘ってくれてありがとう。」
木『いいえ、こちらこそ。さて、戻りましょうか。』
「うん!!!」
戻ると案の定鍋も炊飯器も空。
床に転がるメンバー達が白目を向いて幸せそうに唸っていた。
凛『もー食えねぇ〜腹爆発するっ』
平『俺も……しに食い過ぎた……』
田『カレー最高!!!ゲフッ……』
知『もぅ、やばい……』
不、新『……このまま寝たい……スヤァ……』
木『皆、シャワーに行きなさいよ。』
「フフフッ……鍋分けといて正解だったね。」
木『獣です。ったく。』
山田さんの後に着いて準備室に入る… 小ぶりの鍋に普通サイズの炊飯器がタオルケットで隠されていた。
準備室の応接セットで2人カレーを食べる。
サラダとコンソメスープ
木『こ、これは……』
「木手君には特別にゴーヤカレーどうかな?」
木『美味しそうです。頂きます。』
夏野菜カレーですね、メンバーはゴーヤ嫌いですから、わざわざ俺の為に……
程よい苦味、ゴーヤに絡むスパイスがまた疲れた体に染みる
木『最高です!!!』
「良かった〜!!!」
木『あぁ……もぅ、一生、君の料理を食べていたいっ……』
「え……」
無意識に心の声が出てしまった事にも気付かず一心不乱に食べ進めておかわりもした。
鍋にルーを一滴も残さない程全てを食べ尽くした。
2人並んで食器を洗い、鍋、炊飯器も綺麗に拭きあげた。
木『ご馳走様でした。大変っ美味しかったです。はぁ……幸せです。』
「沢山食べてくれて嬉しい!!」
木『明日の朝食は俺も手伝います。』
「うん。」
木『……おや、あいつらやっとシャワーに行きましたね。俺達も行きましょうか……』
「え、あ、うん。」
木『大丈夫です、山田さんは隣の女子テニス部のシャワーを使って下さい。許可は取ってあります』
「分かった。準備する。」
木『着替えを取ってきます。迎えに来ますから、ここで待っていて下さい』
「うん」
少し離れた多目的室が俺達が滞在する部屋、荷物が散らばった光景に溜め息を吐きつつ、まぁこんなもんかと鞄からタオルと着替えを取り家庭科室に戻った。
木『山田さん、』
「はーい!」
カゴとトートバックを抱えた山田さんがニコニコしながら来る。 可愛い白い籠にはシャンプーやコンディショナー、洗顔、などが詰め込まれている。
「木手君は荷物それだけ?」
木『えぇ、シャワー室に全て置いてあります』
「あ、そっか、皆いつも学校でシャワー使うんだもんね、あーなんかこう言うの楽し〜!!!あ!!!ドライヤー忘れたっ……」
木『俺のを貸しますよ』
「良かった〜!あ、木手君の降ろした髪が見れる?」
木『えぇ……まぁ、そうなりますね』
「初めて見る〜(笑)」
木『別に普通ですよ(笑)』
部室の前で鍵を渡し、またここでと分かれた。 30分程してまた合流し、家庭科室へと戻る、メンバー達はもう多目的室でひっくり返っている頃だ。
山田さんは濡れた髪を拭きながら明日の飯の量を心配している
家庭科準備室に戻ると、山田さんは俺のドライヤーで髪を乾かし始めた。
俺は準備室の冷凍庫の奥に隠していたアイスクリームを出す、山田さんの為に3日分用意した。
ドライヤーをしている彼女の目の前に置くとドライヤーを取り上げ彼女の柔らかい髪に風を通す。
「ちょっ……木手君っ……」
振り返りそうになる彼女の頭を手で抑えアイスを指さすと、恥ずかしそうにアイスを食べ始めた。
髪が前に垂れないように、斜め45度から艶を出す、半乾きになったら一旦冷風でキューティクルを閉じるそれからまた温風で完全に乾かしまとまるようにまた冷風で冷やした。
木『はい、出来ました。』
「ありがと……木手君、美容師になれるね……」
木『髪には拘りがありますから(笑)』
「流石です。」
アイスを頬張りながら笑う山田さんは何時もより幼く可愛い。
木「まだ冷凍庫に沢山ありますから、好きなの食べて下さいね。」
「嬉しい!ありがと」
それから少しソファーで話をしながら山田さんが持って来たタブレットで料理の動画を一緒に眺めた。
味付け、焼き加減、茹で加減、調味料の好み等山田さんは細かく俺に聞いた。
ついでにメンバーの好みも……
熱を溜めた体が眠気を誘う。
山田さんの傍に居ると何故か安らぐ、俺は不覚にもそのまま眠ってしまった。
外の気温が下がりクーラーが効きすぎていて山田さんが俺に抱き着いて来た感触で目が覚めた。
クーラーのリモコンまでは手が届かない……
タオルケットを山田さんに掛けてその上から抱き締めた、冷えた耳を手で包み温めると安心した様に体の力が抜けていくのが分かる。
小さな子供を眠らせるように優しく、起こさないように深く……
愛おし過ぎる、合宿が終わったら気持ちを打ち明けてしまおうか、でももしダメだったらもう彼女の料理が食べられなくなるかもしれない、今のままで居た方が…… 山田さんは俺を少しは好いてくれているのだろか……
そんな事を考えている内にまた睡魔に襲われた。
次の日の朝6時、アラームに起こされると山田さんの姿は無く隣から物音がしていた。
木『おはようございます。』
「おはよう、木手君」
慌ただしく卵を大量に焼いている山田さん。
木『顔を洗ったら手伝います。』
急いで顔を洗うと隣でウインナーを焼く。
テーブルには手作りジャムの瓶が並んでいた。 重たい鞄の中身はジャムだった様だ
凛『おはよーーー』
ボサボサ頭の金髪が眠そうに入って来た。
『「おはよう」』
2人で出迎えると、少し笑った平古場君はパンを焼き始めた。
凛『永四郎ぉ、髪やって来いよ。わんがやっとく』
木『えぇ……10分で済みます』
凛『へいへーい』
俺は2人を残し多目的室に戻った。
まだみんな夢の中
ワックスとクシ、鏡を手に取り手洗い場で素早くセットを始めた。
朝食はゆっくり取れそうですね……
こうして俺達の合宿2日目が始まり地獄の特訓をこなした。 ランニング10km、個別の肉体改造、遠泳10kmからの試合。
山田さんの食事だけが俺達の救いだった。
食事の後は皆冷たい床で体を冷やし、食べすぎた腹を休ませた
2日目の夕飯の後シャワーを浴びると皆直ぐに気を失う様に眠る
ハードなメニューに不知火、新垣も必死に付いてきている、他のメンバーも弱点克服、新技の習得に頑張っている。
大会まで後2ヶ月、俺ももっと肉体を追い込むつもりでいる。
その為にはしっかり食べなければ……山田さんの手料理は欠かせない物になっていた
木『おやすみなさい。』
今日は多目的室で眠る事にする。
静かなフロアにメンバーがそれぞれ好きな場所に転がっている。
俺は角に引いたマットの上で目を閉じた
今日も、3食幸せでした……
明日は最終日。
体を揺すられて目を開くと、不機嫌な平古場君が俺を揺すっていた。
木『ぬーが……平古場くん……』
平『んー』
平古場君の見る先には、平古場君のマットの隣に転がる山田さんがいた。
ゴーヤ枕とタオルケット持参でスヤスヤと気持ち良さそうに……
平『独りじゃ怖かったんじゃねー?夜の学校だしよー昨日は独りじゃかったしなー』
木『……確かに……』
平『場所変われ!わん、こっちで寝るからよー』
平古場君は引き摺ってきたタオルケットを被ると俺のマットで眠りについた。
タオルケットを持って平古場君のマットに向かう。
木『俺の所に来てくれればいいのに……』
そっと彼女の体をマットに乗せて隣に寝そべった。 ゴーヤの枕を抱き寄せながら眠る山田さんを後ろから包む。
きっとこの部屋も彼女には少し寒い筈だ……
自分のタオルケットも一緒に被ると眠りに落ちた。
最終日、目が覚めるとまた彼女はもう居なかった。 まだ皆が静かだ、俺は顔を洗って朝食の手伝いに向かった。
木『おはようございます』
「お、おはよー///」
少し気まずそうな彼女、まぁ平古場君の隣で寝たつもりが起きたら隣に俺でしたからびっくりしたんでしょうね。
平静を装って彼女の隣で卵を焼く
今日の朝食は和食。
ご飯、焼き鮭、豆腐と揚げの味噌汁、納豆、海苔、卵焼き、お漬物
朝は皆あまり食べないので、量は少なくて済む。 少ないと言っても普通の人よりは皆食べる……
家庭科室の大きなオーブンで一気に大量の鮭が焼き上がる、良い匂いだ……
木『美味しそうですね……早く食べたいです』
「もうすぐご飯炊けるから、もう少しだけ待ってね」
木『はい。最高の朝食です……』
ゾロゾロとゾンビ達が起きて来た、俺は髪をセットしに多目的室に戻った。
美味しく朝食を頂いて、それぞれに食器を洗い、最終日のランニングで出発した。
「行ってらっしゃ〜い」
山田さんに見送られて皆腹も満たされ気合いが入る。
『『『はいでぇ〜!!!比嘉高〜!!!』』』
昼は大きなホットプレートを幾つか並べペッパーランチand焼きそば!!!
その隣は鉄板パスタでナポリタン!!
炭水化物で午後のパワーを補充
我先にと皿に山盛る!
凛『慧君、皿4つはずるい!!!』
田『うるせー』
平『しにうめぇーーー!!!』
知『おかわりっ。』
『『『!!!!!!!!!!』』』
残量を見ながら山田さんがどんどん追加してくれる為掴み合いにならずに済みそうだ…
満足した腹を抱えて冷たい床で昼寝
こんなに幸せな合宿は初めてだ。
午後も立てなくなる程、晴美にやられた
吐きそうになりながらも頑張れた。
山田さんが待っていると思うと耐えられた
記憶も曖昧に成程ヘトヘトになってコートに倒れ込んだメンバー達、それぞれが何かを掴んだ自信に満ちた顔をしていた。
凛『しに腹減った〜』
あぁ……そうか、夕飯はもうそれぞれの家でか…… きっと皆同じ事を考えているに違いない。
山田さんはもう荷物を持って家に帰ったでしょう。
バイト代、渡すの忘れてました、後で届けなくては……
「皆〜!!!ご飯だよー!!!」
山田さんの声に皆一斉に起き上がり声のする方へ走り出す。
声の先には裏庭に続く通路で手を振る山田さんがいた
皆の後を追うと、裏庭に辿り着いた
そこには大きな鉄板に網が用意されていて、大量の肉のパックが積まれている
その横には大量のおにぎりも……
木『山田さん、これは……』
「合宿お疲れ様の打ち上げ〜!」
木『いつの間に……』
「木手君、お疲れ様!さ、食べよー!!!」
『『『『お疲れ様〜!食うぞ〜!!!』』』』
皆自身で肉のパックを抱えどんどん焼いては口に運んで行く
平『慧くん、それは俺の肉!!!』
田『ぬーが!知らん!』
凛『花〜!コーラ何処?』
「こっちのクーラーにある〜!!!」
知『俺もコーラ!!!』
不、『新垣っ、国産和牛のパックは守れ』
新『はい!!!コソッ……』
木『これはっ、鹿児島産、国産黒毛和牛……ミスジ……だとっ……』
肩ポンっ……
平、甲『永四郎ぉ……1人で食べる気か?……』
木『…………取れるものならっ……!!!』
大騒ぎの裏庭BBQ、俺達の夏合宿はこうして幕を閉じ様としていた。
皆で協力して片付けを済ませ、道具は明日山田さんのお母さんが車で取りに来てくれるので庭の隅に纏めシートをかけた。
大きな荷物をぶら下げでそれぞれが帰宅の途についた
木『山田さん、お疲れ様でした。これバイト代です。』
「いらないよー、私すっごい楽しかった!もう大満足!!! お金なんていらない!」
木『ダメです!これは君の料理の対価ですからっ!これからも……君の料理が……食べt……手が……』
バイト代を握らせた手が熱い……
汗が出ていない…… 少し白い顔……
木『山田さん、いつから気分が悪いんです?』
額に手をやると随分熱い
「え?気分?悪くないよー!さっきちょっと寒いなーって」
木『熱があります、帰りましょう。歩けますか?』
「歩けるよー!!!ちょっとフラフラする。疲れたのかなー?」
木『ダメですね、ちょっと失礼っ!捕まって!!!』
彼女の手を取り背中に背負う、荷物は明日取りに来ればいいとシートの下に押し込んだ。
裏庭から道路に出て彼女の家へ……
この時間は誰も居ないか、店の方へ回るべきか……
店内は混んでいる筈… 背負ったままでは通路を通れない。
10分で家に着いた、
木『山田さん、鍵は?』
「多分ねぇ〜ポストの下の植木鉢の〜下っ……にねぇ……あるぅ……」
背中がどんどん熱くなって来る、きっと熱で訳が分からなくなって来ている、呂律の怪しい山田さんはくったりと俺の背中に張り付いている。
落とさない様ゆっくりしゃがみ鍵を取り出す。
ロックを開き靴を脱ぎ捨てる
木『君の部屋は?』
「1番……奥……左ぃ……」
木『ここですね』
可愛らしい白で統一され部屋、
厚みのある大きなベッドに彼女を寝かせフワッと布団を掛けた。
裏手にある店でお母さんに報告しなければ……
木『ちょっと店に行ってきます、大人しく寝てなさいよ!』
「はぁ〜い」
息を切らして店の裏口を開けると山田さんのお母さんが驚いた顔をした。
木『ハァハァッ……すみません、花さん熱がっ……今部屋に連れて……っ……』
〈 あら、そう、ちょっと店混んでるから、木手君頼んでいい?〉
木『勿論です』
〈 台所の棚の中に薬、冷凍庫にアイス枕、冷蔵庫に冷えピタ、大丈夫!あの子熱には強いから!頼むさー!!!〉
木『はい』
〈 なんかおかしかったらすぐ呼んで!〉
木『はい!!!』
大急ぎで家に戻ると冷凍庫からアイス枕を取り出し干してあったタオルを巻く、冷えピタを取り出し、棚の中に風邪薬を発見、部屋に戻り枕を取り替えた。
冷えピタを額に貼ると顔を顰めた山田さんが剥がそうとする
「冷えピタ……嫌いっ……ネトネトするっ……」
木『ダメです、貼っとかないと……』
「やだ……嫌いなのっ……」
剥がした冷えピタは壁にビタンッと投げられた。
木『とりあえず薬を……起きれますか?』
「……無理ぃ…………体っ……痛い……っ」
木『飲まなきゃ、下がらないでしょうが、』
彼女の口に錠剤を押し込むと、持って来たポカリを口に含み彼女の中に流し込んだ…… 口の中も焼ける程熱い……
薬が飲み込まれたのを感じて唇を離した
ぽーっとした半目の彼女のおでこを触り、冷えピタをまた乗せる。
木『タオルを冷やしてきます。』
台所でボールに氷水を作り、干してあるタオルを2枚取り部屋に戻った。
1枚をボールの下に引き、もう1枚を固く絞った。
彼女の嫌いな冷えピタを剥がし、冷えたタオルを額と目を覆う様に置いた。
「……きもちいー……冷えるぅ……」
木『そばにいるから、寝なさい』
彼女の燃える様に熱い手を握ると、やんわりと握り返された。
5分程するとすぅすぅと寝息が聞こえ始めた、まだ少し辛そうな唇……
握った手は力が抜けて深い眠りに落ちたのが分かる。
タオルを取りまた氷水で冷やす、固く搾って乗せる、何度もそれを繰り返した
窓から月明かりが彼女の机を照らす
立てて置かれた本の隙間から白い封筒が少しだけ見えていた。
見覚えのある封筒……
俺は起こさないように息を殺してその封筒に手を伸ばした。
手に取った封筒は間違いなくあの白い封筒だった……
まだ封の閉じられていない中身には
願いが叶いますように
私の作るご飯をもっと食べて欲しい
ずっと美味しいって褒めて欲しい
私を好きになってくれたら嬉しい
早く木手君が私に気付いてくれます様に
彼女の願掛けだろう……
木『君でしたか……早く気付くべきでした……』
彼女の横に座り手を握ると、熱さが少しづつ和らいで行くのが分かった。
薬が効いて来たんでしょうね……
良かった、ホッと胸を撫で下ろすが鼓動は早いまま熱くなるのは俺の方だった。
「……んんっ……あれ、木手君……?」
木『無理をさせてすみません。まだ寝ていて下さい、薬が効いているだけです』
「……私、学校から……どうやって……あれ?……っ……」
木『何も心配いりません、それと、見つけるのが遅くなってすみません。君だと気付くべきでした。ヒントが難し過ぎです』
白い封筒を見せると、彼女は真っ赤な顔で起き上がって封筒を取り返そうとした。
その手を捕まえて顔を寄せた。
木『好きですよ。花さん……』
1度目は看病の為でしたが、どうせ覚えてないでしょ?
まだ熱の残る唇にそっと重ねそのまま彼女をベッドに戻した、のしかかりながらおでこをくっ付けて囁く。
木『一緒に寝て欲しいですか?』
「………………っ」
真っ赤な彼女に落ちてしまったタオルで再び視界を塞ぎもう一度口付けた。
〈あーら、お邪魔だったさ〜。婿殿後はよろしく〜〉
『「お母さんっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」』
END
徹底的にしごかれる夏合宿、気温も上がる中山田さんはお母さんの車で到着した。
「おはよー!」
『おはようございます』
〈 えーうちの娘頼むねー!〉
『はい、お借りします』
〈 返さんくてもいいからさー〉
『ちゃんと3日に…』
〈 木手君、またご飯食べに来なさいね!〉
『はい』
「お母さん!もう!」
〈 えーうるさいね花は!お母さんは木手君を気に入ってるだけさ!〉
「もーいいから、帰って!送ってくれてありがと、はい、行ってきます!」
車の後部座席から何やら大きな鞄と緑の物を引っ張り出した山田さんは大事そうに抱えてドアを閉めた。
『それは……』
「ゴーヤの抱き枕、これがないと寝れないから///」
『いいですね……それ』
「でしょ?」
『俺も欲しいです』
「じゃぁ、合宿終わったら作るね」
『手作りなんですか?』
「うん、だから大きさとか固さとか好みに出来るよ!」
『お願いします。荷物はそれだけですか?』
「うん」
『持ちます』
大きな鞄はずっしり重かった、まぁ、女子ですから中身は聞かないでおきましょうか…
1階の家庭科室の隣に準備室があり、そこに大きなソファーがある。山田さんにはそこで休んでもらう事になっている。
荷物を置くと休む暇もなく今日の昼飯の下拵えを開始した。
隣で手伝いながら今日の流れについて確認して、人数分の皿やコップなどテーブルに重ねた
『個別に盛り付けるのは大変ですから鍋ごと並べて下さい。各自取らせましょう』
「了解、夜はカレーよね?多めに作っとくね」
『はい、なるべく早く手伝える様にしますね』
「ありがとう、沢山作るのは慣れてるから任せて!!!」
『あの……これ、』
俺はレギュラージャージ、一式を手渡した。
「いいの……レギュラージャージ……」
『俺が1年の時に着ていた奴なんです、直ぐに小さくなってしまってあまり着なかった奴なので……マネージャーですから、』
「ありがとう」
『俺達は外から帰ってくるのでクーラーを強くするかもしれません、寒かったら羽織って下さい』
「うん、そうする!」
『そろそろ、時間ですね、行きます』
「うん、頑張って!」
『はい。』
山田さんに見送られてコートへ走った。
これから大量のキャベツをスライスして、玉ねぎを刻み、生姜焼きを作る彼女を手伝いたい気持ちを抑え午前の練習を開始した。
コートと家庭科室は近く、見える場所にある
昼近くになると良い匂いがし始めてメンバー皆が腹を鳴らした。
甲『木手ぇ〜腹減った〜』
凛『永四郎ぉー限界さー飯ぃ〜』
田『俺……も、ダメ……しぬ。』
知『…………11時40分さ〜(ぐぅ〜)』
木『君達だらしないですね、12時までもう少しでしょ』
不、新『………………俺達は準備を手伝いに行きましょうか……』
木『いえ、大丈夫です。』
凛『永四郎ぉ……まだ初日さー今ならゴーヤでも喰える……かも……』
甲『凛。余計な事言うな!』
凛『花ーー!!!飯ぃー!!!』
皆が一斉に家庭科室の窓を見ると、山田さんがにっこり笑って両手で大きく丸を作っていた。
凛『飯!!!出来た!!!って!!!』
皆が俺の許可を待たずに練習でも見せなかった本気モードで走り出した。
木『まだいいとは……チッ……』
久しぶりに全力の縮地法で追い掛ける。
獣の様なレギュラーが他の人の分までちゃんと考えて食べるとは思えない、出遅れれば食いっぱぐれる…
山田さんの生姜焼きっ……
全員で家庭科室に雪崩込む。
ガラッ!!!
「わっ!早っ!皆。今コートに居たのに……ちょっ、手洗った?……そんなに慌てないで沢山作ったから!」
我先にと皿に山盛りにしていく、大きな炊飯器の白米も炊きたてで美味しそう
キャベツに味噌汁、漬物まで…
凛『ちょっ、皿2枚!!慧くんずるっ……』
甲『凛、どけっ!』
田『ぬーーが!』
知『デブ、邪魔っ』
不『新垣そっちから取るさ!』
新『……サッ……』
木『君達落ち着きなさいよ!……チッ……』
全員『『『『頂きます!!!』』』』
「はーい、沢山食べてねー!!!」
クーラーのガンガン効いた部屋で野獣共が一心不乱に山田さんの料理にがっつく、誰1人口を開かない
喋る暇もない、喋れば負け。
狙うはおかわり!!!
田『おかわりっ!』
化け物が一番乗り……
山田さんは俺の渡したジャージを着てくれていて、その上にエプロン。
袖と裾を少し捲っている。
可愛い……
次々に皆がおかわりをして行く、負けじと自分もおかわりに立ち上がり皿に盛り付ける。
いつも教員が居る場所に座った山田さんは何も食べていない。
木『山田さんは食べないんですか?』
「うん、味見でお腹いっぱいになっちゃった。皆足りるかな?」
木『凄く美味しいので皆止まらないんです。』
「ありがとう、嬉しい♡」
木『片付けは皆でやるので、山田さんは少し休んで下さいね』
「うん。」
木『慧君、4回目おかわりは反則です!!!』
田『弱肉強食っ!!!』
木『そうはさせないっ!!!』
30分で全てが無くなった。
全員が短時間ではち切れる程詰め込んだ
凛『わん、動けないさー』
甲『俺も……ゲフッ』
田『食休み……』
知『昼寝……』
皆が一斉に床に転がった。
冷たい床が焼けた肌を冷やしてくれる為直ぐに皆が寝息を立て始めた。
木『まるで動物園のアザラシですね……まぁ、日も高いですから14時まで休み時間にします。』
そう言った俺も睡魔に襲われてる
準備室のドアが開くと山田さんが教員机の影へ俺を手招きした。
「木手君も少しお昼寝しなよ!貸してあげる!!!」
そう言ってゴーヤ枕を差し出す。
あぁ……もぅ……なんて可愛い人だ……
そっと枕を受け取って隅に陣取ると枕に頭を乗せた。 柔らかいのにしっかりしている大きな枕……
寝ぼけた意識で山田さんを手招きした。
「ん?何?ちょっ……」
近くに来た彼女を捕まえて横向きに寝転んだ腹の前に引き寄せた、くるりと背中を向けた彼女は大人しくそこに座ってくれた。
木『2時前に……起こして……』
「うん。」
ふわふわ旅立つ意識、ひんやりした床が気持ちいい、腕の中には山田さんに借りた抱き枕…… このままずっと眠り続けたい……
14時……
凛『なんでこいつら一緒に寝てるんば?』
先に目覚めた平古場は見てしまった
教室の隅、見えにくい教員机の奥で花愛用の枕に永四郎が寝ていてその腕枕の中、後ろから永四郎に抱き締められる形ですやすや気持ち良さそうに眠っている花の姿を……
凛『ま、いっか……永四郎っ……2時』
木『……2時……』
平古場君の声に目を開けハッとする。
抱き枕だと思っていたのは山田さんだった。 俺の腕枕で気持ち良さそうにすやすや眠っている。
木『ひ、平古場君っ…あの、これは……』
平『シー!!起きるやっし』
木『……えぇ、』
そっと腕枕を引き抜いて隣の準備室からタオルケットを持って来てそっとかけた。
静かにレギュラー陣を起こし午後練に向かわせる。
俺と平古場君でメンバーの食器を山田さんから1番離れたシンクで静かに洗う。
平『…………永四郎……』
木『…………』
平『花の事どう思ってるんば?』
木『…………それは』
平『わんは、永四郎になら花を任せられると思ってる』
木『平古場君……』
平『あいつ守ってやらねぇと本当は泣き虫だからよ、もし、永四郎が花を良いと思ってるなら……』
木『……えぇ……』
平『花には絶対幸せになってもらいたいさ……ならねぇーと困る。』
木『彼女が俺を望むなら、俺は……』
「んーーーーー!!!!ふぁ〜!!!……あ、ごめんっ!寝ちゃってた!!!私やるから2人共練習行って!!!」
まだ眠そうな彼女は目を擦りながらこちらに来て平古場君を押し退けた。
俺を寝惚けた目で見上げると少し笑って見せた。
「ほら、木手君も!!!」
木『……えぇ……』
抱き締めてしまいたい程可愛い寝起きの顔にやられながら頷き、平古場君と2人で練習に向かった。
歯切れの悪い俺に平古場君はそれ以上答えは求めなかった
まだ照り付ける太陽の下で試合型式の練習を始め各自の弱点克服の為ガットが切れるまで打ち合った。
高校最後の夏、テニスをするのは最後の者もいる、行ける所まで行きたい…
俺達の夏は人生の中でこの夏が1番の青春になるだろう。
19時までボールを追いかけると風に乗ってスパイスの良い匂いがして来た。
凛『……花!!!飯ぃー!!!』
平古場君が家庭科室に向かって叫ぶと
山田さんが×と大きく手で示す。
平『まだか……しぬっ……』
そこから10分。
田『我慢ならないさー、俺手伝って来る!!!』
デブが走り出した。
木『慧君っ、待ちなさいっ!!!』
待つ訳もないデブが跳ねながら走り去る姿に皆が俺をじっと見る。
手伝うでは無く、出来たら1番にあいつが食うに決まってる、皆の心の声がダダ漏れだ……
木『……ったく……俺の分も取っておいて下さいね。デブを止めてください。俺は片付けてから行きます……って、もう居ない……』
言い終わる前に全員が走り出していた。
1人残されたコートでボールを集める、赤く夕焼けに染まる空が綺麗だった。
「木手君、手伝いに来たよ〜!!!外まだ暑いね〜」
木『山田さん……』
「ちょっとクーラーで体冷えたから温まりに来た!!!ボール集めればいい?」
木『えぇ……』
「木手君と私の分は別にして隠して来たから大丈夫だよ!!!」
木『……ホッとしました(笑)』
2人でボールを集めると、コートをならす
大きなブラシを引く、ジャージ姿の山田さんが夕焼けに照らされて俺の胸を熱くした。
「私さー部活した事ないから、なんかこう言うのいいね♡」
木『えぇ……青春って感じがします』
「木手君、誘ってくれてありがとう。」
木『いいえ、こちらこそ。さて、戻りましょうか。』
「うん!!!」
戻ると案の定鍋も炊飯器も空。
床に転がるメンバー達が白目を向いて幸せそうに唸っていた。
凛『もー食えねぇ〜腹爆発するっ』
平『俺も……しに食い過ぎた……』
田『カレー最高!!!ゲフッ……』
知『もぅ、やばい……』
不、新『……このまま寝たい……スヤァ……』
木『皆、シャワーに行きなさいよ。』
「フフフッ……鍋分けといて正解だったね。」
木『獣です。ったく。』
山田さんの後に着いて準備室に入る… 小ぶりの鍋に普通サイズの炊飯器がタオルケットで隠されていた。
準備室の応接セットで2人カレーを食べる。
サラダとコンソメスープ
木『こ、これは……』
「木手君には特別にゴーヤカレーどうかな?」
木『美味しそうです。頂きます。』
夏野菜カレーですね、メンバーはゴーヤ嫌いですから、わざわざ俺の為に……
程よい苦味、ゴーヤに絡むスパイスがまた疲れた体に染みる
木『最高です!!!』
「良かった〜!!!」
木『あぁ……もぅ、一生、君の料理を食べていたいっ……』
「え……」
無意識に心の声が出てしまった事にも気付かず一心不乱に食べ進めておかわりもした。
鍋にルーを一滴も残さない程全てを食べ尽くした。
2人並んで食器を洗い、鍋、炊飯器も綺麗に拭きあげた。
木『ご馳走様でした。大変っ美味しかったです。はぁ……幸せです。』
「沢山食べてくれて嬉しい!!」
木『明日の朝食は俺も手伝います。』
「うん。」
木『……おや、あいつらやっとシャワーに行きましたね。俺達も行きましょうか……』
「え、あ、うん。」
木『大丈夫です、山田さんは隣の女子テニス部のシャワーを使って下さい。許可は取ってあります』
「分かった。準備する。」
木『着替えを取ってきます。迎えに来ますから、ここで待っていて下さい』
「うん」
少し離れた多目的室が俺達が滞在する部屋、荷物が散らばった光景に溜め息を吐きつつ、まぁこんなもんかと鞄からタオルと着替えを取り家庭科室に戻った。
木『山田さん、』
「はーい!」
カゴとトートバックを抱えた山田さんがニコニコしながら来る。 可愛い白い籠にはシャンプーやコンディショナー、洗顔、などが詰め込まれている。
「木手君は荷物それだけ?」
木『えぇ、シャワー室に全て置いてあります』
「あ、そっか、皆いつも学校でシャワー使うんだもんね、あーなんかこう言うの楽し〜!!!あ!!!ドライヤー忘れたっ……」
木『俺のを貸しますよ』
「良かった〜!あ、木手君の降ろした髪が見れる?」
木『えぇ……まぁ、そうなりますね』
「初めて見る〜(笑)」
木『別に普通ですよ(笑)』
部室の前で鍵を渡し、またここでと分かれた。 30分程してまた合流し、家庭科室へと戻る、メンバー達はもう多目的室でひっくり返っている頃だ。
山田さんは濡れた髪を拭きながら明日の飯の量を心配している
家庭科準備室に戻ると、山田さんは俺のドライヤーで髪を乾かし始めた。
俺は準備室の冷凍庫の奥に隠していたアイスクリームを出す、山田さんの為に3日分用意した。
ドライヤーをしている彼女の目の前に置くとドライヤーを取り上げ彼女の柔らかい髪に風を通す。
「ちょっ……木手君っ……」
振り返りそうになる彼女の頭を手で抑えアイスを指さすと、恥ずかしそうにアイスを食べ始めた。
髪が前に垂れないように、斜め45度から艶を出す、半乾きになったら一旦冷風でキューティクルを閉じるそれからまた温風で完全に乾かしまとまるようにまた冷風で冷やした。
木『はい、出来ました。』
「ありがと……木手君、美容師になれるね……」
木『髪には拘りがありますから(笑)』
「流石です。」
アイスを頬張りながら笑う山田さんは何時もより幼く可愛い。
木「まだ冷凍庫に沢山ありますから、好きなの食べて下さいね。」
「嬉しい!ありがと」
それから少しソファーで話をしながら山田さんが持って来たタブレットで料理の動画を一緒に眺めた。
味付け、焼き加減、茹で加減、調味料の好み等山田さんは細かく俺に聞いた。
ついでにメンバーの好みも……
熱を溜めた体が眠気を誘う。
山田さんの傍に居ると何故か安らぐ、俺は不覚にもそのまま眠ってしまった。
外の気温が下がりクーラーが効きすぎていて山田さんが俺に抱き着いて来た感触で目が覚めた。
クーラーのリモコンまでは手が届かない……
タオルケットを山田さんに掛けてその上から抱き締めた、冷えた耳を手で包み温めると安心した様に体の力が抜けていくのが分かる。
小さな子供を眠らせるように優しく、起こさないように深く……
愛おし過ぎる、合宿が終わったら気持ちを打ち明けてしまおうか、でももしダメだったらもう彼女の料理が食べられなくなるかもしれない、今のままで居た方が…… 山田さんは俺を少しは好いてくれているのだろか……
そんな事を考えている内にまた睡魔に襲われた。
次の日の朝6時、アラームに起こされると山田さんの姿は無く隣から物音がしていた。
木『おはようございます。』
「おはよう、木手君」
慌ただしく卵を大量に焼いている山田さん。
木『顔を洗ったら手伝います。』
急いで顔を洗うと隣でウインナーを焼く。
テーブルには手作りジャムの瓶が並んでいた。 重たい鞄の中身はジャムだった様だ
凛『おはよーーー』
ボサボサ頭の金髪が眠そうに入って来た。
『「おはよう」』
2人で出迎えると、少し笑った平古場君はパンを焼き始めた。
凛『永四郎ぉ、髪やって来いよ。わんがやっとく』
木『えぇ……10分で済みます』
凛『へいへーい』
俺は2人を残し多目的室に戻った。
まだみんな夢の中
ワックスとクシ、鏡を手に取り手洗い場で素早くセットを始めた。
朝食はゆっくり取れそうですね……
こうして俺達の合宿2日目が始まり地獄の特訓をこなした。 ランニング10km、個別の肉体改造、遠泳10kmからの試合。
山田さんの食事だけが俺達の救いだった。
食事の後は皆冷たい床で体を冷やし、食べすぎた腹を休ませた
2日目の夕飯の後シャワーを浴びると皆直ぐに気を失う様に眠る
ハードなメニューに不知火、新垣も必死に付いてきている、他のメンバーも弱点克服、新技の習得に頑張っている。
大会まで後2ヶ月、俺ももっと肉体を追い込むつもりでいる。
その為にはしっかり食べなければ……山田さんの手料理は欠かせない物になっていた
木『おやすみなさい。』
今日は多目的室で眠る事にする。
静かなフロアにメンバーがそれぞれ好きな場所に転がっている。
俺は角に引いたマットの上で目を閉じた
今日も、3食幸せでした……
明日は最終日。
体を揺すられて目を開くと、不機嫌な平古場君が俺を揺すっていた。
木『ぬーが……平古場くん……』
平『んー』
平古場君の見る先には、平古場君のマットの隣に転がる山田さんがいた。
ゴーヤ枕とタオルケット持参でスヤスヤと気持ち良さそうに……
平『独りじゃ怖かったんじゃねー?夜の学校だしよー昨日は独りじゃかったしなー』
木『……確かに……』
平『場所変われ!わん、こっちで寝るからよー』
平古場君は引き摺ってきたタオルケットを被ると俺のマットで眠りについた。
タオルケットを持って平古場君のマットに向かう。
木『俺の所に来てくれればいいのに……』
そっと彼女の体をマットに乗せて隣に寝そべった。 ゴーヤの枕を抱き寄せながら眠る山田さんを後ろから包む。
きっとこの部屋も彼女には少し寒い筈だ……
自分のタオルケットも一緒に被ると眠りに落ちた。
最終日、目が覚めるとまた彼女はもう居なかった。 まだ皆が静かだ、俺は顔を洗って朝食の手伝いに向かった。
木『おはようございます』
「お、おはよー///」
少し気まずそうな彼女、まぁ平古場君の隣で寝たつもりが起きたら隣に俺でしたからびっくりしたんでしょうね。
平静を装って彼女の隣で卵を焼く
今日の朝食は和食。
ご飯、焼き鮭、豆腐と揚げの味噌汁、納豆、海苔、卵焼き、お漬物
朝は皆あまり食べないので、量は少なくて済む。 少ないと言っても普通の人よりは皆食べる……
家庭科室の大きなオーブンで一気に大量の鮭が焼き上がる、良い匂いだ……
木『美味しそうですね……早く食べたいです』
「もうすぐご飯炊けるから、もう少しだけ待ってね」
木『はい。最高の朝食です……』
ゾロゾロとゾンビ達が起きて来た、俺は髪をセットしに多目的室に戻った。
美味しく朝食を頂いて、それぞれに食器を洗い、最終日のランニングで出発した。
「行ってらっしゃ〜い」
山田さんに見送られて皆腹も満たされ気合いが入る。
『『『はいでぇ〜!!!比嘉高〜!!!』』』
昼は大きなホットプレートを幾つか並べペッパーランチand焼きそば!!!
その隣は鉄板パスタでナポリタン!!
炭水化物で午後のパワーを補充
我先にと皿に山盛る!
凛『慧君、皿4つはずるい!!!』
田『うるせー』
平『しにうめぇーーー!!!』
知『おかわりっ。』
『『『!!!!!!!!!!』』』
残量を見ながら山田さんがどんどん追加してくれる為掴み合いにならずに済みそうだ…
満足した腹を抱えて冷たい床で昼寝
こんなに幸せな合宿は初めてだ。
午後も立てなくなる程、晴美にやられた
吐きそうになりながらも頑張れた。
山田さんが待っていると思うと耐えられた
記憶も曖昧に成程ヘトヘトになってコートに倒れ込んだメンバー達、それぞれが何かを掴んだ自信に満ちた顔をしていた。
凛『しに腹減った〜』
あぁ……そうか、夕飯はもうそれぞれの家でか…… きっと皆同じ事を考えているに違いない。
山田さんはもう荷物を持って家に帰ったでしょう。
バイト代、渡すの忘れてました、後で届けなくては……
「皆〜!!!ご飯だよー!!!」
山田さんの声に皆一斉に起き上がり声のする方へ走り出す。
声の先には裏庭に続く通路で手を振る山田さんがいた
皆の後を追うと、裏庭に辿り着いた
そこには大きな鉄板に網が用意されていて、大量の肉のパックが積まれている
その横には大量のおにぎりも……
木『山田さん、これは……』
「合宿お疲れ様の打ち上げ〜!」
木『いつの間に……』
「木手君、お疲れ様!さ、食べよー!!!」
『『『『お疲れ様〜!食うぞ〜!!!』』』』
皆自身で肉のパックを抱えどんどん焼いては口に運んで行く
平『慧くん、それは俺の肉!!!』
田『ぬーが!知らん!』
凛『花〜!コーラ何処?』
「こっちのクーラーにある〜!!!」
知『俺もコーラ!!!』
不、『新垣っ、国産和牛のパックは守れ』
新『はい!!!コソッ……』
木『これはっ、鹿児島産、国産黒毛和牛……ミスジ……だとっ……』
肩ポンっ……
平、甲『永四郎ぉ……1人で食べる気か?……』
木『…………取れるものならっ……!!!』
大騒ぎの裏庭BBQ、俺達の夏合宿はこうして幕を閉じ様としていた。
皆で協力して片付けを済ませ、道具は明日山田さんのお母さんが車で取りに来てくれるので庭の隅に纏めシートをかけた。
大きな荷物をぶら下げでそれぞれが帰宅の途についた
木『山田さん、お疲れ様でした。これバイト代です。』
「いらないよー、私すっごい楽しかった!もう大満足!!! お金なんていらない!」
木『ダメです!これは君の料理の対価ですからっ!これからも……君の料理が……食べt……手が……』
バイト代を握らせた手が熱い……
汗が出ていない…… 少し白い顔……
木『山田さん、いつから気分が悪いんです?』
額に手をやると随分熱い
「え?気分?悪くないよー!さっきちょっと寒いなーって」
木『熱があります、帰りましょう。歩けますか?』
「歩けるよー!!!ちょっとフラフラする。疲れたのかなー?」
木『ダメですね、ちょっと失礼っ!捕まって!!!』
彼女の手を取り背中に背負う、荷物は明日取りに来ればいいとシートの下に押し込んだ。
裏庭から道路に出て彼女の家へ……
この時間は誰も居ないか、店の方へ回るべきか……
店内は混んでいる筈… 背負ったままでは通路を通れない。
10分で家に着いた、
木『山田さん、鍵は?』
「多分ねぇ〜ポストの下の植木鉢の〜下っ……にねぇ……あるぅ……」
背中がどんどん熱くなって来る、きっと熱で訳が分からなくなって来ている、呂律の怪しい山田さんはくったりと俺の背中に張り付いている。
落とさない様ゆっくりしゃがみ鍵を取り出す。
ロックを開き靴を脱ぎ捨てる
木『君の部屋は?』
「1番……奥……左ぃ……」
木『ここですね』
可愛らしい白で統一され部屋、
厚みのある大きなベッドに彼女を寝かせフワッと布団を掛けた。
裏手にある店でお母さんに報告しなければ……
木『ちょっと店に行ってきます、大人しく寝てなさいよ!』
「はぁ〜い」
息を切らして店の裏口を開けると山田さんのお母さんが驚いた顔をした。
木『ハァハァッ……すみません、花さん熱がっ……今部屋に連れて……っ……』
〈 あら、そう、ちょっと店混んでるから、木手君頼んでいい?〉
木『勿論です』
〈 台所の棚の中に薬、冷凍庫にアイス枕、冷蔵庫に冷えピタ、大丈夫!あの子熱には強いから!頼むさー!!!〉
木『はい』
〈 なんかおかしかったらすぐ呼んで!〉
木『はい!!!』
大急ぎで家に戻ると冷凍庫からアイス枕を取り出し干してあったタオルを巻く、冷えピタを取り出し、棚の中に風邪薬を発見、部屋に戻り枕を取り替えた。
冷えピタを額に貼ると顔を顰めた山田さんが剥がそうとする
「冷えピタ……嫌いっ……ネトネトするっ……」
木『ダメです、貼っとかないと……』
「やだ……嫌いなのっ……」
剥がした冷えピタは壁にビタンッと投げられた。
木『とりあえず薬を……起きれますか?』
「……無理ぃ…………体っ……痛い……っ」
木『飲まなきゃ、下がらないでしょうが、』
彼女の口に錠剤を押し込むと、持って来たポカリを口に含み彼女の中に流し込んだ…… 口の中も焼ける程熱い……
薬が飲み込まれたのを感じて唇を離した
ぽーっとした半目の彼女のおでこを触り、冷えピタをまた乗せる。
木『タオルを冷やしてきます。』
台所でボールに氷水を作り、干してあるタオルを2枚取り部屋に戻った。
1枚をボールの下に引き、もう1枚を固く絞った。
彼女の嫌いな冷えピタを剥がし、冷えたタオルを額と目を覆う様に置いた。
「……きもちいー……冷えるぅ……」
木『そばにいるから、寝なさい』
彼女の燃える様に熱い手を握ると、やんわりと握り返された。
5分程するとすぅすぅと寝息が聞こえ始めた、まだ少し辛そうな唇……
握った手は力が抜けて深い眠りに落ちたのが分かる。
タオルを取りまた氷水で冷やす、固く搾って乗せる、何度もそれを繰り返した
窓から月明かりが彼女の机を照らす
立てて置かれた本の隙間から白い封筒が少しだけ見えていた。
見覚えのある封筒……
俺は起こさないように息を殺してその封筒に手を伸ばした。
手に取った封筒は間違いなくあの白い封筒だった……
まだ封の閉じられていない中身には
願いが叶いますように
私の作るご飯をもっと食べて欲しい
ずっと美味しいって褒めて欲しい
私を好きになってくれたら嬉しい
早く木手君が私に気付いてくれます様に
彼女の願掛けだろう……
木『君でしたか……早く気付くべきでした……』
彼女の横に座り手を握ると、熱さが少しづつ和らいで行くのが分かった。
薬が効いて来たんでしょうね……
良かった、ホッと胸を撫で下ろすが鼓動は早いまま熱くなるのは俺の方だった。
「……んんっ……あれ、木手君……?」
木『無理をさせてすみません。まだ寝ていて下さい、薬が効いているだけです』
「……私、学校から……どうやって……あれ?……っ……」
木『何も心配いりません、それと、見つけるのが遅くなってすみません。君だと気付くべきでした。ヒントが難し過ぎです』
白い封筒を見せると、彼女は真っ赤な顔で起き上がって封筒を取り返そうとした。
その手を捕まえて顔を寄せた。
木『好きですよ。花さん……』
1度目は看病の為でしたが、どうせ覚えてないでしょ?
まだ熱の残る唇にそっと重ねそのまま彼女をベッドに戻した、のしかかりながらおでこをくっ付けて囁く。
木『一緒に寝て欲しいですか?』
「………………っ」
真っ赤な彼女に落ちてしまったタオルで再び視界を塞ぎもう一度口付けた。
〈あーら、お邪魔だったさ〜。婿殿後はよろしく〜〉
『「お母さんっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」』
END