氷帝 短編
君の名は?
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「「「跡部様ぁ〜!!」」」
本日も跡部様は素敵です!
黄色い歓声に混じって1番後ろでそのお姿にうっとり♡
あぁ……今日もなんて素敵なの、私これで今日も一日頑張れるっ!
高等部から氷帝学園に入った私は入学式で出会ってしまったのだ、跡部様に…
取り巻きの皆様の邪魔にならない様に1番後ろにくっ付いて目立たない様に遠くから跡部様を見守る
クラスが同じだと分かった時は失神しそうになった、席は教室の端と端。
目が悪いので私は窓側の1番前
跡部様は廊下側の1番後ろ……
授業中に跡部様のお姿を見られないのは仕方がない、クラスの中でも常に1番遠くをキープしている。
本当は隣のクラス位が丁度良かったのだけれど、毎日お姿が見られるだけで幸せ♡
推しは遠くから見るのが1番!
平和に幸せを毎日手に入れられるし、ポテンシャルも上がる、トラブルに巻き込まれず、成績も自然と上がる!いい事づくめ。
私は3年間このポジションで推し活に励み充実した学園生活を手に入れると心に誓ったのだ!
国語の時間……
朗読される声が素敵♡
数学の時間……
黒板に答えを書かれる後ろ姿が近いっ!!
英語の時間……
あぁ……もうネイティブ過ぎて耳がっ
体育の時間
体操服姿も素敵♡
優雅に昼食を摂られるお姿が優雅過ぎて、私はクッキーも喉を通りませんっ
午前中だけでもこんなに幸せ♡
人間こうして慎ましく目立たぬ様に生きているのが1番幸せなんだからっ!
ウキウキで午後の授業前にお花を詰んでおく
(あーすっきり!)
ハンカチで手を拭き廊下から教室へ向かう150cmチビの私。
『……っ……馬鹿か……』
後ろから跡部様のお声が聞こえた様な……
不意に後ろから腰に何かされて、くるりと壁に押し付けられる、思わず叫び声をあげてしまった。
「きゃーー!!!!んぐっ!」
直ぐに大きな手で塞がれた口、目の前には跡部様の麗しきお顔が…… 離れた手が壁に……
『てめぇ、きゃーじゃねぇ!スカートがめくれてる、丸出しだぞ!』
丸出しっ……
…………
……
下を確認すると、跡部様のブレザーが私の腰に巻かれていて、跡部様がそれを落ちない様に手で持って下さってる…
思わず座り込みそうになる私、だって周りから見たらまるで壁ドン……からのっ……ダメですっ……跡部様ッ……
『早く治して来い、このままトイレに行け!ほら!』
上着をグッと絞められてコクコクと頷く
そして、一目散に跡部様の壁ドンの腕の下を通って出て来たトイレに舞い戻った。
個室で上着を外すと、見事にスカートがおパンツにIN!
こんな無様な姿を跡部様に晒してしまうなんて何たる不覚、否もう退学処分!!
屋上から飛び降りたいっ!
上着返さないと……
おずおずと教室に戻り、跡部様に近付く
やっと手が届く位の距離感で上着を差し出した
「あの……ありがとうございました。汚い物見せてごめんなさいっ!」
跡部様の顔は見れない…
消えてなくなりたいっ
『ふんっ……気を付けろよ、いちごちゃん!』
「………………」
いちごパンツでごめんなさい……
顔を両手で隠して走って席へ戻り、机に突っ伏した。二度と顔をあげられない
耳に残る跡部様の声
(気を付けろよ、いちごちゃん。)
ダメ、もう終わった……
明日は休もう、否、3日休もう、立ち直れない。
午後の授業は全く耳に入って来なかった
私の平穏な学園生活さようなら
ホームルームが終了すると直ぐに荷物を纏め教室から走り出した。
『……おい!落としたぞ!』
遠くで跡部様の声が聞こえた気がしたけど、気のせい。私は1度も振り返らず迎えの車に逃げ込み家に帰った。
そして3日休んだ。
4日目、お母様にいい加減にしなさいと家から叩き出された。
正門前で車を降りる、騒がしい教室に入り机に突っ伏した。
『おい、いちご何で3日も休んだ…風邪でも引いてたのか?』
頭上から声が降って来て顔を上げた。
落ち込み過ぎて跡部様の声だと判別出来ず椅子ごと後ろに仰け反る。
『危ねぇ!』
跡部様に腕を捕まれてひっくり返らずには済んだけど、その澄んだブルーの瞳に思わず目を伏せる。
心臓が爆速で早鐘を連打しまくる
血圧急上昇で鼻血が吹き出しそう
腕を引かれ椅子が元の位置に戻ると、手が離されて、俯く私の視界は机のみ
そこに大きな手が伸びて来て見覚えのあるいちご柄のハンカチが置かれた。
『落としてたぞ……』
「あ……ありがとう…ございます……」
『……フッ……いちご好きなのか?』
鼻で笑われてコクコクと頷く。
グイッ!!
不意に片手で両頬を捕まれて視界を上げられ、口がピヨる。
『人が話してる時はちゃんと目を見ろ!』
「ひゃいっ……」
ガッツリ目を合わせられて泣きそうになる。
『お前、コンタクトにしろよ……その方が可愛いぞ。』
そう言って手を離した跡部様は席へとお戻りになりました。
午前中も何も手につきませんでした。
食事は水も喉を通りませんでした
午後も先生に当てられたけど答えられませんでした。
(コンタクトにしろよ……)
耳から離れない跡部様の声
いつもなら取り巻きの皆様とテニス部へ応援に向かうけれど、一目散に迎えの車に乗った。
「澤村!直ぐに眼科に行ってください!」
澤『お嬢様、お目が……どうかされたのですか?』
「いいから!」
心配してくれる運転手を他所に行きつけの眼科へ向かって、コンタクトにした。
世界の曇りが取れていく、メガネより遠くまで見える気がする……
ウキウキしたのもつかの間、今日の明日でコンタクトにしたなんて……
恥ずかし過ぎる。
違う!私が望んでいたのはこういうのじゃ無いの!!
折角コンタクトにしたけれど、そこから1週間メガネのまま登校した。
理想の推し活を取り戻さなければ……
休み時間はダッシュでトイレへ
なるべく跡部様の目に付かない様にして、安定の取り巻きの1番後ろを取り戻した。
1番後ろから見守る、素敵♡
しばらく平和に跡部様を遠くから見守る日々、休み時間も前と同じ様に次の時間の準備をしていた。
『おい、』
ビクッ!!
跡部様センサーが跡部様のお声を探知
机の前に跡部様が座る
私の机で腕を乗せられて…私をブルーの瞳でお見上げになっていらっしゃる。
「ひゃぃ……」
『コンタクトにしろって言っただろ?何でしない、コンタクトが合わなかったのか?』
「いえ……」
『作ったのか?』
「ひゃぃ……」
『今持ってんのか?』
「……ひゃぃ……」
『今、着けろ』
「今っ!」
『今だ』
目を逸らしてなんとか早くチャイムが鳴らないかと期待する
キーンコーン♪♪
来たーチャイムぅぅぅぅ!!!
『……はぁ……』
跡部様は盛大に溜息を吐かれて立ち去って行かれました。
また平穏な推し活生活が…
遠くから見ていたいのに
ホームルームが終わると一斉に皆部活へ向かう。
私はこの後コートへ向かうか迷っていた。
私の跡部様センサーが察知!
跡部様がこっちへ来る!!
私はダッシュで教室を出て運転手を呼び付け正門で車に飛び乗った。
『……逃げやがったか……クククッ……困ったいちごだな』
はぁ……
ダメ明日からまたやり直し。
次の日からまた休み時間お花摘み作戦を開始した。
普通は推しに話し掛けられたりお近付きになりたいと思う物かもしれない、私も昔はそうだった、振り向いて貰えて嬉しくて舞い上がって、そしてリンチにあった。
女子からのフルシカトで中学3年生の1年間を過ごした、振り返ってくれた推しは自分から振って会わないように過ごした。
一方的に推してる時が1番学生生活が楽しかった、毎日幸せだった。充実してた。
だから、推し活は決して振り返って貰っては困るのだ。
充実した幸せな学園生活を送りたいのだ。
遠くから幸せを感じていたい。
私の望みはそれだけなのだ
平穏な日々を取り戻す!!
徹底的に跡部様センサーを発動して視界に入らない様に気を付ける。
1人でぼーっと同じ場所にいない事
部活見学は取り巻きの1番後ろの木の影から
授業が終わったらダッシュで教室を出てコート近くのトイレで取り巻きの皆様が盾になって下さるのを待つ。
跡部様の大まかな場所は歓声で分かる。
今日もボールを打つお姿が素敵♡
次の日もまた次の日も私は幸せな生活を過ごしていた。
しばらくだった頃から、不思議な事が起き始める。
筆箱に見覚えのある様な無い様なイチゴ柄のシャープペンが増えていた。
他にも沢山イチゴ柄のペンがあるので昔買って埋もれてたのかと思い気にも止めなかった。
(可愛い♡)
使い心地のいいそのペンはやけに指に馴染むからお気に入りになった。
そこからまたしばらくして、消しゴムが、いちご柄になっていた。
誰か友達がイタズラしたのかな?
前に誕生日プレゼントで友達がいちご柄の文房具くれたなーと……気にもしなかった。
それからまたしばらくして家に戻るといつの間にか鞄の側面金具に、小さなイチゴのチャームが付いている事に気付いた。
キラキラ光るスワロフスキー?が凄く可愛い、お父様からの出張土産かなーっと思いとりあえずお礼に珈琲を入れてあげた。 お父様は良くお土産をそっと部屋に置いてくださる。
そうして、少しづつ小さないちごが私の持ち物に増えていった。
小さい頃からいちごが大好き、食べるのも好き♡ 両親が私を妊娠中、胎児名をいちごちゃんにしていたからだと言っていた。
可愛いからなんでもいい♡
1ヶ月に1度程のペースで増えて行くいちご達、いつの間にかノートにクリップが挟まっていたり、両親から手渡しされる事もあった。 タオルとか、ハンカチとか、リップとか、髪留めとか、メガネクリーナーとか、小さい物が多かった。
決まって初めからココにありましたと言う様にラッピングやタグ類の物はない。
跡部様が話し掛けて来る事はあれからなくて(避けまくってるから当然だけど)私は毎日幸せだった。
流石に、誕生日の朝、学校へ行くと机に巨大ないちごの立体クッションが置かれていた時はビックリした。
90cm程の長さのいちごクッション、すごく可愛いけど、誰?
教室を見回して、それとなくクラスメイトに聞いたけど、皆口を揃えて朝学校に来た時にはもうあったと言った。
先生にそれどうする気だ!と言われてイチゴを抱えて右往左往して皆に笑われる。
とりあえず床にタオルを広げてそっと置いた。
一日が終わる頃にはよそのクラスにいる友達からも沢山のいちごグッズを貰った。
放課後ウキウキしながら大きなクッションを抱えて一旦車に乗せに行こうと歩き出す。
前はあまり見えない…
階段をゆっくりと降りる、片手には鞄、もう片手には友達からのプレゼントの紙袋、両手でクッションを抱え足元は探り探り……
ズルっ……
あぁ……踏み外した……
『危ねぇ!!』
ぽふっとクッションが誰かとの間に挟まってくれて転ばずに済んだ。
クッション毎捕まえられている私
『いちご、気に入ったか?』
顔を上げると夕焼けに照らされたブルーの瞳が細められていた。
時間がスローで流れて行くみたい……
キラキラ輝く茶色の髪がサラサラで綺麗
久しぶりに近くで見る跡部様は美しい…
『おい、いちご!』
「ひゃぃ……」
『気に入ったか?』
「……こ、これ、跡部様が……」
『様はやめろ、クラスメイトだろうが』
「…………」
『お前、俺の事そんなに気に入らないか?』
「……いえ……」
『じゃぁ、なんで避ける、コンタクトにもしねぇし。』
「…………こ、困るんですっ!推し活は遠くからって決めてるんですっ!」
『推し活……なんだそれは……』
「………………とにかくっ!困るんです!」
『じゃぁ、これはいらねぇな!』
腕に抱えたいちごを取り上げられそうになり、慌ててぽふぽふのクッションを抱き抱える。
「いちごは別腹ですぅ……」
『……フンッ……おもしれぇ奴だな。分かったよ、遠くから俺だけ見てろ。分かったないちご!』
「ひゃぃ……」
頭をポンポンと叩かれ、跡部様は階段を上がって行った。
私はいちごクッションに顔を埋めてから、深呼吸して車へ急いだ。
その日から跡部様は私に話し掛けて来る事はなく、近くに来る事もなかった、
定期的なイチゴグッズは相変わらず増えていて、私のいちご好きは学年でも有名だったらしく、いちごの何かを頂く事も増えた。
今日も遠くから跡部様を応援する♡
幸せ♡
たまに跡部様が取り巻きの皆様に向けてファンサして下さる!
2年のクラスも跡部様と同じだった。
誕生日には今度はイチゴ柄のフワフワのブランケットが置かれていた。
冷え性にはありがたい!
3年のクラスも跡部様と同じだった。
誕生日にはイチゴ柄の高級バスローブとモコモコスリッパ、これまたモコモコのパジャマ上下セット、バスタオルとタオルが置かれていた。
クラスメイトからはイチゴお泊まりセットと笑われた。
そして今日、私の学園生活が終わる。
私の幸せな推し活も終了するのだ
跡部様はイギリスの大学へ行かれる
私もオーストラリアの大学へ進む
跡部様とは今日でお別れ
幸せな推し活学園生活をありがとうございました跡部様。
少し名残惜しいけれど、友達も沢山出来た、
本当に幸せだった。
皆に別れを告げて車に向かう。
運転手の澤村が目を潤ませている
「澤村、今日まで送り迎えご苦労様でした。沢山我儘聞いてくれて感謝してます。ありがとう。」
澤『いいえ、お嬢様、私も運転手をさせて頂き幸せでございました。ご卒業おめでとうございます。』
皆から貰ったプレゼントや、荷物を澤村がトランクに詰んでくれている。
『おい、山田花!』
初めて名前で呼ばれた……
この声を聞けるのも今日で最後なんだなと思うと、涙が込み上げる
今日はちゃんと顔を上げてさよならを言おう。
「跡部様…」
『……様はやめろ!推し活は満喫したか』
「はいっ!」
『なら、もう遠くで見るのは終いにしろ』
「……?」
『俺も推し活とやらをしてみたが、遠くから見てるだけじゃ、我慢ならねぇ。ったく俺に3年も触らせねぇなんてお前だけだ……』
「………………」
『だから、お前を推してやってたんだ……』
「……は?」
『いちご増えただろ?』
「……はい」
『いつも木の影に居ただろ?』
「……はい」
『…………まぁ、毎日幸せな気持ちになるのは理解した、けどな!!もう限界なんだよ』
少しイラついた様子の跡部様はポカンとする私の頬を片手で掴んでまた口がピヨる。 その唇にちゅっと口付けた。
『これからは近くで見せろ、いいな。オーストラリアか……会いに行ってやる、俺から逃げられると思うなよ花。心配すんな、もう誰もお前を虐めたりしねぇよ、させねぇから、堂々と彼女しろ!いいな!返事は』
「ひゃぃ……」
『いい子だ』
こうして私の推し活は終わった。
END