比嘉 短編
君の名は?
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早朝の下駄箱、俺の上履きの上に乗る白い封筒が1つ…
木手君へ、そう書かれていて裏に差出人の名前はない。
上質な封筒はとても触り心地が良くガサツな果し状では無い事は確かだった。
告白の呼び出しの手紙なら何度か貰った事がある、気持ちには応えられませんでしたが…… 今はテニスの事しか考えられない。 正直女子に構う余裕は今の俺には無い
その封筒を開けるべきなのか迷ったが、気持ちを伝えるその人の緊張や恥ずかしさを無下には出来ない。
封筒を鞄に仕舞いトイレに向かった。
個室に鍵を掛けると丁寧に施されたシーリングスタンプを剥がした。
木手君へ
私を見つけてくれたら嬉しいな
さて、私は誰でしょう。
綺麗な文字でそう書かれている
探せと言われても何のヒントもない。
こんな事をする人は今の所心当たりは何人かいるが、私は誰でしょうなんて挑戦めいた言い方が思い当たる人の性格とは少し違う気がした。
正直探す気にはならなかったが、頭の片隅に解けない問題がチラついて邪魔だ。
冷やかされたくないので誰にも言わない。
次の日も白い封筒があった。
木手君へ
ヒント おばあ
さて、私は誰でしょう。
ヒントがおばあって……何のヒントですか…… あぁ……面倒だ……
きっと俺の様子を伺ってるはず、周りの視線を見ればその内正体を表すでしょう。
その次の日も、そのまた次の日も封筒は入れられている。
ヒントは、蛇。
もうひとつは、逃亡者
封筒があるのは決まって朝イチ。
俺より先に登校している誰かって事でしょ? 同じ学年とは限らない……
早く名乗り出てくれた方が楽なのにとため息を吐く
何のつもりなのか全く。
甲『木手ぇ……どうしたんば?』
『いえ、大した事はありません』
甲『…………なんか悩んでんのか?』
『……大丈夫です』
ここ数日ぼんやりしているのは分かっている。 ヒントが頭の隅にチラチラして、簡単な様で解けない相手の意図が汲み取れなくて俺をイラつかせる
誰だ…… 君は……
おばあ、蛇、逃亡者、共通点……
「木手君、次家庭科だよ〜」
『…………』
「木手君ってば!」
『……あ、山田さん……』
「早く、遅れるよ」
『えぇ……』
山田さんはうちのクラスの委員長で、あまり話した事はないが、面倒見の良いクラスメイト、柔らかな優しい声をしている。
そして、今日料理が上手いことに気が付いた。
手際良く下拵えをしていき、俺は隣で見ているだけ、俺の好きなゴーヤチャンプルー
「木手君、見てないで手伝ってよ!」
『あ、はい。』
「はい、ゴーヤに塩やって」
『はい』
「豆腐はペーパーで包んで、上に重石」
『はい』
「甲斐君、逃げない!」
甲『なんで、ゴーヤチャンプルーなんば?あーー帰りてぇー』
「甲斐君はそば茹でる!」
甲『へいへい、ゴーヤーはくわないからな!』
「分かったから、やって!」
『………………』
「木手君は食べるよね?ゴーヤ」
『えぇ……』
沖縄そばとゴーヤチャンプルー
茹ですぎ、塩に漬けすぎ、焦がす班、家庭科室はカオスだった。
うちのクラスは料理が苦手な人が多い様だ
山田さんが炒めたゴーヤチャンプルーはお店の様に完璧でした。 俺の希望で苦味を強く残し硬めのゴーヤ、味付けも濃いめにしてもらい卵は少なめ、鰹節はたっぷり。 今まで食べた中で1番俺好みの美味しいチャンプルーでした。
「甲斐君、食べないの?」
甲『食わない!そばだけでいい!』
『山田さん、そんな奴に食べさせなくても俺が全部頂きます。』
「美味しい?」
『えぇ、とても』
「良かった!」
昼食を兼ねた4時限目はとても幸せでした。 美味しかったお礼に片付けは俺が引き受けた。
傍で椅子に座った山田さんがスマホを弄りながら何やらニコニコしている。
『山田さん、上手ですね、とても美味しかったです。』
「木手君に褒められるなんて嬉しい!」
『君の未来の旦那さんが羨ましいですよ』
「……へ、旦那?」
『毎日、君の美味しい手料理が家で待ってると思うと真っ直ぐに家に帰りたくなります』
「……そ、そうかな。……木手君の奥さんも羨ましいよ、」
『どうしてですか?』
「ちゃんと美味しいって褒めてくれて、片付けまでしてくれる。生ゴミまでちゃんと……フフフっ」
『シンクを綺麗にするまでが片付けです!』
「意外と几帳面なんだねー」
『また気持ちよく料理を作って欲しいですからね』
不意に写真を撮られて驚くが、嬉しそうな山田さんに文句は言えなかった。
後で聞いた話、山田さんのInstagramにはエプロン姿の俺が投稿されていた。
タグには、理想の旦那様 ……と。
次の日の朝また封筒はそこにあった
ヒントはかき氷
もう内心どうでも良くなっている
それより山田さんの作ってくれたゴーヤチャンプルーが忘れられない
もう二度とあの味を堪能出来ないのかと思うと心底残念だった。
どうにかあの味をもう1度食べる方法は無いかと考える
教室の中で山田さんの姿を目で追う事が増えて行った
胃袋を掴まれるとはこういう事なんでしょうね…… 山田さんの他の料理も食べてみたい… そう願う様になっていった
夏休みの合宿で食事を作ってくれないだろうか……
彼女の料理が食べられるならキツい練習も頑張れるのに。
『山田さん……夏休みは暇ですか?』
思い切って山田さんを呼び止めた
「……いつ頃?」
『8月の1.2.3.辺り』
「あー日にちがハッキリすれば空けられるとは思うけど、何で?私家の手伝いしなきゃいけなくてさ……」
『そうですか、テニス部の合宿があるんです、マネージャーをお願いしたくて……』
「マネージャー……って何すればいいの」
『……主に飯を……』
「あー分かった、木手君、私の料理が目当てでしょ!」
『……///……えぇ……』
「バイト代出すなら考える!」
『分かりました、俺がお支払いします。3日で3万!!!!』
「乗った!!!!」
ガッチリ握手を交わす、1日1万払ったって彼女の料理を食べたい
お年玉から捻出する事に決めた
「何が食べたいか献立は木手君が決めといてよね、予算は合宿費から出るんだよね?」
『えぇ、勿論です。』
「人数は?」
『10人位です、レギュラーの合宿ですから』
「分かった、じゃぁ、決まったら連絡して」
『はい』
俺は有頂天だった、夏合宿が楽しみ過ぎて届く封筒も開けずに鞄に仕舞っては部室のロッカーに溜め込んだ。
夏休みも間近に迫った放課後山田さんを探して教室に向かうと話し声が聞こえた。
山田さんの声と帰った筈の平古場君の声……
「凛っ……心折れそうだよ……全然じゃん!凛のせいだからね……もぅ……凹む……」
平『心配し過ぎなんばーよ花は!わんがいるやっし、な?合宿も一緒にいられるんだからよー』
ドアの窓越しに見えた光景は、平古場君が見た事も無い優しい顔で山田さんの頭を撫でていて、山田さんは上目遣いに平古場君を見上げていた。
愛おしそうに髪を撫でて平古場君が顔を近付け…… 見て居られませんでした。
直ぐにその場を離れ海へ向かった
あの二人そう言う事になってたんですね
通りで合宿もOKした筈です
『はぁ……』
楽しみを失ってしまった俺はまたぼんやりと毎日を過ごす、合宿中あの二人の仲良さげな光景を俺はどんな顔で見ればいいんだ。
一学期最後の日、部室のロッカーから出て来た封筒の束を鞄に押し込んだ、凝りもせず届いていた封筒の数は30通程。
家に帰りそのままゴミ箱に入れても良かったのだが、失恋モードの俺はこの差出人ももどかしい気持ちなのかもしれないと開ける事にした。
パイナップル、オレンジ、酒、バーガー、食べ物ばかりのヒント…
溜め込んでいた為届いた順番は分からなくなってしまっていて、手当たり次第に開く封筒
木手君へ
きっと見つけてもらえないね
残念っ。
見つけて欲しかったな……
そんな手紙が混じっていた。
木手君へ
今日も木手君に会えて嬉しかった
気付いてくれたらいいのにな〜
差出人の気持ちには応えられない
きっとこの差出人も俺と同じ胸の苦しさを味わう
何とも言えない気持ちになった
『あ……』
この差出人は先輩とは書かない
後輩なら木手君ではなく、木手先輩と書くはずだ…… と言う事は、同級生……か……
同じ様に辛い思いはして欲しくない
『はぁ……これも青春の1ページになるんでしょうね……』
最後の封筒を開けると
木手君へ
夏休みも沢山会えたらいいのにな。
沢山?少しは会うと言う事?
登校日?……いや、部活は毎日ある。
部活をしていれば校内で会う可能性もある……
少しモヤモヤと引っかかりながら夏休みを迎えた。
今日は海での遠泳。
小島まで2キロを泳ぐ、往復4キロ
照りつける日差しに肌を焼きながら泳ぎ続ける
レギュラーにとってはなんて事ない距離だ
監督が良いと言うまでこの往復は終わらない
2往復した所で砂浜に水を飲みに上がった
「木手君〜!!!差し入れ持って来たよ〜!」
元気な山田さんが手を振っている。笑顔が何とも可愛いらしい……
足元には大きなクーラーボックスや大きな鞄がいくつも置いてある
『……山田さん、どうしてここに……』
どうしてって、当たり前か……平古場君はまだですね……
「好きなの飲んで!それとね、そろそろお昼だからお弁当持ってきたの!」
『弁当っ!!』
失恋してても山田さんの料理は食べたい。
「皆、そろそろかな?」
『こんなに?』
保冷バッグからいくつものタッパーや弁当箱、紙袋が出てくる。
おにぎり、いなり、巻物、肉巻きおにぎり、唐揚げ、卵焼き、ウインナー、スパム、アスパラの肉巻き、トンカツ、ミートボール、コロッケ、そしてゴーヤチャンプルー、紙袋からはカツサンドやバーガー、ポテト、男子学生が飛び付きそうなものばかり。
『……これ、1人で作ったんですか?』
「え、うん。」
『1人でここまで持って来たんですか?』
「ううん、車でお母さんに運んで貰ったよ」
『大変だったでしょ?』
「……ま、まぁ……ね……だから!いっぱい食べてね!」
『はい、では、遠慮なく。』
他の部員を待ち切れず、おにぎり片手にがっついた、アレもこれも最高に美味い。
泳いだ後に砂浜のパラソルの下で食べる飯は最高です。
「木手君、そんなに慌てないで!」
『山田さん、最高に美味いです。』
「良かった!あ、ご飯ついてるよー」
『他の部員にあげたくないので……』
話す時間も勿体ない、俺が全部食べたいぐらいです。
「はい、ちゃんとスポーツドリンクも飲んで!」
差し出された紙コップを受け取って一気に飲み干す、波打ち際に部員の影はまだ見えない……
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岩陰に潜む平古場と甲斐の影。
平『裕次郎、まだ行くなよ、後5分はここで待つ』
甲『腹減った……俺も食べたい』
平『花の為やっし!』
甲『あー、え?もしかして、あの封筒の子って……』
平『花さー、永四郎の気を引く為の作戦さー』
甲『そんな回りくどい事しなくても……』
平『永四郎はみーんな告白断ってるさ、真っ直ぐ告ったって無理やっし!』
甲『なー山田さんと、凛いつから仲良いんば?』
平『えー親戚さー!幼なじみって所』
甲『話してるとこなんて見た事ないさ』
平『永四郎に誤解されたくないから近付くなだとよ…ったく……ちっせー時からあいつ泣き虫でさ、同い年だけど妹みたいさー。まぁ、上手くいってくれたらにぃにーは安心って事。』
甲『にーにーね……』
平『シー!!聞こえるから黙れって!』
甲『腹減って死ぬー』
察した他のレギュラーも平古場と甲斐の後ろに待機、5分程してわざとらしく泳いで合流した。
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『山田さん、大変美味しかったです。これで午後からも頑張れます!』
「良かった!頑張ってね木手君!」
『はい。合宿の時もよろしくお願いします。あ、メニューを渡してませんでしたね、今日部活が終わったら家に届けても構いませんか?』
「えっと、夕方は店にいるから店に来てくれる?」
『店?』
「うん、ハブ通りのゆんたくって店知ってる?」
『えっと……浜酒店の隣のですか?』
「そう!」
『分かりました。』
甲『木手ぇー置いてくぞー!』
「頑張って!」
『はい、ご馳走様でした、積み込みを手伝えなくてすみません』
「大丈夫、もうすぐお母さんくるから」
『では、夕方伺います。』
手を振って山田さんと別れた
はち切れそうになるまで食べた腹が重い…
美味すぎて心まで満たされた気持ちです。
こんなに幸せな気持ちになるなら、遠くから見ているだけでも…… 料理は食べたい……
ゆんたく…… 確か観光客にも人気の予約の取れない店とか……
コートでの午後練をこなし直ぐに山田さんの居る店へ向かった。
沖縄色強いその店のドアを開けると中は満席、三線の音が響き大賑わいしている。
皆幸せそうに料理や酒を楽しみ踊り出す客の姿
カウンターの奥に忙しく皿を出したり戻ってくるコップを下げる山田さんの姿が見えた。
「あ、木手君こっち!」
山田さんが手招きする、客の間を塗ってカウンターへ向かった。
「ごめん、忙しくて、少し待ってて!」
〈 ビール追加!7番さん出るよー!!〉
〈 10番さんサワーまだか?って〉
〈 1番さん会計!〉
〈 花!!生樽持って来て!!〉
「えー!もぅ!私は1人やっし!!」
『あの、俺で良かったら手伝います。』
「え、木手君、ダメだっt」
〈 助っ人!!良い男さー!はい、これ7番さん〉
山田さんが止める間もなく手渡される大皿小皿、早く終わらせないと話も出来ない… 俺はエプロンを借りて料理を運んだ。
空いた皿グラスは持てるだけ持ち、出来上がる料理を運ぶ。
目の回るような忙しさ、一緒に踊れと煽る客を、やり過ごしビールを注ぐ。
終わったのは23時過ぎだった……
最後の客を山田さんとタクシーに乗せ見送った。
『はぁ……疲れましたね』
「木手君ありがとう、今日ホントに忙しくて……助かった……」
『弁当のお礼です。』
「ホントありがとう。」
〈 2人ともご飯食べな〜〉
「はーい!木手君もご飯食べてって!」
『では、遠慮なく……』
お母さんが、今日の残りを出してくれてカウンターで2人並んで食べた。
〈 いい男さー!!花、彼氏か?友達か?〉
「お母さん、クラスメイト!!」
〈 あんた、早くいい男捕まえなさい!うちは人手が足りないからさー!〉
「ちょっと、彼氏が出来たら使うつもり?」
〈 当たり前さーそのまま跡継ぎしてもらうつもりさー〉
「跡は私が継ぐから!!」
〈 ねーあんた、うちの花はどう?ダメかね?あんたみたいないい男が彼氏になってくれたら安心さー!!〉
「お母さん!!ちょっと!!もぅ!!」
『クククッ、楽しいお母さんですね』
「もう、木手君ごめん。」
『いいえ……クククッ……』
山田さんは苦笑いしながら席を立った
〈 えー花どこいくね〉
「トイレ!!」
恥ずかしそうに小走りで奥に入って行った。
カウンター越しにお母さんがじっと俺を見て真面目な優しい顔をした。
〈 あの子、学校ではどうかね?〉
『ええ、とても面倒見が良くて優しいです』
〈 そうね、無理しすぎるから、気にかけてやってくれると助かるさ〜〉
『はい。』
〈 父親が小さい時に死んだからね、私の事助けようと思ってるさ、熱があっても言わないし、いつでも気を張ってるから、心配さ〜私の子とは思えない程よく出来てる娘さ〜!!早く頼れる人捕まえてくれたら安心して任せられるんだけどね。本当は甘えん坊さー(笑)〉
『なんか、分かる気がします。』
〈 んで、どうね?あんた彼女おるんね?うちの子彼女にどうかね?あんたの働きぶりみたら私が惚れたいぐらいさ!〉
「お母さん!!!」
〈 あーうるさい!うるさい!! 片付けたら鍵閉めときなさいよー〉
お母さんは笑いながら奥へ入っていった。
「木手君……もぅ本当に……ごめん」
『楽しくて好きですよ』
「え!」
『お母さん』
「あ、お母さん……うん、いや、うるさいよね」
『元気でハツラツしていて一生懸命に働いて、自慢のお母さんじゃないですか!』
「……う、うん。」
『君も……お母さんみたいな素敵な……』
ガチャン!!!
平『えーー飯食いに来たさー!!!花!!!』
見慣れた金髪が勢い良く店に入って来た。
平『あ……あれ、永四郎……やーなんで……』
木『……はぁ……俺はそろそろ……』
「…………木手君、今日はありがとう。」
木『いえ、こちらこそ……ご馳走様でした。………………』
何か忘れてる様な……
木『あ……』
「あ……」
平『……?』
木『肝心な事を忘れてました……』
カウンターに座り直し鞄から合宿の予定表と献立表を出す。
隣に座った山田さんがそれを覗き込む。
平『……花……飯……』
「冷蔵庫、自分でやって!」
平『へーい。』
カウンターの中で慣れた様子で冷蔵庫かを漁る平古場
木『食材は当日家庭科室に届きます、部員はそのまま家庭科室で食事します。寝泊まりはしてもしなくても大丈夫です。ただ……朝食が……』
「大丈夫、泊まりでも。」
木『部員も皆で手伝う様にします。』
「分かった。」
木『1日の9時集合なので朝食は2.3日、3日は6時解散なので夕食は1.2だけで。足りない物があれば連絡して下さい俺が追加で頼んでおきます。』
「他にやる事は?」
木『いえ、食事だけでも大変でしょ?他の事は各自やらせます。』
「分かった。」
木『無理言ってすみません。』
「いいえ!」
平『…………』
〈 ただ飯喰らい!!今日も来たか!凛!!〉
平『あ、おばちゃん!腹減った』
〈 さっさと食って帰れ!!!〉
平『へーい』
〈 花、凛だけはダメだ!こいつは使えねさー〉
平『やーこっちがお断りさー!!』
〈 お前に大事な娘やらねーよ笑〉
平『いらねーよ』
「2人ともいつもこんな……仲良いのか悪いのか……」
木『………………』
「………………あ、あのね……えっと、凛は、えっと、親戚なの……」
木『……親戚』
「そう、ひーじいじがいとこ?だっけ?」
〈 とおーーーい親戚!近所だからって飯ばっかり食いに来やがって困ってるさ〜(笑)〉
平『えー用心棒さー!!!花だって小さい時は凛ちゃん!凛ちゃん!って可愛かったのによー』
「……何年前の話しよ……」
木『……幼なじみ……って事ですか……』
「うん、まぁ、そんな感じ。」
木『………………』
平『永四郎?どうしたんば?』
木『いえ、俺はそろそろ……』
「そこまで送る」
2人で生温い風に吹かれてゆっくり歩いた。
「なんか煩くてごめんね。木手君」
『いえ、あの、はっきり聞いておきたいんですが、平古場君とは……』
「……凛?良い奴だよ、にぃにーみたいな。あんなだけどさ。」
『そうですか。』
俺が入る隙間もまだ残されているかもしれない。 もっと近い存在になれたら……
「木手君も凄く良い人だと思ってる…」
『君もね』
「じゃぁ、また合宿で!」
『えぇ……おやすみなさい』
「今日はありがと、じゃぁ!おやすみ!」
元気に走って帰っていく彼女の背中を見えなくなる迄見送った。
良い人で終わりたくない…
疲れ過ぎた体は重かったが、走って帰れる程元気だった。